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文献名1霊界物語 第26巻 海洋万里 丑の巻
文献名2第1篇 伊都宝珠よみ(新仮名遣い)いずほっしゅ
文献名3第3章 真心の花(二)〔768〕よみ(新仮名遣い)まごころのはな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-09-24 19:39:14
あらすじ
続いて玉治別は銀扇を広げて立ち、歌った。自分が三五教に導かれた経緯から初めて、鷹依姫退治の後に宝玉に紛失して玉探しが始まった経緯を歌った。玉の執着にとらわれた高姫を見守って竜宮島に至り、ネルソン山を越えて諏訪の湖に達して麻邇の宝玉の神業に携わった経緯を歌った。そして神素盞嗚大神と国武彦命に、生きとし生けるすべてのものに平安と栄光と歓喜を祈願して歌を終えた。

黄竜姫は立ち上がり歌い始めた。自分のこれまでの経緯を明かし、友彦と共に父母の許から逐電したが、錫欄の島で友彦と別れて五十子姫に救われ、オーストラリヤの新女王となった経緯、その後の麻邇の宝玉の神業に携わった経緯を歌った。しかしその中で、密かに玉治別に恋心を抱いていた心のたけを歌に歌いこんで明かした。

玉治別は当惑しながら、言葉静かに返歌を歌った。自分にはすでにお勝という妻があり、黄竜姫の思いには応えられないと、神の前に表白した。

黄竜姫はこの返歌に恋の雲も晴れて、いよいよ熱心に神業に奉仕することとなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月17日(旧閏05月23日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年6月5日 愛善世界社版36頁 八幡書店版第5輯 160頁 修補版 校定版40頁 普及版13頁 初版 ページ備考
OBC rm2603
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本文の文字数6029
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本文  玉治別は立上り銀扇を拡げて歌ひ舞ひ始めた。
『吾は玉治別司  天と地との三五の
 誠を諭す神使  宇都山郷に現はれて
 樵の業や野良仕事  名も田吾作の賤の男が
 天の真浦の宣伝使  松鷹彦に三五の
 誠の道を教へられ  国依別と諸共に
 三国ケ嶽にバラモンの  教の館を構へたる
 此処に在れます蜈蚣姫  三五教の大道に
 救はむものと老木の  茂る山路を打ち渉り
 岩窟の中に乗り込みて  お玉の方に廻り会ひ
 蜈蚣の姫の秘蔵せる  黄金の玉を発見し
 綾の高天原へ持ち帰り  意気揚々と宣伝の
 使となりて遠近を  彷徨ひ歩く其中に
 バラモン教の其一派  鷹依姫の神司
 高春山に居を構へ  体主霊従の御教を
 四方に開くと聞きしより  国依別や竜国別の
 貴の命と諸共に  心の駒に鞭韃ちて
 進む折しも津田の湖  敵の捕手に囲まれて
 生命危き折柄に  杢助司や初稚姫の
 貴の命に助けられ  高春山に立ち向ひ
 廻り会うたる天の森  竜国別と鬼娘
 ヤツサモツサの問答も  神の恵みの御光に
 煙と消えて潔く  神の御稜威を伏し拝み
 鷹依姫の割拠せる  岩窟の中に立ち入りて
 高姫、黒姫両人を  救ひ出して鷹依の
 姫の命は忽ちに  アルプス教を解散し
