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文献名1霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
文献名2第3篇 火の国都よみ(新仮名遣い)ひのくにみやこ
文献名3第24章 歓喜の涙〔988〕よみ(新仮名遣い)かんきのなみだ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-03 12:22:23
あらすじ黒姫は玄関口にて愛子姫と歌を交わした。黒姫は、高国別を自分の夫の高山彦だと勘違いしており、夫を奪ったと思い込んで愛子姫を非難し、自分の悲哀の思いを歌に託している。愛子姫は誤解を解こうと真実を歌で聞かせるが、黒姫は容易に信じず、かえって愛子姫にきつい言葉で歌を歌いかけた。奥の間にずかずか上がってきた黒姫は、愛子姫の居間に玉治別がいるのをみてますます嵩にかかって、夫のいない間に若い男を引っ張り込んだと愛子姫を中傷する。玉治別は、高山彦はずっと聖地にいたのであり、それを不憫に思ってはるばる黒姫にそのことを伝えようと筑紫の島まで追って来たのだ、と真心から説き諭した。夫が自転倒島にいると聞いて、初めて黒姫は以外の念に打たれて玉治別に真偽を糾した。玉治別は、火の国館の主人の姿を描いた絵象を指示し、筑紫の島の高山彦は、黒姫の探す夫とは別人であることを説明した。これで黒姫もようやく自らの勘違いを悟り、愛子姫と玉治別に謝罪をなした。黒姫は自分の勘違いではるばる遠い筑紫の島までやってきて火の国館を騒がせたことを情けなく思い、神前に懺悔を始めた。その中で、自分に生き別れの息子がいることを明かした。玉治別は黒姫の懺悔をふと聞いて、生き別れの息子の幼名や捨て子の様子を尋ねた。すると年・名前、体の特徴である痣の形、守り袋までぴったりと一致していることがわかった。玉治別と黒姫は、お互いに親子であることがわかり、思わぬ親子対面に二人はうれし涙にかきくれた。黒姫、玉治別、房公、芳公、孫公の五人は自転倒島へ帰ることとなり、愛子姫、久公、徳公にその場で別れを告げて聖地に向けて船出した。その後、黒姫が自転倒島の由良港に着き、秋山別の館に立ち寄り、麻邇の宝珠の御用をすることになるいきさつは、第三十三巻に述べられているとおりである。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月17日(旧07月26日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月25日 愛善世界社版283頁 八幡書店版第6輯 572頁 修補版 校定版299頁 普及版110頁 初版 ページ備考
OBC rm3524
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本文の文字数4367
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本文  愛子姫は黒姫の訪問と聞き、稍危み乍ら、玄関口に津軽命と共に出で迎へる。玉治別は後に只一人腕を組み、何か思案にくれてゐる。黒姫は玄関口に立ち、
『高山彦夫の命の後追うて
  黒姫司ここにきたれり。

