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文献名1霊界物語 第30巻 洋万里 巳の巻
文献名2第1篇 高砂の松
文献名3第2章 乾の滝〔844〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ男たちの話を寝ながら聞いていた末子姫と捨子姫は、彼らが自分たちを捕らえに来たバラモン教徒であることを知り、追い払おうと幽霊の真似をして脅かしに出た。
シーナは驚いて仲間を揺り起こした。二人の姿に驚いたイサク、チール、シーナの三人はいずこへともなく逃げ去ってしまった。
しかし残ったカールとネロは少しも驚かず、末子姫と捨子姫に向かって呼びかけた。そして、自分たちは実は珍の都の松若彦に仕える三五教徒だと明かした。二人は松若彦の内命を奉じて、バラモン教の中に入り込んで内偵をしているのだと語った。
ネロは残りの任務を果たすべく、その場を立ち去った。カールは二人を珍の都に案内することになった。途中、大瀑布の音が聞こえて来た。カールは乾の滝があるという。末子姫は禊を提案した。
カールは乾の滝には大蛇が棲んでいて、そこへ禊に行くのはバラモン教のこの地の教主・石熊だけだと止めた。しかし末子姫は、あの滝の音を聞いてどうしても行きたくなったと言い、カールも案内することになった。
果たして、滝にはすでに石熊が禊に来ていたが、滝の大蛇に魅入られて動けなくなり、正に呑まんとされるところであった。末子姫は大蛇に向かって、大蛇の身魂を慰撫する宣伝歌を歌いだした。
この宣伝歌を聴いた大蛇は涙を流し、末子姫に幾度となく頭を下げると、滝の中に姿を隠した。石熊は身体の自由を取り戻し、三人に対して命を救ってくれた大恩を感謝した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月14日(旧06月22日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所
OBC rm3002
本文の文字数5332
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本文  シーナは何となく恐怖心に駆られて、慄ひ戦いて居た。最前から五人の話を寝乍ら私かに聞いて居た末子姫、捨子姫は、バラモン教の石熊の部下、自分等を捉へむとしてここに来りし者なる事を悟り、上衣を脱ぎ、両人はひそかに諜し合せて白衣となり、髪をおどろに乱して、ダラリと下げ乍ら、二人一度に白い手を前に出し、
『恨めしやなア、高照山の谷間に於て……』
と細い悲しい声でやりかけた。シーナは此姿をチラリと見て、イサクを揺り起し、
シーナ『オイオイ……イサク起きてくれ……皆の奴、タツタツ大変だー、出た出た、出たワイのう』
と慄ひおののいて居る。チールは此声に驚き、あたりを見れば、木の茂みの中よりいやらしき姿の白衣を着けた幽霊、ボーツと浮いた様に現はれて居る。
チール『ヤア此奴ア大変だー。逃げろ逃げろ』
と先を争ひ、イサク、シーナ、チールの三人は転けつ、まろびつ、命カラガラ何処ともなく逃げ散つて了つた。カール、ネロの両人は少しも騒がず泰然として、二つの怪しき姿を暫く見守つて居た。
