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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第3篇 光明の魁よみ(新仮名遣い)こうみょうのさきがけ
文献名3第14章 二男三女〔814〕よみ(新仮名遣い)になんさんにょ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-11-29 18:15:22
あらすじ
照彦王から与えられた封書には、向陽山の麓の大谷川を渡るまで、無言の行を解いてはならない、常楠仙人から摂受の剣と祈伏の剣を受け取り、泰安城の魔軍を退けてカールス王とヤーチン姫を救うべし、と書かれてあった。

一行が向陽山麓が見える地点まで来ると、大きな沼が前をさえぎった。一行は思い切って沼に入って進んで行くと、不思議にも易々と沼を渡ることができた。後を振り返ると、沼は跡形もなくなっていた。

一行が野宿にて夜を明かしていると、大怪物が現れて、日楯と月鉾を飲み込んでしまった。女たちも怪物のなすがままに任せていると、怪物は女たちを背に乗せて進んで行った。

あたりがぱっと明るくなったと思うと、日楯と月鉾は大谷川を渡って向陽山の麓にいた。見れば、三人の女はまだ向こう岸に立っていた。日楯と月鉾は無言の行が解けたので、天津祝詞を奏上すると、女たちは激流の上を平然として渡ってくることができた。

日楯と月鉾が今度は感謝の祝詞を奏上していると、女たちは手招きしつつ、猿のように山の斜面を登って行って霧の中に姿を隠してしまった。

日楯と月鉾が女たちを追ってくると、どこからともなく叫び声が聞こえてきた。見れば、三人の女たちがそれぞれ大蛇に飲まれそうになっている。月鉾はこれを見るとその場に失神してしまった。日楯は誰を先に救おうか迷っていたが、八千代姫と照代姫を救うのが人の道と決心して、大蛇に打ちかかった。

すると、大蛇の姿は消えてしまった。あたりをみると、白髪の老人が杖をついて近づいて来る。日楯は倒れている月鉾に、湖水の水を吹きかけて蘇生させた。老人は微笑をうかべながら、二人を手招きしつつ、向陽山頂にいざなった。

二人は一生懸命に登って行った。すると、大岩石が前をさえぎった。岩石は鏡のように輝き、その向こう側に三人の女たちが見えた。兄弟は岩の向こうに行けずに困っていると、上の方から「天津祝詞」という声が聞こえた。

二人ははっと気付いて拍手し、天津祝詞を唱えた。二人の体は透明な岩窟の中に吸い込まれた。見れば、外には大蛇が迫っており、岩に写った一行を飲もうとしているが、岩にさえぎられてただこちらを眺めているだけなのが見えた。

二男三女はここに合流し、岩窟の奥に進んで行った。岩窟の終点には先ほどの老人がいた。老人は一行の労苦をねぎらうと、神宝はこの岩窟の入口に置いたので、それをもって台湾島に帰るように言い渡すと、姿を消した。

五人は岩窟の入口に戻ると、二つの玉と三つの鏡が置いてあるのを見つけた。日楯は赤い玉、月鉾は白い玉、ユリコ姫、八千代姫、照代姫はそれぞれ大中小の鏡を一つずつ押し頂いて、天の数歌を歌いながら向陽山を下って行った。

大谷川の急流に際して、ユリコ姫が大の鏡を取り出して川面を照らすと、激流は分かれて道ができた。一行はそこを渡って足を早め、エルの港から漕ぎ出だし、台湾島のキールの港に着いた。

