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文献名1霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻
文献名2第4篇 山青水清よみ(新仮名遣い)やまあおくみずきよし
文献名3第25章 妖魅来〔1037〕よみ(新仮名遣い)ようみらい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-28 12:20:53
あらすじ
綾部への帰途、喜楽は四方氏とともに土田氏宅を訪ねていた。そこへ土田氏の従弟の南部という男が危篤だという電報が届いた。喜楽は土田氏に頼まれて神界に伺ってみたところ、一週間の命だという。

土田氏によると、南部は金光教の布教師をつとめていたが、身が定まらない男で、行く先々で婦女関連で失敗し、破門されて妹のところで厄介になっていたのだという。

喜楽は、神様に願って三年命を長らえてもらうようにし、その代わりにその間の行状を見届けた上で、その後の寿命を定めることとした。土田氏はその旨を京都の南部の妹宅に書いて送った。

はたして、南部は一週間後に息が絶えたが吹き返し、次第に快方に向かった。土田は京都に行って南部に面会した際、南部が回復したのは綾部に現れた金神様のおかげだと改心を説いたが、南部は土田の言うことはまったく聞かず、自分の回復は金光教のおかげだと吹聴して歩いた。

すると二三か月して南部氏はまた体調がすぐれなくなって重体になってしまった。土田氏は今度は、綾部に向かって祈れ、としか返事を出さなかった。

南部の母と妹は困ったときの神頼みでやむなく綾部に向かって祈願したところ、冬にもかかわらず大きなアブが入ってきて、病床の南部氏の頭の上を三回まわった。

すると南部氏は腹部にたまっていた汚いものを排泄し、それから日を追って快方に向かうこととなった。これが南部氏が大本に入信した動機であった。

喜楽と四方平蔵氏が綾部に帰ってくると、上谷の修行場には邪神が襲来しており、福島寅之助、村上房之助、野崎篤三郎らの神主は大乱脈となり、近郷近在を駆け回って大本の悪口を触れ回っていた。

福島は大音声で、自分こそが真の艮の金神だと怒鳴りたてている。この発動騒ぎに田舎人が珍しがって、毎日四方八方から弁当もちで見物に来る有様であった。喜楽は一生懸命に鎮圧に力を尽くし、ようやく審神者の特権で邪神を鎮めることができた。

足立正信氏は神懸に疑念を抱いていたので、これを機に再び反対運動を始め、金明会の仲は混乱し始めてきた。幸い、四方平蔵氏、四方藤太郎氏らの熱心な調停で、やや反対運動も小康を得た。

福島寅之助氏は正直者と評判を取っていたが、叛旗を掲げたのであった。人間としては申し分ない心がけのよい人であるが、悪魔・妖魅は世人に信用のある善良な人間を選んでうつりたがるのである。

