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文献名1霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻
文献名2第4篇 虎風獣雨よみ(新仮名遣い)こふうじゅうう
文献名3第19章 吹雪〔1209〕よみ(新仮名遣い)ふぶき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-03-06 14:50:47
あらすじ
お寅はお民のところにやってくると、お民は経典をひも解いている。お寅はお民に対して、蠑螈別を狙っても高嶺の花だ、魔我彦と結婚しろといきなり怒鳴りつけた。お民は驚いたが、すぐには返事はできないと冷静に返す。

お寅がしつこく迫っても、お民は頑として譲らない。お寅はしまいにお民を怒鳴りつけて帰ってしまった。

お民が独り言でいうことには、あんなケチで腰が曲がった魔我彦の女房になるくらいなら死んだ方がましだとくさした。そして自分がこんな教団に参詣するのは蠑螈別が一万両の金をもって駆け落ちしようといってくれたからだと独り言に明かした。

お民は、自分と蠑螈別との約束をお寅に見透かされたような対応を受けたので、もうこんな教団は逃げ出そうと去就を考えている。

一方お寅は夜分に松姫館を尋ねた。松姫からお民に言い聞かせてもらおうという魂胆である。お寅は、蠑螈別からお民を引き離したい一心で、お民が魔我彦の女房になることを今晩のうちに説きつけてくれと松姫に頼み込む。

