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文献名1霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
文献名2第2篇 有情無情よみ(新仮名遣い)うじょうむじょう
文献名3第11章 富士咲〔952〕よみ(新仮名遣い)ふじさく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-09-19 14:06:11
あらすじ
建日館の別殿に招かれた黒姫は、建日別、建能姫とともに話し合い、実の親子かどうかの確認をしていた。

黒姫は自分の出自とこれまでの経緯を語った。黒姫は、自分の夫・高山彦を追って来たのだと明かすが、建日別は自分の師匠であり筑紫の島の神司である高山彦と、黒姫の夫という高山彦が一致せずに不審に思っている。

また、黒姫の息子は幼名を富士咲と言い、背中に富士の山のような白い痣があると聞いて、建日別は自分は黒姫の息子ではないと悟った。建日別は真珠で十の字をかたどり「東」「高」という字の彫られた守り刀と共に捨てられていたという。

黒姫はその守り刀の特徴を聞いて、以前に高姫が印としていた十の字のことが思い当った。黒姫は、高姫も若いころに身の過ちから男の子の捨て子をしたことがあることを聞いていたので、なおさら怪しんだが、推測で間違ったことを吹聴しても迷惑をかけるだけだと思い直し、建日別夫婦には高姫のことは黙っていた。

実の親子でないことがわかって三人は残念がったが、建日別、建能姫は世界を宣伝に歩いている黒姫に対して、もし何か建日別の両親に関することを聞いたなら知らせてほしいと懇願した。

黒姫は建日別夫婦の切実な願いを聞いて、自分の子供ももし健在ならばこのように母である自分を尋ねているであろうと思い当り、心に感じて懺悔の涙を流した。

そうしているところへ、門番の幾公の早とちりを真に受けた差配の健彦が幹部連を連れてやってきて、建日別に母親との再会のお祝いの言葉を述べた。建日別は、母親でないことがわかったところだと説明するが、健彦は、すでに村中に発表してしまったという。

