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文献名1霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
文献名2第4篇 理智と愛情よみ(新仮名遣い)りちとあいじょう
文献名3第20章 昔語〔935〕よみ(新仮名遣い)むかしがたり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-02 20:34:39
あらすじ
黒姫の館には高山彦、東助、高姫、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、鷹依姫、竜国別が招かれていた。玉治別が黒姫の実子であることが判明し、親子対面の祝宴が開かれていたのであった。

高姫は、黒姫がどのようにして玉治別を生んだのか語ってくれと問いかけた。黒姫は罪滅ぼしの意味もかねて懺悔のためにと、一弦琴を取ってそのいきさつを歌い始めた。

黒姫はペルシャの国の里に名高い烏羽玉彦・烏羽玉姫の娘であった。秋の夕べにふと柏井川のほとりで出会った男と互いに恋に落ちたが、男は一夜でどこかに去ってしまったという。

黒姫はその後、父母の目をしのんで子供を産み落としたが、耐え切れずに辻に捨て、子供が旅人に拾われて行くのを見届けた。子供を捨てたことが苦になって家を飛び出し、バラモン教の教えを聞いたのち、高姫のウラナイ教に入信したという。

一方玉治別は、自分を拾った父母に慈しまれて育ったという。しかし育ての父母に実の子が生まれたことをきっかけに、許しを得て真の父母探しの旅に出たのだと歌った。玉治別ははるばる月の国を越えて自転倒島までやってきた。そして宇都山村の春助の養子となって暮らしていたところ、縁あって三五教に入り、お勝をめとり宣伝使となったといきさつを歌った。

