一行は広い大原野を横切り、ようやく樹木がやや茂る地点までやってきた。ここには相当に広い清い川が流れていた。そこに草蓑をつけた七十ばかりの婆さんがやってきた。このような人跡まれな場所で三人が不審に思っていると、婆さんは三人を手招きして小さな草葺の小屋に姿を隠した。
三人が庵を訪ねると、婆さんは、連れ合いの爺が天刑病で村に居ることができずにこんな外れの地で看病をして暮らしているのだ、と答えた。そして四五日以前からの夢で、三五教の宣伝使がやってくるからその方を頼れと女神の御告げがあるのだという。
婆は御告げでは宣伝使に病人の体の膿をすっかり吸い取ってもらえば病は全快するのだという。高姫はその話を聞いて快諾し、病人の前に案内されると天津祝詞を奏上して、爺の膿を吸出し始めた。
すると爺は跳ね起きて妙齢の美しい女神の姿を現した。女神は天教山の木花姫命の化身だと名乗り、高姫の心を見届けたと告げ、今後もくれぐれも慢心するなと気をつけた。三人が気付くとあばら屋も何もなく、アイル河の川辺で居眠りをしていた。
三人はまったく同じ夢を見ていた。一行は神様のお気付けに感謝し、高姫は感謝の合掌をした。春彦と常彦は、御魂の系統や日の出神の生き宮と高姫を持ち上げるが、高姫はすっかり謙譲の心になり、働きによって示すのだと神徳を示した。
一行はアイル河が幅広く橋も無いのでどうやって渡ろうかと思案に暮れていた。高姫が一生懸命に祈願を凝らすと、どこともなく大小の鰐がやってきて橋をかけた。三人は無事にアイル河を渡ることができた。
宣伝歌を歌いながら原野を進んで行くと、今度は大湖水に行き当たった。高姫は、また神様に祈って鰐の橋をかけてもらうとご眷属様にご苦労をかけると、左回りに湖を迂回して進むことになった。一里ばかり進んだ椰子樹の森で、三人は休息を取って一夜を明かすことにした。