あきれた建日別は幾公を呼ぶが、幾公もすっかり黒姫が建日別の母親だと思い込んでしまっていた。

さらにそこへ、小間使いのお種がやってきて、黒姫のお供の宣伝使が黒姫を訪ねて館にやってきたと伝えた。建日別は、すぐに奥に通すようにと伝えた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月13日(旧07月22日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月10日 愛善世界社版141頁 八幡書店版第6輯 413頁 修補版 校定版147頁 普及版60頁 初版 ページ備考
OBC rm3411
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本文  一方は巍峨たる高山を控へ、前には清流奔る幽谷流れ、一方は大原野を見晴らす絶勝の地点に建てられた建日館の別殿に、主客三人鼎坐してヒソビソと話に耽つて居る。
建国別『御老体の身を以て、よくもお訪ね下さいました。貴女も矢張り御子息の行方を探ねてお廻りになつてゐると云ふ事ですが、何卒其事情をお差支なくば簡単に御明かし下さいませぬか』
黒姫『ハイ、妾は三五教の黒姫と申す者で御座います。只今は自転倒島の錦の宮に仕へて居りまする宣伝使で御座いますが、或る事情の為に此筑紫の島に遥々と三人の伴を連れ、夫の所在を探さむ為に参つたもので御座います。さうした処、高山峠の頂上で五人の若い男が、いろいろと話をして居るのを承はれば、建日の館の建国別の宣伝使は本年三十五才、さうして両親の行方が分らず非常にお探しになつてると云ふ事を聞きましたので、妾も何とはなしに心動き、妾の捨てた子も本年三十五才、よもや其伜ではあるまいかと存じまして、御取込の中をも顧みず御邪魔を致しました』
建国別『貴女の夫と申すのは何と云ふお名で御座いますか』
黒姫『ハイ、高山彦と申します。此頃火の国の都に於て、三五教の宣伝をやつて御座ると云ふ事を承はりまして、其処へ探ねに行く道すがらで御座います。さうした処、五人の男の話によつて、吾子の事を想い出し、よもや貴方が、若い時に捨てた子ではないかと思ひ、失礼をも顧みずお尋ねした次第です』
建国別『え、何と仰られますか。高山彦様が貴女の御主人とは、合点のゆかぬ事を承はります。高山彦様は実は私の御師匠様で御座いますが、神素盞嗚尊の御長女愛子姫様をお娶り遊ばし、今では夫婦睦まじく御神業に奉仕され、神徳四方に輝き渡り、飛つ鳥も落す勢で御座います。如何して又高山彦様が貴女と云ふ正妻があるのに、奥さまを持たれたのでせうか。高山彦様は左様な天則違反的な行為をなさる様なお方では御座いませぬが、何かの間違では御座いませぬか』
黒姫『自転倒島の聖地に於て、一寸の事から夫婦喧嘩を致しまして、夫れを機会に夫の高山彦は妾を振捨て、筑紫の島とかへ行くと云つて出たきり、今に何の便りも御座いませぬ。此島に駆け着いて人々の噂をきけば、貴方の仰せの通り、若い女房を持つて暮して居られるとの事、到底妾のやうな婆アが参りましても取あつて下さいますまい。然し折角此処迄参つたのですから、一目なりと会ひ、言ひ度い事も言ひ、先方の出様によつては妾も神の道の宣伝使、あとに何も残らぬ様に離縁をして貰ふ考へで御座います。乍併途中に於て貴方の噂を聞き、若しや吾子ではあるまいかと思ふにつけ、気の多い夫よりも自分の腹を痛めた伜に出会ひ、老後をお世話になり度いものだと思ひ、失礼を顧みず御伺ひを致しました。然し違ひますれば御許し下さいませ』
建国別『其御子息には何か目印でも御座いますか』
黒姫『はい、赤児の時で確り分りませぬが、確に背中の真中に白い痣があり、それが富士の山の形に似て居りますので、これは大方富士の山の木花咲耶姫様の御生れ替はりかもしれませぬと存じまして、富士咲と云ふ名をつけ……この子供は一寸様子あつて此処に捨てておきますから、何卒何れの方なりとも慈愛深きお方の手にかかり育てて下さいます様に……と言つて少しのお金子を添へ名を書いて捨てました。それつきり伜は如何なつた事やら、若い時は伜の事も何かに紛れて忘れて居ましたが、斯う年老るとそこらが淋しくなり、捨てた子は如何なつたかと明けても暮れても忘れた事は御座いませぬ。然し失礼乍ら貴方はさういふ印は御座いませぬか』
