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文献名1霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
文献名2第1篇 筑紫の不知火よみ(新仮名遣い)つくしのしらぬい
文献名3第5章 対歌〔946〕よみ(新仮名遣い)たいか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-12 11:00:28
あらすじ
房公は岩窟の声の歌を聞いて自分も歌心になり、歌を歌いだした。黒姫を立派な生き宮と思ってついてきたが、道中にその言動を見聞きしてすっかり幻滅し、付いてくるのではなかったという後悔を、滑稽な歌に託して笑い転げた。

芳公も黒姫の所業を挙げて非難し、高山彦に早くこのことを注進して逃がしてやろうと歌い、笑い転げた。

黒姫は二人を戒める歌を歌うが、房公は高山彦の浮気をねたにして、さらに黒姫をからかう歌を歌う。芳公は黒姫に愛想をつかしたと歌い、国に残してきた女房を懐かしむが、房公に茶々を入れられ、二人は歌で言い争いを始める。

黒姫は二人を叱りつけ、朝拝の準備をして朝餉をすませるようにと歌った。黒姫は道中もいできたイチジクの実を持っていたので、三人は掛け合いしながらイチジクを争った。イチジクの実を食べて機嫌を直した三人は、宣伝歌を歌いながら筑紫ケ岳を登って行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月10日 愛善世界社版59頁 八幡書店版第6輯 384頁 修補版 校定版63頁 普及版26頁 初版 ページ備考
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本文  房公は今の歌に引出され自分も歌心になつたと見え、黒白も分かぬ闇の中から腰折れを謡ひ出したり。