五人はいったん玉藻山の聖地に帰り、信徒らに迎えられた。玉と鏡を安置して、昼夜祈願を凝らすこととなった。凱旋に当たり、留守を守っていたマリヤス姫はテーリン姫とともに一行を迎え入れ、祝歌を歌い自ら舞った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月09日(旧06月17日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版164頁 八幡書店版第5輯 412頁 修補版 校定版168頁 普及版77頁 初版 ページ備考
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本文  天津御空に照り亘る  日楯、月鉾、両人は
 照彦王や照子姫  数多の人に立別れ
 サワラの城を後に見て  緑、紅、白、黄色
 花咲く野辺のユリコ姫  尽きせぬ御代も八千代姫
 神の御稜威も照代姫  二男三女の五身霊
 照彦王の密書をば  力と頼み向陽の
 高嶺をさして進み行く。
 二男三女は無言の儘、向陽山を指して進んで行く。照彦王より与へられたる密書には、
『向陽山の麓を流るる大谷川の畔迄は決して言語を発す可らず、其川を渡ると共に、発言自由たるべし。向陽山には常楠仙人永住して汝等一同に摂受の剣と折伏の剣を与へ玉ふべし。これを受取つて、汝等は一日も早く泰安城に立向ひ、魔軍を言向け和し、且つヤーチン姫及真道彦、カールス王其他一同を救ふべし』
との文意が示されてあつた。行く事殆ど五六里、徒歩に稍疲れを感じ、山麓までは到底日の内に到達し難く思はれた。
 茫々たる萱野原に、萩、桔梗、百合の花は配置良く咲き匂うて居る。二男三女は草を分け、漸くにして、向陽山麓の木々の梢まで肉眼にて見分くる計りの地点まで近寄つた。忽ち前方に当りて、大なる沼が横はつて居る。水底最も深く、周囲の樹木は沼の底に逆しまに影を映し、大空の淡雲は沼底に映つて居る。不思議にも五人の姿は沼の水に逆しまに映り、何とも言はれぬ麗しき光景であつた。一同はハタと突当り、如何はせむと思案に暮れてゐたが、言語を発する事を戒められ居る為、互に相談する事も出来ず、どうせうかと手真似、目使ひ等にて話し合つて居る。
 日は漸く山の尾の上に姿を没し、夕べの風はソヨソヨと吹き出し、木の葉の梢にゆらぐ影は、沼底に逆さまに映り、数多の小魚の躍るが如く見えて来た。進退惟谷まつたる五人は愈意を決し、底ひも知れぬ沼を目蒐けてバサバサと歩み出した。不思議にも此深き沼にも係はらず、五人の身体は膝迄も没するに至らず、易々とさしもに広き沼の面を、彼方の岸に渡り着き、後振り返つて眺むれば、沼らしき影だにもなく、いろいろの草花が広き原野に咲き満て居た。これは常楠仙人が仙術を用ゐ、五人の信仰力を試す為に地鏡を映出したのである。
 夜の帳は細やかに下ろされて、月は周囲の高山に隔てられ、姿を見せず、星の光は何となく、雨気の空の様に低う麗しく瞬いてゐる。二男三女は例の手真似にて合図をなし、爰に一夜を明かす事となつた。
 猛獣の唸り声、前後左右より刻々に高く、烈しく響き来る。一同は心の中に天の数歌を称へ、暗祈黙祷を続けてゐる。そこへ一種異様の大怪物、鹿の如き枝角の一丈計りあるものを頭に戴き、大象の如き大動物、バサリバサリと進み来り、五人の前に鏡の如き巨眼を光らせ、大口を開き、洗濯屋の張板の様な長広舌を左右に振り乍ら、一行を目がけて舌に巻き込まんとして居る。日楯、月鉾は無言の儘、両手を組み、怪物の前に進み寄るや、怪物は象が鼻にて子供を捲く様に、舌にてペロペロと巻き乍ら、喉の中へ二人共一度に呑み込んで了つた。
