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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第2篇 紅裙隊よみ(新仮名遣い)こうくんたい
文献名3第9章 誤神託〔875〕よみ(新仮名遣い)ごしんたく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-03-15 22:09:31
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月19日(旧06月27日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版102頁 八幡書店版第6輯 79頁 修補版 校定版105頁 普及版46頁 初版 ページ備考
OBC rm3109
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本文の文字数5496
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本文  秋山別、モリスの両人は、日暮シ河の南岸の萱野原に休息する折忽ち暗がりより怪しき声の聞え来りしに怖気付き、四這となつて其処を逃げ出し、二三丁計り引返し、やうやうここに胸を撫でおろし、それより再びアラシカ山を駆登り、神王の森に到着し、神勅を受て、紅井姫の行方を伺ふ事となしぬ。秋山別は、神主となり、モリスは審神者となつて、翌日の真夜中頃に神占を奉伺する事とはなりぬ。
 古ぼけた祠の床の上に三四尺間隔を置いて、神主、審神者は向ひ合ひ、モリスは双手を組み、不整調な音調もて天の数歌を歌ひ上ぐる。
『人、二人、見つけて、四るでも昼でも、五ちやつきまはし、六りやりに押さへつけて、七んでもかでも八り倒し、九ころに思ふ丈十く心する迄、百千万遍でも、思惑を立てさせ玉はねば、常世神王の森は離れませぬぞや』
『コラ、モリス、何を吐すのだ。そんな事で霊がかかるかい。馬鹿らしくつて、きばつて居れぬぢやないかい。モ一遍やり直せ』
『専売特許の新規発明だ。特許意匠登録の手続き中だから、マア黙つて聞いて居らう。何でも新しい事が流行する時節だから、開闢の初から襲用して来た一二三四……も余り苔が生えて面白くないからなア。神様も今迄の数歌はモウ聞き飽いてゐらつしやるから、チツと珍らしい事を申し上げて、此方を向かすと云ふ俺の一厘の秘密だ』
『お前神主になれ、秋山別が審神者をしてやらう。お前の審神者では根つから気乗りがせぬワイ。審神者さへよければ、どンな立派な神でも憑り玉ふのだからなア。併し何ぼモリスだつて、モリ住居の烏の神懸りは御免だから、臍下丹田に心を納めて、無我の境遇に入らねば駄目だよ。先づ第一に一切の夢想を除去する事。身体衣服を清潔にする事。併し旅行中だから衣服を清潔にする事丈は免除しておかう。山の上で水行する所がないから、身体の清潔も已むを得ずとして、是も免除する。次に感覚を蕩尽し、意念を断滅する事、大死一番の境に入る事。姿勢を正しうして瞑目静座する事。次に審神者が何を尋ねるか……何ぞと云ふ様な疑惑を持たぬ事。取越苦労を致さぬ事。過越苦労を致さぬ事。刹那心を楽むこと。それから最も大切な心得は、紅井姫に対して少しも執着のなき事。これ丈の心得がなければ、正しい神が憑つて来て、正しい判断を与へてくれぬから、其積もりで心身を澄清にし、感触の為に乱れざる事を慎むべし……マアこンなものだ』
『大変に六つかしい事を言うのだね。モツと平たく云うて呉れないか』