 三五教の大道に  仕へまつりて綾錦
 高天原に連れ帰り  黄金の玉の紛失に
 思はぬ濡衣被せられ  泣く泣く立つて和田の原
 遥々越えて何処となく  黄金の玉の在処をば
 探らむ為に親と子が  海の彼方に出でましぬ
 あゝ惟神々々  神の恵みの幸はひて
 一日も早く片時も  疾く速けく親と子が
 在処を知らせ給へよと  玉治別の朝宵に
 祈る心ぞ悲しけれ  金剛不壊の如意宝珠
 紫色の宝玉の  在処探ねて高姫が
 又もや神都を後にして  海の内外の区別なく
 探ねて廻る気の毒さ  神の仕組を打ち明けて
 当所も知らぬ玉探し  諦めさせむと玉能姫
 初稚姫と諸共に  屋根無し小舟に身を任せ
 遠き浪路を打ち渡り  高姫一行の危難をば
 救ひ守りつ竜宮島  到りて見れば高姫は
 高山彦や黒姫と  暗に紛れて逸早く
 後白浪となり果てぬ  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましまして  高姫一行が執着の
 心の雲を晴らせかし  一日も早く真心に
 かへらせ給へと太祝詞  となふる声も湿り勝ち
 玉治別は是非もなく  初稚姫と諸共に
 ネルソン山の高嶺をば  西に渉りて山深み
 谷底潜り種々と  百の艱難に出会ひつつ
 神の恵を力とし  誠の道を杖として
 石の枕に星の夜具  猛獣哮ける大野原
 夜を日に次いで進みつつ  虎狼や大蛇まで
 吾三五の言霊に  言向け和し玉野原
 一眸千里の草分けて  諏訪の湖辺に辿り着き
 社の前に額きて  善言美詞の太祝詞
 汗に穢れし身体を  清き湖水に禊ぎつつ
 拍手の声は中天に  轟き渡る折柄に
 浪を十字に引き分けて  現はれ給ふ百の神
 天火水地と結びつつ  五づの身魂の御宝
 携へ来る女神等  吾等一行に立ち向ひ
 竜宮海の麻邇の玉  汝等五人に授けむと
 いと厳かに宣らせつつ  身魂を研けと言ひ捨てて
 後白浪と消え給ふ  初稚姫や玉能姫
 玉治別は伏し拝み  諏訪の湖あとにして
 西北指して進みつつ  幾度となく皇神の
 深き試錬に遇ひながら  さしもに広き竜宮島
 神の使の霊鳥に  救はれ無事に国人を
 言向け和し神業を  略了へまつる折柄に
 神の使の八咫烏  黄金の翼拡げつつ
 吾等一行五つ身魂  其背に乗せて玉依姫の
 貴の命の在れませる  竜の宮居に送りけり
 あゝ惟神々々  御霊の幸を蒙りて
 吾等五人は皇神の  教の道に尽すより
 外に一つの望みなし  執着心の雲晴れて
 輝き渡る日月は  心の空に永久に
 鎮まりいます心地して  不言実行の神の業
 竜の館に仕へつつ  時の到るを待つ間に
 梅子の姫を始めとし  黄竜姫や蜈蚣姫
 テールス姫や友彦が  黄金の舟に浮びつつ
 黄金の門を潜りぬけ  現はれ来ます嬉しさに
 互に見合はす顔と顔  嬉し涙はせきあへず
 言葉を掛くる術もなく  無言の儘に奥殿に
 進む折柄玉依姫の  神の命は悠々と
 青人草を救へよと  露の滴る青の玉
 ものをも言はず玉治別の  神の司の掌に
 授け給ひし嬉しさを  喜び畏み村肝の
 心の魂の照るままに  黄竜姫の双の手に
 漸く渡し胸を撫で  不言実行の一端に
 仕へまつりし折柄に  玉依姫は奥深く
 御神姿隠し給ひけり  吾等一同勇み立ち
 三つの御門を潜りぬけ  黄金の浪の漂へる
 諏訪の湖辺に来て見れば  忽ち飛び来る八咫烏
 吾等を乗せて白雲の  御空を高く翔上り
 翼の音も勇ましく  漸く当館に帰りけり