カール『失礼乍ら……貴女様は顕恩城を立出て、固彦の為に捉へられ、ここへ漂着遊ばした、神素盞嗚大神様の末子、末子姫様、侍女の捨子姫様の御両所では御座いませぬか? 私は実の所は珍の都の松若彦様に仕へて居ります三五教のプロパガンデイースト(宣伝使)で御座います、一人の男はネロと申しまして、これもヤツパリ三五の道の信者で御座いますが、此頃高照山にバラモン教の一派石熊なる者現はれ、珍の都へいろいろと間者を入り込ませ、転覆の計画をめぐらして居りますれば、吾々は教主松若彦様の内命を奉じ、バラモン教の様子を探るべく、バラモンの信者となつて、今日迄暮れて来ました。然るに石熊の大将の言葉に、貴女方が今明日の内に、原を渡りハラの港へ御上陸遊ばし、珍の国へお越しになるに相違ない。もしも珍の都へ両人が乗込んだが最後バラモン教に対し、大変なる強敵が出来るやうなものだから、テル山峠に見張りをして、両人を引捉へ、高照山に連れ帰れとの命令、日頃の吾々両人が神様に御奉公するのは、今此時と喜び勇んで、一行の中に加はり此処迄やつて来ました者で御座います』
ネロ『私も貴女方御一行の此処にお休みと云ふことを、ゆくりなくも月にてらして悟りました故、ワザとシーナの旧悪を知悉してゐるのを幸ひ、おどして逃がさむかと考へ、いろいろの話を貴女様に聞えよがしに申上げました。早速の貴女様の頓智によりて、三人の者共は、あの通り逃げ失せまして御座います。最早一安心で御座います。サア是からカールさまと此峠を今の内に、お疲労でせうが、仮令少しでも構ひませぬから、御登り下さいませ。私は今逃げ去つた三人の男が、もしや後返りをして来ましては、都合が悪う御座いますから、是から彼等の後を追ひ、無事にお二人様が珍の都へ御到着遊ばす様に、牽制運動を致しませう』
末子『あゝ、あなたは三五教の御方で御座いますか? 能うマア御親切に有難う御座います。仮令十人や二十人、押寄せ来る共、妾に於ては別に心配でも御座いませぬが、いらぬ殺生を致すよりも、無事に目的地へ参れましたならば自他共に是程結構な事は御座いませぬ』
捨子『私は姫様の侍女捨子姫で御座います。何分不束な者故、宜しく御指導を御願申します』
ネロ『左様ならばこれで暫く御別れ致し、後日改めて御目にかかりませう』
と云ふより早く此場を立去つた。
カール『お二方様、モウ大丈夫です。サア私が御案内を致しませう』
二女『ハイ有難う』
と茲に三人は足を早めて、夜露したたるテル山峠を、足に任せて登り行く。
 登り八里、降り八里のテル山峠の中央にまで登り着いた。夜は漸く明け放れたと見え、小鳥の声盛に聞えて来る。太陽はすでに地平線下を出でて、稍高く昇り玉へ共、東にテル山の峰を控へたることとて、其円満な御姿を拝むことは出来なかつた。風の吹きまはしに依つて、轟々と響き来る滝の音に、末子姫は耳を欹て、
末子『カールさま、大変な涼し相な音が聞えて来たぢやありませぬか? どこぞ此近くに瀑布でも懸つて居るのではありますまいか』
カール『ハイ、二三丁計り北へ寄りますと、乾の滝と云つて、テル山の谷々から集まる、大なる池が山の中央に在り、其滝から落下する大瀑布が布を曬したる如くに懸つて居ります』
末子『ズイ分長らく潮風に吹かれ、又大変な汗を掻きましたから、一つ道寄をして、お瀑にかかつて見たら如何でせう? なア捨子姫さま』
捨子『サ、それは願うてもない事で御座います。カール様に御案内を願ひませうか』
カール『サア……一寸考へ物で御座いますなア。あの乾の滝の上の戌亥の池には、大変な大蛇が潜んで居ります。さうして大蛇の子が始終滝の辺りに徘徊を致し、人に憑いたり、或は咬付いたり致しますので、三五教の信者は、彼処を魔神の滝と申し、誰も立寄つた者は御座いませぬ。時々バラモン教の教主石熊宣伝使が私かに一人、伴をも連れず、滝にかかりに行かれると云ふ大評判で御座います。バラモン教は一時、火の消えた様な寂寥を来して居りましたが、石熊の教主が時々乾の滝に御修行にお出でになると云ふのが呼物になつて、数多の人々が其神徳に感じ、此頃は余程勢力を盛り返し、進んで珍の都近く迄、教館を張り、数多の間者を都に入れ、珍の館の松若彦様を往生させ、自教の勢力範囲に入れようとして、いろいろの計画をして居るので御座いますから、もしや石熊の大将が滝に浸るべく来て居つたならば、却て面倒が起りますから、今度は兎も角も此儘道寄りをせず、珍の都迄直行なさつたら、どんなもので御座いませう。それの方が第一に安全で御座いませう』
