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文献名1霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻
文献名2第2篇 恵の松露よみ(新仮名遣い)めぐみのしょうろ
文献名3第8章 小蝶〔1198〕よみ(新仮名遣い)こちょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-02-25 18:28:18
あらすじ
お千代は館の戸を開けて面に出た。すると魔我彦が腰を曲げて差し足抜き足で逃げて行く。お千代は魔我彦の後ろから笑い出した。

魔我彦は驚いて振り返り、お千代に対して、松彦と松姫の関係を蠑螈別やお寅に注進して仲を妨害してやると脅す。お千代は反対に、ウラナイ教の教義上からも二人は夫婦の身魂であると反論し、逆に逃げ腰の魔我彦を嘲笑する。

松彦と松姫は、侠客に育てられて気が強く型にはまらないお千代の気性を心配している。松彦はお千代がいつまでも魔我彦をそしる歌を歌っているので、中に入るようにと呼びにきた。

松彦と松姫はお千代を諭すが、自分はお寅みたいな中途半端な女侠客ではなく、フサの国と月の国の大親分になるつもりだと大きく出て両親をやきもきさせたり笑わせたりする。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月12日(旧10月24日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月12日 愛善世界社版132頁 八幡書店版第8輯 298頁 修補版 校定版138頁 普及版53頁 初版 ページ備考
OBC rm4508
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本文  松彦松姫両人は  いとし盛りの吾娘
 千代子と共に歌垣に  たちて心の誠をば
 語らひ居たる折もあれ  突然起る笑ひ声
 瓦をぶちあけた其如く  ガラガラガラといやらしく
 聞え来れる其音色  嫉妬嘲笑交り来て
 いとも不穏に聞えけり  娘のお千代は門口を
 引開け外を眺むれば  豈図らむや魔我彦が
 両手で耳を抑へつつ  腰をくの字に曲げ乍ら
 差足抜足逃げて行く  お千代は後を顧みて
 やさしき声をふり絞り  紅葉の様な手をふつて
 ホヽヽヽヽと笑ひ出す  お千代の声に驚いて
 後振返る魔我彦は  真赤な顔に団栗の
 はぢけた様な目を剥いて  舌を噛み出し腮しやくり
 イヒヽヽヽヽ、イヒヽヽヽ  勝手な熱を吹きよつて
 しつぽり泣いたがよからうぞ  之から俺は蠑螈別
 お寅婆さまの前に出て  一伍一什を物語り
 二人の恋を何処までも  妨害せなくちやおかないぞ
 覚えてゐよと云ひ乍ら  お千代を睨めつけスタスタと
 館をさして帰り行く  お千代は又もや打笑ひ
 『ホヽヽヽヽ魔我彦が  曲つた心の恋衣
 今は敢なく破れけり  破れかぶれの負惜み
 立派な夫のある人を  神の教にあり乍ら
 女房にしようとは何の事  横恋慕も程がある
 枉の憑つた魔我彦は  恋に眼を晦ませて
 善悪邪正の大道を  踏み外したる浅間しさ
 父と母とは昔から  天下晴れての夫婦仲
 誰に憚る事あろか  笑へば笑へ誹るなら
 何程なりとも誹れかし  私と云ふものある上は
 仮令蠑螈別さまが  何と云はうとも構やせぬ
 ウラナイ教のお道から  云うても父はユラリ彦
 末代日の王天の神  母の命は上義姫
 誠の道から云うたなら  戯けた話であるけれど
 ウラナイ教の道として  何とか彼とか神の名を
 つけて喜んで居る上は  仮令松彦父上が
 ユラリの彦となりすまし  母の命は上義姫
 神と神との夫婦ぢやと  云つた処で何悪い
 蠑螈別もお寅さまも  とつくに承知の上ぢやないか
 何程魔我さまがゴテゴテと  曲つて来やうが矢も楯も
 二人の仲にたつものか  ホヽヽヽヽあた可笑しい
 父と母との久方の  睦言葉を外面から
 立聞きなして妬け起し  悋気の焔に包まれて
 外聞の悪い門口で  カヽヽヽカツと笑ひ出す
 一丈二尺の褌をば  締めた男のすることか
 恥を知らぬも程がある  こんなお方が副教主