 三人の女は愈決心を固め怪物のなすが儘に任した。怪物は以前の如く、舌にて一人一人捲いては吾背に乗せあげ、三人共大象の幾倍とも知れぬ様な大背中に乗せた儘、向陽山を目蒐けてドシンドシンと地響きさせ乍ら進んで行く。日楯、月鉾の両人は怪物の腹に呑まれ乍ら、別に痛苦も感ぜず、暖かき湯に入りたる如き心地して、運命を惟神に任せて居た。
 忽ち轟々たる水音耳に入るよと思ふ間に、あたりはパツと、際立つて明くなつて来た。見れば其身は向陽山麓の大谷川の激流を渡りて、其岸辺に立つて居た。三人の女は、岸の彼方に激流を眺め、二人の首尾克く山麓に渡り得たるを恨めしげに眺めて居た。
 日楯始めて口を開いて、
『惟神霊幸倍坐世』
と言ひ乍ら、
日楯『モシ月鉾さま、無言の行も随分辛いものでしたなア。さうして地鏡の沼に出会した時の胸の驚き、ヤツと安心する間もなく、今度は大怪物に出会し舌に巻かれて腹に葬られ、どうなる事かと心配して居つたが、何時の間にか、怪物の影はなく、吾々二人は此渡る可らざる大激流を、無事に渡つて居たのは、何と思つても合点が往かぬぢやないか。コリヤ、うかうかとしては居られまい。何を言うても常楠仙人の隠れます聖場だから、謹んだ上にも慎んで参らねば、幾度もあの様な試みに会はされては堪りませぬからなア』
月鉾『左様です。此球島へ渡つてからと云ふものは、実に不思議な事計り、神秘的な島ですなア。それにしても照彦王、照子姫様は仙人に出会ひ摂受の剣と折伏の剣を得て来いと教書に御示しになつて居るが、果して与へられるであらうか、それ計りが心配でなりませぬワ』
日楯『照彦王は吾々に此御用を致さすべく、前以て御夫婦がどつかの高山へ登られ、非常な苦労を遊ばして、神勅を受け御帰りになつたのだから、滅多に間違ふ気遣ひはありますまい。疑は益々神慮を損ふ所以となりませう。兎も角教書の儘を固く信じ今後如何なる艱難辛苦に出会うとも、屈せず撓まず、忍耐を強くして、目的を達せなくては、折角遥々此処まで参つた甲斐が有りませぬ。先づ此処で天津祝詞を奏上致しませう』
 月鉾も此言葉に打諾き、二人は川岸に端坐して天津祝詞を奏上した。不思議や三人の女は激流の上を平然として此方に渡り来る。両人は手を拍ちて喜び、全く神の深き御庇護と又もや感謝の祝詞を奏上する。三人は漸くにして激流を渡り、二人の前に来つて嬉し相に笑を湛へ乍ら、二人を手招きしつつ、さしもの急坂を猿が梢を伝ふ如く登り行く。見る見る間に三女の姿は山霧に包まれ見えなくなつて了つた。日、月二人は互に顔を見合せ、
日楯『何と月鉾さま、神仙境はヤツパリ神秘的な事が続出致しますなア』
月鉾『本当に不思議なこと計りですワ。それにしても三人の女の、あの足の早さ、人間業とは思はれませぬ。大方仙人の霊魂でも憑依したのでせうかなア』
日楯『何は兎もあれ、此高山を一刻も早く登りきはめねばなりますまい。サア急ぎませう』
と日楯は先に立ち、宣伝歌を歌ひ乍ら登り行く。
 向陽山は峰巒重畳たる中に魏然として聳え立つて居る霊山である。山頂に達する迄には幾十とも知れぬ山を越え、谷を渉り、或は広き山中の湖水を渉りなどせなくては、到底達し得ない、要害堅固の絶勝である。
 二人は漸くにして、山中の稍広き湖水の畔に着いた。俄に女の叫び声、あたりの森林に聞えて来る。フト声する方を眺むれば、幾丈とも知れぬ大蛇、ユリコ姫の身体を腰のあたり迄呑みこみ、鎌首を立てて渦巻いてゐる。日楯、月鉾は大に驚き、如何はせむと稍少時、首を傾けてゐた。ユリコ姫は声を限りに、
ユリコ姫『日楯様、どうぞ妾をお助け下さいませ』
と手を合して命限りに叫んでゐる。又もや女の泣声、フト目を右方に転ずれば、照代姫、八千代姫の二人は、これ又二匹の大蛇に半身を呑まれ、顔の色迄青くなり、声も碌々に得立てず、両人の方に向つて手をあはせ、救ひを求めてゐる。
