末子姫、捨子姫、カール、石熊と、一行を迎えに来た春公、幾公、鷹公の七人は、巽の池の竜神を解脱せしめ、今後この池に再び竜神が棲んで人々を苦しめることがないように深く鎮魂を施した。
一行はいよいよ珍の都に向かって進んで行く。このとき、不思議にも左右違っていたカールの足の長さは、いつの間にか長短そろい、歩行が容易になっていた。しかしカールは少しもそのことに気付いていなかった。
末子姫は天津祝詞を奏上し天の数歌を歌い上げ、先に立って進み始めた。石熊は、なぜか足が立たなくなっていたので皆を呼び止めて助けを求めた。末子姫は、時節が来ればきっと立つようになる、不言実行だと諭した。
カールは残って石熊の足を立たせようとすることになり、他の一行は先に珍の都に向かって出発することになった。カールは、バラモン教に潜入していたときに石熊に世話になったのだから、恩返しとして何とか足を立たせてやろうと祈念を凝らし始めた。
カールは天の数歌を歌いながら石熊の足を撫で、言霊歌を歌い始めた。カールは滑稽な歌で石熊の改心と足の平癒を祈願していたが、最後には石熊をからかい、置いてさっさと先に逃げだした。
石熊は歯噛みをしながらも、怒りにまぎれて足の痛みを忘れ、立ってカールを追いかけ始めた。追いかけているうちに石熊は、わざと自分を怒らせて足を立たせてくれたカールの心を悟り、お礼を言おうとカールを呼ばわりながら走っていく。
カールは都についたらとっくり聞かせてやろうと先に走って行く。二人はマラソン競争のように都に向かって走っていった。
これこそ、カールが大神に教えられた神策を実地に活用させた働きであった。二人は珍の都に着くと、互いに胸を割って慈愛の神の御心を語り合い、感謝するのであった。