 蠑螈別の片腕と  なつて厶ると思うたら
 仏壇の底めげぢやないけれど  阿弥陀が零れて来るぢやないか
 オホヽヽヽヽオホヽヽヽ  魔我彦さまのスタイルは
 何と仮令て宜からうか  溝に落ちたる痩鼠
 雪隠に落ちた鶏が  尾羽打枯らし腰曲げて
 犬の遠吠え卑怯にも  笑つて逃げ行く浅間しさ
 オツトドツコイ惟神  神のお道にあり乍ら
 腹立ち紛れに魔我彦の  知らず知らずに悪口を
 子供の身として述べ立てた  此世を造りし神直日
 心も広き大直日  道理を知らぬ年若の
 娘の云つた世迷言  直日に見直し聞直し
 悪言暴語の罪科を  何卒お許し下さんせ
 父と母との身の上を  思ひにあまつて思はざる
 脱線振りを発揮した  乙女心を憐れみて
 許させ給へ三五の  皇大神の御前に
 慎み敬ひ詫奉る』
松彦『千代子は外へ出たきり、何だか謡つてゐる様だな。うつかりした事を云つて魔我彦さまの機嫌を損つてはならないがな』
松姫『お千代は何分有名な侠客に育てられ、小さい時からスレツからしに育て上げられたものだから、肝玉も太く、年に似合はぬ早熟くさりで随分偉い事を云ひますよ。時々脱線振りをやつて蠑螈別さまや魔我彦さまをアフンとさせ、ヤンチヤ娘の名を擅にして居ります。それ故私も名乗つてやり度かつたなれど、故意とに隠して居りました』
松彦『お千代には如何云ふ機でお前は会うたのだ』
松姫『あのお寅さまが連れて来たのですよ。同じ侠客同志で心安かつたと見えて、親も兄弟もない娘だから、ここで立派に育て上げ度いと云つて親切に連れて来たのです。それから私が様子を考へて居れば全く私の娘と云ふ事が分り、矢も楯も堪らず嬉しうなつて来ましたが、今名乗つては、あの子の為めによくないと思ひ、今日が日までも隠して居りました。本当に子供と云ふものは教育が大切ですな。親のない子が泥棒になつたり、大悪人になるのは世間に沢山ある習ひですから、これから十分に気をつけて教育をしてやらねばなりますまい。十二や三で婆の云ふ様な事云ふのですから困つて了ひますわ』
松彦『さうだな。子供は教育が肝腎だ。子供と云ふものは模倣性を持つてゐるから見聞した事を自分が直に実行したがるものだ。子供は親の真似をして遊びたがるものなり、大人は亦白い石や黒い石を並べて子供の真似をしたがるものだ。これもヤツパリ因碁だらうよ。アハヽヽヽヽ』
松姫『私だつて、貴郎だつて今こそ神様のお道に仕へて人に崇められて先生顔をして居りますが、あの子の出来た時分は随分なつて居ませぬでしたな。あの時の魂で宿つた子だもの、碌な子が生れさうな事がありませぬわ。まだまア不具に生れて来なんだのが、神様のお恵みですよ』
松彦『然しお千代は何時迄も外に立つて魔我彦だとか、何とか謡つてるぢやないか。困つたものだな。どれお千代を呼んで来う』
と云ひ乍ら松彦は立つて門口の戸を開き外を覗き込んだ。お千代はイーンイーンをしたり、目を剥いたり拳骨を固めて何だか人の頭でも殴る様な真似して、空中を殴つてゐる。
松彦『これこれお千代、お前、そりや何をして居るのだい』
千代『はい、これはこれは末代日の王天の大神様、上義姫との御再会を祝するためきつく姫が岩戸の外で神楽を奏げて居りますのよ。何ぼ娘だつて御夫婦の久し振りの御対面に御邪魔になつては、ならないと気を利かして居りますのよ。今の中にお母アさまと、とつくり泣いたり笑うたり、力一杯お芝居を成さいませ。お父さまやお母さまのお楽しみのお邪魔になつてはなりませぬからな』
松彦『何と呆れたお転婆だなア。これ、千代サン、そんな斟酌は要らない、とつとと入つておいで』
千代『もう暫くここで遊ばして下さいな』
松彦『遊ぶのはいいが魔我彦が何うだの斯うだのと憎まれ口を叩いちやいけないよ』
千代『だつてお父さま魔我彦さまは仕方のない男だもの。チツと位恥をかかしてやらねば後の為めになりませぬわ。男の癖に間がな隙がな、お母アさまの居間へやつて来て、味噌ばつかり摺るのですもの、好かぬたらしい。あたい腹が立つて堪らぬのよ。今日まで辛抱して居つたのだけれど、お父さまとお母さまが分つたからは、もう大丈夫。魔我彦位が何ぼ束でやつて来ても大丈夫ですわ。親の光は七里光ると云ふぢやありませぬか。永い間親なしぢや親なしぢやと云つて軽蔑され、悔し残念を今まで耐つて居つたのですよ。其中でも魔我が一番私を軽蔑したの。さうだから日頃の鬱憤が破裂して一人口から悪罵が破裂するのですもの。チツとは云はして下さいな。まだこれ位云つた処で三番叟ですわ』