『俺だつて平たく言ふこた出来ぬワイ。現在どンな意味だと云ふ事は、俺も分らぬのだからな。楓別命さまが何時も仰有る事を無意識に腹へ詰め込みた丈だ。併し分らぬのが有難いのだよ。お経だつてさうぢやないか。唱へてる坊主でさへもテンデ何の事か分らず、聞いてる連中にも分らぬとこに有難味があるのだからのウ。
 分つて見ての後の心に比ぶれば、分らぬ昔ぞ有難かりけり
と云ふ様なものだな。サア早く瞑目静座せぬかい』
『サア、どンなエライ神さまが、お憑りになるか知れぬぞ。ビツクリするなよ』
『何だ其スタイルは、無茶苦茶に肱を張りよつて、馬鹿に威張つとるぢやないか。丸で鉛の天神さま見たいに、見つともないぞ。モウちつと肩を下て、品のよい地蔵肩にせぬかい』
 モリスは無性矢鱈に手を振り、首を揺り、口をパクパクさせ乍ら、歯糞だらけの不整律な田螺の様な歯を剥き出し、
『ウーウーウー』
 ドスンドスンドスンと床をふるはせ乍ら飛びあがり出した。秋山別は、随分烈しい神懸りだナアと小声に言ひ乍ら、ポンポンと二拍手し、恭しく頭を下げ、
『何れの神様で御座いますか? 何卒御名を告げさせ玉へ。及ばず乍ら秋山別、審神者を仕りまする』
『アハー アハー アハー、阿呆らしいワイ。アキもせぬ恋路にあくせくと致して、そこらあたりを歩き廻し、憐れな面を致して、姫に会ひたい会ひたいと憧憬歩く、安本丹、悪人の癖に女に対しては、随分涙脆い奴ぢやのう。此方は神王の森に、年古く守護致す悪魔大王と申す大天狗であるぞよ』
『アヽヽ余りぢや御座いませぬか。アタ悪性な人の欠点計り並べ立てて、あられもない事を仰有ります。余りのこつて、秋山別も呆れてものが言はれませぬワイ、アフンとして開いた口が早速には塞がりませぬ。悪魔大王様、モウちつと色よい御託宣をして下さつたら如何です』
『イヒヽヽヽ色よい返事をせいと申すが、此大天狗は男であるぞよ。其方の色よい返事がして欲しいのは、紅井姫の口からであらう。いろいろと工夫を致し、手を廻し、足を働かせ、幾年掛つても意思互に疏通するまで行くのだ、さうすれば色よい返事が来るかも知れぬぞよ。いらつでないぞよ。勢に任して早く盛物に手をかけようと致すと、サツパリ可かぬぞよ。何事もイヽ因縁づくぢや。力一杯意茶つく様になるのは、一二年先かも知れぬぞよ。一日も早く添ひたくば、イモリの黒焼を拵へてふりかけたが、一番著しい偉効があるぞよ。要らぬことに何時までも心配を致すでないぞよ。いけすかない面をして、余り威張るものだから、厭がられて了ふのだ。俺の意見に異議があれば、どこ迄でも尋ねたがよいぞよ。委細の様子を一伍一什、説き諭してやるぞよ』
『イヽヽ意茶つかさずに、モツと一さくにとつとと言つて下さいませ。心が、いらいらして、意思が固まりませぬ。石よりも固い私の決心、いつかないつかな、何時になつても動く様なチヨロ臭い恋では御座いませぬ。意地づくでも目的を立てねば置かぬので御座いますが、一体此恋は何時になつたら成就するもので御座いませうかな。一年も二年も待てと仰有つても、到底さう永くは待てませぬワ』
『ウフヽヽヽうるさがられて、肱鉄を乱射され乍ら、まだ目が醒めぬか。うろたへ者奴、紅井姫もお前の迂濶な智慧にはウンザリしてゐるぞよ。何程其方が秋波を送つても、膿んだ鼻が潰れたとも、言つて来る気遣ひはあるまい。うぶの心になつて神の誠の教を悟り、普く人を愛し、牛の様に俯むいて働きさへすれば、美しい女がうるさい程、ウザウザと其方の側へ集まつて来るぞよ。先づ第一運の循つて来る迄、誠を尽して待つて居るが良からう』
『ウヽヽうつかり聞いて居らうものなら、此天狗何を吐すか分つたものぢやないワ。モウ御引取り下さい……』
