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文献名1霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻
文献名2第2篇 北の森林よみ(新仮名遣い)きたのしんりん
文献名3第12章 鰐の橋〔903〕よみ(新仮名遣い)わにのはし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-05-14 18:31:05
あらすじ
高姫を助けに森林に入った春彦とヨブは、呼ばわっても高姫の居場所がわからない。春彦は探しながら宣伝歌を歌い始めた。これまでの経緯を歌いながら、高姫の改心を願う内容であった。

春彦とヨブが奥へ奥へと進むと、ようやく高姫が避難している大樹のところまでやってきた。見れば小山のようなモールバンドが目を怒らせて高姫を狙っている。春彦は恐ろしさに震えて、言霊がうまく発射できなくなってしまった。

モールバンドは春彦とヨブが近づいてきたことに気づき、今度は春彦とヨブを狙い始めた。二人は大木に登って避難し、互いに境遇を嘆きながら誰か助けに来てくれる者がないかと待つのみであった。

すると、そこへ安彦、宗彦、秋山別、モリスの四人が、宣伝歌を歌いながらやってきた。高姫や春彦らは樹上からその歌を聞いて、三五教徒であることがわかり、勇気づけられて力いっぱい天津祝詞を奏上した。

安彦ら四人も、高姫たちがいることがわかって喜び、呼応して元気を出して天津祝詞を奏上した。モールバンドはなおもひるまず樹上の一行を狙っていたが、そこへ琉と球の大火光が帽子ケ岳から落ちてきた。モールバンドはこれに驚き、こそこそと森林を逃げ出してアマゾン河に去ってしまった。

ここに高姫一行と安彦一行合わせて八人は合流した。安彦たちは高姫に、アマゾン河の南の大森林に、鷹依姫が猛獣たちを従えていると消息を伝えた。一行の発した天津祝詞の声を聴きつけて、北の大森林の猛獣たちが慕い集まり、八人の後に続いた。

