二人は天国浄土の美しい光景の中を進んで行ったが、足は疲れ腹はすいてきた。天国浄土の旅路にも、飢えや渇きの悩みがあるものかと座りこんで休息しながら、祈願を深く凝らし、悔悟の涙にくれていた。
そこへ美しい女神が二個の果実をたずさえて現れ、二人に話しかけた。女神は生魂姫命と名乗り、月照彦神の命によって都率天からやってきたという。
カルとレーブは女神に礼を述べて果実をいただこうとしたが、女神は二つの果実の効能を説明し始めた。
一つの果実は足魂といって、味よく内臓をさわやかにし五年十年も空腹を満たすもの、一つは玉都売魂といって苦く固く、わずかに空腹を満たすことができるだけのものだという。
カルとレーブはお互いに、自分が玉都売魂をいただくので、足魂は相手にやってくれと女神に申し出た。
女神は、人に甘いものを与え自分が辛抱して善をおこなった、という心がある間は、真の善心ではなく虚偽的善事だと断じ、それによって天国浄土に行こうという野心があるのではないかと戒めた。
二人は女神に心を見透かされて恥じ入った。女神はさらに、どちらを取るかと問いかける。レーブはどちらも取ることはできないと答えると、女神は『天の与ふるを取らざれば災其身に及ぶ』とこれも戒めた。
カルはついに、レーブには気の毒だが自分の身を保つために足魂が欲しいと女神に頼んだ。カルは、人間の判断ではなく女神が与える方を受け入れる、と応えた。
女神は、何事も人間の道徳や倫理では解決がつかない、神にお任せするのが第一だと諭し、ようやく神界旅行の資格ができたとカルに足魂を与えた。カルは足魂を受け取ると瞬くうちに平らげてしまった。
女神は玉都売魂を地上に投げうった。すると五色の火光が発射して、数多の美しい女神となって天上に帰っていく。二人はこの光景を眺めて伏し拝んでいる。
女神は懐からもう一つ足魂を取り出すと、レーブに与えた。レーブは瞬くうちに木の実を平らげてしまった。
生魂姫神は、数多の女神に囲まれて中空に舞い上がり、天上に去って行った。カルとレーブは互いに顔を見合わせて、この顛末に心を揉んでいた。
レーブは、苦いといった玉都売魂から数多の女神が現れたところを見ると、玉都売魂はどんなにか結構な果実だったかもしれないが、天から与えられなかったのだから、仕方がないと述懐した。
カルは天国といってもやはり、苦い目、苦しい目をくぐり抜けなければ都率天へは昇れないというお示しではないか、一つの功もたてずに天国をぶらついていては、本当の栄えと喜びは出てこないと、心を取り直し、天国でひと働きしようとレーブに呼びかけた。
二人が歩みだすと、右側の下の道には現界の人間のありさまが見え、鬼や夜叉のような人間が羽振りをきかせ、正直な人間は車に引かれたり血を絞られたり、苦役を強いられていた。
またその先の道には、ランチ将軍の軍勢が黄金姫、清照姫と死闘を繰り広げ、狼の群れに追い散らされる様が見えた。生魂姫神が再び現れ、レーブとカルが見たものについて問いかけた。
女神は、二人が今見たような現界幽界の亡者を救おうと、国治立大神様は三五教を開かれたのだと諭した。そして難を避け安きにつき、世界人類の苦難を傍観して人力の及ぶところではないという態度を、無責任・無能・卑怯・人畜と非難した。
そして自分の良心と相談しなさいと忠告し、去って行った。