建国別『私も赤児の時に両親に捨てられた者で御座いますが、自分の背中は自分で見ませぬから何とも存じませぬ』
建能姫『妾が何時もお背を流しますが、本当に美しいお身体で、黒子一つ無く灸の痕一つありませぬ。況して痣等は何処にも御座いませぬ』
黒姫『あゝさうですかな。さうすると矢張り妾の尋ねる富士咲では御座いますまい』
建国別『何か其時の印に、物品でもお添へになつた事はありませぬか』
黒姫『別に何も添へた事は御座いませぬ。守袋に木花咲耶姫の御神号を入れ、富士咲と云ふ子供の名前を入れたばかりで御座います』
建国別『さうすると私は貴女の伜では御座いますまい。私が捨てられた時には、一つの守刀が添へてあり、其守刀に真珠を以て十の字がハツキリと記して御座いました。その守刀は今に所持して居ります。さうして刀の根尻に「東」といふ字と「高」といふ字が幽かに現はれて居ります。之を証拠に両親を探ねむと、十五六才の頃よりそこら中を駆け巡り、フサの国から自転倒島へ渡り、遂には此筑紫島へ参りまして、高山彦様の弟子となり宣伝使に仕立上げられ、昨年の今日此館の養子となつたもので御座います』
 黒姫は手を組み暫く思案に暮れて居る。
建国別『何か貴女にお心当りは御座いますまいかな』
黒姫『ハイ、真珠で十の字を記した守刀、それに東に高の印、ハテ合点のゆかぬ事があるものだなア』
 建国別は畳みかけた様に、
『貴方は世界を宣伝してお歩きになつたさうですから、何か心当りは御座いませぬか。仮令間違でも構ひませぬから、少しでも掛りがあれば仰有つて下さいませ。今日は如何しても吾両親に由縁ある人が見える様な気がしてならなかつたのです。そこへ貴女がお越しと聞き、ヒヨツとしたら吾恋しき母上ではないかと喜んで居ましたが、実に残念な事で御座います。乍併これも何かの御縁で御座いませう。若い夫婦の気楽な家庭ですから何卒御遠慮なく何時迄も御逗留して下さいませ。何だか因縁ある方の様な気がしてなりませぬから……』
黒姫『ハイ、有難う御座います。乍併如何しても一度は高山彦様にお目にかからなくてはなりませぬから、又御縁がありますれば御世話になりませう。乍併少しばかり何だか心当りがある様な気も致しますが、今俄に思ひ出せませぬから、ユツクリと考へ直して御返事を致しませう』
 黒姫は或機会に高姫の昔の述懐談を聞いて居た。
 その言葉の端に、
……自分も若い時、親の許さぬ男を持ち子を孕んでそれを捨児にした……といふ様な事を聞いた様に思ふ。高姫さまは今迄十の字の印をつけて御座つたさうだが、三五教へ這入つてから十曜の神紋に変へられた。よもや高姫様の子ではあるまいか、いやいや、うつかりした事を口走つて迷惑を掛けてはならない、高姫さまは今は何処に御座るやら、根から消息は分らない。うつかりした事を云つて、行方分らぬ人を探ね、建国別様が苦労をなさつて、折角会うた処で今の様に間違つて居る様な事では相済まぬ、知らぬと云つた方がお互の為に安全だらう……
と心に打諾き黒姫は言葉を改めて、
黒姫『どうも心懸りが御座いませぬ。乍併貴方様の御物語を聞きました上は十分気をつけて考へておきませう。若し貴方の御両親に相違ないと云ふ方に会ひましたら、直様にお知らせ致しませう』
建国別『はい、有難う御座います。何卒宜しく御願致します』
建能姫『何分御存じの通り、不運な夫で御座いますから、何卒黒姫様、御心当りがつきましたらお知らせ下さいませ。御願申上げます』
 黒姫は身につまされて返す言葉も無くさし俯向いて居る。さうして心の裡に思ふ様、
『あゝ親子の情と云ふものは何処の国に行つても同じ事だなア。建国別様が両親に憧憬れて、朝夕心を配り遊ばす様に、吾子も亦此世に生きて居るならば、定めし両親を慕うて居るであらう。両親のない子は其処に倒けて居つても、起してくれる者がないと云ふ事だ。あゝ思へば思へば若気の至りとは云ひ乍ら罪な事をしたものだ。こんな罪の深い身を以て、三五教の宣伝使となり、黄金の玉の御用をしようなどとは実に思ひ違ひであつた。神様から玉を隠されたのも無理はない』
と口には出さねど心の中に懺悔の波を漂はして居た。