それゆえ、神懸の修行をする者は、よほど胆力があり知恵が働く人でないと、失敗を招くのである。良き実を結ぶ木には害虫がわきやすく、美しい花の咲くものにはかえって虫がつきやすい。正直だから、善人だから悪神がつくはずがないと思うのは、大変な考え違いなのである。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年10月12日(旧08月22日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年3月3日 愛善世界社版299頁 八幡書店版第7輯 143頁 修補版 校定版310頁 普及版150頁 初版 ページ備考
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本文  篠村から徒歩となつて、帰途を幸ひ八木の福島寅之助方へ立寄つて見た。所が主人の寅之助氏は綾部へ修業に行つた不在中で、妻君の久子サンと子供が居つたので、四方氏から綾部の様子や福島氏の神懸りの次第まで逐一話して聞かした。されど久子は金光教の信者である所から、霊学の話などは半信半疑で、何を云ふても鼻の先であしらひ、腑におちぬやうな按配で面白くない。二人はソコソコにして、此家を立出で八木の大橋を渡つて、刑部といふ所に土田雄弘氏の寓居を訪ね、神の道の御話など互に語らふ所へ、京都から一本の急電が届いた。土田氏は何事ならむと早速開いて見れば、京都に居る従弟の南部孫三郎といふ人が、病気危篤であるからすぐ来てくれといふ電信であつた。土田氏は余り豊な生活でないから京都へ行く旅費もない。大に困つて喜楽に向ひ言ふよう、
土田『只今の電報は私の従弟の南部といふ者が、今まで金光教会の布教師をつとめて居ましたが、身の修まらぬ人物で、今迄京都から尾州、遠州、駿州あたり迄十三ケ所も金光教会所を開いては、婦女に関係をつけては失敗し、又土地をかへては教会を開き、同じく婦人に関係しては追出され、遂には金光教会の杉田政次郎氏から破門されて、今の所では妹の家に厄介になつて居りますが、二三年前より肺結核にかかりブラブラ致して居りました。とうとう神罰が当つたのでせうから、到底全快は覚束なからうと信じて居りますけれど、なる事なら今一度神様の御助けに預りたいものです。先生の御祈念で、ま一度助けてやつて下さる事は出来ますまいか』
と心配相に頼み込む。喜楽は気の毒がり、直に神界に伺うて見た。其神占によると、今後一週間目の日が此病人に取つて大峠である、九分九厘までは到底助かるまい……と云つた。そこで土田氏は……
土田『モシ南部の命をお救ひ下さるなれば、私から彼を説いてあなたの弟子と致し、お道の為に誓つて尽力をさせませう』
と云ふ。喜楽は笑ひ乍ら、
喜楽『又金光教会の布教師時代の行方をくり返されますと困りますなア。併しここ三年の間、神様に願つて命を伸ばして貰ふやうに致します。神様は三年間の行状を見届けた上で、又々寿命をのばして下さりませう。此事を手紙に書いて南部サンへ知らしておやりなさい。さうすれば京都へ旅費を使うて行く必要はありませぬ』
 土田氏は喜んでこまごまと手紙を書き京都行きも見合した。果して南部氏は七日目に一旦息が絶え、暫くして再び息を吹き返し、それから日に日に快方に向つた。土田氏は南部全快の砌に京都へ行つて会見した際、
土田『貴兄の今度の大病が全快したのは、全く綾部に現はれた艮の金神さまの御神徳と、上田といふ人の熱誠なる御祈念の賜物である』
と云つて喜楽に約束したこと及綾部に於ける神懸修行の実験談などを詳細に話して聞かせた。されど南部は、
南部『必しも綾部の艮の金神様の御神徳ではない。平素信ずる天地金の神さまと、金光教祖の御守護にて、吾大病を綾部の神や上田といふ男を使役してお助け下さつたのである。故に此御恩の九分九厘はヤツパリ金光さまにある』
と云つて、直に京都の島原の金光教会へ御礼参りをなし、綾部の方へは手もロクに合はさなんだのである。
 それから後は『今まで金光教の布教師を拝命し乍らいろいろの醜行を敢てし、神様の御怒りにふれて一命すでに危ふき所を、お慈悲深き天地金の神や金光教祖の御威徳でおかげを被つた』とて、朝晩、母親や妹や自分が代る代る島原の教会所へ参拝して居つた。そした所が、一二ケ月たつと今度は又腹が烈しくいたみ出し、日を追うて重体に陥り、日参所か室内の運動も出来なくなつて了つた。それから母や妹が一生懸命に金光教会へお百度をふんでみたが少しも霊験が現はれぬ。大学病院へかつぎこんで診察して貰うと、非常に重い盲腸炎だから、切開手術を施さねばならぬが、病人の体の衰弱が甚しいから、生命は受合へぬとの医者の言であつた。そこで已むを得ず施術して貰ふのを見合せ、吾家へつれ帰り、成行に任せて、死期の至るを待つ外手段がなかつたのである。
 益々重態に陥り、如何ともすることも出来なくなり命旦夕に迫つた。又もや従弟なる土田氏へ……病気危篤すぐ来れ……の電報をうつた。土田氏は例の刑部の寓居にありて、之を披見し「綾部に向つて手を合せ」の返電を打つておいて上京せなかつた。京都の南部氏の母と妹とは其電報を見て、叶はぬ時の神頼み、命さへ助けて下さらば何神様でもよい……と綾部の方に向つて「艮の金神様、今迄の取違と御無礼の段を御赦し下さいませ。孫三郎の一命を今一度お助け下さらば、彼の体も精神も差上げまして、艮の金神さまの御用をさして頂きます」