末子『それもさうで御座いませうが、妾は何となくあの滝の音が耳に入つてから、どうしても一度滝が見たくなつてたまりませぬ。一寸見る丈でも宜しいから、立寄らうぢやありませぬか』
捨子『カール様、何と云つても神力無双の神素盞嗚尊様の御血の流れの末子姫様の事ですから、決して御案じには及びますまい。どうぞ案内して下さいませぬか』
カール『さう強つて仰有るならば、これも惟神でせう。……サア御案内申します』
と先に立つて、大木の茂る林の中を斜に北へ北へと進んで行く。見れば幾十丈とも知れぬ大岩石の中央を銀河を縦にした様な大瀑布が真直に懸り、青み立つた滝壺には白い泡が濛々として浮き立ち、実に涼味津々として夏の暑さはどこへやら、俄に身体緊張し爽快の思ひに充たされた。能く能く見れば、滝の傍に大の男只一人、両手を合せた儘、顔は真青になり、唇は紫色に変り、目計りキヨロつかせ、直立不動の姿勢を執つて居る。カールは目敏くも之を見て、『アツ』と計りに驚いたが、轟く胸を自ら抑へ、末子姫の耳に口を寄せ、
カール『モシ、あれを御覧なさいませ。あそこに直立不動の姿勢をとつてる大の男が居りませう。あれが最前申した、高照山のバラモンの教主、石熊の大将で御座います。あの滝の上から瞰下してゐる大蛇の恐ろしい眼……キツと大蛇に魅入れられ、身体が動けなくなつて居るのでせう。こんな所に長居は恐れです。吾々もあのやうな目に会はされては大変ですから、足許の明るい内にここを立去らうぢやありませぬか? 又魅入れられたら大変ですよ!』
 末子姫は頭を左右に振り乍ら、
末子『イエイエ、妾も神素盞嗚尊の娘、敵を見て退却すると云ふ事は到底忍びませぬ。最早乗かけた船、大蛇を言向和し、石熊さまとやらを助けて上げたら、如何でせう。是が吾々宣伝使の職務だと思ひます』
捨子『素盞嗚尊様は八岐の大蛇を退治の為、世界中を御廻り遊ばす御神務、就いてはお一人にては此広い世界、お手が廻らないから、自分のいたいけな御娘子を、世界へお遣はし遊ばす御経綸を惟神的に御始めなさつて居られるのですから、たかが知れたあれ位の大蛇を恐れるやうな事では、到底アマゾン河のモールバンドや、醜大蛇を言霊を以て退治することは出来ますまい。斯様な所へ吾々がお伴をして参つたのも、神様の御引合せ……三五教には敵を見て、退却すると云ふ事は許されませぬ。ひとつ誠一つの言霊を以て戦つて見やうぢやありませぬか』
カール『ぢやと申してそれは余り無謀では御座いますまいか? 何程御神力があればとて、こちらは人間の身体……向うは畜生、人間の言葉が分る道理もありますまい。又外の人ならば兎も角も、極悪無道のバラモン教の石熊の如き者をお助けになつた所で何の功能もありますまい。天下に害毒を流し、人民を虐げる悪人を助けようものなら、それこそ天下は紛乱の止む時なく、遂には珍の都まで蹂躙し、良民を虐げ苦しむるは目のあたり、今大蛇に魅せられて、あの通り身体強直し、今や蛇腹に葬られむとしてゐるのも神の御心で御座いませう。サアサア、早く此場を立去らうぢやありませぬか?』
