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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第1篇 高砂の島よみ(新仮名遣い)たかさごのしま
文献名3第5章 難有迷惑〔805〕よみ(新仮名遣い)ありがためいわく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグオリオン座(オレオン星座) データ凡例 データ最終更新日2021-11-15 18:56:11
あらすじ
日楯と月鉾は禊を終わって、信徒を連れて神殿に戻ってきた。そして神殿の前で父の無事な帰還を祈っていた。そこへ人々をかきわけて真道彦が現れ、兄弟と共に拝礼を行った。

真道彦は拝礼を終えると、兄弟の手を握って父の名乗りをした。兄弟をはじめその場の信徒一同は喜び、祝いの直会は三日も続いた。

玉藻の湖水の東には、天嶺という景勝の山地があり、日楯とユリコ姫に守らせることになった。西側の泰嶺には、月鉾とマリヤス姫に守らせた。真道彦は玉藻山の霊場にヤーチン姫を奉じていた。

日楯とユリコ姫は夫婦となって神業に仕えた。マリヤス姫は月鉾に想いを寄せたが、月鉾は神の命により独身生活を続けていた。

ヤーチン姫は、老いたとはいえ精悍な真道彦に対し、自分を救ってくれたという思いからいつしか恋の想いを抱くようになった。そしてその想いが募って病気を発し、床に就いてしまった。

侍臣のキールスタンはヤーチン姫を看病したが、一向に効験はなく重病となってしまった。ある日真道彦がヤーチン姫の病床を見舞った。ヤーチン姫は、真道彦に想いを伝えた。

真道彦は、死の床にある婦人に対して没義道な振る舞いをせずに見送ろうと決心し、姫の思いを入れる返答をなした。ヤーチン姫は喜び、病の身のまま病床を出て身を繕い、真道彦を自分の居間に導いた。

そして真道彦をカールス王であると誤認して、当惑する真道彦の腕にしがみついて泣き伏した。キールスタンはこの様を見て驚き、二人の間には夫婦関係が結ばれたものという噂が信徒の間には広まった。