 高山彦夫の命は如何にして
  われを出迎へ遊ばさざるや』

愛子姫『あらたふと黒姫司はるばると
  出でます事の心嬉しき。

 いざ早く館の奥へ上りませ
  汝来ますとてわれは待ちける。

 玉治別神の命も出でまして
  汝が入来を待たせ玉へり』

『いざさらばお構ひなくば奥の間へ
  進みて夫に言問ひ申さむ。

 高山彦夫の命の情なさよ
  吾を見すててかかる国まで。

 年老いし身も顧みず若草の
  妻持たすとは何の心ぞ。

 うらめしき汝が命の姿かな
  吾背の君のいろと思へば』

『黒姫の神の司よ聞しめせ
  吾背の君は高国別の神。

 高山彦神の命と名乗らせど
  活津彦根の神にましける。

 兎も角も奥に入りませ三五の
  神の司の黒姫の君』

『さやうならこれより奥へ駆込みて
  否応いはさず調べ見むかな。

 詐りの多き此世と知らずして
  さまよひ来りし心悲しも』

『疑ひの雲明かに晴らせませ
  吾背の君の絵像見まして』

『さてもさても合点のゆかぬ汝が詞
  荒井ケ岳の狐にあらぬか』

津軽命『これはしたり口が悪いも程がある
  黒姫さまよ何を証拠に』

黒姫『自転倒島を後にして  姿隠した高山彦の
 神の命の吾夫は  筑紫の島に渡るとて
 聖地を見すてて出でしより  妾は後を慕ひつつ
 遠き海路を打わたり  嶮しき山をふみ越えて
 雨にさらされ荒風に  髪梳りトボトボと
 三人の供を従へて  此処迄進み来りけり
 あゝ惟神々々  誠の神のましまさば
 愛子の姫がすげもなく  わが背の命を奥深く
 包みかくして白ばくれ  たばかる醜の枉業を
 あらはせ玉へ惟神  皇大神の御前に
 三五教の神司  黒姫謹み願ぎまつる』
愛子姫『天地の神も御照覧  いかに心の汚れたる
 愛子の姫も徒に  人の男をそそのかし
 宿の夫とぞなすべきか  黒姫さまの背の君は
 高山彦と聞くからは  同名異人のわが夫を
 誠の夫と思ひつめ  迷ひ玉ひしものならむ
 黒姫司きこしめせ  妾も神の大道を
 守る身なれば如何にして  詐り言を用ふべき
 早くも奥へ進みませ  汝が命の疑ひも
 旭に露と消え失せむ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と歌ひ終り、悄然として涙含む。愛子姫は黒姫のキツイ詞に、きつく侮辱された様な感じがして、女心の悲しくなり来れるなりき。
黒姫『高山彦さまが桂の滝とやらへ修業に行かれたから、不在だと言はれたさうだが、そんな仇とい事で、此黒姫はあとへ引く様な女ぢや御座いませぬ。女の一心岩でもつきぬく、何処までも調べ上げねば承知を致しませぬぞや。大方奥にかくれて御座るのだらう。稲荷か何かの託宣で、此黒姫が此処へ来るといふ事を前知し、大方皆の者が腹をあはし、門番迄に言ひ含め隠して御座るのだらう。何と云つても隠すより現はるるはなしといつて、終ひには尻尾が見えますぞや。ヘエ御免なさいませ、コレコレ番頭どの、奥へ案内して下さい。夫の所在が分るまではビクとも動かぬ此黒姫、マア暫く御厄介になりませうかい、オツホヽヽヽ』
 愛子姫は先に立ち奥の間に導く。此処には玉治別が腕を組んで、何事か思案にくれゐたり。
『コレコレお愛さま、お前も余程のすれつからしと見えて、千軍万馬の劫を経た此老人をうまくチヨロまかしますなア……ヤアそこには一人何だか見覚えのあるやうな男が坐つて居る。コリヤまア何の事ぢやいなア。大方こんな事だと思うて居つた。矢張高山彦さまは桂の滝へ行かれたのだらう。其不在の間にこんな男を伴れ込んで、イヤもうお話になりませぬワイ、オツホヽヽヽ』
『モシモシ黒姫さま、夫ある妾に対して殺生な事を云つて下さるな。外聞が悪う御座います』
『外分の悪い事を誰がしたのですか。高山彦の夫に代り、間男の成敗は私がする。サアお愛どの、気の毒乍ら、トツトと出て下さい。アーア高山さまが不在になるとサツパリワヤだ。一辺悪魔の大清潔法を行らないと、神さまだつて此館へは鎮まつて下さらないわ……コレお愛、何をグヅグヅして泣いてるのだ。泣かねばならぬやうな事をなぜなさつたのかい、オツホヽヽヽ、さてもさても気の毒なものだなア。私も同情の涙がこぼれませぬわいナ。ウツフヽヽヽ、あのマア悲しさうなないぢやくりわいのう』
 玉治別はフツと顔をあげ、
『ヤアあなたは黒姫さま、最前から待つて居りました。サア此方へ御越し下さいませ』
『何だ、お前は玉ぢやないかい、門にも玉が居れば中にも玉が居る。お前がお愛の情夫だなア。何と抜目のない人間だこと。高山さまの尻を追うてこんな所迄やつて来て、チヨコチヨコとお愛に可愛がつて貰つてゐるのだろ、オホヽヽヽ。若い時は誰もある慣ひだ。本当に敏腕家だ。ドシドシと体主霊従主義を発揮しなさるがよからう。若い時は二度ないからなア。併し乍らよう考へて御覧、お前も三十の坂を越えてるぢやないか。十九や二十の身ではなし、チツとは心得たがよからうぞえ。併しお前の恋愛を私が彼これ云ふのぢやない。サア早く今の間にお愛を伴れて駆落をして下さい。高山さまがお帰りになると、大騒動だから、チヤツと早う出なさい。お前が可哀相だから、親切に言ふのだよ』
