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文献名1霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
文献名2第1篇 向日山嵐よみ(新仮名遣い)むこうやまあらし
文献名3第8章 心の綱〔972〕よみ(新仮名遣い)こころのつな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-25 12:50:38
あらすじひとしきり酒宴が済み、三公は虎公、お愛、お梅、孫公、黒姫、兼公を自分の居間に誘い、四方山話をしながらくつろいで二次会を始めていた。子分たちもあちこちで思い思いにくつろいでいた。三公の子分である六公、徳公、高公と、虎公の子分である新公、久公、八公の六人は打ち解けて話をしていた。徳公は、お愛に酒を注いでもらったことを自慢し始めた。新公は負けずとのろけだすが、久公に実態はぜんぜん違うことを明かされて、言い合いを始めた。そのうちに殴り合いの喧嘩になってしまう。三公の子分たちは、今日はめでたい日だからと止めに入る。新公は、虎公の古い従者であることから、お愛の方の素性を皆に話し始めた。お愛は実は、天教山から天使として火の国に降った八島別神(建日向別神)の娘・愛子姫であるという。愛子姫は貴族生活がきらいで、両親の縁談を嫌って家を飛び出してしまった。そして夜道で悪漢に襲われかけていたところへ、新公を共に連れた虎公が出くわし、助けたのだという。そのとき愛子姫は身分を明かし、身に着けていた宝石・宝玉をお礼にと差し出したが、虎公は頑として断り、どうしてもと愛子姫が差し出した宝を谷川に投げ捨ててしまったという。それで、愛子姫は虎公の気風に惚れこんでしまった。愛子姫は、身分を隠しお愛と名乗って武野村で奉公して働いていた。そのときに大蛇の三公が口説きにやってきていたのだが、数年後、愛子姫は虎公に申し込んで結婚することになったのだという。六公と高公は、新公の話から愛子姫を襲った悪漢は自分たちであったことに思い至り、悪いことはできないと悔悟し、改心の情を表した。新公はさらに、虎公も実は火の国出身の虎転別、のちに豊の国で豊日別命となった神様の総領息子という身分で、虎若という名であることを明かした。虎若は下女と駆け落ちする途上、病気で女を亡くしてしまった過去を持つという。新公も実は豊日別命の家来であったのが、虎若についてきて今に至っているということを自慢げに話した。遠くに鳴り響く子の刻の鐘に、徳公はお開きして休もうと一同を促した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月15日(旧07月24日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月25日 愛善世界社版79頁 八幡書店版第6輯 500頁 修補版 校定版85頁 普及版28頁 初版 ページ備考
OBC rm3508
本文のヒット件数全 2 件/豊の国=2
本文の文字数5357
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本文  一しきり酒宴はすんだ。大蛇の三公は虎公、お愛、お梅、孫公、黒姫、兼公を美はしき吾居間に誘ひ、四方山の話をし乍ら、打ちくつろいで二次会を行つてゐる。数多の乾児もそれぞれ思ひ思ひに田圃に出で、相撲をとつたり、寝ころんだり、下らぬ話をして上機嫌である。あちら此方に大勢の乾児のこととて、小競合は始まつたが、何分にも今日は目出度いと云ふので、互に慎み合ひ、大した喧嘩もなく、極めて無事である。
 六公、徳公、高公及び虎公の乾児なる新、久、八の六人は酒に酔ひつぶれ、其場にドツカと坐つた儘、打解けていろいろの話に耽つてゐる。