末子『如何なる悪人と雖も元は同じ神様の分心分体、天が下に敵もなければ、吾々は仇もないと深く存じて居ります。此惨状を見棄てて、如何して吾々宣伝使が帰ることが出来ませう。神様に対しても恥かしくてなりませぬ。是より言霊を発射し、大蛇を帰順させ、石熊の命を助けてやつたら、キツと善道に立返るでせう。情は人の為ならずとか申しまして、人を助けておけば、又自分も神様の御恵に依つて、九死一生の場合、誰かの手を通して助けられるものです。吾々が幸ひ、此処に立現はれたのも全く仁慈無限の神様の御摂理でせう』
捨子『姫様の仰せ御尤も……カールさま! 決して御心配は要りませぬ。キツと御安心させますから、此場は妾等にお任し下さいませ』
カール『左様なればお言葉に従ひませう』
 茲に末子姫は滝に横たはつて、崖下の石熊の身体を睨みつめ、今や大口を開けて一呑みにせむとする勢を示してゐる大蛇に向つて、宣伝歌を歌ひ聞かした。
末子姫『神が表に現はれて  善と悪とを立分ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何物も天地の  神の尊き御水火より
 現はれ出でし者なれば  四方の神人始めとし
 山河草木云ふも更  禽獣虫魚に至る迄
 切つても切れぬ同胞よ  数多同胞ある中に
 天地の神の経綸を  受けて生れし人の身は
 秀れて尊きものぞかし  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  乾の池に潜むなる
 これの大蛇の魂に  尊き神の御水火をば
 かけさせ玉ひて天地の  守りの神と逸早く
 神徳充たせ玉はれよ  瑞の御霊と現れませる
 神素盞嗚大神は  豊葦原の国中に
 さやれる八岐の大蛇をば  誠の剣抜き持たし
 恵の玉を光らせて  大蛇の霊を悉く
 服従ひ和し玉ふなり  瑞の御霊の末の子と
 現はれ出でたる末子姫  顕恩郷を立出でて
 大原を漕ぎ渡り  漸くここに来て見れば
 バラモン教の神司  御稜威も高き高照の
 山の麓に宮柱  太しく立てて神の道
 伝へ玉へる石熊の  尊き清き神の宮
 仮令教理は変る共  世人を思ふ真心は
 吾等の胸に違ふまじ  旭は照る共曇る共
 月は盈つ共虧くる共  仮令大地は沈む共
 世界を思ふ真心に  いかでか差別あらざらむ
 万の物の霊長と  生れ出でたる人の身を
 大蛇の神の現はれて  呑まむとするは何事ぞ
 森羅万象悉く  完美に委曲に守ります
 皇大神の御心に  叶はぬ汝が振舞を
 わが言霊を聞分けて  一時も早く改めよ
 神は汝の身辺を  朝な夕なに守ります
 其神恩を知らずして  神の宮居の石熊を
 只一口に呑まむとは  天地許さぬ醜業ぞ
 大蛇の神よ長神よ  今日は汝の玉の緒の
 生命の亡ぶ瀬戸際ぞ  吾言霊に服従ひて
 天地の道理を正覚し  醜の身体を脱出し
 うつしき女神の体となり  高天原に昇りませ
 吾れは神の子末子姫  天に代りて天津神
 依さし玉ひし言霊を  汝の為に宣り伝ふ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひ終れば、今迄形相凄じく、石熊を一呑みにせむと身構へ居たりし大蛇は、両眼より玉の如き涙を流し、幾度となく末子姫に向つて頭を下げ、感謝の意を表しつつ、巨大なる姿を滝の中に隠して了つた。
 今迄大蛇に魅入れられ、身体強直して身動きもならなかつた石熊は直に身体の自由を得、嬉し涙を両眼に垂らしつつ、三人の前に手をついて救命の大恩を感謝するのであつた。
(大正一一・八・一四 旧六・二二 松村真澄録)
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