『アーア、情ない事になつて来た。黒姫さま、私はたつた今の先、このお館へ参つたのですよ。実は高山彦さまが、筑紫の島へ渡ると捨台詞を使つて、あなたにお別れになりました。私もさうだと思つて居つた所、豈計らむや、高山彦さまは伊勢屋の奥座敷にかくれて暫く御座つたさうですが、黒姫さまがいよいよ自転倒島を立たれた時分から、ヌツと顔を出し、毎日日日錦の宮へ御出勤になつて居られますよ。そこで言依別命様が聖地を立たれる時……黒姫さまが可哀相だから、お前御苦労だが宣伝旁筑紫の島へ行つて、黒姫さまをお迎へ申して来い、さうして夫婦和合して御神業にお仕へなさるやう取計らへ……との御命令で、はるばる貴女の後を慕うて此処まで参つたの御座います。愛子姫様と云々などと云ふやうな事は夢にも御座いませぬから、どうぞ諒解して下さいませ』
と真心面に表はれ、慨歎やる方なき其顔色を見て取つた黒姫は稍心やはらぎ、
『何、高山彦さまが聖地に御座るとは、そりや本当かい?』
『何嘘を申しませう。万里の波濤を渡つて、こんな所まで嘘を云ひに来る者が御座いませうか。黒姫さま、よく御覧なさいませ。此絵像は当家の御主人の生姿で御座いますから、能く御見並べなさいませ。本年三十五才の屈強盛りの活津彦根神様が高国別と御名乗り遊ばし、表向は高山彦と呼ばれて御座るのですから、あなたの御主人とは全く同名異人ですよ』
 黒姫は其絵像をジツクリと眺め、
『いかにも違つてゐる。……ヤア愛子姫様、えらい御無礼な事を申上げました。どうぞはしたない女と思召さず、神直日に見直し聞直して下さいませ』
『ハイ有難う、御諒解さへゆきましたら、こんな嬉しい事は御座いませぬ。どうぞ御緩りと御泊り遊ばして、神様の御話を聞かして下さいませ』
『愛子姫様、黒姫様は別に悪い心で仰有つたのぢや御座いませぬ。余り一心に当家の御主人を自分の夫と思ひつめ、はるばるお出でになつたものですから、逆上遊ばすのも無理は御座いませぬから、どうぞ悪く思はないやうにして下さいませ』
『ハイ有難う御座います』
と云つた限り、疑のはれた嬉しさに愛子姫が歔り泣きの声さへ聞ゆる。
『アヽ私位因果な者が世にあらうか。遥々夫の後を慕うて来て見れば、人違ひ、捨てた吾子ではあるまいかと、はるばる建日の館へ行つて見れば、之も亦人違ひ、どうしてこれ程する事なす事が食ひ違ふのだらうか。之もヤツパリ前生の罪、否々神様から賜はつた伜を、若気の勢で捨てた天罰が酬うて来たのだらう……アヽ神さま、どうぞ許して下さいませ。さうして夫の所在の分りました以上は厚かましく御座いますが、どうぞ伜の所在を知らして下さいませ。一度伜に会はなくては死ぬ事も出来ませぬ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と神前に向ひ手を合せ、涙乍らに祈願する。玉治別は首を傾け乍ら、
『モシ黒姫さま、今始めて承はりましたが、貴女にはお子さまがあつたのですか。そして其子はいつお捨てになりましたか。実は私も捨子で御座いますが、未だに両親が分りませぬので、日夜神さまに祈り、一目なりとも両親に会ひたいと、今も今とて憂ひに沈んで居つた所で御座います』
『何、玉治別さま、お前も捨子ですか、そりや初耳だ。丁度私の子が今生きて居つたならば三十五歳になつてる筈だ。お前の年は幾つだつたかなア』
『ハイ、当年三十五歳になりました』
『何三十五歳! そりや又不思議な事もあるものだ。併し私の捨てた子には、背中の正中に富士の山の形が、白い痣で出て居つた筈だ。これは全く木花咲耶姫さまの因縁のある子供だからといつて富士咲といふ名をつけておいたのだが、余り世間が喧ましいので、守り袋に富士咲と名を書きしるし四辻にすてました。思へば思へば可哀相なことをしました』
と泣き沈む。
『何と仰有います。其捨子は富士咲と申しましたか、そして背中に富士の山の形の白い痣があるとは合点のゆかぬ御言葉、一寸失礼ですが、黒姫さま、私の背中を見て下さいませぬか。私の小さい時は富士咲と申しました。そして人の話によると、何だか山のやうな痣が出来て居るさうです』
『それは又耳よりの話だ。一寸見せて御覧!』
 「ハイ」と答へて玉治別は肌をぬぎ背をつき出す、黒姫は念入りにすかして見て、
『ヤアてつきり富士の山の痣、そしてお前の幼名が富士咲と聞く上は、全く私の伜だつたか。アヽ知らなんだ知らなんだ、神さま、有難う御座います。因縁者の寄合で珍らしい事が出来るぞよと大神さまが仰有つたが、いかにも因縁者の寄合だなア』
と嬉し涙にかきくれる。
『そんなら貴女私の母上で御座いましたか。存ぜぬ事とて、何時とても御無礼を致しました。どうぞお母さま御赦し下さいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と両手を合せ、嬉し涙にかきくれる。
 これより黒姫は愛子姫に厚く礼を述べ、無礼を謝し且つ徳公、久公にも其労を謝し別れを告げ、いそいそとして玉治別、孫公、房公、芳公と共に再び建日の港より船を漕ぎ出し、由良の港の秋山彦が館に立寄り、麻邇宝珠の神業に参加し、目出度く聖地に帰る事となりたるは、三十三巻の物語に明かな所であります。惟神霊幸倍坐世。
    ○
 かく述べ終られた時しも正に午後六時、表に出て天空を見れば、ドンヨリと曇つた大空を南北に区劃した青雲巾二三間と見ゆるもの、東の山の端より西の空遠く、輪廓正しく帯の如く銀河の如く横たはりつつありました。
(大正一一・九・一七 旧七・二六 松村真澄録)
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