しかし真道彦は将来を慮り、ヤーチン姫には一指もさえることはなく、主人のように尊び仕えた。ヤーチン姫も病気が回復するにしたがい、誤認は解けて、真道彦の信仰の堅実さに感歎し、互いに胸襟を開いて神業に参加することとなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月06日(旧06月14日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版59頁 八幡書店版第5輯 373頁 修補版 校定版60頁 普及版26頁 初版 ページ備考
OBC rm2805
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本文  日楯、月鉾の両教主は数多の取次信徒等に取巻かれ、数多の松明を点じ乍ら、湖の畔を長蛇の陣を作り、蜿蜒として玉藻山の聖地を指して帰り行く。松明の火光は湖面に映じ、恰も水中に火竜の泳ぐが如く、壮観譬ふるに物なき眺めなりけり。
 真道彦命は松明の後より、ヤーチン姫、ユリコ姫、キールスタンと共に一行に従ひ、聖地に帰り着いた。されど一人として、夜中の事と云ひ、最後より来りし事とて、気の付く者は一人もなかりけり。
 日楯、月鉾の二人は新に建造されたる神殿に進み入り、『父真道彦命の一日も早く行方の分りますよう』……と一心不乱に祈念をし居たり。
 そこへ衆人を掻き分け、悠々として現はれ出でたる真道彦命は、先づ第一に神前に向つて拍手し祝詞を奏上し始めた。二人の兄弟は其姿と云ひ、声と云ひ、且つ……吾が前に出でて祝詞を奏上する者は、三五教に一人もなし、正しく神の顕現か、但は吾父の帰りませしにあらずや……と心中に且つ疑ひ、且つ歓び、祝詞の終るを待つて居た。
 真道彦命は拝礼を了り、一同に目礼をなし、兄弟の手を握り、涙を流し乍ら、
『吾れは久しく此聖地を逃れ居たる汝が父なるぞ。よくマア無事に生き永らへしのみならず、再び聖場を復興し得たるは、全く汝等が信仰の真心を、三五教の大神御照覧遊ばし、厚く守らせ玉ふものならむ。あゝ有難や、辱なや』
と落涙に咽び、嬉しさ余つて、其場にハタと打倒れけり。
 これを聞きたる数多の取次、信徒等は一斉に神徳を讃美し、神恩を感謝し、欣喜雀躍の余り、夜の明くるも知らずに、直会の宴に、日三日、夜三夜を費やしけるが、玉藻の聖地開設以来の大盛宴なりける。
 真道彦命は日楯、月鉾二人の兄弟に、美はしき館を作られ、そこに老の身を養ふこととなりぬ。されど真道彦は年齢に似合はず、神徳、霊肉共に充実して若々しく、元気も亦壮者を凌ぐ許りなり。
 玉藻の湖水は東西十五里、南北八里、山中にては可なり大なる湖水なり。玉藻山の霊地は殆ど其中心に位し、東の端に天嶺といふ小高き樹木密生せる景勝の山地があつた。そこに日楯をして守らしめ、神殿を新に造り、政教一致の道を布かしめた。さうしてユリコ姫を宮司とし、聖地の東方を固めしめ、真道彦命は玉藻山の霊場に在つて、老後を養ひつつヤーチン姫を奉じ、神業に奉仕して居た。
 玉藻湖の西端には泰嶺と云ふ霊山があつた。そこには月鉾を配置し、マリヤス姫を神司として奉仕せしめつつありき。玉藻山以東を日潭の聖地と称し、以西を月潭の霊地と称へ、オレオン星の如く三座相並びて、三五教の神業に奉仕し、其稜威は台湾全島に轟き渡り、新高山の山麓なる泰安の都にまで、其勢力は轟いて居た。
 泰嶺の鎮守として使へたる月鉾は神の命により独身生活を続け居たり。マリヤス姫は何時とはなしに月鉾に対し恋慕の念起り、矢も楯もたまらず、神業を閑却して昼夜の区別なく、月鉾に対し心を奪はれ、隙ある毎に寄り添ひて、種々と思ひの丈を述べ立つるのであつた。されど月鉾は信心堅固にして、神の命をよく守り、且つマリヤス姫は泰安の都にましますカールス王の妹たる尊き身の上なる事を知り居たれば、手厳しく戒むる事も得せず、又放逐する事も得ずして、心の限り尊敬を払つて居た。マリヤス姫の恋路は益々猛烈となり、遂には取次信徒等の端に至る迄、月鉾とマリヤス姫の間に温かき関係の結ばれある事を固く信じいたりけり。月鉾は神命と姫との板挟みとなつて、日夜苦慮しつつ其日を送り居たり。又日楯はユリコ姫と共に夫婦となり睦まじく神業に参加し居たり。