と一心不乱に祈願をこめた。ふしぎや忽ち感応あつて、南部氏の病床に一寸許りもあらうと思ふ大きな虻が、寒中にも抱はらずブンと音を立ててどこからともなく飛来り、病人の頭の上を三回舞ひ了るや、南部氏の腹部は岩でも砕けるやうな音がして、二三升許りも汚いものが肛門から排出すると共に、それより腹部の激痛も止まり、日を追うて快方に向つた。此れが南部氏が金光教を断念して綾部の大本へ入信した動機であつた。
 それから二人は綾部へ帰つて見ると、上谷の修行場に邪神が襲来して、福島寅之助、村上房之助、野崎篤三郎其外一二名の神主は大乱脈となり、あらぬ事許り口走つて騒ぎまはつて居た。村上は近郷近在を昼夜の区別なくかけまはり、いろいろの事をふれまはつて、大本の名を悪くせむと一生懸命に妖魅がついて狂ひまはつて居る。福島寅之助は上谷の村中に響きわたるやうな大音声で、
福島『丑の年に生れた寅之助は、福島只一人であるぞよ。それぢやによつて此方が誠の艮の大金神であるぞよ。上田は未の年の生れ、出口直は申の年生れであるぞよ。漸く二人合はして坤の金神ぢやぞよ。二つ一つぢやぞよ。とても此福島寅之助には叶はぬぞよ。サア皆の者共、これから今までの取違をスツパリ改心致して、此方にお詫致せば今までの罪を許してやるぞよ。出口と上田は裏鬼門の金神ぢや、誠の丑寅の金神は出口直ではなかりたぞよ。これが分らぬ奴はきびしきいましめ致して、谷底へ放るぞよ。これからは福島寅之助を神が使うて、三千世界の立替立直しを致して、神も仏事も人民も餓鬼虫けらに至る迄勇んでくらさすぞよ。これが違うたら神は此世にをらぬぞよ。大の字逆様になりて居るぞよ。今に天地がでんぐり覆るぞよ。用意をなされよ。今に足許から鳥が立つぞよ。艮の金神は今まで悪神祟り神とけなされたが誠に結構な神でありたぞよ。神が表に現はれて善と悪とを立分けて世界の人民を改心さして松の神世にいたすぞよ。神は決してウソは申さぬぞよ。疑へば神の気障りになるぞよ。之から上田が帰つても相手になる事はならぬぞよ。誠の艮金神が気をつけるぞよ』
などと赤裸となり妖魅がうつつて、教祖の筆先の真似計りを、のべつ幕なしに呶鳴りちらして始末に了へない。喜楽は直に神界に祈願をこめ鎮魂を修した。其為一旦邪神の暴動が鎮定したが、又外の神懸にも沢山の妖魅の同類がうつつて福島の神に加勢をする。遂には神懸一同が口を揃へて、
『皆の者よ。シツカリ致さぬと、上田の曲津にごまかされて、ヒドイ目にあはされるぞよ。誠の艮の金神は福島大先生に違ひはないぞよ』
と叫ぶのを聞いた福島は、再び邪神におそはれて、黒い濃い眉毛を上げたり下げたり、目を剥いたり、腕をふり上げたり、飛んだりはねたり、尻をまくつてはねまはつたり、畳は穴があき床はおつる、ドンドンドンと響きわれるやうな音をさして、非常に大騒ぎを再演し出したので、田舎人が珍しがつて、四方八方から毎日々々弁当持で見物に来る。喜楽は一生懸命に鎮圧に力を尽しても、二十有余人の神憑の大部分に、不在の間に妖魅が憑つたのであるから、中々容易にしづまらない、こちらを押へばあちらが上る、丁度城の馬場で合羽屋が合羽を干してゐた所へ俄に天狗風が吹き合羽が舞ひ上り、一度に押へることが出来なくなつて、爺があわてて堀へはまつたやうな具合になつて来た。そして日一日と狂態が烈しくなつて来る。つひには修行者の親兄弟が怒つて来て、
『吾家の大事な伜を気違にしたから承知せない、吾妹を狐つきにしよつた……おれの子を巫子に仕立よとしよつた……狸をつけたのだろ、其筋に告訴してやる』
などと一斉にせめかくる。四方藤太郎は其中でも稍常識を持つてゐたから、陰に陽に気を配り、忠実に審神者の手伝ひをしてくれたので、喜楽も非常に力を得、千難万苦を排して一斉の反抗も妨害も頓着なく、あく迄審神者の職権をふりまはして漸く邪神を帰順せしむることを得た。
 一方では金光教師たりし足立正信氏等は心機一転して、金明会を破滅せしむるは此好機を措いて他にある可らずとなし、数多の信徒をひそかに、以前の田中新之助といふ信者の内に集めて、鎮魂帰神の霊術の不成績なることを強調し、且つ喜楽を放逐すべく密議をこらしてゐた。折角固まりかけてゐた金明会の信徒は五里霧中に彷徨し、去就に迷ひ、四分五裂の状態になつて来た。えたり賢しと、中村竹造、四方春三の野心家等が、諸方へかけまはつて喜楽の神憑は有害にして無益だとか、狐使だとか、魔法師だとか力限り根限り下らぬことをふれ歩く。遂には教祖のことまで悪口するやうになつて来た。其時の有様は全く万妖悉く起るてふ古事記の天の岩戸がくれ式であつた。
 幸にして四方平蔵、同藤太郎等の熱心と誠実なる調停で、一時は喜楽に対する猛烈な反抗も稍小康を得ることとなつた。そしてイの一番に叛旗をかかげたのは福島寅之助氏であつた。元来福島は正直の評判をとつてゐる、人間としては申分のない心掛のよい人である。妖魅といふ奴は中々食へぬ奴で、世界から…彼は悪人ぢや、不正直だと見なされてゐるやうな人間にはメツタに憑るものでない。たとへ憑つて見た所で其人物に信用がなければ、世人が信用せないことを知つてゐるからである。そこで悪魔は必ず善良なる人間を選んで憑りたがるものであるから、神憑の修行する者は余程胆力のある智慧の働く人でないと、とんだ失敗を招くものである。良き実を結ぶ木には害虫がわき易いものである。菊一本にても、大きい美しい花の咲くものには虫が却てよけいにわくやうなもので、正直だから善人だから、悪神がつく筈がないと思ふのは、大変な考へ違である。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一一・一〇・一二 旧八・二二 松村真澄録)
(昭和一〇・六・一〇 王仁校正)
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