 あゝ惟神々々  御霊幸はへましまして
 三五教の御教は  堅磐常磐に松の世の
 ミロク神政の基礎と  仕へまつりて天地の
 百の神等百人を  浦安国の心安く
 守らせ給へ惟神  神の命の御前に
 玉治別が真心を  開いて細さに願ぎまつる
 神素盞嗚大神や  国治立の御分魂
 国武彦大神よ  三五教は言ふも更
 島の八十島八十の国  青雲棚引く其限り
 天地百の生物に  平安と栄光と歓喜を
 与へ給へと願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ』
と歌ひ終つて自席に着いた。
 次に黄竜姫は立ち上り歌ひ始めた。
『大国彦の神霊  堅磐常磐に祀りたる
 バラモン教は常世国  大国別の神司
 開き給ひし貴の道  万里の波濤を乗り越えて
 イホの都に来りまし  教の園を開く折
 三五教の宣伝使  夏山彦や祝姫
 行平別の言霊に  鬼雲彦の大棟梁
 根城を抜かれ是非もなく  数多の部下を引き率れて
 天恵洽きエヂプトを  見捨てて来る中津国
 メソポタミヤの顕恩郷  漸く此処に落ち付いて
 堅磐常磐に根城をば  固めて道を四方の国
 布き弘めたる折柄に  神素盞嗚大神の
 肉の宮より生れませる  神姿優しき八乙女が
 心の色もいと清く  誠の花を開かせて
 教の園を作らむと  忍び忍びに出で給ふ
 鬼雲彦を始めとし  鬼熊別や蜈蚣姫
 吾足乳根はバラモンの  教の道に勤しみて
 心のたけを尽しつつ  仕へ給へる折柄に
 功績も太玉宣伝使  現はれ況して言霊の
 珍の剣を抜き放ち  誠の鉾を振廻し
 薙立て斬り立てバラモンの  教の疵を正さむと
 真心籠めて出で給ふ  その御心を白雲の
 烟に巻かれて大棟梁  鬼雲彦を始めとし
 従ひ給ふ神司  顕恩郷を後にして
 波斯の御国へ出で給ふ  さはさりながら其以前
 顕恩郷の神司  幹部一同を従へて
 花見の宴を開きまし  饗応の酒に酔ひしれて
 エデンの川を渡る折  御舟の傍に立ち居たる
 十五の春の吾姿  酔ひたる人に撥ねられて
 ザンブとばかりエデン川  流れて底に白浪の
 生命絶えむとする折に  従僕の司の友彦は
 身を躍らして川中を  潜り潜りて漸くに
 妾を抱きて救ひ上げ  背に負ひつつ吾父の
 館を指して帰りましぬ  あゝ惟神々々
 神の恵みの浅からず  二つなき身の生命をば
 神の恵みと言ひながら  助け呉れたる友彦に
 心は移る恋の闇  吾垂乳根の目を忍び
 闇に紛れて顕恩郷を  ソツト脱け出で友彦と
 手に手を取つて錫蘭の島  深山の奥に身を潜め
 一年ばかり経る中に  妾が心機一転し
 何の情もあら男  後に残して逃げて行く
 錫蘭の浜辺の里人の  チヤンキー、モンキーの両人に
 艪を操らせ限りなき  大海原を打ち渡り
 九死一生の苦みを  五十子の姫や梅子姫
 御供の神に助けられ  長き浪路を渡りつつ
 昼は終日終夜  三五教の御教を
 心の底の奥庭に  植付けられてバラモンの
 迷ひの夢も醒めにけり  五十子の姫の一行に
 推戴されて竜宮の  黄金花咲く一つ島
 地恩の郷に顕現し  オーストラリヤの新女王
 三五教の神司  あらゆる名誉を身に負ひて
 本末顛倒の境遇を  知らず識らずに日を送る
 心の中の浅間しさ  高山彦や黒姫に
 政務教務を打ち任せ  ブランジー、クロンバー相並び
 政教一致の神業を  開いて国を守る折
 三五教の高姫と  共に来ませし蜈蚣姫
 母の命に廻り会ひ  嬉し涙にせきあへず
