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文献名1霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻
文献名2第2篇 自由活動よみ(新仮名遣い)じゆうかつどう
文献名3第5章 酒の滝壺〔751〕よみ(新仮名遣い)くしのたきつぼ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-08-27 19:42:13
あらすじ
清公は、地恩郷の左守に任命されたが、権謀術数を駆使して宇豆姫と結婚し、権勢を拡げようとしたが、そのためにかえって地位を失ってしまったのは、まったく自分の利己主義の罪のためであると自覚した。

そこで清公は、黄竜姫の承諾を得て、チャンキーとモンキーと従えて、タカの港と漕ぎ出して日の出神の事跡を巡礼し、宣伝の旅に出ることになった。

一行はヒルの港に着き、飯依彦らの事跡を参拝して、クシの滝に向かった。その途上で休息を取っていた。清彦は、自分の悪念から起こったことから、かえって一宣伝使となって宣伝の旅に出る境遇になったことを神に感謝した。

モンキーは、かつて田依彦、時彦、芳彦が日の出神に導かれて改心した酒の滝が近いことを告げた。すると上流の谷間から、人々の鬨の声が聞こえてきた。モンキーを偵察に行かせたが、モンキーは大蛇を見て腰を抜かしてしまう。

チャンキーもモンキーの報告を聞いてその場に腰を抜かしてしまった。清公は二人に対して文句を言いながら一人様子を見に行くと、大蛇を郷人たちが取り巻いていた。

日の出神が渡ってきてから、この滝の酒は涸れてしまった。そのため、この酒を飲んでいた大蛇は業を煮やして、人間の子を襲うようになってしまった。神託を請うと、大蛇は飯依彦の子孫に憑依し、月に一回酒を醸して滝壺に満たすよう要求した。

しかしこれが郷人たちの非常な負担になっていた。そこで遂に郷人たちは、酒に毒を混ぜて大蛇を退治しようとしていたのだった。郷人たちは、大蛇に早く毒が回るように取り囲んで祈願を凝らしていたのであった。