『房公がいざこれよりは歌をよむ
  黒姫さまよ確りと聞け。

 野も山も青く茂れる筑紫野に
  黒い女が一人立つなり。

 如意宝珠玉の所在を探ねたる
  高姫司は今やいづくぞ。

 黄金の玉の所在を探ねたる
  黒姫さまは今は男探ねつ。

 高山の彦の夫にはじかれて
  恥も知らずに探し来るかな。

 黒姫を竜宮さまの乙姫と
  思うて来たが馬鹿らしきかな。

 吾妻のお鉄は嘸や今頃は
  空を眺めて待ち佗るらむ。

 吾妻よお鉄よしばし待つてくれ
  愛の土産を持ちかへるまで。

 黒姫が夫を思ふ真心を
  汝に移して喜ばせて見む。

 房公も遥々海を渡り来て
  妻のみ恋しくなりにけるかな。

 こんな事計り云ふのぢやなけれども
  黒姫の御魂憑りしためぞ。

 神様の道を忘れて妻ばかり
  思ふ心の愚しきかな。

 村肝の心を妻に筑紫潟
  深き心を不知火の汝。

 如何にせむ海洋万里の波の上
  翼なき身のもどかしきかな。

 黒姫の甘き言葉に乗せられて
  知らぬ他国で苦労するかな。

 今頃は四尾の山も紅葉して
  錦の宮は栄えますらむ。

 言依別神の命の御姿
  目に見る如く思はるるかな。

 杢助の神の司の御姿を
  思ひ出しても心勇みぬ。

 黒姫のけげんな顔を見るたびに
  浮世は厭になりにけるかな。

 来て見れば真暗がりの岩の前
  怪しき神の声ぞ聞ゆる。

 黒姫が負けず劣らず腰折れの
  歌よみし時ぞをかしかりけり。

 芳公よ貴様も一つ歌を詠め
  歌は心の闇を晴らすぞ。

 闇々と闇の帳に包まれて
  黒姫さまの黒顔も見えず。

 アハヽヽヽ、オホヽヽホツホ、ウフヽヽヽ、
  エヘヽヽ、イヒヽ笑ひ置くなり』

 芳公は負けぬ気になつてまた駄句り出したり。

『芳公が宣る言霊をよつく聞け
  玉をころばす様な音色を。

 一条や二条縄でゆかぬ奴
  三筋の糸で縛る黒姫。

 孫公は今はどうして居るだらう
  心にかかる闇の世の中。

 是程の無情な女と知らずして
  ついて来たのを悔しくぞ思ふ。

 惟神神の教に離れたる
  黒姫こそは曲神ならむ。

 曲神の醜の猛びを恐れつつ
  間近の曲を知らざりし吾。

 三五の誠の道を教へ行く
  神の司が船を盗みつ。

 此船は老朽ちたれど高山彦の
  神の命を乗するなるらむ。

 闇がりの臭い谷間に包まれて
  息はづまして暮らす苦しさ。

 是よりは黒姫さまに暇くれて
  房公と共に国へ帰らむ。

 房公よ思ひ切るのは今なるぞ
  乙姫さまの現はれぬうち。

 竜宮の乙姫さまの生宮と
  はしやがれては堪らざらまし。

 さア早く黒姫さまに立別れ
  立ち去り行かむ火の神国へ。

 逸早くこれの谷間を立ち出でて
  高山彦の注進やせむ。

 注進を聞いて高山驚いて
  姿かくせば嘸面白からむ。

 さうならば黒姫如何に騒ぐとも
  後の祭の詮術もなし。

 アハヽヽヽ、オホヽヽヽツホ、ウフヽヽヽ
  エヽイヽ加減に止めて置くなり』

 黒姫は闇の中より声を張り上げて、

『房芳の二人の奴等よつく聞け
  竜宮様の神の教を。

 痩犬のやうな面してつべこべと
  囀る姿臍をよるなり。

 何事も知らざる癖に黒姫の
  小言云うとは怪しからぬ奴。

 黒姫は誠の神の生宮ぞ
  思ひ違ひをするな房芳。

 房芳よよしや天地はかへるとも
  高山彦は黒姫の夫。

 高山の吾背の命に出遇ひなば
  汝が無礼を告げて聞かせむ。

 独身の黒姫なりと侮つて
  後で後悔するな両人。

 後悔は先に立たぬと云ふことを
  よくわきまへて口を慎め。

 口計り千年先に生れ来て
  吐く曲神の愚しきかな。

 これ位分らぬ奴が世にあろか
  黒姫さへも愛想つかしぬ。

 如何程に侮辱されてもおとなしく
  忍ぶは神の道知ればこそ。

 神の道捨てた事なら黒姫は
  赦しちや置かぬ房芳の奴。

 房芳よ早く心を立て直し
  誠の道に歩みかへせよ。

 黒姫の言葉がお気に入らぬなら
  お前の勝手にするがよからう。

 待て暫し今両人に逃げられちや
  此黒姫も一寸迷惑』

房公『さうか否一寸迷惑なさるかな
  火の都では大の迷惑。

 高山と黒姫司の争ひを
  今見るやうに思はれにけり。

 黒姫が死ぬの走るの暇くれと
  悋気の声を聞くぞうたてき。

 うたうたと闇の帳に包まれて
  明りの立たぬ歌を詠むかな。

 疑ひの雲霧晴れて黒姫の
  心の空の光る時まつ。