 心を協せ身を尽し  教は四方に輝きて
 朝日の豊栄昇る如  歓ぎ楽しむ折柄に
 現はれ来る友彦が  夫婦の神の来訪に
 喜び驚き一時は  心の海に荒浪の
 立つ瀬なき迄狼狽し  互に過去を語り合ひ
 ヤツと解けたる胸の裡  園遊会になぞらへて
 昔の交り温めつ  東と西と相応じ
 宝の島を治めむと  心も勇む時もあれ
 ネルソン山の空高く  現はれ出でし蜃気楼
 如何なる事の天啓か  よくよく仰ぎ眺むれば
 紛ふ方なき諏訪の湖  地恩の城に仕へたる
 左守神の清公が  チヤンキー、モンキー其外の
 二人の供と諸共に  荘厳美麗の玉の宮
 玉依姫の御前に  近く仕ふる有様は
 手に取る如く見えにけり  ネルソン山の西の空
 尊き神の坐しますと  思ひ定めて梅子姫
 蜈蚣の姫やテールスの  姫の命と諸共に
 友彦さまを先頭に  旅の枕も数重ね
 漸く来る玉野原  金砂銀砂を敷きし如
 漸く道を進みつつ  諏訪の湖畔に建てられし
 祠の前に辿り着き  湖面に向つて再拝し
 天津祝詞を奏上し  愈此処に村肝の
 心の帳も開け初め  梅子の姫の御前に
 知らず識らずに犯したる  百の罪咎詫びぬれば
 木花姫の懸らせて  天火水地の大道を
 諭し給へば小糸姫  蜈蚣の姫や一同は
 転迷開悟の蓮花  一度に開く梅子姫
 尊き神の御教を  心の底より正覚し
 感謝祈願の折柄に  諏訪の湖面に浮びたる
 浮島影を悠々と  黄金の船に真帆を上げ
 此方に向つて進み来る  その気高さに驚きて
 湖上を看守る折もあれ  左守神の清公が
 四人の供と諸共に  ものをも言はず手を挙げて
 乗らせ給へと麾く  妾一行五人連れ
 直に船に打ち乗りて  黄金の浪を辷りつつ
 西北指して進み行く  天国浄土か楽園か
 青赤白黄紫の  花は梢に咲き乱れ
 大小無数の島嶼は  彼方此方に永久に
 浮べる中を心地よく  勇み進んで玉依の
 姫命の在れませる  竜の宮居に行き見れば
 月雪花の御姿に  擬ふべらなる姫神の
 十二の神姿立ち並び  玉治別や初稚姫の
 神の命や玉能姫  久助お民も諸共に
 吾等一行を迎へつつ  奥殿深く進み入る
 梅子の姫は奥の間の  宝座に静に座を占めて
 暗祈黙祷なし給ふ  時しもあれや高御座
 扉を開き悠々と  現はれ給ふ貴姿
 玉依姫の御神は  数多の侍女を従へて
 貴の玉器携へつ  十曜の紋の十人連れ
 ものをも言はず目礼し  微笑を浮べてそれぞれに
 五色の玉を手づからに  渡し給へば玉治の
 別の命の神司  青き玉をば授かりて
 直に吾手に微笑みつ  渡させ給ふ尊さよ
 天火水地と結びたる  麻邇の御玉の其一つ
 授かり給ひし喜びを  私せずに妾の手に
 渡し給ひし功績を  建てよと示す玉治別の
 神の命の志  玉を争ふ世の中に
 執着心の影もなく  月日の如く明けき
 其の御身魂々々々  感謝の涙せきあへず
 感謝は忽ち村肝の  心の海に浪起り
 進みかねたる恋の海  玉治別の真心は
 天地の神も嘉すらむ  妾は賤しき小糸姫
 恵の露に潤ひて  今は嬉しき宣伝使
 神の司となりぬれど  心汚き人の身の
 いかで誠を尽し得む  斯る身魂も省みず
 尊き玉の神業を  惜しまず妾に譲りてし
 清き心は又と世に  何処の果を探ぬとも
 いかで例のあら涙  漂ひ浮ぶ一つ島
 夫なき身の独身者  玉治別の神司よ
 妾は切なき恋の闇  玉の光の現はれて
 照らさせ給へ妹と背の  尊き道の誓言
 神素盞嗚大神や  国武彦大神の
