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文献名1霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
文献名2第3篇 火の国都よみ(新仮名遣い)ひのくにみやこ
文献名3第22章 当違〔986〕よみ(新仮名遣い)あてちがい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-02 12:20:40
あらすじ
火の国の都の高山彦の門前に、房公と芳公はたどり着いて門番に取次を頼んだ。門番の軽公は、神の大道を明らかにした人のみがこの門を通ることができると歌で返した。おかしな歌のやり取りの末、二人は門を開けてもらい中に進み入った。

房公は早速館の受付に、自分たちが三五教の黒姫の共の者であることを告げると、館の主人の高山彦に取り次ぐようにと依頼した。受付の玉公は、当然見ず知らずの二人を奥へ通そうとしない。

二人は、黒姫が高山彦の妻であることから、どうしても会いたいと談判し始めた。玉公は、主人の高山彦はまだ若い年であり、三五教の黒姫と夫婦であるはずがないと笑って取り合わない。

そこへ奥から一弦琴の音色と共に、この家の女主人である高山彦の妻・愛子姫の歌が聞こえてきた。その歌には、自分が神素盞嗚大神の娘であり、夫である高国別は高山彦と名を変えて今に至ることを伝えていた。

房公と芳公はこの歌を聞いて、火の国の神司・高山彦とは本名・高国別であり、黒姫の夫の高山彦とは別人であることに気が付いてきた。

玉公によると、火の国の神館は天教山の八島別夫婦が守っていたが、神命によって天教山に戻り、後には素盞嗚尊が連れてきた、天照大御神の厳の御霊である活津彦根命が就き、素盞嗚尊の娘・愛子姫を妻として治めているのだ、と説明した。

房公と芳公は、黒姫の夫探しの旅がまったくの人違いであることを悟った。二人は玉公にお礼を述べると、このことを黒姫に報せようと一目散に館を飛び出して行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月17日(旧07月26日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月25日 愛善世界社版259頁 八幡書店版第6輯 563頁 修補版 校定版274頁 普及版100頁 初版 ページ備考
OBC rm3522
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本文  火の国都の高山彦の門前に現はれた二人の男、こは云はずと知れた房公、芳公の両人であつた。
『もしもし門番様、何卒通して下さいませ』
 門番の軽公は門内より、
『村肝の心の岩戸の締りたる
  曲津の通る門口でなし。

