『海洋万里』辰の巻から羊の巻に至り、南米太古の物語を口述しました。今日は人文大いに開け、十数カ国の国が建っています。この文章では現今の南米諸国について状況を記したもので、太古のことではありませんが、物語の参考として引用します。
ペルーは物語ではヒルの国と称してます。この国には無尽蔵の富源を抱いています。昔、インカ帝国の時代にはその文明は、かつてのギリシャ・ローマに比すべきものでしたが、四百年前にスペインが国を奪い、三百年の暴政を行ったので、国土は荒廃し文化が退歩してしまいました。
地理的には南北に縦走するアンデス山脈によって、海岸、山岳、森林地帯に区別されます。海岸は無雨地帯と称せられていますが、アンデス山(高照山)より発する五十余の河川があり、耕作が行われています。
海岸地帯は一見不毛の土地ですが、水さえ引けば地味は非常に肥沃です。気候は一年中日本内地の五、六月の気候で理想的です。山岳地帯は鉱山地帯とも呼ばれ、無類無量の鉱産を誇ります。
森林地帯は国土の三分の二を占め、アマゾン河の本流・支流の上流をなす数千の河川は、みなこの地から発しているため、将来において河川を利用する交通を起こすには地勢上便利があります。
また国境地帯は熱帯の暑熱であるが、アンデス山系の斜面および海抜二千尺以上の地域は亜熱帯や温帯の気候で、イタリア南部に似た過ごしやすい気候となっています。雨量は豊かで、雨季と乾季に分かれている。
この地に足を踏み入れた人は、植物の発育の旺盛なことに驚かされ、その種類も多く有用植物も多数生育する。また動物も多様で、河川の魚貝も地中海に匹敵する。
森林地帯も鉱物の埋蔵量は多量だが、交通が不便のために今まで発掘されていない。また貴金属よりも石油が有望視されている。
ヒル(ペルー)とカル(コロンビア)の間にある日暮山(アンデス山)は海抜二万五六千尺ほどもあり、その頂上には一大湖水がある。山の中腹には今なお邪気がこもれる死線が横たわる危険な箇所があるという。この地方は薬草が多く雨が少ない。