この様子を見ていた清公は体が硬直してしまった。大蛇は苦しみ出して暴れまわった。その尻尾に振られて、清公は空中に飛ばされ、チャンキーとモンキーが腰を抜かしてしまった岩の上に落ちて来てしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月08日(旧閏05月14日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年5月25日 愛善世界社版93頁 八幡書店版第5輯 65頁 修補版 校定版97頁 普及版44頁 初版 ページ備考
OBC rm2505
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本文  神の恵も開け行く  世は太平の洋中に
 堅磐常磐に浮びたる  神の造りし冠島
 黄金花咲く竜宮の  一つの島と名を負ひし
 日の出神の御遺跡  醜女探女を祝姫の
 三五教の宣伝使  風凪ぎ渡る波の上
 辷り来りし面那芸の  神の命の詣でたる
 竜の宮居は今も尚  御稜威輝くヒル港
 屋根無し船に身を任せ  力限りに漕ぎ来る
 三五教の神司  地恩の郷を後にして
 魂を洗ひし清公が  チヤンキーモンキー引連れて
 進み来るぞ健げなれ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  心ねぢけし清公も
 胸の帳を引きあげて  輝き初めし厳御魂
 瑞の御霊に神習ひ  天津祝詞を宣り乍ら
 御船を浜辺に繋ぎつつ  身装も軽き蓑笠の
 金剛杖に送られて  山奥指して進み入る。
 地恩城に一切の教権を掌握したる高山彦の後を襲ひ、左守となりすまし居たる清公は茲に地恩城のブランジーとして権威を振ひ、宇豆姫をクロンバーの位置に据ゑ、我勢力を扶植せむと種々の権謀術数を弄したるも、天は清公が邪曲に組せず、遂に左守を自ら辞し、スマートボールをしてブランジーの職を専らにせしむるの余儀なきに立到つたのも、全く我が利己主義の罪の致す処と自覚したる清公は、転迷開悟の梅花の香に心の眼も清まり、如何にもして神界の御用を身魂相応に勤め、名誉を恢復せばやと、チヤンキー、モンキー両人の賛同を得て黄竜姫以下の承認の上、タカの港を漕ぎ出でて屋根無し船に身を任せ、嘗て日の出神一行が上陸したるヒルの港に船を止め、竜宮の宮に詣でて前途の無事を祈り、飯依彦、久々神、久木神の遺跡を巡拝し進んでクシの滝の間近まで、茴香の薫に送られ乍ら夏風そよぐ急坂を喘ぎ喘ぎ宣伝歌を歌ひ漸くにして、風景最も佳き谷川の傍に立てる岩石の上に腰打掛け、旅の疲れを休めつつ話に耽る。
チヤンキー『アヽ何と良い景色だなア。谷間は斯う両方より山と山とに圧搾されて、非常に狭隘ではあるが、清き渓流が飛沫を飛ばし淙々と水音を立て、岩に噛みつき、佐久那太理に落ち行く光景は、到底地恩城附近にては見る事も出来ない絶景だ。我々も清公さまの失敗のお蔭で、天下を自由自在に宣伝する事を許され、何だか籠の鳥が宇宙に放たれた様な気分になつて来た。斯うなると人間も一度は失敗もし、慢心もやつて見なくては、本当の天地、人生の真実味が分らないものだ。……南無清公大明神、チヤンキー、モンキー両手を合せ有難く感謝致します。アハヽヽヽ』
とそろそろ地金を現はし、洒落気分になつて、駄句り出した。
清公『世の中は一切万事惟神の御経綸に左右されて居るものだ。俺が地恩城で大野心を起し、宇豆姫を得むとして終生拭ふ可らざる大恥を掻いたのも、今になつて省みれば、実に仁慈無限の大神様の御恵であつた。己に出づるものは己に帰る。悪い事をすればキツト悪い酬いが来るのは当然だ。然るに何ぞや。あれ丈け体主霊従的陰謀を組立て、其結果斯様な結構な宣伝使となり、此冠島に自由自在に開放的に宣伝せよとの許しを受けたのは、悪が自然に善の結果を齎した様なものだ。これと云ふのも全く神様が神直日大直日に見直し聞直し、活かして働かして下さる有難き思召し、逆境に立ちて初めて神の慈愛を知り、宇宙の真善美を味はふ事を得た。左守神となつて日夜心を痛め、下らぬ野心の鬼に駆使されて居るよりも、斯う身軽になつて、何の束縛もなく、自由自在に活動し得る機会を与へられたと云ふ事は、実に我々として無上の幸福だ。アヽ辱なし、勿体なし、惟神霊幸倍坐世』