 かかる処へ建彦は数多の幹部を引連れドヤドヤと此場に現はれ来り、丁寧に両手をつき、
建彦『大先生御夫婦様、今日は御目出度う御座います。何からお喜び申して宜しいやら、吾々初め館の者共は実に抃舞雀躍の態で御座います。今日は日頃お慕ひ遊ばす御母上がお見えになりましたさうで、こんな喜ばしい事は御座いませぬ。一同に代つてお祝ひ申上げます』
と云ひ乍ら、今度は黒姫の方に頭を転じ、丁寧に再拝し、
建彦『貴女様は大先生の生みの御母上でありましたか。能うまあ御入来下さいました。私等一同は大先生の御恩顧に日夜預つてる者で御座います。何卒御見捨てなく末長く可愛がつて下さいませ』
建国別『これ建彦、俺の母上が見えたのではない。黒姫様と云ふ三五教の宣伝使がお見えになつたのだよ』
建彦『え、何と仰有います。お隠しになつてはいけませぬ。確にお母上と云ふ事を一同承知して居ります。もはや隠れもなき館内一同の者の喜びで御座いますから、そんな意地の悪い事を仰有らずに、明かに仰有つて下さいませな』
建国別『そんな事を誰に聞きましたか』
建彦『はい、門番の幾公が確に相違ない、貴方のお話を聞いたと云つて、駄賃とらずの郵便配達をやりましたので、やがて此村からもお祝ひに来るでせう』
建国別『これ建彦、そりや大変だ。全く間違ひだつたと云つて取消して下さい。村人に沢山お祝に来られては迷惑だからなア』
建彦『もはや公然発表を致しまして、続々とお祝に見えますから、此際取消しなんか出来ませぬ。神様の館から間違つた事を触れ廻つたと云はれては、それこそ信用に関はります。そんな事仰せられずに、間違つて居つてもいいから御母さまにして置いて下さい。何れ誰かのお母さまでせうから……』
建国別『困つた奴だなア。幾公を一寸呼んでくれ』
 幾公は大勢の中から屁垂つて居つた頭をヌツと上げ、
幾公『はい、幾は此処に居ります。幾久敷う御目出度う御座います。もし間違ひましたら幾重にも御免し下さいませ。行方も知れぬ吾子の後を探ねて御入来遊ばしたお母さま、何卒大切にして上げて下さいませ。何程お隠し遊ばされても、貴方の御様子から考へて見ますれば、御親子の間柄に相違御座いませぬ』
建国別『ハテ困つた事が出来たわい。……黒姫様、如何致しませうかな』
黒姫『妾の様な者が突然参りましてお館に御迷惑をかけ、何とも済まぬ事で御座います……もしもし幾公さまとやら、妾は黒姫と申す者で御座います。よくよく調べて見ますれば、妾の息子ではなかつたので、実の処互に顔を見合してガツカリして居た処ですよ。何卒お館の迷惑にならぬやう、直様お取消を願ひます』
幾公『何とまあ親子心を協して堅く締結したものだなア。何と仰有つても以心伝心、教外別伝、不立文字だ。御両人の歓びの色が相互の顔にホノ見えて居りますぞえ。こんな目出度い時に、そんな悪戯をして吾々をじらすものぢやありませぬ。………コレコレ建彦さま、何と仰有つても御親子だ。唇歯輔車の間柄だ。きつても絶れぬ親子の仲、堪へきれない歓びの色が、先生御夫婦の顔に、現はれて居るぢやありませぬか』
建国別『本当に困つた事が出来たわい、なア建能姫、如何致しませうか、黒姫さま、妙な事になつて来たぢやありませぬか』
黒姫『本当に間違へば間違ふものですな。これだから世間の噂と云ふものはあてにならないと云ふのですよ。……幽霊の正体見たり枯尾花……と云つて、道聴途説と云ふものはあてにはなりませぬ。一犬虚に吠へて万犬実を伝ふとやら、実に人の噂と云ふものは恐ろしいものです。人の口に戸を閉られないとは此処のことですな』
幾公『何処迄も白々しい、さうじらすものぢやありませぬ。あつさりとして下さいな。建彦さま、早く早くお祝の用意だよ。ここの先生は意地が悪いからな。あんな事云つて吾々をアフンとさす悪い洒落だよ』
 斯かる処へ小間使のお種が慌しく走り来り、
お種『御主人様に申上げます。只今三五教の宣伝使黒姫様のお伴だとか云つて二人の若い男が御入来になりました。如何致しませうか』
建国別『一時も早く此処へ御通し申せ!』
 お種は『はい』と答へて引き下る。
(大正一一・九・一三 旧七・二二 北村隆光録)
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