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文献名1霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
文献名2第3篇 神縁微妙よみ(新仮名遣い)しんえんびみょう
文献名3第12章 マラソン競争〔854〕よみ(新仮名遣い)まらそんきょうそう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-01-28 20:06:57
あらすじ
末子姫、捨子姫、カール、石熊と、一行を迎えに来た春公、幾公、鷹公の七人は、巽の池の竜神を解脱せしめ、今後この池に再び竜神が棲んで人々を苦しめることがないように深く鎮魂を施した。

一行はいよいよ珍の都に向かって進んで行く。このとき、不思議にも左右違っていたカールの足の長さは、いつの間にか長短そろい、歩行が容易になっていた。しかしカールは少しもそのことに気付いていなかった。

末子姫は天津祝詞を奏上し天の数歌を歌い上げ、先に立って進み始めた。石熊は、なぜか足が立たなくなっていたので皆を呼び止めて助けを求めた。末子姫は、時節が来ればきっと立つようになる、不言実行だと諭した。

カールは残って石熊の足を立たせようとすることになり、他の一行は先に珍の都に向かって出発することになった。カールは、バラモン教に潜入していたときに石熊に世話になったのだから、恩返しとして何とか足を立たせてやろうと祈念を凝らし始めた。

カールは天の数歌を歌いながら石熊の足を撫で、言霊歌を歌い始めた。カールは滑稽な歌で石熊の改心と足の平癒を祈願していたが、最後には石熊をからかい、置いてさっさと先に逃げだした。

石熊は歯噛みをしながらも、怒りにまぎれて足の痛みを忘れ、立ってカールを追いかけ始めた。追いかけているうちに石熊は、わざと自分を怒らせて足を立たせてくれたカールの心を悟り、お礼を言おうとカールを呼ばわりながら走っていく。

