火の国の都の高山彦の門前に、房公と芳公はたどり着いて門番に取次を頼んだ。門番の軽公は、神の大道を明らかにした人のみがこの門を通ることができると歌で返した。おかしな歌のやり取りの末、二人は門を開けてもらい中に進み入った。
房公は早速館の受付に、自分たちが三五教の黒姫の共の者であることを告げると、館の主人の高山彦に取り次ぐようにと依頼した。受付の玉公は、当然見ず知らずの二人を奥へ通そうとしない。
二人は、黒姫が高山彦の妻であることから、どうしても会いたいと談判し始めた。玉公は、主人の高山彦はまだ若い年であり、三五教の黒姫と夫婦であるはずがないと笑って取り合わない。
そこへ奥から一弦琴の音色と共に、この家の女主人である高山彦の妻・愛子姫の歌が聞こえてきた。その歌には、自分が神素盞嗚大神の娘であり、夫である高国別は高山彦と名を変えて今に至ることを伝えていた。
房公と芳公はこの歌を聞いて、火の国の神司・高山彦とは本名・高国別であり、黒姫の夫の高山彦とは別人であることに気が付いてきた。
玉公によると、火の国の神館は天教山の八島別夫婦が守っていたが、神命によって天教山に戻り、後には素盞嗚尊が連れてきた、天照大御神の厳の御霊である活津彦根命が就き、素盞嗚尊の娘・愛子姫を妻として治めているのだ、と説明した。
房公と芳公は、黒姫の夫探しの旅がまったくの人違いであることを悟った。二人は玉公にお礼を述べると、このことを黒姫に報せようと一目散に館を飛び出して行った。