アマゾン河を前にして高姫は、南岸に無事に渡ることを一生懸命に祈願した。すると幾千万もの鰐が川底から現れ、鰐橋をかけた。高姫は、大神の神徳と鰐の好意に感謝した。

こうして、何里もの広いアマゾン河の川幅も、無事に渡りきることができた。また、集まってきた北の森の猛獣たちも一緒に南岸に渡り、高姫一行を兎の都まで送った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月23日(旧07月01日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年10月15日 愛善世界社版134頁 八幡書店版第6輯 197頁 修補版 校定版140頁 普及版56頁 初版 ページ備考
OBC rm3212
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本文  春彦はヨブと共に高姫の危難を救はむと、大声に叫びながら密林の中に駆け入り、呼べど叫べど、森の木霊に吾声の反響するのみ、何の見当もつかず、已むを得ず大声に歌ひながら、森林を何処彼処となく循り始めたり。
春彦『吾等の師匠と頼みたる  高姫さまが又しても
 金剛不壊の如意宝珠  其他の玉に魂ぬかれ
 アタ恥かしや森林の  此正中で高倉や
 月日、旭の明神に  心の底を査べられ
 散々脂を搾られて  体は泥にまみれつつ
 尚も取れない負惜み  へらず口のみ言ひながら
 吾等二人を振棄てて  元来し路へ引返し
 鷹依姫の在処をば  捜さむものと出でましぬ
 吾々二人は是非もなく  西北指して進み行けば
 道の片方の石地蔵  耳が取れたり手が千切れ
 頭の欠けた立ちすくみ  黒い顔して道の辺に
 罷り立つたる其前に  暫く息を休めつつ
 高姫さまの噂のみ  為せる折しも石地蔵
 ソロソロ立つて吾前に  胡坐をかいてすわり込み
 不思議や物をベラベラと  喋り出したる可笑しさよ
 化けた地蔵の言ふことにや  高姫さまや常彦は
 モールバンドに取巻かれ  大木の枝にかけ登り
 避難してゐる最中に  猅々の群奴がやつて来て
 無性矢鱈にせめかける  モールバンドは木の下に
 目を怒らして控へ居る  進退茲に谷まりて
 流石剛毅の高姫も  常彦諸共抱き合ひ
 アヽアヽどうせう斯うせうと  吐息もらして居るだらう
 春彦、ヨブの両人は  こんな話を耳にして
 如何して見捨てておかれうか  仮令大蛇の巣窟も
 モールバンドの棲処をも  恐れず撓まず進撃し
 救ひ出さねばおかれない  あゝ惟神々々
 皇大神の御光に  高姫さまの在処をば
 てらして吾に見せ給へ  高姫さまも是からは
 心の底より改良し  三五教の神柱
 神の使と申しても  恥かしからぬ魂となり
 キツト手柄を為さるだらう  一時も早く胸の戸を
 開いて在処を明かに  春彦、ヨブの両人に
 知らさせ給へ天津神  国津神等国魂の
 竜世の姫の御前に  心清めて祈ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひながら、大樹の根元を一々巡視し、且つ空を仰ぎなどしつつ、奥へ奥へと捜し行く。
 春彦、ヨブの二人は漸くにして、高姫の避難せる大樹の間近に辿りつけば、石地蔵のお化けの云つた通り、小山のやうな胴体をしたモールバンドが、森の樹立のマバラなる所を選み、目を怒らして高姫を睨めつけ、何とかして一打ちに打ちころさむと息まいてる其物凄さ。春彦は真蒼になり、ソロソロ慄ひ出し『惟神霊幸倍坐世』も天の数歌も千切れ千切れになり、一向美はしき言霊を発射することが出来なくなつて来た。
 モールバンドは春彦、ヨブの間近に来りしに気付きしものと見え、小山のやうな胴体を徐ろに二人の方に向け直し、長大なる尾に撚りをかけ、今や一打ちに両人を打たむとする形勢を示して居る。二人は命カラガラ傍の大木目蒐けて漸く登りつめ、後は兎も角、暫時の避難所と常磐樹の頂上にしがみついて、誰か助けに来てくれる者はなからうかと期待して居る。樹の上にて春彦は声を慄はせながら、
『コレコレ、ヨブさま、大変な事ぢや御座いませぬか。私も獅子、虎、熊、狼、大蛇位は、さうも恐れないのだが、どれ丈肝を放り出して見ても、あのモールバンド丈は如何することも出来ない。腹の底から自然に戦いて来て、自分の体がどこにあるやら、分らなくなつて来ました。お前さまは如何ですかな?』
『私だとて同じ事ですよ。併しながら、何時迄もああしてモールバンドに狙はれて居らうものなら、何時ここを下つて逃げ帰ると云ふことも出来ず、困つたものですなア。幸に此樹に固い果物がなつて居りますが、これさへ食べて居れば、仮令十日や二十日、此樹の上に籠城したつて、別に困りもしませぬが、大風が吹いたり、大雨の時には実に困るぢやありませぬか。此頃の様に毎日日日二三回づつ大きな雨が降つて来ると、第一身体が持てませぬワイ。モウ斯うなる上からは神様におすがりして、運を天に任すより方法はないから、一つ此処で一生懸命に、モールバンドが退却する様に御祈念を致しませうかい』
『ソリヤ結構です……併し、何だか、腹の底がワナワナして……声が円満に出て来ませぬ……』
と千切れ千切れに話して居る。斯かる所へ、又もや宣伝歌が聞え来る。
『国依別の神司  御供をなしてはるばると
 ヒルの国原立出でて  ブラジル峠を打ちわたり
 果てしも知れぬ谷道を  辿り辿りてシーズンの
 川の片方に来て見れば  恋の虜となりはてし