玉治別は最後に、まだ見つからない父への思いを歌い悄然としながらも、神への祈りをささげた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年11月10日 愛善世界社版218頁 八幡書店版第6輯 331頁 修補版 校定版228頁 普及版86頁 初版 ページ備考
OBC rm3320
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本文  桶伏山の東麓に小雲川を眺めた風景よき黒姫の館には、主人側の黒姫を初めとし、高山彦、東助、高姫、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、鷹依姫、竜国別の面々が親子対面の祝宴に招かれ静に酒汲み交はし、色々の話に耽つて居る。
高姫『黒姫様、長らく筑紫の島へ御苦労で御座いました。第一の御目的は高山彦様の後を慕つてお出で遊ばしたのだが、何が経綸になるのか分りませぬなア。肝腎の目的物たる高山彦さまは、灯台下は真暗がり、足許の伊勢屋の奥座敷にかくれて居られましたのも御存じなく、御苦労千万にも遥々と波濤を越えてお出で遊ばし、気の毒な事だと思ひましたが、不思議の縁にて、玉治別が貴方のお子様だと云ふ事が分つて参りましたのも、実に不思議の神様のお引合せ、何が御都合になるか分つたものぢや御座いませぬなア』
黒姫『ハイ、本当に嬉しい事で御座います。私の伜がこんな立派な宣伝使になつて居るとは夢にも知りませなんだ。ほんに因縁者の寄り合だと神様が仰有るのは争はれないお示しで御座います……改心致せば御魂だけの御用を指してやる、改心致さねば親子の対面も出来ぬやうになるぞよ……と、お筆に出て居りますが、私は余り身魂の曇りが甚かつたために、今まで吾子に遇ひながら知らずに居りました。こんな嬉しい事は御座いませぬ。年が寄ると何を云うても子が力で御座いますからなア。親子は一世と云つて切つても切れぬ深い縁のあるもので御座います。それにつけても夫婦二世とはよくいつたもの、親子の関係に比ぶれば夫婦の道は随分水臭いもの、少し気にくはぬ事を云つたと仰有つて、高山さまのやうに姿をかくし、女房に甚い心配をさせる夫もありますからなア』
高山彦『モウ、その話は中止を願ひます。一家の政治上の治安妨害になりますから……』
黒姫『ホヽヽヽヽ、何とマア都合のよい事を仰有いますワイ。よい年をして居つて伊勢屋の下女と何とか彼とか……真偽は知りませぬが、私の留守中噂を立てられなさつた好男子だから、本当に水臭いハズバンドだ。アヽ併しもう云ひますまい。立派な伜の前だから恥かしうなつて来ます』
高山彦『お前は実の伜に遇うて嬉しうなつたと見えて俄に燥ぎだし、ハズバンドの私に対して非常に冷やかになつて来たぢやないか。私もかうなつて見ると子が欲しくなつて来た。併し乍らお前のやうな婆では到底子を生むと云ふ望みもなし、もう諦めるより仕方がない。玉治別さまはお前の子だ。そしてお前は私の女房だ。さうすれば私も万更他人ではない。玉治別さまのお世話になるより仕方がないなア。併し乍ら、お前はいつの間に誰と夫婦になつて玉治別さまを生んだのだ。差支なければ皆さまの居られる中だけれど、一つ話して呉れないか』
 黒姫は、
『これも私の罪滅し、恥を曝して罪を神様に取つて貰はねばなりませぬから、懺悔のために申上げます』
と云ひながら一紘琴を引き寄せて歌ひ出したり。
『ペルシヤの国の柏井の  里に名高き人子の司
 烏羽玉彦や烏羽玉姫の  長女と生れ育ちたる
 アバズレ娘の黒姫が  柏井川にかけ渡す
 橋の袂を夕間暮れ  一人トボトボ川風に
 吹かれて空を打ち仰ぎ  天の河原の西東
 棚機姫が御姿を  仰ぐ折しも向ふより
 二八許りの優男  粋な浴衣を身に纏ひ
 ホロ酔機嫌でヒヨロヒヨロと  鼻歌謡ひ進み来る
 声の音色は鈴虫か  松虫、蟋蟀、螽斯
 秋の夕べの肌寒き  魔風恋風さつと吹き
 顔と顔とは相生の  実にも気高き男よと
 此方に思へば其人も  摩擦つ縺れつからみあひ
 松と梅との色深く  露の契を人知れず
 四辺の木蔭に忍び入り  暗さは暗し烏羽玉の
 星の影さへ封じたる  森の木蔭の草の上
 白き腕淡雪の  若やる胸を素抱きて
 たたきまながり真玉手玉手  さし捲きもも長に
 寝る折しも恥かしや  忽ち来る人の足音
 吾は驚き身を藻掻き  恋しき男と右左
 あはれや男は何人と  尋ぬる間さへ夏の末
 果敢なき露の契にて  三十五年の昔より
 夢や現と日を送り  今に夫の行方さへ
 知らぬ妾の身のつらさ  その月よりも身は重く
 不思議や妾は懐胎し  厳しき父や母上に
 何と応へもなきままに  暗に紛れて柏井の
 父の館を脱け出し  赤子を抱へさまざまと
 苦労も絶えぬ黒姫が  心は忽ち鬼となり
 哀れや赤子に富士咲と  名をつけ道の四辻に