『オイ新公、貴様んとこの姐貴は随分素敵な代物ぢやねえか。どこともなしに一寸あの優しい目で睨まれると、体が吸ひつけられる様な気がするぢやねえか。それで俺が酒に酔うたのを幸ひ……お愛さま、一寸一杯ついで下せえ……とやつた所流石は偉いワイ……ハイ……と云つて、あの優しい目元で、徳公の顔を恋しさうに眺めながら、気よく注いで下さつた。オイどうだ。貴様たちア、気が利かねえから、千載一遇の好機を逸したぢやねえか、先んずれば人を制すと云つてナ、甘くやつただらう』
『たつた一遍位酒を義理で注いで貰つたつて、さう法螺を吹くものぢやねえワ。俺たちア、何時も親分の留守になると、お愛さまが、スーツと色目を使つて…コレコレ新公や、今日は親分が不在だから、マアゆつくり酒でも呑んで、……お愛が注いで上げます……とか何とか云つて、あの白い細い手で燗徳利を握り……サア新公さま、盃をお出しよ……と仰有るのだ。そこでこの新公が、鬼の来ぬ間の洗濯だと一寸肝玉をオツ放り出し、盃をスーツと前に出す、お愛さまがあの柔かい手で燗徳利を取り、左のお手々を徳利の底へ当てスーツと腰を伸ばして、立膝のまま、ドブドブドブオツトヽヽヽこぼれますこぼれます……と云ふ調子だ……と、いいのだけれど、それは何時やらの俺の見た夢だつた。乍併、毎日日日あの綺麗な顔を見て居ると、何時とはなしに夢に見る様になるのだからなア。つまり要するに、即ち、夢の中の新公の女房だからなア、大したものだらう、オツホン』
『オイ徳公、こんな奴の云ふ事、本当にしちやならねえぞ。親分の居られる時には小さくなつて、何でもかんでもお愛さまのいふ事を聞きよるものだから、お愛さまも余り小言を仰有らぬが、虎公の親分さまが不在になると、ソロソロサボリ出しよるものだから、お愛さまが柳眉を逆立て、長い煙管をヒヨイと持ち……コレコレ新公や、お前といふ人は何とした訳の分らぬ男だえ。虎さまの前では平た蜘蛛の様になつてるくせに、お不在になると戸棚の鼠があばれるやうに、一寸も妾の言ふ事を聞かぬぢやないか。腰抜男といふのはお前のことだよ。一寸ここへお出で、さうしてお手を出し……と云はれ依つて、新公の奴、生れついての天保銭だからなア……ヘエ何ぞ頂戴致しますのか……ナンて吐しよつてな、コハゴハ手をニユーツと、お愛さまの前へ出しよると、お愛さまが……お前一寸目をつぶつて御覧……とやられくさるのだ。阿呆が足らいで、新公の奴目を塞ぎよると、お愛さまは左の手に灰をつまみ、右の手に火の燠を火箸につまんで、掌に火をのせ、それと同時に、舌に灰をのせられよつて……アツヽヽ、プープープーと言ひながら裏の小川へ走つて行く……と云ふ馬鹿者だからなア。到底お話にならない代物だよ』
『コリヤ久公、ソラ何を言ふのだ、貴様のことぢやないか。何時もお愛さまに灸をすゑられよつて、キユーキユー言うてゐよるから、何時の間にか久公といふあだ名がついた位だのに、知らぬかと思つて、そんなウソツ八をこきよると、承知しねえぞ』
『ヘン、お人がズツと違ふのだから、何と云つても天道さまが見て御座るのだ。グヅグヅ吐すと久々言ふよな目にあはしたろか。コラ新公、シン気臭い新公だと、いつもお愛さまにボヤかれてるくせに……』
と言ひ乍ら、新公の横面をピシヤツと擲る。
『コリヤ喧嘩か、喧嘩なら飯より好きだ。イヤ酒の次にや喧嘩が好きな新公だぞ。サア来い』
と拳骨を固める。六公は慌てて、
『コラコラ内裏から、内乱を起しちや詮らぬぢやないか、マア待て待て』
『内乱が起つたつて仕方がねえワ。どうぞ放つといてくれ、新公には新公としての新案がある。新久思想の衝突だから、六公が何程仲裁しても、六な解決アつきやしめえ、六に内容も査べずして仲裁したつて駄目だぞ』
『今日は目出度い日だから、親分に免じて喧嘩丈は止めてくれ。若けえ奴に聞かれても外聞がわりいからなア。時に新公、お愛さまはありや普通の女ではないやうだが、一体どこからお出でになつたのだ。あの方は親が分らぬと云ふぢやないか』
『それの分つて居る者は、此広い熊襲の国に、言ふと済まぬが、親分と此新公計りだよ』
『一つこの徳公にソツとお愛さまの素性を明かしては呉れめえかなア』
