桶伏山の東麓に建つ高姫館に、高山彦・黒姫夫婦がやってきた。門番の勝公・安公は丁寧に出迎えて、奥へと迎え入れた。
高姫は奥の間へ現れ、火鉢の前に座ると四角張って、二人が夫婦連れでやってきたことに嫌味を言った。黒姫は高山彦のたもとを引っ張って、早く帰れと促した。高山彦は、高姫の嫌味に賛同を表し、黒姫と口げんかをしている。
黒姫は、このようなことをしに来たのではない、と言って来意を告げた。国依別が高姫に進上するようにと、魚だと称して川石をどっさり持って来たので、高姫に処置を伺いに来たのであった。
高姫、黒姫は、これはてっきり国依別が意趣返しだと合点した。高姫は、国依別本人に問いただすのだと言い出し、安公に国依別を呼んで来るように言いつけた。
安公が国依別を呼びに行くと、秋彦も着いて来た。二人は滑稽を演じながらやってきて、安公を巻き込んで高姫館の門口で三文芝居をしている。
高姫は声を聞きつけて門口に出てきた。国依別は芝居の姿のまま、高姫の問いかけに俳句で答えている。そのまま国依別、秋彦は奥の間に入った。
高姫が、石の魚を寄越した意図を問いただしたが、国依別は相変わらずずっと俳句で答えて、高姫、黒姫を罵倒してなぶっている。黒姫は、高山彦に悔しくないのかとけしかけて、反撃するように促した。
高山彦は自分を滑稽に歌った歌を返してしまう。黒姫は怒って国依別の過去をあげつらった歌を歌って返した。それを聞いた国依別は大笑いして、黒姫の歌を褒め称える滑稽歌を返した。
さすがの高姫もあきれてしまう。再度の高姫の問いかけに、国依別は、石より固い高姫の心に敬意を表したのであり、食ってくれとは一言も言っていないと洒落の意を明かした。高姫も、あきれが過ぎて感心してしまう。
そこへ夏彦と常彦が、高姫のご機嫌伺いにやってきた。二人は案に相違して国依別、秋彦がその場に居たのでどぎまぎしている。国依別と秋彦は、密談の邪魔になるだろうから、と言って高姫館を去って行った。
帰り道、国依別は高姫もずいぶん辛抱強くなったと感心している。二人は滑稽口をたたきながら、国依別の庵まで戻ってきた。