 ポンポンと手を拍つ。
『エツヘヽヽヽ、まだまだ言はねばならぬ事がある。縁と月日は待つがよいと云ふ事があらうがなア。併し乍ら其方と紅井姫との縁は余り遠方過ぎて、届き兼ねるから、其方から遠慮を致したが得だらう。絵にもかけない様な美人を、鳥羽絵の如うな面をした其方が、女房に選ぶとは、チツと提灯に釣鐘だ。閻魔の帳面を拝借して調べて見い、紅井姫はモリスの妻なりと、ハツキリと附け止めてあるぞよ』
『エヽ此奴ア偽神懸りをやつてやがるのだな。感覚を蕩尽し、意念を断滅した神懸りがモリスの都合の好い事を吐すと云ふのが怪しい……オイ、モリス、もう駄目だ。サツパリ化けが現はれたぞ。秋山別の審神者を瞞さうと思つても、此方の天眼通を欺く事は出来まい。頭到狐の尻尾を出しよつたぢやないか』
『オツホヽヽヽ、尾を出したと申すが、其方に尾が見えるか、見えるなら一つ掴まへて見よ。横道者奴、大天狗を掴まへて狐などとは能くも大きな口で申したなア』
『オヽヽおきやがれ。脅し文句計り並べて、往生さそうと思つて、そンな事に尾を巻いて、ヘーヘー言ふ様な俺ぢやないワイ』
『カツカツヽヽヽ烏の婿に孔雀の嫁とは、チツと釣合ぬぢやないか。能く考へて見い』
『カヽ構うない、俺の嬶の事まで干渉する権利がどこにあるか』
『キツヽヽヽ貴様、それでも嬶の事に就いて神勅を伺ふと申し、モリスを神主として尋ねて居るのではないか。チツときまり悪うなり、気味が良くない事を吐す気にくはぬ、気障な大天狗だと思つて居るであらうのウ。
クヽヽ黒い面をして、雪の如うな姫に恋だの鮒だのと、何を洒落るのだ』
『ハテ、どうしても此奴ア怪しいぞ。オーイ、モリス、いい加減に止めたら如何だい。そンな偽神懸りをやつたつて、駄目だぞ』
『ケツ ケツ ケツ怪つ体の悪い、とうとう尻尾を掴みよつたな、ヤツパリ俺はモリス大明神だ。烏一匹の霊も蜥蜴の霊も、実は懸つてゐないのだよ。何と云つても俺の霊が皆紅井姫にかかつてるものだから、サツパリ脱殻だ。受ける霊がないものだから、大天狗も懸る事が出来ぬぞよ。アツハヽヽヽ』
『コツコヽ斯んな事を言つて居つても、何時までも果てぬから、是から口占を行つて、吾々の進退をきめる事にせうかい、のう、モリ公』
『モリスも同感だ、サヽヽ早速口占で決定て了はう。シヽヽ確りと腹帯を締めて掛らぬと、又国依別にスヽヽすつぱ抜を喰はされて了ふぞ。国依別の奴甘い事をしよつて、セヽヽ雪隠で饅頭食たよな面をしてゐやがるのが癪に障つて堪らぬぢやないか?』
『ソヽヽそらさうぢや。互にしつかりせぬと、タヽヽ忽ち……忽ちぢや。チヽヽ血道を分けて、ツヽヽ附き纒うた、テヽヽ、天女の様な御姫さまを、トヽヽ取られて了うて、ナヽヽ、情ないぢなないか。ニヽヽ二人共能い面曝て、月夜に釜を、ヌヽヽ抜かれて了ひ、ネヽヽ根つから葉つから、糞面白くもない。斯んな目に会うて、ノヽヽ呑気な顔しても居られぬワイ。ハヽヽ早う何とか良い智慧をめぐらし、ヒヽヽ秘密の奥を探り、妙を尽し、一時も早くフヽヽ夫婦になつて、ヘヽヽ平和な家庭を作り、姫をホヽヽホームの女王と仰ぎ奉り、マヽヽまめやかに、ミヽヽ身を粉にして、一言も背かず、女王さまのムヽヽ無理を無理と思はずに喜ンで参り、メヽヽ滅多に怒らぬ様にせなくては、折角モヽヽ貰うた奥さまもサツパリ駄目になつて了うかも知れないぞ』
 モリスは又喋り出した。
