鬼雲彦は、左守の鬼春別、右守の雲依別、石生能姫、鬼熊別その他の幹部連を大雲山の岩窟に集めて三五教・ウラル教に対して取るべき手段を謀議していた。
鬼雲彦は、鬼熊別の妻子が三五教に帰順して宣伝使となり、バラモン教の教線をかく乱しているとの報をしばしば耳にしていたので、二人の中にはいつしか大障壁が築かれた。
鬼熊別は左守の職を辞して部下たちと共に自分の館に潜んでバラモン教の行く末を案じ祈願していた。
今日は珍しく鬼雲彦の使いによって呼び出され、この協議の席に姿を現していた。この席には鬼雲彦の腹心ばかりが集まっていたので、鬼熊別との間には何となく意志の疎隔を来していた。
鬼雲彦(大黒主)は、三五教がバラモン教の本城であるハルナの都を覆そうとする計画を遂行しつつあることを示し、腹心たちにこれに対する対策を練るようにと申し渡して、奥の間に姿を隠した。
鬼雲彦の寵愛を受けている石生能姫が議長となって会議は始まった。左守は、鬼熊別が三五教のスパイとなっているとあからさまに疑いをかけた。鬼熊別はこれに反論して口論となるが、右守は鬼熊別を弁護した。
最終的には、石生能姫が鬼熊別監督の役を担うことになり、また明日からは大黒主の館へ出勤するようにと鬼熊別に情けをかけた。
石生能姫は大黒主の代理権を発揮し、左守の鬼春別には斎苑の館を、大足別にはカルマタ国のウラル教の本城を攻め落とすべく出陣を命じた。鬼春別が帰るまでは鬼熊別を左守に任命し、これをもって会議は終了した。
右守の雲依別は表面上左守と態度を合わせていたが、その実は鬼熊別を心中畏敬していた。石生能姫は、鬼熊別の男らしく威儀備わる容貌にひそかに恋着心を抱いていた。そのため、鬼熊別に同情する右守を止め、鬼熊別を讒言する左守と大足別に出陣を命じたのであった。
大黒主も恋愛の雲に包まれて、石生能姫に対しては善悪にかかわらず一言半句も反対したことはなかったのである。