 老たりとは云へ、未だ元気旺盛なる真道彦命は妻に先立たれ、独身の生活を続けて、余生を此聖地に送り居たるが危き生命を救はれたる真道彦に対して、ヤーチン姫は何時とはなしに恋に落ち、昼夜煩悶の結果、面やつれ、身体骨立し、遂には重き病の床に就きける。
 侍女のユリコ姫は天嶺の聖地にあつて、日楯の妻となり、早くも妊娠の身となり居たり。それ故ヤーチン姫の重病を看護することさへ出来ざりき。キールスタンは昼夜の別なく、忠実に姫の看護に全力を尽し居たれ共、姫の病は日に日に重る計りなりける。
 真道彦命は姫の大病を救はむと、朝な夕な神前に祈願をこらしつつありしか共、少しも其効験現はれず、尊きエーリスの姫君、如何にもして、元の身体に回復せしめむと心胆を砕き乍ら、病床を見舞つた。キールスタンは真道彦命の来れるに打喜び、挨拶も碌々になさず、あはてふためきて、ヤーチン姫の枕許に走り寄り、耳に口を寄せ、
キールスタン『あなたの日頃恋はせ玉ふ真道彦命様が、今茲におみえになりました』
と囁きし此声に、姫はムツクと起上り、さも嬉しげに、真道彦命に向ひ、
ヤーチン姫『真道彦様、ようこそ御親切に御訪ね下さいました。モウ妾、これぎり国替致しても、後に残る事は御座いませぬ。どうぞ妾の死後に於て、夢になりとも妾の事を思ひ出し玉ふ事あらば、只一言なりと吾名をお呼び下さいませ。これが妾の一生の願ひで御座います』
と恥かしげに言ひ終つて、枕に顔を伏せた。真道彦は稍当惑の体にて、少時ためらひ居たりしが、斯く迄吾を慕へる此婦人に対し、今はの際に、余り没義道にあしらふべきに非ず、何れ死に行く運命の人ならば、優しき言葉をかけて、潔く此世を去らしむるに若かじ……と決心し、厳然として身を構へ、
真道彦『ヤーチン姫殿、あなたの尊き御心、木石ならぬ真道彦も満足に存じます。今迄の貴女に対する無情の罪、御赦し下さいませ』
とキツパリ言ひ放つた。ヤーチン姫は此言葉に何となく元気づき、病の身を忘れて身を起し、膝を摺り寄せ、命の顔を打みまもり、感謝の涙をハラハラと流し乍ら、
ヤーチン『日頃恋ひ慕ふ真道彦命様、それならあなたは今日只今より、ヤーチン姫の夫、よもや御冗談では御座いますまいなア』
と念を押したりしに、
真道『エー勿体ない、私も神に仕ふる身の上、決して嘘は申しませぬ』
ヤーチン『そんなら……あなたは妾の夫、モウ斯うなる上は、病位は物の数では御座いませぬ』
と痩こけたる体も俄に元気づき、顔の色さへ仄紅く、直に井戸端に歩み寄り、身を浄め、自ら衣服を着替へ、身繕ひを終つて、再び真道彦の前に現はれ来り、
ヤーチン『あゝ吾夫様、吾居間へ御越し下さいませ。いろいろと申上げたき仔細が御座います』
と無理に手を曳き、吾居間に姿を没したり。
 ヤーチン姫は吾居間に真道彦命を伴ひ、あたりを密閉して両人端坐し声を私めて、
ヤーチン『カールス様、泰安の都の様子は如何なりましたか。セールス姫は如何遊ばされました。どうぞ包まず隠さず、御漏らし下さいませ』
真道『これは又異なることを承はるものかな。私は祖先代々此玉藻の聖地に住居して、三五教を開く者、畏れ多くも泰安の都のカールス王などとは思ひも寄らぬ御言葉、永の御病気の為に、精神に御異状を御来し遊ばされ、カールス王に、私が見えたのでせう。決して私は左様な尊き身分では御座いませぬ。どうぞトツクリと御検め下され』
とヤーチン姫の面前にワザとに顔をつき出して見せた。ヤーチン姫は、兎見斯う見し乍らニヤリと笑ひ、
『如何に御忍びの御身の上なればとて、さう御隠しなさるには及びますまい。妾が淡渓に投げ込まれ、生命危き所へ貴方は妾を助けむと、先に廻つて御救ひ下さつた生命の恩人カールス様に間違ひは御座いますまい。最早斯うなる上は、御隠しなさるには及びませぬ。どうぞ打解けて誠の事を仰有つて下さいませ。何程御隠し遊ばしても、どこから何処まで、毛筋の横巾も違はぬあなたの御姿、これが如何して別人と思へませうか』