と有難涙に声を曇らす。
チヤンキー『神も仏も鬼も蛇も悪魔も、残らず自分が招くのだ。決して外から襲来するものでない。盗賊の用意に戸締りをするよりも、心に盗賊を招かない様にするのが肝要だ。一切万事残らず自分の心から招くものだからなア』
モンキー『清公さま、此処はその昔、日の出神様が竜宮城の従神たりし、田依彦、時彦、芳彦と云ふ玉抜かれ神を引連れ、酒飲みの副守護神を追ひ出し給うた名高い酒の滝壺の附近ではありますまいか。竜宮様が天然に造つて置かれた酒壺が有ると云ふ事ですが、未だに相変らず其お酒は湧いて来るでせうか。一度拝見したいものですな』
清公『サア、必要があれば湧いて居るだらうが、……世の中に不必要な物は一つもないのだから、今日となりては何とも分らないなア』
 斯く話し合ふ中、何処ともなく二三丁許り上流の谷間より、数多の老若男女の鬨の声が聞えて来た。
チヤンキー『ヤア、清公さま、不思議な声がするぢやありませぬか。一つ探検と出かけませうか』
清公『一寸待てよ、何事も慎重の態度を執らねば、軽々しく進んで取返しの付かぬ失敗を演じてはならないから、よくよく様子を窺つた上出かける事にしよう。それに就いては……モンキー、お前は斥候として声する方を探ね、そつと様子を考へ、報告をして呉れ。それまで我々両人は此巌の上に於て時期を待つ事とするから』
モンキー『畏まりました。どんな事が突発しても、此処を一寸も動いてはなりませぬぞ』
清公『ヨシ合点だ。サア木の茂みに身を隠しつつ、偵察隊の任務を尽して呉れ』
モンキー『承知致したぞよエヘン』
とモンキーは茴香の花の得も言はれぬ薫に包まれ乍ら、酒の滝壺の間近に忍び寄り、少時あつてモンキーは息をはづませ帰り来り、震ひ声になりて、
『キ……キ……清公さま、タ……タ……大変で御座います。モウ帰りませう。斯んな所を宣伝したつて、あちらに一軒、こちらに二軒と、バラバラに家が建つて居る……モウ斯んな所で労して効少き活動をするよりも、マ一遍ヒルの港へ引返し、少しく人家稠密な地点へ行かうぢやありませぬか』
清公『そんな話はどうでもよい。お前の探検して来た次第を逐一注進せぬかい』
モンキー『イヤ……モウ、思ひ出してもゾツとする。どうぞそればつかりは御量見下さい』
チヤンキー『何だか周章たモンキーの様子、日頃の臆病が突発したのだな。何時も口癖の様に仮令天地は覆るとも、誠の力は世を救ふ……と云つて居つたぢやないか。一体何んな事があつたのか。斥候が報告をせないと云ふ事があるものか。大蛇に狙はれた蛙の様に小さくなつて、何の態ぢや』
モンキー『ヤイヤイ、大蛇の事はモウ言うて呉れな。俺は体が縮み上る様だ』
清公『ハヽア、噂に聞いたクシの滝の、酒呑大蛇を見て来よつたな。ヨシ、其奴ア面白い。一つ生命懸けの活動をして、三五教に言向け和すか。さもなくば生け捕にして、地恩城へ持つて帰るか。兎も角それを聞けば、何だか胴がすわつた様な心持がするワイ』
 チヤンキー、モンキーは蒼白な顔して、腰をワナワナ慄はせ乍ら、
両人『ワ…ワ…ワ…私はド…ド…どうやら胴が据り……ませぬワイ。如何しませう』
清公『貴様の腰は何だ。胴体無しの凧、いかにも卑怯未練な腰抜野郎だな。奴腰抜奴、モウ貴様は免除してやるから、勝手にヒルの港へ逃げ帰つたがよからうぞ』
 チヤン、モン二人は、
『それは有難う御座います。併し送つて頂かぬと、途に又あんな奴がやつて来たら如何する事も出来ませぬワイ』
清公『チヤンキー、貴様は話を聞いた丈で震うてるぢやないか。モンキーの恐怖心に駆られた精神作用で、そんな幻覚を起したのだらう。貴様此処に待つて居れ。動いちや可けないぞ。俺が実地探検をやつて来るから……』
両人『ハイどうぞ、御無事に帰つて下さい。動けと仰有つても動けませぬワ。斯う足部に菎蒻の幽霊が憑依しては、如何ともする事は出来ぬ』
清公『アーア勇将の下に勇卒なし。俺もヤツパリ因縁が悪いと見える。斯んな奴を連れて来なかつた方が、何程よかつたか知れやしない。まさかの時に骨を拾うてやる面倒も要らず、エーエ良い穀潰しだな』