 尊き御前を顧みず  心のたけを打ち明けて
 幾重に願ひ奉る  黄竜姫が授かりし
 麻邇の御玉を妾のみ  私なさず三五の
 教司の高姫や  高山彦や黒姫の
 神の司も諸共に  空前絶後の此度の
 尊き神業に参加させ  心の隔てを除き去り
 三五教の御教を  月日輝く地上に
 照させ給へ厳魂  瑞の魂の御前に
 黄竜姫が真心を  捧げて謹み願ぎ申す
 あゝ惟神々々  御霊幸はへましまして
 神伊弉諾大御神  神伊弉冊大神の
 撞の御柱右左  廻り給ひて千代八千代
 誓ひ給ひし其如く  妹背の契を結ばせて
 神の教を四方の国  夫婦の息を合せつつ
 身もたなしらに仕ふべし  許させ給へ玉治別の
 神の司の宣伝使  心の底を打ち明けて
 完全に詳細に願ぎ奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 神の御前に誓ひたる  妹背の道は永久に
 変らざらまし松の世の  尊き神の御心に
 八千代を籠めて願ぎ奉る  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ』
と祝賀と喜悦と恋慕とゴツチヤにして心のたけを歌ひ終り座に着いた。玉治別は聊か当惑し直に立つて黄竜姫の歌に答ふべく、再び銀扇を開いて言葉静かに歌ひ始めた。
『神の恵に助けられ  玉治別と名を負ひて
 今は尊き宣伝使  三五教の御教を
 天地四方に開かむと  山の尾渉り川を越え
 潮の八百路も厭ひなく  進み進みて竜宮の
 一つの島に上陸し  心も清き諏訪の湖
 玉依姫の御神に  麻邇の御玉を賜はりて
 地恩の城を治めます  黄竜姫の玉の手に
 渡して神の功績を  高き低きの隔てなく
 神の御前に現はして  教の道を照さむと
 心を尽す玉治が  清き身魂を臠し
 妹背の道を結ばむと  語らひ給ふ尊さよ
 さはさりながら玉治の  別の命は其昔
 宇都山郷に現はれし  国依別が妹なる
 お勝の姫を妻となし  夫婦揃ひて睦まじく
 神の神業に仕ふ身ぞ  黄竜姫の真心は
 己玉治別として  無限の感謝に充ちぬれど
 皇大神の定めたる  一夫一婦の御規則
 破らむ由もないじやくり  国に残せし若草の
 妻の命の心根を  思へばいとど哀れなり
 宇都山郷の田吾作と  蔑まれたる時も時
 卑しき身をも顧みず  尊き神の御裔もて
 吾に仕へし貴の妻  吾身に一人ある事を
 完全に詳細に聞こし召し  此事のみは今日限り
 心に放させ給へかし  汝が身を思ひ妻の身を
 思ふ玉治別神  清き心を汲みとりて
 必ず怒らせ給ふまじ  あゝ惟神々々
 生命二つとあるならば  汝をも娶り又もとの
 お勝の方と睦まじく  仕へむものと吾心
 汲ませ給へよ黄竜姫  神素盞嗚大御神
 国武彦の御前に  真心明かし汝が身の
 思ひを此処に情なくも  科戸の風に打ち払ふ
 黄竜姫の神司  汝が切なる心根を
 仇には捨てぬ玉治別の  仇に思はぬ真心を
 直日に見直し聞直し  弥永久に宣り直し
 吾に勝りていと清き  夫の命を持たせまし
 あゝ惟神々々  神の御前に玉治が
 真心明かし奉る』
と妻のお勝の宇都山郷にありて神業に奉仕し居れば、貴嬢の御心は察すれども、到底夫婦たる事を得ずとの旨を神の前に表白したのである。黄竜姫は愈恋の雲晴れて熱心に神業に奉仕する事となつた。
(大正一一・七・一七 旧閏五・二三 北村隆光録)
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