国依別一行は、アラシカ峠の頂上に至り、東北方面に平原に伸びるヒルの都を見渡した。一方西南には日暮シ山がそびえている。三人はこの様子を見て、ヒルの都は無防備だが交通の便に勝れ、一方日暮シ山は要害堅固だか交通に不便である点を比べ評している。
三人が峠を下っていく途中、二三本の樟の大木に守られて、古い祠があった。ウラル教の神・常世神王を祀った祠であるという。その前に、妙齢の女が跪き、何事かを熱心に祈願している。
三人は祠に近づき、天津祝詞を奏上すると傍らの石に腰掛けた。女は涙を流して祈願している。キジは女に近づき、同情の言葉をかけて、何か悩み事があれば力になろうと申し出た。
女はエリナと名乗り、父・エスはウラル教の宣伝使であったが、ある日三五教の宣伝使が家に立ち寄ったところ、その宣伝使の話に感銘を受けて投合し、家に何日か泊め、またウラル教徒たちにも三五教の美点を説いて聞かせたという。
しかしそのことが日暮シ山の本山に伝わり、教主ブールに呼び出されてその後消息が絶えてしまった。日暮シ山本山から親切に消息を知らせてくれた者があり、それによると、ブールの逆鱗に触れた父・エスは、水牢に投げ込まれて苦しんでおり、家族にも危害が及ぶかもしれない、とのことであった。それを聞いた母は重い病に倒れてしまったという。
国依別、キジ、マチはこの話を聞いて、自分たちが三五教徒でであることを明かし、力になろうと申し出た。国依別は、キジとマチに日暮シ山に引き返して、エリナの父・エスを助け出すように命じ、自分はエリナを送って行き、エリナの母に鎮魂を施すこととした。