 心より神の大道を明らめよ
  天ケ下には妨げもなし。

 此門は心正しき人々の
  大手拡げて通る門口。

 わが胸の門を開けば忽ちに
  これの鉄門は自ら開く』

 房公は外より、
『洒落た事言ふ門番が守り居る
  困つたもんに突き当りける』

 芳公は又歌ふ。
『よし吾を卑しきものと見るとても
  かるく開けよ神の鉄門を。

 よしもなき事に暇を潰すより
  心の門を開き通せよ。

 吾こそは自転倒島の神の子よ
  神の通はぬ門口なき筈。

 皇神の任しの儘に渡り来る
  疎略にすな神様の御子を』

 軽公は門内より、
『軽々しくどうして鉄門が開かりよか
  曲の猛びの強き世なれば。

 曲神が誠の神となりすまし
  人を誑かる闇の世なれば』

 門の外より房公の声、
『躊躇ふな吾は頭てらす大御神
  栄えの門を開く神なり』

 軽公門内より、
『いざさらば頭てらします大御神
  進ませ給へこれの鉄門を』

と詠ひ乍ら、閂をガタリと外し、門を左右にパツと開けば、房公、芳公は軽く目礼し、足も軽げに奥へ奥へと進み入る。
 玄関の受付には、五十恰好の、顔の少し細長い男が控へて居る。
房公『私は三五教の黒姫のお供をして此処迄参つた房公と申すもので御座いますが、黒姫さまは此方へお世話になつて居られますかな』
『三五教の黒姫様と云へば、随分黄金の玉で名の知れた宣伝使だが、未だ此方へはお見えになつて居りませぬよ』
『当館の主人は、矢張高山彦と申すお方で御座いますか』
『左様で御座います。御主人は高山彦、奥様は愛子姫と申す立派な神司で御座います』
『高山彦様は御在宅ですか。一寸お伺ひ致し度う御座いますが……』
と意味ありげに云ふ。
『私は受付の玉公と申しますが、何でも高山彦の御主人は、今朝早々何処かへ修行にお越しになつたと聞いて居ります。乍併受付の吾々は詳しい事は存じませぬ』
『何卒すみませぬが、高山彦様がお留守ならば、一寸奥様に会はして下さる訳にはいけますまいか。いづれ後から高山彦様の前の奥さまが見えますから、それ以前に一寸お目に掛つて御伺ひして置けば、前以て円満解決の曙光を認め得るものと存じますから、何とか一つ取りもつて下さいな』
『滅相もない。主人の御不在中に奥様が男の方に御対面は遊ばしませぬ。残念ながら何卒諦めて下さいませ。さうして御主人様の前の奥様とは、何と云ふお方で御座いますか』
 房公は少しく胸を張り、切り口上にて、
『勿体なくも三五教の大宣伝使黒姫様で御座る。吾々は其黒姫様の股肱の臣で御座るから鄭重にお待遇なさるが宜からう。如何に愛子姫様だとて此事をお聞きになれば、お会ひにならぬと云ふ訳には参りますまい』
と肩肱怒らし禿頭に湯気を立て、章魚が裃着た様な恰好で、肩を四角に固くなつて居る。
『ハヽヽヽヽ、そりや大変な大間違ひぢやありませぬか。御主人の高山彦様はまだお年がお若い屈強盛りです。さうして愛子姫様をお迎へ遊ばしたのが、女をお持ちになつた最初だと云ふ事ですから、そんな年をとつたお婆アさまを女房に持つて居られる筈はありませぬ。何かのお間違ひでせう』
『アハヽヽヽ、何とまア上から下までよう腹を合したものだなア。万里の波濤を越えて、遥々と夫の後を慕ひ探ねて御座つた貞淑な黒姫さまを袖にして、若い女を女房に持ち、面白可笑しく此世を渡らうとは狡い量見だ。高山彦さまも余程堕落をしたものだなア。六十の尻を作り乍らチツと心得たら好ささうなものだ。若い奥さまを貰つて若返り屈強盛りの壮年の様になつたのかなア。人間と云ふものは心の持ち様が肝腎だ。然し黒姫さまは何処に迷うて御座るだらうか。もしもこんな処へ御入来になつたらそれこそ大変だがなア』
 此時一間を隔てて聞え来る一絃琴の声、歌の主人は此家の女主人愛子姫である。
『千早振る遠き神世の昔より  国治立大神は
 天地四方の神人を  いと平らけく安らけく
 常世の春に救はむと  心を千々に配らせつ
 夜と昼との別ちなく  遠き近きの隔てなく
 高き卑しき押なべて  恵の露をたれ給ひ
 三五教の御教を  島の八十島八十の国
 諸越山の奥までも  開かせ給ふ有難さ
 吾背の君は天照  皇大神の御任せる
 五百津美須麻琉々々々々の  玉の威徳に現れまして
 活津彦根の神となり  神素盞嗚大神の
 御子と仕へて天ケ下  四方の国々隈もなく
 厳の教を宣べ給ふ  高国別の宣伝使
 天教山より降ります  八島の別や敷妙姫の
 神の命の後襲ひ  高山彦と名を変へて
 此世を忍び給ひつつ  五六七の御代を待ち給ふ
 神の御裔ぞ尊けれ  妾も同じ瑞御霊
 神素盞嗚大神の  生せ給へる珍の御子
 愛子の姫と名乗りつつ  父大神の御言もて
 メソポタミヤの顕恩郷に  バラモン教の館をば
 建てて教を開くなる  鬼雲彦の曲神が
 御許に永く隠れつつ  心用ふる折柄に
 太玉彦の宣伝使  現はれ来りて太玉の
 御稜威を現はし給ひしゆ  鬼雲彦は驚きて
 雲を霞と逃げ去りぬ  妾姉妹八人は
 顕恩郷を立ち出でて  おのもおのもに身を窶し
 三五教の御教を  四方に伝ふる折柄に
 魔神の為めに妹は  なやまされつつ波の上
 遠く流れる千万の  艱みを凌ぎ大神の
 大道を伝へ進み行く  あゝ健気なる姉妹よ
 今や何処の野に山に  いとしき妹は逍遥ふか
 あゝ惟神々々  神の御霊の幸はひて
 一日も早く姉妹が  無事なる顔を寄り合せ
 楽しむ時を松の世を  五六七の神の御前に
 偏に願ひ奉る  吾背の君は皇神の
 大御詔を蒙りて  桂の滝に出でましぬ
 あゝ惟神々々  皇大神の御恵に
 吾背の君が百日日の  禊身をやすく済ませかし
 愛子の姫は謹みて  清き玉琴かき鳴らし
 すがすがしくも願ぎ奉る  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と歌ふ声、二人の耳に透き通る様に聞え来る。
『もしもし玉公さま、今のお声は愛子姫様ぢや御座いませぬか。あのお歌の様子では、吾々の御先生黒姫様の御探ね遊ばす、高山彦さまではない様な気が致しました。一体此方の御主人は何処から御入来になりましたか』
『此神館は二三年前まで、天教山より降りましたる天使八島別命様御夫婦がお守りになつて居りましたが、天教山より日の出別神様お越し遊ばし、木花姫命様の御用が忙しいから、元の如く天教山に帰つて呉れよとの御神勅で、日の出別神様と共に、此都をお立ち退き遊ばされ、其後へ神素盞嗚大神様が天照大御神様の厳の御霊と生れませる活津彦根命様を、お連れ遊ばして御入来になり、素盞嗚尊様の総領息女の愛子姫様を妻となし、お帰り遊ばしたので御座います。他の宣伝使とは事変はり、随分御神徳の高い神司で、畢竟生神様で御座いますよ』
『ハテナア、何が何だかサツパリ訳が分らなくなつて来ました。オイ芳公、コリヤ一つ考へねばなるまいぞ』
『まるで火の国峠の天狗に魅まれた様な話だなア。こりや斯うしては居られない、黒姫さまの所在を探した上で何とか思案をせにやなるまい……玉公さま、有難う御座いました。又お邪魔を致します。奥様にも宜しく……』
と云ひ捨て慌しく蓑笠をつけ金剛杖をつき乍ら表門指して出でて行く。
(大正一一・九・一七 旧七・二六 北村隆光録)
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