松彦『お前の心になれば無理も無からうが、そこを辛抱するのが神様の道だ。さうズケズケと云ひたい事を云つて人に憎まれるものではない。子供は子供の様にして居ればいいのだよ』
千代『魔我彦に憎まれたつて構はぬぢやありませぬか。お父さまとお母さまに可愛がつて貰ひさへすれば宜しいわ、ねえ』
松彦『兎も角お母さまが待つてゐるからお這入りなさい』
 お千代はニコニコとして松彦の後に従ひ這入つて来た。
松彦『お千代は随分スレツからしになつたものだ。困つた事だな』
松姫『本当に困りますよ。これが私の娘だと大きな声では云はれないのですもの。本当に困つちまいます。こんな子が成人したら又博奕打ちの親方にでもなりやせまいかと思へば末が恐ろしう厶いますわ』
千代『お母さま、私侠客になるつもりなのよ。弱きを助け、強きを挫き、大きな荒男を頤で使ひ女王気取りになり、姐貴姐貴と称へられて名を遠近に轟かすのが人生第一の望ですわ。お寅婆アさまを見なさい。侠客だつたお蔭で蠑螈別さまのお気に入りになつて居らつしやるぢやありませぬか』
松姫『これお千代、お前はお寅婆アさまの様になりたいのかい』
千代『あたい、お寅婆アさまの様な中途半の女侠客は嫌ひよ。波斯の国、月の国きつての大親分にならうと思つてゐるの』
松彦『困つたな、偉いものを生んだものだ。やつぱり種子は争はれぬものかいな』
千代『ホヽヽヽヽ茄子の種子は茄子、瓜の種を蒔けば瓜の苗が生えます。私はお父さま、お母さまのヤンチヤ身魂から此世に生れ、其上侠客の手に育てられたものだもの、斯んな心になるのは当然ですわ』
松彦『お前は神様の宣伝使になるのが宜いか、侠客になるのが宜いか』
千代『神様の宣伝使なんて気が利かぬじやありませぬか。訳の分らぬ婆嬶や時代遅れの老爺さまや、剛欲の人間や、盲や唖に、不具に病身者、一人だつて満足のものが神様の処へ寄つて来ますか。たまたま体の丈夫な男女が来たと思へば精神上に欠陥のある人間ばつかり、そんな人に崇められたとて何が面白う厶りませう。理解の上に崇められたのなら愉快ですが、無理解者から持て囃されたつて何が光栄ですか。本当に馬鹿らしく消え度くなつて了ひますわ。それよりも侠客になつて御覧なさい。裸百貫の荒男、霊肉ともに欠陥のない、男の中の男が集まつて来て義に勇み、誠を立て、悪人を懲し、まるで神様の様な欲のない、宵越しの銭を使はぬ綺麗薩張りした人間ばかりに姐貴々々とたてられて、此世を送るほど愉快な事がありますか。あたいは何処迄も女侠客になるのが望みです』
松彦『ハヽヽヽヽ困つたな。親は宣伝使、子は女侠客、どうも反が合はぬ様だ』
千代『お父さま、大工の子は大工を営み、医者の子は何処迄も医者をやらねばならぬと云ふ規則はありますまい。各自に人間には、それ相応の天才があつて凡ての事業に適不適があるものです。自分の天才を十二分に発揮するのが教育の精神でせう。圧迫教育を施して児童の本能を傷つけ、桝できり揃へた様な団栗の背競べの様な人間ばかり作り上げる様な現在の教育では大人物は出来ませぬぜ。植物だつて、枝を曲げたり、切つたり、針金で括つたり、いろいろと干渉教育を施すと、床の間の置物よりなりますまい。山の谷で自由自在に成育した樹木は成人して立派な柱になりませう。さうだから人間は如何しても天才を完全に発揮させる様に教育させなくては駄目ですわ』
松彦『松姫、お前の云つた通り、何とまアこましやくれた娘だな。随分社会教育を受けたと見えるな』
松姫『到底私の手には合はない娘ですよ』
松彦『さうだな。いや却て干渉せない方がよいかも知れない。一六ものだ。大変な善人になるか、悪人になるか、先を見て居らねば分るまい。到底親の力では駄目だ。神様にお任せするが一等だ』
千代『それが所謂惟神教育ですよ。貴方だつて、いつも惟神々々と仰有るのですもの』
松彦『アハヽヽヽヽ』
松姫『オホヽヽヽヽ』

千代『惟神神に任せば自ら
  松の緑は千代に栄ゑむ

 相生の松の下露日を受けて
  生え出でにけり味良き茸は』

(大正一一・一二・一二 旧一〇・二四 北村隆光録)
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