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文献名1霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
文献名2第4篇 理智と愛情よみ(新仮名遣い)りちとあいじょう
文献名3第23章 鉄鎚〔938〕よみ(新仮名遣い)てっつい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-08 12:09:03
あらすじ
東助の父は国治立神の息子であったが、八十熊別と名を変えて世を忍んでいた。日の出神、祝姫、面那芸彦たちが豊の国に現れて父・八十熊別を見出し、高照彦として筑紫の国の国司となした。

自分は高照彦の息子の一人、東野別神であると明かした。父の命を受けて聖地エルサレムに渡ったその帰途に、黄金山へ向かう山道の途中で出会った女性と恋に落ちて、同棲するに至ったと歌った。

しかし北照神の信仰調べに、父の使命を忘れて罪を重ねた自分を恥じ、女を不憫と思いつつも母子を見捨てて庵を逃げ出し、東に進んで自転倒島にやってきた。そして難船した折に翼の生えた神人に助けられ、淡路の国の人々に迎えられて酋長となり、東助と名乗ってお百合をめとって三五教に仕えるに至ったのだという。

東助は、筑紫の国の建国別は確かに自分と高姫の子であると明かした。そして自分の罪深い行為を懺悔しながらも、今は妻ある身として高姫と元の夫婦となることはできないと告げた。

高姫は東助が昔の夫であったと知って、また夫婦としてよりを戻そうと懐かしさに側近くに寄ろうとしたが、東助は威儀を正して厳然とはねのけ、お互いに今の立場を考え、これからは一層厳重に相対するよう諭した。

高姫は東助の厳しい様子に顔も上げられずに泣き伏した。一同はそれぞれの述懐を親子夫婦対面の祝歌に詠んだ。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年11月10日 愛善世界社版255頁 八幡書店版第6輯 343頁 修補版 校定版267頁 普及版100頁 初版 ページ備考
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本文  東助は何と思うてか、ツト立ち上り、音吐朗々として四辺を響かせながら歌ひ出した。
『生者必滅会者定離  廻る浮世と云ひながら
 怪しき事のあるものか  河の流れと人の身の
 行末こそは不思議なれ  筑紫の島の筑紫国
 白日の別の守りたる  珍の館を預りて
 数多の国人恵みつつ  治め玉ひし高照彦の
 貴の命の神司  父は国治立神
 遠き神代の昔より  豊葦原の瑞穂国
 完美に委曲に造りまし  治め玉ひし皇神の
 忘れ片身の吾父は  八十熊別と名を変へて
 此世を忍び玉ひしが  日の出神や祝姫
 神の司の宣伝使  面那芸彦と諸共に
 豊の御国に現れまして  高照彦の吾父を
 見出し玉ひ筑紫国  国の司とまけ玉ふ
 高照彦の珍の子と  生れ出でたる三人の
 其一人となり出でし  吾は東野別神
 父の御命を蒙りて  大海原を渡り越え
 エデンの川を溯り  神の都のエルサレム
 黄金山下に進まむと  来る折しも麗しき
 孱弱き女の一人旅  見捨てて進む折柄に
 俄に聞ゆる叫び声  如何なる曲の現はれて
 人を虐げ苦しむる  見遁しならじ助けむと
 後へかへして叫び声  頼りに尋ね寄り見れば
 以前の娘は地に伏して  思はぬ悪魔に出会し
 危き処を汝が君に  救はれたりと喜びて
 若き男女は人通り  稀なる山路上り行く
 山の色さへ青春の  血の湧き充てる両人は
 何かはもつて耐るべき  結びの神の許しなく
 思はぬ綱に耽溺し  子迄なしたる折柄に
 北光彦の宣伝使  信仰調べを標榜し
 吾身の素性を尋ねむと  吾庵をさして入り来る
 父の使命を忘却し  罪を重ねし吾なれば
 女は不憫と思へども  見捨てて庵を遁走し
 それより進んでフサの国  月の国をば横断し
 西蔵暹羅や唐土の  山河を渡り荒野越え
 進み進みて自凝の  島へと渡りて来る折
 風に船をば破られて  命危き折柄に
 天の恵か地の恩か  翼の生えし神人が
 吾身をムズと引き掴み  大空高く翔りつつ
 命の瀬戸の海原に  浮かびて広き淡路島
 暁山の山頂に  聳り立ちたる松の上に
 連れ行かれたる不思議さよ  淡路の国の島人は
 松の梢に佇める  吾の姿を打仰ぎ
 天より下りし神人と  敬ひ迎へて村肝の
 心の底より嬉しがり  淡路の島の酋長と
 まつり上げられ此島に  淑女の誉弥高き
 お百合を選んで妻となし  名も東助と改めて
 月日を送り来りしが  三五教の大神の
 恵の綱に曳かされて  今は聖地に出張し
 英子の姫に従ひて  教司となりましぬ
 今高姫が物語  黒姫さまが筑紫島
 土産話に聞き見れば  建日の館の神司
 建国別は紛れなき  高宮姫との其中に
 生れ出でたる御子ならむ  あゝ惟神々々
 神の御霊の幸はひて  吾子の行方は明かに
 なりて来れど其時の  高宮姫の艶姿
 変れば変るものだなア  今迄幾度高姫と
 顔をば合はせし事あるも  三十五年の其昔
 月日の関の高くして  寄る年浪に顔色も
 太く変りてありければ  昔の夫婦と云ふ事は
 今の今迄知らざりき  さはさり乍ら東助は
 昔の妻に遇へばとて  お百合の方のある身なり
 如何に縁は深くとも  もはや詮術なきものと
 諦め玉へ高姫よ  若き心の血にもえて
 思はず知らず罪作り  いとしき吾子をあちこちと
 迷はせたるこそ悲しけれ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  高姫司はいふも更
 建国別の吾伜  千代万代も末長く
 命長らへ皇神の  大道に尽させ玉へかし
 昔の恥を神の前  包まずかくさず表白し
 悔悟の言霊宣りあげて  この行先は東助の
 深き罪をば許しまし  尊き神の御道に
 進ませ玉へ惟神  神の御前に願ぎまつる』
と歌ひ終り悠然として座に就きぬ。
 高姫は初めて、東助の三十五年前の恋男たりし事を悟り、遉女の恥かし気に顔を赤らめ、稍しばし俯き居たりしが、思ひ切つたやうに東助に向ひ、
『アヽ貴方は其時の優しい男、東野別神様で御座いましたか。存ぜぬ事とて色々と御無礼を致しました。嘸や嘸私の自我心の強いのには愛想が尽きたで御座いませう。淡路島の遭難の時と云ひ、家島での脱線振りと云ひ、嘸々はしたない女だとお笑ひで御座いませう。迂濶とこんな昔話を申上げて、其時の女は此高姫であつたかと、さげすまれるかと思へば、あゝ昔のままに分らずに居つた方が互によかつたで御座いませうに、是もやつぱり神様から昔の泥を吐かされたので御座いませう。何卒お見捨てなく元の通り可愛がつて下さいませ』
と東助の傍近く進みよつて手を握らむとするを、東助は儼然として突きのけはねのけ威儀を正し、言葉も荘重に高姫に向ひ、
『高姫さま、ちとお慎みなさいませ。昔は昔、今は今、折角忘れて居た百八煩悩を再びここに繰返すやうな事があつては、神様に対し申訳が立ちますまいぞ。貴方も立派な夫のある身の上、私も御存じの通り淡路の島の酋長でお百合と云ふ女房もある身の上、况して三五教の総務を勤むる以上は、怪我にも左様な事は出来ますまい。此後は他人よりも一層厳重に、御交際を願ひませう。併し乍ら熊襲の国の神司、建国別は私と貴方の間に生れた伜である事だけは認めて置きませう。貴女も其伜に会ひ度くば御自由にお会ひになつても宜しからう。敢て私は其処迄は干渉致しませぬ。然し此東助としては何程恋しい吾子と雖も、会ふ訳には参りませぬ。先づ第一に英子姫様にお願ひ申し、玉照彦、玉照姫の神司に許しを受けた上、現在の妻お百合の方に事情を打ち明け、お百合の許しを得た上、それも折があつたら面会するかも分りませぬ。どうぞ今日限り昔の夢は忘れて頂き、此東助は此後貴女に対し、一層厳格の態度を取りますから、どうぞ悪く思うて下さいますな。皆様の前で私の態度を公言して置きます』
と矢でも鉄砲でもいつかな動かぬ其顔色に高姫は縮み上り、顔をも得あげず涙と共に泣き伏した。
 高姫は力なげに詠ふ。