真道『これは聊か迷惑千万、能く御考へ遊ばしませ。カールス様は未だ御年三十に成らせ玉はず、吾は最早五十路の坂にかかつて居る老ぼれ者、何程能く似たりとは言へ、老者と壮者、皮膚の色、声の色、決して決して同じ筈は御座いませぬ。仮令姿は能く似たりと雖も、月に鼈、尊卑の点に於て雲泥の相違ある私何卒御心を鎮められ、真偽の御判断を下し遊ばす様、御願致します』
ヤーチン『どこまでも用心深いあなたの御言葉、女は嫉妬に大事を漏すとの諺を信じ、分り切つたる秘密を、どこまでも包み隠さむと遊ばすあなた様の御心根が恨めしう御座います。どこまでも御隠し遊ばすならば、最早是非も御座いませぬ。真道彦命ならば真道彦命で宜しう御座います。王様に間違は御座いませぬ。どうぞ此処に改めて結婚の式を御挙げ下さいます様に御願致します』
真道『アヽ困つたなア。どうしたら姫様の疑が晴れるであらうか。他人の空似とは云ひ乍ら勿体ない、カールス王様に能く似て居るとは………真道彦の何たる光栄であらう。否迷惑であらう。アヽどうしたら此難関が切り抜けられようかなア』
とさし俯いて溜息をつき居る。
ヤーチン『何程御隠し遊ばしても、カールス王様に間違はありませぬ。あなたはサアルボースやホーロケース両人の悪者に恐れて、淡渓の畔に身を隠し、真道彦命と名を変へて、此世を偽る卑怯未練の御振舞、御父上の許し玉ひし夫婦の仲、未だ一夜も枕を交さね共、親と親との許し玉ひし夫婦の間柄、誰に遠慮が御座いませう。あなたは昔はエルサレムに仕へ玉ひし、天使花森彦命の御末孫、高国別や玉手姫の悪神の腹より生れ出でたる、サアルボースや、ホーロケースを父や叔父に持つ、セールス姫が御気に入らぬのは御尤もで御座います。さり乍ら何を苦んで、泰安の都を脱け出で、あの様な処に身を隠し遊ばしたので御座いますか……それはさうと、妾の生命を助け下さつたのもヤツパリあなた様、都を出でさせ玉ひし其御蔭、尽きぬ縁の証にて、恋しきあなたに助けられ、此里に参りましたのも、結ぶの神の引合せ、これより夫婦心を合せ、三五教の信徒を引つれ、時を見て泰安の都に攻め寄せ、父の業を御継ぎ遊ばす御所存は御座いませぬか。それさへ承はらば、妾は此儘帰幽致す共、あなたの雄々しき心を力として、幽界より御神業を御助け申す覚悟で御座います。生ても死しても、決してあなたの御側を離れぬヤーチン姫の真心、どうぞ仇に思召し下さいますな』
真道『私には日楯、月鉾と云ふ二人の息子が御座います。私の妻は既に此世を去り、今は此通り位牌となつて、此神殿に御祭りして御座いますれば、どうしても妻を持つことは、私として出来ませぬ。併し乍らあなたの御志を無にするも情なく存じますれば、夫婦の交はりのみは御許しを頂きまして、夫婦気取で御神業に参加させて下さいませ。カールス王様の御身の上に就て、変事あらば時を移さず、吾々は数多の強者を引具し、泰安の都に乗込んで御助け申し、貴女の望みを達し参らす覚悟で御座います。此事計りは御安心遊ばしませ。決して私はカールス王では御座いませぬ。正真正銘の真道彦で御座います』
ヤーチン『エーもどかしや』
と言ひ乍ら、矢庭に真道彦の利腕にしがみつき、涙と共に泣き口説き、身をもだえ居る。
 此時何気なく、隔の襖をおし開き、入り来るキールスタンは此態を見て驚き、物をも言はず一目散に此場を駆出したり。これより真道彦命とヤーチン姫の間には、情意投合の契約が結ばれたるものとして、窃に三五教の一般に伝へらるる事となりぬ。されど真道彦命は将来を慮り、姫に対して一指だにも支へざりける。
 姫は其後病気追々快復して元の如く容色端麗なる美人となり、聖地の大神殿に朝夕奉仕して、神の威徳は益々四方に輝き亘りぬ。真道彦命は飽く迄もヤーチン姫を尊敬し、主人の如く待遇して、至誠を尽したるに、ヤーチン姫も漸くにして、真道彦命のカールス王に非ざりしことを悟り、且つ命の信仰の堅実なるに感歎し、互に胸襟を開きて神業に参加し、時の到るを待ちつつありける。惟神霊幸倍坐世。
(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
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