 捨てて木蔭に立ち乍ら  如何なる人の御恵に
 吾子は拾い上げらるか  あはれみ給へ天津神
 国津神達国魂の  神よ守らせ玉へかしと
 心に祈る折柄に  カチリカチリと杖の音
 子の泣き声を聞きつけて  いづくの人か知らねども
 かかるいとしき幼児を  此処に捨てしは云ひ知れぬ
 深き仔細のあるならむ  何は兎もあれ拾ひあげ
 救ひやらむと云ひ乍ら  その旅人は富士咲を
 労り抱き懐に  かかへて橋を渡り行く
 妾は後より伏し拝み  拾ひし人の幸福や
 捨てた吾子はスクスクと  成人なして世の中の
 花と謳はれ暮せよと  涙と共に立ち別れ
 四方を彷徨ふ折柄に  又もや父に廻り合ひ
 再び吾家に立ち帰り  厳しき父母の膝下で
 月日を送る十年振り  捨てた吾子が苦になつて
 朝な夕なに気を焦ち  案じ過ごせど手係りも
 泣きの涙で日を送り  メソポタミヤの顕恩郷に
 鬼雲彦の現はれて  バラモン教を開きますと
 聞くより妾は両親の  眼をぬすみ遥々と
 顕恩郷に参上り  神の教を聞きながら
 吾子を思ひ恋人を  慕ふ心の執着は
 未だ晴れやらぬ苦しさに  高姫さまの立て給ふ
 ウラナイ教に身を寄せて  朝な夕なに海山の
 恩顧を受けて三五の  誠の道に入信し
 黄金の玉の行方をば  尋ね彷徨ひ高山彦の
 夫の後を尋ねつつ  火の国都に来て見れば
 高国別の神司  高山彦と名乗らせて
 住まはせ玉ひし尊さよ  神の恵の幸はひて
 茲に吾子と名乗りを上げ  玉治別に導かれ
 漸く海を乗り越えて  由良の港に来て見れば
 思ひも寄らぬ高姫さまが  高砂島より帰りまし
 互に無事を祝しつつ  思ひがけなき麻邇宝珠の
 珍の神業につかはれて  聖地に帰り来りたる
 此嬉しさは何時の世か  身魂の限り忘れまじ
 玉治別の宣伝使  御魂の曇りし黒姫が
 身を卑下すまずいつ迄も  親子の睦びいや深く
 続かせ玉へ惟神  神の御前に平伏して
 真心尽して願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸はへましませよ』
 玉治別は黒姫の後に続いて歌ひ初めたり。
『思へば昔フサの国  高井ケ岳の山麓に
 其名も高き人子の司  高依彦や高依姫の
 夫婦が情に育まれ  十五の年の春までも
 吾子の如く労はりて  育て玉ひし有難さ
 時しもあれや真夜中頃  覆面頭巾の黒装束
 五人の姿は表戸を  蹴やぶり座敷へ侵入し
 有無を云はせず両親を  高手や小手に縛めて
 凱歌を奏して帰り往く  吾は子供の痩力
 山より高く海よりも  深き恵を蒙りし
 育ての親の危難をば  眺めて居たる苦しさに
 父の秘蔵の守り刀  取るより早く荒男が
 群に向つて斬り込めど  何条もつて耐るべき
 あなたも強者隼の  爪磨澄まし小雀を
 掴みし如く吾体  又もや高手に縛りつけ
 山奥さして親子三人あへなくも  連れ往かれたる悲しさよ
 吾は隙をば窺ひて  高井ケ岳の山寨を
 後に見捨てて逃げ出し  父母二人を救はむと
 心を千々に配る折  二人の義親は木の花の
 姫の命に助けられ  此世に無事に居ますぞと
 聞いたる時の嬉しさよ  高井の村に立ち帰り
 高依彦や母君に  出会ひて無事を祝しつつ
 暫く此処に居る中に  二人の仲に生れませる
 玉をあざむく男の子  玉春別と命名し
 いよいよ茲に育ての親は  誠の御子を生みしより
 両親様の許し得て  真の父母を探らむと
 フサの国より月の国  漸く越えて自凝の
 島にいつしか漂ひつ  人の情に助けられ
 宇都山村の春助が  子無きを幸ひ養子となり
 土かい草切り稲麦を  作りて其日を暮らす中
 天の真浦や宗彦が  此処に現はれ来りまし
 不思議の縁の廻り合ひ  妹のお勝を吾妻に
 娶りて神の道に入り  玉治別と宣伝使
 清けき御名を授けられ  三五教を遠近に
 開き伝ふる折もあれ  三十五年の時津風
 吹き廻り来て村肝の  心筑紫の火の国で
 真の母に廻り遇ひ  天にも昇る心地して
 今日の生日を祝へども  まだ気にかかる垂乳根の
 父の命は今いづこ  遇はま欲しやと朝夕に
 祈る吾こそ悲しけれ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  一日も早く吾父に
 遇はせ玉へよ天津神  国治立大御神
 神素盞嗚大神の  御前に畏み願ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』
と、母に遇うた嬉しさと、父に遇はれぬ苦しさと悲喜交々混はりたる一種異様の声調にて歌ひ了り、悄然として項垂れ居たりける。
(大正一一・九・一九 旧七・二八 加藤明子録)
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