と二人を残し、木の茂みを分けて近寄つて見れば、数十人の真黒けの男、滝壺の前に堵列し一生懸命に何事か祈つて居る。白衣を着けた神主らしい男三人、大麻を前後左右に頻りに振廻し、片言混りの宣伝歌を歌ひ土人は其声に従れて、汗をタラタラ流し乍ら合唱して居る。よくよく見れば、周囲一丈も有らむと思はるる大蛇、赤い蛇腹をダンダラ幕の様に見せた儘、二三間許り鎌首を立て、頻りに毒気を吹いて居る所であつた。
 昔は此滝に自然の清酒湧き出で、山の竜神時々来つて是れを呑みつつあつたが、日の出神が初めて此島に渡られし時より、次第々々に酒の湧出量を減じ、遂には一滴も出なくなつて了つた。傍の滝は淙々として昔に変らず流れ落ちて居る。此水上に棲息せる大蛇は、酒を呑まむと来て見れば、一滴もなきに業を煮やし、夜な夜な人間の子を呑み喰ふ事となつた。附近の郷人は此害を防がむ為に、飯依彦神の末裔たる飯依別に神宣を請はしめた。此時、大蛇の霊、憑依して云ふ……
『汝等、愛児の生命を取らるるを悲しと思はば、所在果物を以て酒を醸り、彼の滝壺に満して我に献ぜよ。さすれば汝等が愛児を呑む事を止めむ』
と云つた。それより郷人は数多の果物を集め酒を造り、此山坂を登り来つて、此滝壺に酒を満たす事を仕事の如くにして居た。大蛇は月に一回づつ現はれ来り、滝壺の酒を一滴も残らず呑み干す事が例となつて居た。
 一年に一回位ならば如何なつと仕様もあるが、数十石を満す此滝壺に、毎月果物の酒を充さねばならぬと云ふ事は、余り多からぬ郷人に取つては、此上なき大苦痛であつた。一ケ月にても之を怠りし時は、大蛇忽ち来りて郷の児を呑み喰ひ、足らざる時は若き妙齢の女を片ツ端から呑んで了ふ。此惨状を如何にもして逃れむと郷人諜し合せ酒に茴香の粉末を混じ、香よき酒となし、此滝壺に充し置き、大蛇の来り呑むを、木蔭に潜んで息をこらして待つて居た。
 大蛇は二三日前より此処に現はれ、数十石の酒を悠々として呑み干し、最早半分許り三日間に呑み終り、毒が廻つて悶え苦みつつあつた。そこへ飯依別、久木別、久々別の神司は、数多の郷人と共に、大蛇を中に四方を取囲み、一時も早く毒が大蛇の全身に廻り、亡びます様と祈願をこめつつあつたのである。大蛇は一丈許りの大口をパツと開いて、首をシヤクリ乍ら死物狂になつて、郷人を目蒐けて噛みつかむとする。飯依別外二人は、其度毎に大蛇の比礼と称する、大麻を打振り打振り大蛇を悩ませて居た。
 されど巨大なる蛇体に茴香の毒位にては、人間が悪酔した時の様なもので、生命に関はる丈の効果はない。そこで酔が醒めたる上は、此大蛇再び来りて如何なる復讐をなすかも知れずと、心も心ならず、数多の郷人は寄つて集つて、大蛇退治の祈願を凝らしつつあつたのである。斬れども突けども鱗堅くして鋼鉄の如く、到底人間としては如何ともする事が出来なかつた。此村の土人にしてタリヤと云ふ力強の男、大鎌を携へ大蛇にワザと呑まれ、腹中にて鎌を以て臓腑を斬り破り、大蛇を殪さむと試み、二三日以前にワザと呑まれて了つたのだが、今に其男は如何なつたか、唯大蛇は少しく目の色を変へて苦しげに狂ふ計りである。されどさう急に死にさうにもなし、人間が酒の酔に少々酩酊して首を振つてる位な態度とよりか見えないので、飯依別始め一同の心配は容易でなかつた。唯此上は神の力に依りて大蛇を退治し貰はむと祈るより外に道がなかつたのである。
 清公は木蔭に潜み、稍胸を躍らせ乍ら此態を熟視して居た。何時の間にか身体の各部に痳痺を感じ、一寸も自由の利かぬ様になつて居る事に気が付いた。大蛇は今度はノソリノソリと人垣を破つて広く這ひ出し、尾を頻りに振つて、四辺の樹木をしばき倒し暴れ狂ふ。郷人は尾の先に叩かれて死する者刻々に殖えて来る。大蛇は益々暴れ狂ふ。茴香の毒が全身に廻つたのと、蛇体に最も有毒なる鉄製鎌の悩みとに依つて、流石の大蛇も死物狂ひになり、苦しみ出したのである。清公は其尾に振られて二三丁許り中空に捲上げられ、チヤンキー、モンキーの腰を抜かして待つて居る岩石の傍にドサリと降つて来た。愈此処に三人の躄が揃つた訳だ。嗚呼、大蛇の身体を始め此三人の運命は如何なるであらうか。
(大正一一・七・八 旧閏五・一四 松村真澄録)
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