日楯と月鉾は禊を終わって、信徒を連れて神殿に戻ってきた。そして神殿の前で父の無事な帰還を祈っていた。そこへ人々をかきわけて真道彦が現れ、兄弟と共に拝礼を行った。
真道彦は拝礼を終えると、兄弟の手を握って父の名乗りをした。兄弟をはじめその場の信徒一同は喜び、祝いの直会は三日も続いた。
玉藻の湖水の東には、天嶺という景勝の山地があり、日楯とユリコ姫に守らせることになった。西側の泰嶺には、月鉾とマリヤス姫に守らせた。真道彦は玉藻山の霊場にヤーチン姫を奉じていた。
日楯とユリコ姫は夫婦となって神業に仕えた。マリヤス姫は月鉾に想いを寄せたが、月鉾は神の命により独身生活を続けていた。
ヤーチン姫は、老いたとはいえ精悍な真道彦に対し、自分を救ってくれたという思いからいつしか恋の想いを抱くようになった。そしてその想いが募って病気を発し、床に就いてしまった。
侍臣のキールスタンはヤーチン姫を看病したが、一向に効験はなく重病となってしまった。ある日真道彦がヤーチン姫の病床を見舞った。ヤーチン姫は、真道彦に想いを伝えた。
真道彦は、死の床にある婦人に対して没義道な振る舞いをせずに見送ろうと決心し、姫の思いを入れる返答をなした。ヤーチン姫は喜び、病の身のまま病床を出て身を繕い、真道彦を自分の居間に導いた。
そして真道彦をカールス王であると誤認して、当惑する真道彦の腕にしがみついて泣き伏した。キールスタンはこの様を見て驚き、二人の間には夫婦関係が結ばれたものという噂が信徒の間には広まった。
しかし真道彦は将来を慮り、ヤーチン姫には一指もさえることはなく、主人のように尊び仕えた。ヤーチン姫も病気が回復するにしたがい、誤認は解けて、真道彦の信仰の堅実さに感歎し、互いに胸襟を開いて神業に参加することとなった。