『ヤヽヽ喧しワイ、イヽヽいろいろとらつちもないことを、ユヽヽ言やがつて、エヽヽ縁起の悪い、ヨヽヽヨタリスクを、ラヽヽ乱発し、リヽヽ理窟にも合ぬ事を、ルヽヽ縷々数万言を並べ立て、レヽヽ廉恥心を一寸弁へぬか、ロヽヽ碌でなし奴、ワヽヽ笑はしやがる、ヰヽヽ何時迄も女の尻を、ウヽヽ迂路々々と、うろつき廻り、エヽヽエツパツパを喰はされても、オヽヽお前はまだ目が醒めぬのか、ガヽヽ餓鬼ぢやなア、我利我利亡者の、ギヽヽ義理知らず奴、グヽヽ愚にもつかぬ事を、何時迄もグヅグヅと、ゲヽヽげん糞の悪い、ゴヽヽ御託を並べ、ザヽヽザマが悪いぞ。ジヽヽジつと胸に手を当てて考へて見い、貴様の様なズヽヽづ法螺に誰がエリナだつて、ゼヽヽ膳を据ゑるものかい、ゾヽヽぞぞ髪が立つと云うて逃げ出すぞよ』
 秋山別も又負ぬ気になり、
『ダヽヽ黙れ、矢釜しいワイ。ヂヽヽぢつとして聞いて居れば、ヅヽヽ図々しくも止め度もなく喋べり立てよつて、モウ俺もウンザリした。勝手に喋つておけ、デヽヽでんでん虫でさへも家を持つてるのに、宿無し坊奴が、ドヽヽどこまでも毒つきよつて、バヽヽ馬鹿にするも程があるワイ。此上何なつと吐いて見よ、ビヽヽ貧乏揺ぎもならぬよに霊をかけて封じてやろか。ブヽヽ無細工な鯱面をし依つて、ベヽヽべらべらと色男気取で、何を吐くのだい、ボヽヽぼけの粕奴が』
 モリスは又喋り出す。
『パヽピヽプヽペヽポヽと庇をこいた様な庇理窟をやめて、是から二人の女を力一杯アイウエオだ。さうすれば向方だつて結局にはお前さま私に向つてナニヌネノなさると言はれまい。終ひの果にやサシスセソだ。彼奴の事思うと、何時も何だか知らぬが、タチツテトだ。暗がりに○○の○○へハヒフヘホして肱鉄をかまされ、恥をカキクケコやるよりも、あのナイスをワヰウヱヲにして了うのだなア。サア神懸りや口卜で伺つて居つても根つからマミムメモな事を知らして呉れないから、実地が一番早道だ。キツと日暮シ山の岩窟の中で陥穽に放り込まれ、誰か強い人が出て来て私を早く助けて紅井姫かなア……と青息吐息をついてるかも知れないよ。サア天狗の託宣ぢやないが、マラソン競争で決勝点を得た者が紅井姫のハズバンドだ。スヰートハートし切つたナイスを無下に見殺しにするのも、男の顔が立たない。都合よく陥つて居れば良いがなア、秋公』
『さうすれば此秋山別が、紅井姫さまをグツと抱上げ……これはこれはどなたかと思へば、ヒルの館の楓別命様の御妹の紅井の君で御座いましたか、誠に危いとこで御座いましたが、マアマア結構で御座います。是と云ふのも神様の御かげ、第一秋山別の舎身的活動の結果で御座いますワイ……と円滑に高飛車に言霊車を運転さす、さうすると姫様が玉の涙を泛べ給ひ……誰かと思へばお前は秋山別であつたか、これ程世の中に沢山の人があつても、妾に命がけの同情をして呉れる者はお前より無い、あゝ済まなかつた。そンな親切な男と知らずして、今まで飯の上の蠅を追うやうにすげなうしたのは、済まなかつた。秋山別、相変らず可愛がつて頂戴ね……なんて反対に紅井姫さまの方からラバーすると云ふ段取りだ。イヒヽヽヽウフヽヽヽエヘヽヽヽオホヽヽヽおゝ面白い面白いイヤお芽出たい。割なき仲となつて御互に面白く可笑しく此世を送るのだなア。泣いて暮すも一生なら、笑つて暮すも一生だ。アハヽヽヽ、モリ公、どうだい』
『勝手に何なつと言つて、糠喜びをして居るが好いワ。サア一時も早く決勝点に達した者がハズバンドだ。誰が何と云つても、大天狗の御許しだから、……オイ、グヅグヅしてると、丸木橋のあたりで日でも暮れようものなら、例のホヽヽヽヽだよ。サア行かう』
と尻ひつからげ、神王の森を後に、二人は一生懸命に、又もや日暮シ山の岩窟さして進み行く。
(大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)
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