 秋山別やモリスの司  二人の男が激流に
 浮きつ沈みつ流れ来る  コリヤ大変と吾々は
 国依別の命を受け  衣類をすぐに脱ぎすてて
 ザンブと計り飛込めば  流石に名に負ふシーズンの
 速瀬の波に漂ひて  溺れ死せむとせし所
 思はぬ河中の岩石に  二人の身体は引つかかり
 ヤツと息をば休めつつ  岩の真下を眺むれば
 秋山別やモリスの司  二人の身体は渦巻に
 巻かれて浮きつ沈みつつ  人事不省の有様に
 又もや身をば跳らして  安彦、宗彦両人は
 二人の身体をひつ抱へ  弱き川瀬を選みつつ
 彼方の岸に救ひ上げ  介抱すればやうやうに
 息吹返し両人は  恋の虜の夢もさめ
 国依別に従ひて  アマゾン河の森林に
 潜みて世間に災の  霊を送る曲津見を
 言向け和し世の中の  なやみを払ひ清めむと
 茲に五人の一行は  帽子ケ岳の頂上を
 目当に進み登り行く  遠く彼方を見わたせば
 アマゾン河の急流は  天津日影にてらされて
 長蛇の如く光り居る  南と北の森林は
 緑紅こき交ぜて  果てしも知らず茂り生ふ
 此光景を眺めつつ  言依別の神司
 国依別と諸共に  琉と球との神力を
 遠く此方に照らしつつ  吾等一行が言霊の
 戦の勝を守らむと  幽玄微妙の神策を
 立てさせ給ふ有難さ  此森林は名にし負ふ
 妖怪窟と聞ゆれば  八岐大蛇は云ふも更
 虎狼に獅子や熊  其外百の怪物が
 いろいろ雑多と身を変じ  吾等を誑かる事あらむ
 あゝ惟神々々  神の御霊を身に受けて
 如何なる曲も恐れなく  誠一つの神の道
 撓まず屈せず進み行く  モールバンドやエルバンド
 仮令幾千来るとも  吾言霊の神力に
 言向け和し今よりは  アマゾン河の底深く
 潜みて百の災を  思ひとまらせくれむぞと
 言依別の御言もて  やうやう此処に来りけり
 高姫さまを初めとし  常彦、春彦、今いづこ
 果てしも知らぬ此森の  いづこに彷徨ひ給ふらむ
 神の御霊の幸はひて  一日も早く高姫が
 在処を教へ給へかし  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  モールバンドは攻め来とも
 虎狼や獅子熊の  勢いかに猛くとも
 なにか恐れむ敷島の  大和心の益良夫が
 神の光りを楯となし  神の恵を矛として
 進みに進む森の中  実に勇ましき次第なり
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひつつ、安彦を先頭に、宗彦、秋山別、モリスの四人は、神の引合せか、期せずして、高姫、春彦等が避難せる樹蔭近く進み来れり。
 春彦、高姫の二組の避難者は樹上より此宣伝歌を聞き、未だ一度も聞きしことなき声なれども、必ず途中にて、言依別、国依別の教に感じ入信せし者ならむ、あゝ有難し辱なし、神の救ひの御手……と忽ち元気恢復し、拍手し終り、樹上より声高らかに、天津祝詞を奏上し始めた。春彦の祝詞の声に、はるか離れた樹の上に避難して居た高姫、常彦は、始めて春彦の所在を知り、非常に心強さを感じ、ますます元気を出して天津祝詞を力一杯、天地も震撼せよと許りに宣り上げた。
 安彦、宗彦の一行は双方より聞え来る樹上の祝詞の声に、始めて高姫一行のここに居ることを悟り、歓喜斜ならず、尚も元気を出して天津祝詞を宣り始めた。モールバンドは少しも屈せず、目を怒らし、尾を振りしごき、縦横無尽に四人に向つて突進し来る。四人は忽ち傍の大木に辛うじて避難し、樹上より祝詞を頻りに奏上し、早く此怪獣の遁走して、吾等一行を救ひ給へと念じつつありぬ。
 忽ち西北の空をこがして輝き来る琉、球の大火光、あたりは忽ち火の如く赤くなりぬ。これ言依別、国依別の神司が、帽子ケ岳より救援の為め発射する所の霊光なりき。モールバンドは驚いて、尾を縮め、首をすくめ、コソコソと森林を駆け出し、数十里の林を潜つて、アマゾン河に逃げ去りにけり。
 安彦一行四人はヤツと胸をなでおろし、枝振のよい大木を下り来り、
安彦『高姫様々々々』
と呼ばはりながら、樹下を巡り、空を仰いで高姫の居所を捜して居る。
 高姫は常彦と共にヤツと安心し乍ら下つて来た。春彦もヨブも亦一つの大木の空より此処に漸く下り来り、互に顔を見合せ、嬉し泣きに抱き合ひて泣く。
 是より八人は互に手を取り、無事を祝し、且つ高姫一行は安彦一行に向ひ厚く感謝の詞を述べながら、アマゾン河の沿岸に向つて引返し、南岸の森林中に鷹依姫一行が猛獣の王として住ひ居ることを、安彦を以て国依別より伝達したれば、取る物も取り敢ず、河端に向つて進む。一行が一心をこめて奏上したる天津祝詞の声に、北の森林の猛獣共は争つて此処に集まり来り、八人の後に従ひ、これ亦アマゾン河の岸迄、幾百千とも知れず、列を作つて従ひ来る。
 これより高姫は、アマゾン河の急流を眺め、一生懸命に、南岸に無事渡らせ給へ……と祈念した。忽ち川底より八尋鰐、幾千万とも限りなく現はれ重なり合うて、忽ち鰐橋を架けたり。高姫は大神の神徳と鰐の好意を一々感謝し、七人と共に南岸に辛うじて渡ることを得たり。此間何里とも分らぬ位、広き河幅なりけり。
 北の森林に棲める猛獣は此処まで送り来り、此激流を眺めて稍躊躇の色ありしが、忽ち鰐橋の架りたるに力を得、一匹も残らず、南森林に打渡り、高姫一行を送りて兎の都に向ひ進み行く。
(大正一一・八・二三 旧七・一 松村真澄録)
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