 松が枝に鶴の巣籠る悦びを
  愛子の姫が先にせしめつ。

 サア締めたもつと締めたと両人が
  四畳半にてしめりなきする。

 此処黒姫さまが見付けたら
  嘸しめじめと湿るだらうに。

 遥々と探ねて来たのに夫の家は
  入つちやならぬと戸をしめの家。

 面白いあゝをかしいと手を拍つて
  笑ふ時こそ待たれけるかな。

 アハヽヽヽウフヽヽヽヽヽオホヽヽヽ
  縁起でもない云ひ草ぞ聞く』

 芳公は又もや闇がりから謡ひ出したり。

『ほのぼのと夜は明け近くなりにけり
  早立ち往かむ火の国都へ。

 やがて又烏や雀が鳴くだらう
  烏ばかりか泣く人がある。

 まごまごと此処にかうしちや居られない
  孫公さまは先にいただらう。

 孫公の後おつかけて進む身は
  黒姫さまが邪魔になるなり。

 顔ばかり黒姫さまと思うたに
  心黒しと知らず居たりし。

 何事もよしと呑み込む男達
  よしや此身は朽果つるとも。

 頼まれた事は後へは引かぬ俺
  されど手をひく黒姫計りは。

 手を引くといつてもこれの山坂を
  手を曳くのではない黒姫婆さまよ。

 手を曳いて登り度いとは思へども
  生憎お滝が居らぬ悲しさ。

 お滝殿嘸今頃は膝坊主
  かかへて此方を眺め居るらむ』

 房公は又もや歌ひ出したり。

『のろけないこりや芳公よあんまりだ
  俺もお鉄が国に居るぞよ。

 色白いお鉄のやうな妻なれば
  のろけてもよしほめるのも芳。

 さりながらお滝のやうな蜥蜴面
  ちと心得よ見つともないぞよ』

芳公『何吐す蜥蜴面とは誰に云うた
  鼬面した嬶を持ちつつ。

 柿の木に雨蛙奴が登るよな
  でかいお鉄を夢に楽しめ。

 鉄のよな黒い顔した女房を
  房いくなとは思はぬか惚れた弱みで』

黒姫『矢釜しい雲雀のやうな二人共
  もう夜が明けた手水つかへよ。

 さア早く天津祝詞を奏上し
  朝餉すまして出立をせよ。

 無花果の木の実はここにあるけれど
  雲雀に食はす無花果はなし。

 惟神神の御霊の幸はひて
  此無花果は生命助ける。

 麦の穂があれば雲雀もよからうが
  実に気の毒な次第なりけり。

 兵糧さへ沢山あれば山坂を
  越えるも安し神の御恵。

 御恵に外れた二人のいぢらしさ
  空腹かるらむ房芳憐れ。

 憐れをば知らぬ吾にはあらねども
  余りの事に呆れ果てけり。

 高山の吾背の君が待つと聞く
  火の国都へ急ぐ楽しさ。

 黒姫は兵糧もたんと持つて居る
  一宿二宿三宿のため』

房公『これや婆さま一つ俺にも分配せ
  余り冥加が悪からうぞや。

桃太郎が鬼ケ島へと往く時も
  団子半ぶんやつた事思へ』

黒姫『犬なれば半分位やろも知れぬ
  欲しくばワンワン鳴くがよからう』

芳公『ワンワンと犬の鳴き真似するよりも
  雉の真似してケンケンと云ふ』

黒姫『ケンケンと吐く雉にはやりはせぬ
  猿のやうにキヤツキヤツと鳴け』

房公『馬鹿にすな婆の癖して桃太郎の
  気取りで居るとは片腹痛い』

黒姫『片腹が痛いと云ふのは嘘だらう
  両腹すいた、喰いたからうに。

 痛々しその面付を見るにつけ
  無花果の皮でもやり度ぞある』

芳公『食物は神の与へと聞くからは
  其無花果は俺の物だよ。

 黒姫が独占しようとはそりや無理だ
  天則違反の罪に問ふぞよ』

黒姫『先取権この黒姫にあるものを
  掠奪するならして見るも芳。

 掠奪の罪を重ねて天国の
  きつき戒め喰ふ憐れさ』

房公『喰ふのが憐れさと云つた黒姫が
  持つた無花果喰ふ嬉しさ』

黒姫『房、芳の二つの雲雀に暇とられ
  早日の神は昇りましけり。

 カアカアと鳴いた烏に与へよか
  雲雀に喰はすを惜しく思へば。

 さり乍ら此雲雀とて天地の
  みたまと思へば捨てて置かれず。

 さアやらう一つ喰へと投げ出して
  社会奉仕の善業つまむ』

房公『有難う黒姫さまの奮発で
  いちじく二じく三じくを喰ふ』

芳公『味のよい無花果だけは黒姫が
  喰うた後のかすをくれけり。

 かすでさへ是程甘い無花果は
  上等物はいかに甘からう』

黒姫『オホヽヽヽ』
 房、芳一度に、
『アハヽヽヽ』
 三人は無花果に機嫌をなほし、筑紫ケ岳を宣伝歌を謡ひながら登り行く。
(大正一一・九・一二 旧七・二一 加藤明子録)
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