『それを聞いて何にするのだ。もしも本当のことを聞かうものなら、アフンと致して開いた口がすぼまらぬやうになつて了ふぞ。腰をぬかすかも分らぬから、鯡でも用意しておくがよいワ』
『馬鹿にするない、猫ぢやあるめえし、鯡の用意せえとは、何を吐すのだ』
『鯡(日進)月歩の世の中だ、新久思想の衝突する現代だから、世の中は何時もガヤガヤ騒がしいのは当然だ。此新公と徳公と寄つて、新徳を発揮し、乱麻の如き乱れ果てたる世の中を、一つ改造して見たら如何だらうなア』
『其奴ア面白い。乍併其問題は委員付託としておいて、お愛さまの素性を早くきかしてくれねえか。決してビツクリやしねえから……』
『そんなら一つ、今日は大張込みに張込んで、神秘の扉を開いてやるから、最敬礼の上、新公の言ふことを謹聴せい……抑も虎公親分の最愛の妻、お愛の方の素性と言つぱ、畏くも天教山より天使として、火の神国に降らせ玉ひし八島別の神、後には建日向別の神と申上げた神司の御秘蔵の御娘子様だぞ』
『ヤア、ソラ又本当かい。どうしてそんな尊い身分で居乍ら、侠客風情の虎公の女房になつたのだらうか、チツと合点がいかぬぢやねえか。なア、高公、六公、まるで天地が覆るやうな話だなア、さうすると、俺だつてあまり馬鹿にやならぬワイ。どんな尊い方の娘と結婚するかも知れやしねえからなア』
『モウそれ丈でよいのか』
『ヤアよい所か、モツトモツト聞かしてもれへてえのだ。それから如何したのだ。サア其次をきかしてくれ。何だか気がせいてならねえからなア』
『八島別の神様は敷妙姫様といふ奥さまがあつて、其仲にお生れ遊ばしたのが愛子姫さま、其妹に依子姫様といふ綺麗なお嬢さまがあつたのだ。さうした所、御両親様が豊の国の豊日別様の御子息豊照彦様を養子に貰つて、後をつがさうと遊ばした所、愛子姫さまは、貴族生活が生れつきの大のお嫌ひで、平民主義の御方だから、立派な豊照彦様の御養子をお嫌ひ遊ばし、ソツと夜陰に紛れて館を飛び出し、黄金の腕輪や、ダイヤモンドの首飾をかけたまんま、夜道を辿らつしやる其時しも、忽ち森の木かげより現はれ出でたる二三人の男、矢庭に姫の前に立塞がり、手を取り足を取り、草原の路傍に打倒し、乱暴狼籍に及ばうとしてゐた所、俺所の親分虎公さまが、此新公を伴れて、一杯機嫌でヒヨロリヒヨロリと千鳥足、木遣りを唄つて向方の方よりやつて来た。三人の悪い奴アよつて集つて姫を押へ、キヤアキヤア云はしてゐやがる。そこへ親分と俺とが飛んで出て、大喝一声……悪者共暫く待てえ……と雷の如き大音声に呼ばはれば三人の奴は、其声に打驚き雲を霞と逃げ散つたり……卑怯未練の奴共、逃げる奴には目は付けず……と姫の方を月影にすかし眺むれば雪を欺く天下無双のナイス、ダイヤモンドは月に照らされ、頭一面に星の如くにきらめいて居る。指にもダイヤモンド、足にも腕にも黄金の輪が嵌つてゐる。コリヤ普通の家の嬢さまであるめえと、親分さまが合点し……もしもしどこのお女中か知りませぬが、大胆にも物騒な夜の一人旅、危ねえ事で御座えましたネー……と云ひながら姫の手を取り静に抱き起し、塵打払つて労つた所、姫さまは漸くに顔をあげ……どこの何方か存じませぬが、九死一生の場合、よく助けて下さいました、途中のこととて御礼の仕様も御座いませぬから、どうぞこれを受取つて下さい……と、頭に光るダイヤモンドを一つも残らず取外し、足の輪から腕輪まで一つに集めて親分に渡さうとする。親分の虎公は喜んで飛付くかと思つてゐたら、猫に小判を見せたよな調子で……コレコレお女中、そんな物を貰ひてえ為に助けたのだごぜえやせぬ、どうぞ納めて下せい……と仰有つた所、そのお姫さまは……どうぞ受取つて下さいませ、あなたは命の親で御座います、私は建日向別命の総領娘、貴族生活が厭になり、鄙に下つてどこかに水仕奉公でもしたいから脱けて来ましたのだ、こんな物は最早必要は御座いませぬ、さうして一旦お前様にあげようと思つた妾の心、如何しても翻すことは出来ませぬから、何卒お慈悲に受取つて下さい……と手を合して頼まれる。親分は……わしも武野村の侠客だ、一旦要らぬと云つたら、如何しても受取らねえ……と頑張り出す。