『相見ての今の心に比ぶれば
  昔恋しくなりにけるかな』

東助『古を思ひ浮かべてくやむより
  開く五六七の御代を楽しめ

 親となり子と生るるも神の代の
  深き縁と知るや知らずや

 三十あまり五つの年を経廻りて
  ここに吾子の頼りを聞くかな』

高山彦『世の中の因果は廻る小車の
  片輪車ぞあはれなりけり

 さりながら吾も昔の罪の子よ
  救はせ玉へ三五の神』

黒姫『海山を越えて夫を尋ねつつ
  わがいとし子に会ひし嬉しさ』

玉治別『吾を生みし父と母とを知らずして
  あだに過ごせし身の愚さよ』

秋彦『三五の神の恵のいや深く
  吾子の行方悟る今日かな』

友彦『親と子は切つても切れぬ神々の
  縁の綱に結ばれにけむ』

テールス姫『桶伏の山の麓の神屋敷
  目出度き事を聞く今宵かな』

夏彦『居ながらに吾子の行方まつぶさに
  知り玉ひたる君ぞ尊き』

佐田彦『古の夫を悟り妻を知り
  吾子に遇ひし人ぞ目出度し』

紫姫『今日こそは神の恵の花開き
  心も薫る秋の大空』

お玉『玉治別神の司は父母に
  遇ひて嬉しく思召すらむ』

竜国別『たらちねの親に遇うたる嬉しさは
  吾も一度は味はひにけり』

鷹依姫『黒姫や高姫司嘸やさぞ
  嬉しかるらむ御子を悟りて

惟神神の恵の幸はひて
  今日は嬉しき夕なるかな』

 常彦、波留彦、孫公、芳公、房公其外の祝歌は数限りなく詠まれたれども、あまりくどくどしければ、省略する事となしぬ。高姫は此後如何なる活動をなすであらうか。
(大正一一・九・一九 旧七・二八 加藤明子録)
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