カールは都についたらとっくり聞かせてやろうと先に走って行く。二人はマラソン競争のように都に向かって走っていった。

これこそ、カールが大神に教えられた神策を実地に活用させた働きであった。二人は珍の都に着くと、互いに胸を割って慈愛の神の御心を語り合い、感謝するのであった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月15日(旧06月23日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版138頁 八幡書店版第5輯 621頁 修補版 校定版148頁 普及版53頁 初版 ページ備考
OBC rm3012
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本文  茲に末子姫は捨子姫、カール、春公、幾公、鷹公、石熊の一行と共に芽出たく巽の池の大蛇を言向け和し、解脱せしめ、池に向つて感謝の詞を述べ、向後決して此池に、従前の如き竜蛇神の棲居して、世人を苦めざる様と深く鎮魂を修し、災を封じおき、いよいよ珍の都に向つて進むこととなりにけり。
 此時不思議にもカールの足の長短は何時の間にか両足相揃ひ、行歩極めて容易になつてゐた。されどカールは少しも気付かず、依然として跛の不具者と信じてゐるものの如くであつた。末子姫は天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ、一同に向ひ、
末子姫『サア皆様、御苦労で御座いました。これからボツボツと参りませう』
と先に立つて進み行く。
石熊『モシモシ皆様! 待つて下さい。どうしたものか、チツとも足が動かなくなりました。どうぞ鎮魂をして下さいませ。何だか締つけられる様で、仕方が御座いませぬ』
カール『もし、末子姫様、石熊の大将、足が立たないと云つてゐます。困つた者ですなア』
末子『イエイエ決して御心配には及びませぬ。キツと時節が参れば、立つ様になります……なア、カールさま、不言実行と云ふことを御存じですか?』
カール『ハイ、分りました。どうぞ、そんなら姫様、一足お先へお越し下さいませ。捨子姫様も御一緒に御願致します……オイ春、幾、鷹の三公、お前はお二人様のお伴して帰つて呉れ。俺は少し石熊の大将の足を直してから帰るから……』
春『オイ、カール、いい加減にしとかぬかい。余り今迄悪党なこと計りやつて来た酬いで神罰が当つたのだ。お前がどれ丈言霊が上手でも御祈りが立派でも駄目だよ。神様が御許しがなければ到底足が立つ筈がないワ。余り汚れた身魂だから、神様がウヅの聖地へ来ないようと、不動の金縛りをかけて御座るのだよ。いい加減に帰つたらどうだ』
カール『そんな訳に行くものか。人の難儀を見て、それを救はずに帰る様なことで、如何して神様の取次が出来るものか。何は兎もあれ姫様の御命令だ。グツグヅ云はずに早く姫様の御伴をして帰つて呉れ。すぐに俺は追ひ付くから……』
春『さうか、ソリヤ実に感心な心になつたものだなア』
と嘲る様に言ひ乍ら、二人の後に従ひ、ウヅの都をさして帰り行く。
 後に二人は稍少時、水面に向つて暗祈黙祷を続けて居た。
カール『オイ石熊の大将! 今迄俺はお前の弟子となつて、エライお世話になつたものだ。今日は其御恩返しと罪亡ぼしの為に、邪が非でもお前の足を直して、やらねばならぬ。如何しても足が立たなければ、俺が背中に負うてでもウヅの都へ連れて行く覚悟だからマア安心せよ』
石熊『ソリヤどうも有難い。苦労をかけて済まぬなア』
カール『世の中は相身互だ。さう病気も直らない内から礼を云つてくれると、如何云つて良いやら、俺も返答に困つて了ふ。マアゆつくりと気をしづめたが良からう。マア待て、俺が是から新規蒔直しの言霊を奏上するから、キツとお前の足が巽の池となるのは受合だ。さうなつたら二人手に手を取つて潔く宣伝歌を謡ひ、ウヅの都をさしてサツサと乾の池だよ。水も洩らさぬ二人の仲だ。池ないことは互に堤かくさず、打明けて、兄弟の如く親切を尽し合はうぢやないか。此池の様に水がタツプリ過ぎて、水臭い交際は最早改めねばならないよ。サア是から一つカールさまの生言霊だ。マアそこへ足をニヨツと出せ。一つ鎮魂を御願してやらう。さうして言霊歌を奏上することにせう。笑ふなよ!』
石熊『勿体ない、祈念をして貰つて笑ふ奴があるものか。併し乍ら病気が直つたら、余り嬉しくて、笑ひ泣きをするかも知れないから、夫丈は前以てお断りをしておく』
カール『嬉し笑ひなら、ドツサリ笑つて呉れ。俺も手を拍つて嬉し笑ひをするからなア』
 石熊は池の畔の芝生の上に足をヌツと揃へ、突出してゐる。カールは例に依り、叮嚀に大腿骨の辺りから爪先まで、天の数歌を謡ひ乍ら、幾回となく撫でおろし、そろそろ祈願の歌を謡ひ始めた。其歌、
『天津神様八百万  国津神様八百万
 此奴は余り悪が過ぎた故  最早運命は月照彦の
 神様どうぞ此足を  カールに直して下さんせ
 高砂島を守ります  生国魂の神様よ
 石熊さまの両足が  一時も早く竜世姫
 立つて踊つてシヤンシヤンと  ウヅの国へと喜んで
 勇んで参ります様に  お守りなさつて下さりませい
 一時も早く此躄  巽の池の竜神の
 罪はほどけて天上に  立帰りました其如く
 忽ち平癒さしてたべ  腰から上はどうもない
 なぜ此足が悪いだろ  ヤツパリあしき事をした
 深いめぐりが来たのだろ  悪きを払うて助け玉へ
 転輪王ではなけれ共  天にまします神様よ
 地にまします神様よ  カールが代つて御願
 完美に委曲にきこし召し  早く助けて下さりませい
 私もこんな男をば  連れにするのは厭なれど
 旅は道伴れ世は情  神の戒め恐い故
 せうことなさに介抱する  オツトドツコイ石熊さま
 これは私の冗談だ  瓢箪からは駒が出る
 冗談からは隙が出る  灰吹きからは蛇アが出る
 一時も早く石熊に  憑依致した悪霊が
 出る様に守つて下さんせ  此奴の体に這入つた以上
 キツと入口あるであろ  出口の神さま一時も