 日楯は吾女房を救はむか、八千代姫、照代姫を如何にせむ、照代姫、八千代姫を救はむか、吾妻の生命を如何にせむと去就に迷ひつつあつた。月鉾は『ウン』と一声断末魔の声と共に、其場に打倒れ失心状態になつて了つた。日楯は現在の弟は斯の通り、妻も亦瞬間に迫る生命、救ひたきは山々なれど、先づ八千代姫、照代姫を救ふこそ人たる者の行ふべき道ならむと決心し、あたりに落ち散つたる太き角杭を折るより早く、八千代姫、照代姫を呑みつつある大蛇に向つて、首筋あたりを力限りに打ち据えた。見れば大蛇の影も、女の姿もなく、只月鉾のみ足許に倒れて居た。
日楯『ハテ訝しや』
とあたりを見れば、白髪異様の老人、藜の杖をつき乍ら、木の茂みを分けてのそりのそりと近付いて来る。日楯は直に湖水の水を口に含み、月鉾の面上に注ぎかけた。月鉾は漸くにして正気に復り、あたりをキヨロキヨロ見廻して居る。月鉾の卒倒したのは、ユリコ姫其他二人の大蛇に呑まれたる姿を眺めて驚いた為である。
 白髪異様の老人は二人に向ひ、微笑を浮べ乍ら、手招きしつつ老の身に似ず、雲を翔るが如く、向陽山の頂上目蒐けて足早に登り行く。二人は老人の後に従ひ、息を喘ませ乍ら、足の続く限り急ぎ登り行くのであつた。
 老人の姿は早くも向陽山を包む白雲の中に消えて了つた。二人は一生懸命になつて一里計り登り行けば、ハタと突当つた大岩石がある。よくよく見れば此岩は鏡の如く日光に照り輝き、三人の女の姿が奥の方に歴然と映つて居る。三女は二人の姿を見て早く来れと手招きをして居る。其距離殆ど二百間計りであつた。兄弟二人は三人の側に行かうとしてあせれ共、鏡の如く透き通つた此岩も、入口は分らず、非常に気を揉んで居る。
 ユリコ姫外二人は頻りに早く来れ……と差招く。兄弟は心をいらち、進み入らむとすれ共、硝子の如き岩に突当つて、入口がどう藻掻いても分らない。此時頭の上の方から『天津祝詞』……と云ふ声が聞えて来た。二人はハツと気がつき、直に拍手し、天津祝詞を声もすがすがしく奏上し始めた。
 二人の身体は何者にか吸ひ込まるる様に、透明なる岩窟の中に自然に進み入つた。忽ち山嶽も崩るる計りの大音響聞え来ると見る間に、周囲一丈計りの黒色の大蛇、腹の鱗は血にただれ乍ら、十数匹、此岩窟に向つて勢猛く進み来り、兄弟を呑まむと、大口を開けて焦れども、入口の分らざる為、大蛇は外にて残念相に頭を並べて二男三女の姿を眺めて居る。
 二男三女は心中に深く神徳を感謝し乍ら、尚も奥へ奥へと進み入る。際限もなき岩窟をもしや蛇の入口を探り、後より追ひ来らざるやと、稍恐ろしさに、知らず知らずに足は意外に早く運びて、終に岩窟の終点に着いた。茲には以前現はれし白髪異様の老人が厳然として立現はれ、一同に向ひ言葉おごそかに、
老人『われは当山を中心として琉、球の夫婦島を守護致す常楠仙人であるぞ。其方は父の難を救ひ且つ国王を始め、数多の人々の苦難を救はむ為に遥々此処に来ること、実に殊勝の至りである。汝等は之より一刻も早く此島を離れ、エルの港より船に乗り、照代姫、八千代姫と諸共に、キールの港に向つて立帰れよ。又汝に与ふべき神宝は、此岩窟の入口にあれば、身魂相応に其一個を所持して帰れよ。さらば』
と言つたきり、老人の姿は煙となつて消えて了つた。五人は爰に於て又もや天津祝詞を奏上し、元来し岩窟の入口に大蛇は帰りしかと気遣ひ乍ら、漸くにして入口を出で見れば、そこに二つの玉と三つの鏡が置いてある。これは最前襲ひ来りし大蛇の所持して居た宝であつたが、余り二男三女の姿を見て恋慕の念を起し、遂に此宝を知らず知らずに体内より脱出し帰つた後であつた。