如何しても埒が明かねえので、此新公が中にわつて入り、とうとう親分に得心させた。さうすると親分が……そんならお姫さま、折角のお志、有難う頂戴致します……と受取り……もし姫さま、私が頂戴した以上は、如何しても構ひませぬかと親分が云つたのだ。さうすると姫さまが……あなたに渡した以上はあなたの品物、如何なつと御勝手に遊ばしませ……とお出でなすつた。親分は……それなら私の勝手に致します……と言ふより早く傍を流れる深い谷川へ、惜気もなく投込んで了つた。そこで其姫さまが親分の気前に惚込み、懸想をしてゐらつしやつたのだ。乍併女心の恥かしいと見えてそんなことはケブライにも出さず、武野の村の七兵衛の内に水仕奉公に、素性を隠して住込み二年許りゐられたのだ。サアさうすると誰云ふとなく別嬪だ別嬪だといふ評判が立ち、大蛇の三公がやつて来て……お愛と名乗るお姫さまを執念深く口説き立てに来ると云ふ騒ぎだ。それが到頭三年前に姫様の方から内の親分に申込んで結婚の式を挙げられたと云ふ始末だ。随分内の親分もえれえものだらう。其親分の一の乾児だから、此新公だつて、決して馬鹿にはならないぞ。お愛さまと初から、さう云ふ関係があるのだから、不在中に酒の一杯位ついで貰つたつて、別に不思議はあるめえがなア』
ともつれた舌で物語つてゐる。六公、高公の両人は此話を聞いて、腕を組み、首を傾け吐息をもらして居る。
『ホンに偉い者だなア。度胸が据わつて居ると思へば、ヤツパリ蚯蚓切りや蛙とばしの腹から出たのぢやねえからなア、人間と云ふ者は争はれぬものだ……昔からの胤の吟味を致すは今度のことぞよ。種さへよければどんな立派な花でも咲くぞよ……と云ふ三五教には教があるといふことだが、本当に種といふものは争はれぬものだなア……オイ六公、高公、貴様何時やら、俺に話して居つた失敗話によく似てるぢやねえか、あの時の馬鹿者は貴様の連中だらう。此話を聞くや否や、サツパリふさぎ込んで了ひよつたぢやねえか。そのしよげ方は何だい、忽ち様子に現はれて居るぞよ、本当に困つた代物だなア』
『夜分のことでチツとも分らなかつたが、其時のナイスがヤツパリお愛さまらしいワイ。大きな声を出しよつた奴は、虎公だつたのだなア。世間は広いやうなものの狭いものだなア。之を思ふと悪い事はチツとも出来やしねえワ』
『アハヽヽヽ、とうとう蛙は口から、白状しよつた。おれも此処へ来た時に、どうも貴様のスタイルが朧げながら、あの時の馬鹿者によく似てると思つてゐたのだ。天罰と云ふものは恐ろしいものだなア』
『本当にさうだ。おれもいよいよ改心するワ。こんな話を聞くと、折角酔うた酒迄さめて了ひさうだ。アヽアヽ新公の親分は本当に仕合せな男だ。そして内の親分は不仕合はせな男だ。俺までヤツパリ不仕合せだ。アンアンアン悲しわいやい』
八公『ウツフヽヽヽ』
『アツハヽヽヽ、オイ俺所の親分を一通りの人間だと思つてゐるかい』
『徳とは分らぬが此奴も只の狸ぢやあるめえ。どこぞの落胤ぢやなからうかなア』
『落胤所かい、昔火の国に御座つた虎転別さま、後に豊の国へ行つて豊日別命とお成り遊ばした結構な神様の総領息子だ。それで虎公と云ふのだ。其の虎公さまが一寸渋皮の剥けた下女に手をかけ、手に手を取つて、道行ときめこみ、熊襲の国へさまようて御座つた其時、其女は腹がふくれてをつた。それが大きな山坂を越えて来たものだから、とうとう病気になり、難産をして親子共になくなつて了つたのだ。此新公だとて、ヤツパリ元は豊日別様の御家来だ。若旦那様の虎若様が駆落遊ばす時に、お供をして従いて来たのだから、何と云つても此新公が親分さまの一の眷族だ。何ほど久公や八公がしやちになつたつておれにや叶はねえからな、アツハヽヽヽ』
と肩をゆすつて笑ふ。徳公は「フーン」と云つた限り、感に打たれてゐる。折しも遠音に響く鐘の音、ゴーンゴーンと静かに聞え来る。
徳公『ヤアもう子の刻だ。皆さまこれから休みませう』
(大正一一・九・一五 旧七・二四 松村真澄録)
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