 早く追ひ出し下さんせ  百人一首ぢやなけれ共
 足を痛めた足引の  山鳥の尾のしだり尾の
 長々しくも何時迄も  斯うしてゐては堪らない
 どうで罪をば重ねた男  御無礼の数々いつとなく
 尽しましたで御座いませう  お腹の立つのは尤もぢや
 併し神様私の  願を容れて腹立てず
 足の立つよにしてお呉れ  夜明けに立つは○○ぢや
 親と一度に生れたる  伜は見ん事立つなれど
 此奴の足はどうしてか  容易に立たうと致さない
 如何なる罪があらうとも  今度計りはお助けを
 たつて御願申します  こりや又不思議何時の間に
 俺の一方の長い足  誰が盗んで帰んだのか
 いつの間にやら両足が  高低なしに揃うてゐる
 かうなる上は俺とても  採長補短の融通は
 コレから利かすこた出来ぬ  いやまて暫し待てしばし
 そんな不足は云はれない  これも尊き神様が
 一方の足を縮めたか  但は一方を伸ばしたか
 何ぢや知らぬが嬉しいぞ  心もカールなつて来た
 石熊さまよ! これ見やれ  誠が天地に通じたら
 一生病のド跛も  いつの間にやら神さまが
 頼みもせぬのに気を利かし  チヤンと直して下さつた
 お前の足は真直に  長い短いない足だ
 こんな所で腰ぬかし  立つも立たぬもあるものか
 気を引立てて立つてみよ  三五教の御教に
 経と緯との御仕組  艮鬼門金神の
 気勘に叶うたことなれば  錦の綾の機をあげ
 天晴れ神の太柱  下つ岩根に立て通し
 上つ岩根につきこらし  信仰の徳をつむならば
 どんな悪魔もたてつかぬ  立てよ立て立て早く立て
 立てと云うたら立たぬかい  お前は余程腰抜だ
 巽の池の竜神の  あの勢に辟易し
 肝玉つぶして腰をぬき  アタ恥かしい荒男
 腰をぬかして何とする  俺のぬかすは口計り
 何時もグヅグヅ吐す奴  黙つて居れよと何時の日か
 俺を叱つたことがあろ  あゝ惟神々々
 叶はぬなれば立あがれ  性のよくない此病
 耆婆扁鵲が現はれて  忽ち直して呉れまいか
 俺の言霊立所に  御兆候がなければならぬ筈
 恥し乍ら是程に  言霊車を運転し
 きばつて見れどまだ立たぬ  立つた 立つた 立つた 立つたラツパ節
 法螺貝吹いた其酬い  こんな憂目に合ふのだろ
 竜世の姫の神さまよ  お前の水火に生れた子
 なぜに立たして下さらぬ  私は痛うも痒ゆもない
 さは去り乍ら心の中は  ホンに歯痒い痛ましい
 いたつて口のやかましい  此石熊も今は早
 往生致して居りまする  最早慢心致すまい
 改心記念に今一度  足が立つよに頼みます
 衝き立つ船戸の神様の  御名を負へる此杖を
 力にチヨツと立つて見よ  あゝ惟神々々
 どうして是程お前の病  しぶとう直らぬ事だらう
 末子の姫の御一行  立つて行かれた其跡で
 気が気でならぬ二人連れ  神さまたつて頼みます
 オイオイ石熊立つて見よ  立つて立てない事はない
 お前の心を引立てて  誠の道を立て通し
 猜疑の心を絶つならば  キツと此足立つだらう
 たつからお前を眺めても  横から見ても気にくはぬ
 ハラの立つよなスタイルだ  これでは役に立つまいぞ
 ヤレ立て ソラ立て 早う立て  ドツコイドツコイ ドツコイシヨ
 転けつ輾びつ気を引立つて  カールの後に跟いて来い
 最早俺さまは立つ程に  石熊さまよ御ゆつくり
 そこで御隠居なされませ  お腹が立つかは知らね共
 立たねばならぬ此場合  早く帰りて姫様の
 お役に立つが俺の役  サアサア行かうサア行かう
 ドツコイドツコイ ドツコイシヨ  ウントコ立つたり石熊さま
 気張つて立つたり石熊さま  左のお足を一寸屈め
 右の御足を一寸屈め  神さま力に立つて見よ
 立つに立たれぬことはない  心一つの持様だ
 さらばさらば』と立帰る  後に石熊只一人
石熊『オイオイカール待つて呉れ  俺達一人をこんな所に
 捨てておくのは胴欲ぢや  こんな無情な事されて
 腹が立たずにおかうかい  腹が立たずに済むものか
 残念至極思ひ知れ』  無念の歯がみし乍らも
 怒りにまぎれて両足の  痛を忘れて立上がり
 『コラコラカール一寸待て  貴様は誠に済まぬ奴
 コレから素首引抜いて  命を取らねばおかうか』と
 尻ひつからげドンドンと  カールの後を追うて行く。
 あゝ惟神々々  神の御霊の幸はひて
 カールの願も竜世姫  完美に委曲に聞し召し
 助け玉ひし有難さ  足の立つたる石熊は
 始めて天地の神徳を  悟ると共に逃て行く
 カールの心を能く悟り  忽ち両手を合せつつ
 『コレコレカール待つて呉れ  お前のおかげで立ちました
 忽ち神徳現はれて  俺の体は此通り
 決してお前を恨まない  一口お前に追ひついて
 今の御礼が申したい  たつて頼みぢや待つて呉れ』
 声を限りにドンドンと  後おつかけて走り行く
 カールは後を振返り
カール『ここまで厶れ早厶れ  甘酒飲まして上げませう
 ウヅの都に末子姫  捨子の姫の両人が
 首を伸して待つて御座る  お前の様なヒヨツトコに
 話する間があるものか  用があるなら従いて来い
 ウヅの都でトツクリと  お前の合点が行く様に
 詳しう説明してやらう  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませ』と  二人はマラソン競争の
 決勝点を競ふよに  大地を威喝させ乍ら
 阿修羅の荒たる勢で  進み行くこそ勇ましき。
 これぞカールが大神に  教へられたる神策を
 実地に活用致したる  千変万化の働きぞ
 いよいよ茲に両人は  ウヅの都に安着し
 互に胸を打割つて  慈愛の神の御心を
 涙と共に語り合ひ  感謝するこそ畏けれ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ。
(大正一一・八・一五 旧六・二三 松村真澄録)
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