 日楯は日の色に因みたる赤玉を取り、月鉾は白き玉を拾ひ、ユリコ姫、八千代姫、照代姫は光り輝く大中小三個の鏡を各一面づつ拾ひ上げ、押戴いて、道々天の数歌を歌ひ乍ら向陽山を降り行く。
 漸くにして大谷川の岸に着いた。さしもの急流容易に渡るべくも見えなかつた。ユリコ姫は大の鏡を懐中より取出し、川の面を照らした。不思議や大谷川の水は板にて堰き止めたる如く横に分かれて、一滴の水もなき道路がついた。二男三女は足早に川中を向うへ渡り後ふり返り見れば、大谷川は依然として激潭飛沫の大急流になつてゐる。これより一同は足を早めて、三日三夜の後エルの港に到着し、繋ぎおきし船に身を托し、日楯、月鉾二人は艪櫂を操り、荒れ狂ふ海原を難なく漕ぎ渡り、漸くキールの港に、夜半の頃安着した。
 これより二男三女は一旦玉藻山の聖地に帰り、玉、鏡を安置して、日夜祈願をこらし竜世姫命の神勅の下るを待つて大活動を開始せむと、昼夜祈願を凝らして居た。
 二男三女は璽鏡の神宝を手に入れ、意気揚々として、天嶺、泰嶺の聖地には立寄らず、中心霊場なる玉藻山の聖地に立帰り、残存せる誠実なる信徒に迎へられ、璽鏡の宝物を宮殿深く納め、無事凱旋の祝宴を開いた。
 マリヤス姫はテーリン姫を伴ひ、嬉し相に此席に列し、二男三女の功績を口を極めて賞揚し、神前に祝意を表する為、自ら歌ひ自ら舞ひ始めた。其歌、
マリヤス姫『天運茲にめぐり来て  枯れたる木にも花は咲く
 尊き御代となりにけり  神代の昔国治立尊は
 豊葦原の瑞穂国  中心地点と聞えたる
 貴の都のエルサレムに  無限絶対無始無終の
 森羅万象を造り玉ひし  天御中主大御神
 又の御名は大国治立尊の  大御神勅を受けまして
 豊葦原の瑞穂国に  天津御空の神国の
 神の祭政を布かむとし  心を千々に砕きつつ
 洽く天地神人の  身魂の為に尽されし
 其神業も隙行く駒のいつしかに  曲の猛びに遮られ
 尊き御身を持ち乍ら  此世を捨てて艮の
 自転倒島の秀妻国  国武彦と名を変へて
 下津岩根の綾錦  紅葉の色も紅の
 明き神代を建てむとて  宣る言霊の一二三つ
 四尾の山に永久に  五つの御霊を隠しまし
 六七しく神代の来るをば  待たせ玉ふぞ尊けれ
 八千代の春の玉椿  九つ花の咲き出でて
 十の神代を築きあげ  百千万の民草に
 恵の露を垂れ玉ふ  尊き御代を松の世の
 神の心は永久に  竜世の姫の鎮まりゐます
 此神島に花森彦命を  天降し玉ひ顕事
 幽事をば真道彦命に  依さし玉ひし神事は
 千引の岩の動きなく  常磐の松の色褪せず
 茲に現はれ来りまし  国治立大神の
 計り玉ひし松の世も  今や開くる世となりぬ
 真道彦命は  黒白も分かぬ窟上の
 牢獄の中に投げ込まれ  日夜に苦難を嘗め玉へ共
 天の岩戸も時来れば  忽ち開く世の習ひ
 日月潭に現れませる  日楯、月鉾両人が
 誠心の現はれて  御稜威も茲に照彦王の
 神の教に導かれ  向陽山に登りまし
 神変不思議の神術を  悟りましたる常楠仙人が
 水も洩らさぬ計らひに  竜の腮の玉、鏡
 二男三女は恙なく  身魂相応に授けられ
 神徳光る日月潭の  中に泛べる玉藻山の
 聖地に帰り来ますこそ  三五教の教の花の開け口
 マリヤス姫も今日こそは  心の底より勇み立ち
 五の御魂の神人が  御国の為に尽してし
 誠心を褒め奉り  称へ奉るぞ嬉しけれ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひをはり舞ひ終つて、元の座につきにけり。
(大正一一・八・九 旧六・一七 松村真澄録)
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