そこへお菊と魔我彦がお寅を尋ねてやってきた。お寅は魔我彦に、蠑螈別の見張りをするようにと追い出すが、お寅と松姫が自分の結婚問題をどうさばくか気になり、雪がちらつく戸外で盗み聞きしている。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月13日(旧10月25日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月12日 愛善世界社版277頁 八幡書店版第8輯 348頁 修補版 校定版290頁 普及版112頁 初版 ページ備考
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本文  悋気の角を振り立てて  顔を真赤に染めながら
 轟く胸を撫で下し  居間に魔我彦残しつつ
 粋に気の利くお寅さま  炊事場さして進み入り
 お民の居間へ訪へば  お民は切りに経典を
 繙き初め居たりける  お寅は外から声をかけ
 これこれ申しお民さま  こんな夜更に何してぞ
 人の寝静まつた其後で  文でも書いて居るのだらう
 油断のならぬ女だなあ  かう出し抜けに呼ばはれば
 お民は驚き経典を  二つに畳んで傍におき
 貴女は内事のお寅さま  この真夜中に何として
 態々訪ねて来なさつた  合点がゆかぬと怪しめば
 お寅は眼をむき出し  花の盛りのお民さま
 お門が多くて嘸やさぞ  心の揉める事でせう
 お前がここへ参つたのは  神信心は表向き
 外に望みがあるのだろ  お前も美し身をもつて
 グヅグヅして居る時ぢやない  早く夫を持たさせよと
 大神様に聞いた故  眠たい眼をばこすりつつ
 態々やつて来たのだよ  お前の身魂は義理天上
 日出神の奥さまの  玉則姫に違ひない
 神と神との因縁で  夫婦にならねばなりませぬ
 日出神の生宮の  魔我彦さまと逸早く
 結婚式をあげなされ  この神勅に背いたら
 其方が御身の一大事  神の怒りで忽ちに
 根底の国へ墜ちますよ  何程蠑螈別さまを
 恋し恋しと思うても  高根の花か水の月
 とても掴める筈がない  そんな野心を起さずに
 馬は馬づれ牛は牛  魔我彦さまと機嫌よう
 合衾式を上げなされ  返答はどうぢやと手厳しく
 呶鳴ればお民は仰天し  晴れたる空に霹靂の
 閃く如く胸打たれ  暫し言葉もなかりける。
お民『お寅さま、貴女は今私が蠑螈別さまに○○して居るやうに仰有いましたな、それや大変な迷惑です、そして魔我彦さまと夫婦になれと仰有いましたが、それや本気ですか』
お寅『本気でなくてこの眠たいのに、誰が態々来ませうか。お前の身魂は玉則姫さまと云ふ事が、御神勅で分つたのだよ、それだから一時も早く義理天上日出神と夫婦に致さねば、神界の経綸が後れるのだから勧めに来たのだよ』
お民『藪から棒のやうなお言葉、早速に御返事が出来ませぬ。どうか一週間程熟考の猶予を与へて下さいませ。さうすれば否とか、応とか御返事致しますから』
お寅『さてもさても歯切れのせぬお方ぢやな、なぜ神様の仰有る事を素直に聞かないのだ。十万億土に落されても構はないのですか』
お民『どうなつても仕方が無いぢやありませぬか。何程神様の御命令だと言つても自分の気に合はない夫をもつ事は一生の不愉快ですから、何程神様だつてそんな無理は仰有いますまい。私は女としての人間を作つて、その上で夫をもつ考へですよ。人形の家になつては困りますからな。ホヽヽヽヽ』
お寅『随分悪思想に染つたものだねえ。それだから今時の女は仕方が無いと云ふのだ、そんな剛情を張るものぢやありませぬ。「剛強必ず死して仁義王たり」と云ふ事を知つて居ますか、女と云ふものは仁義の心が肝腎だよ、剛強なは男に欠くべからざる特質だ。剛強にして仁義を保つのが男の中の男だよ、女に剛強の必要はない、サア早く返答して下さい。返答のないのは矢張り蠑螈別さまに野心があるのだらう』
お民『エヽ何と仰有つて下さつても、女の一生の一大事ですから、一週間熟考の余地を与へて貰はなくては御返事は出来ませぬ』
 お寅は不機嫌な顔をして雨戸をガラガラビシヤンと閉めながら、一足々々四股を踏み庭の小石を蹴散らし跳ね散し、
お寅『ど強太い阿魔ツチヨ奴、それ程蠑螈別が欲しいのか』
と口汚く罵りながら帰つて往く。後にお民は独言、
お民『あゝ情ない、一人前の女と生れながら背の低い腰の屈つた瓢箪面の、スカンピン男を夫に持てとは、お寅さまも余りだわ、何程神様の命令だつてどうしてこんな事が承諾ませうか、私もおたんちんだけれども、矢張り十人並に勝れて居る心算だ、あんなケチナ魔我彦の女房になる位なら、目でもかんで死んで仕舞つた方が何程気が利いて居るか、分らないのだ。何でまあ、あんな男が副教主になつて居るのだらう。此処の神様は余程悪戯がお好きだと見えるなあ、私がかうして此お山に参詣するのも十中の九分迄は、蠑螈別さまが……「暫く待つて居れ、お寅の隠して居る一万両の金さへ手に入らば、お前を連れて好い所へ往つてやらう。そして二人仲好う暮さう」と仰有つた御親切のお言葉を夢寐にも忘れた事はない、それにまあ、お寅さまとした事が、魔我彦さまを夫にもてとは好うも好うもこのお民を軽蔑したものだ、お寅さまは、私と蠑螈別さまが怪しいと思つて其意気利抜きのためにあんな事を云つて来たのだらう、アタ阿呆らしい、玉則姫の身魂ぢやなんて、そんなことにチヨロマカされるお民ぢやありませぬ。あゝもう嫌になつた。何とかしてお月様がお出ましになれば、此処を逃出さうかなあ、今晩は二十一日のお月様、もうお上りなさるに間もあるまい、あゝさうださうだ。これから荷物を片付けて逃げ出すのが上分別だ、併し蠑螈別さまに一言云うて置かねば後で何と不服云はれても仕方がない、あゝ如何したらよからう、大方今頃はお酒に酔つて寝て居らつしやるのだらう、あゝ如何しようかなア』
と独り言ちつつ去就に迷うて居る。
 お寅は直様松彦や松姫の館を夜中にも拘らず叩き起した。
お寅『もし上義姫様、一寸起きて下さいますまいか』
 上義姫は中より、
松姫『ハイまだ寝んで居りませぬから、サア何卒お這入り下さいませ、甚う遅いぢやありませぬか』
お寅『這入つてお差支は厶いませぬかな』
松姫『サアサアどうぞお構ひなく』
と云ひながら門口をガラリと引き開け、お寅の手を取つて静かに座敷に通し、夜風を防ぐため再び庭に下りて門口の戸をピシヤリと閉め、土で捏ねた火鉢を前におき、二人は茲に対座した。隣室には早くも松彦お千代の鼾が聞えて居る。
松姫『お寅さま、夜半にお訪ね下さいましたのは、何か急用でも起つたのですかなア』
お寅『ハイ、実の所は魔我彦の一件で厶います、彼は今迄義理天上日出神の生宮と確く信じ副教祖となつて御用を致して来ましたが、貴女様に御主人様があつた事が分り、もはやスツカリと断念致しました。それに就ては魔我彦にも女房を持たさねば、はうけて仕舞ひます。それで私も気を揉んで衣掛村から来て居る信者のお民の宿つて居る処へ態々押しかけて参り「魔我彦の女房になつてやつて呉れ」と申しました所、スツタモンダと申し仲々承知して呉れませぬ、一週間熟考の暇を与へて呉れ、其上で返答するといふのだから、腹がたつて仕方がありませぬ。グヅグヅして居ると、蠑螈別さまを喰はへて何処に往くか分りませぬ。それで一つは蠑螈別の恋の予防のため、一つは魔我彦を安心さすため一挙両得、どうでせう、貴方の御神徳と権威とをもつてお民を説きつけて頂く訳には参りますまいか』
松姫『左様で厶いますか、それや実際にさう往けば好都合ですな、併し乍ら幸ひ末代日の王天の大神様がお越し遊ばしたのだから、とつくりと伺つた上で話せなら話しても見ませう。今夜に何うと云ふ事も厶いますまいから、明日でも悠り懸け合つて見ませう』
お寅『イエイエそんなまどろしい事ではいけませぬ。実の所は今夜の中に何つちか極めて仕舞ひたいのです』
とかく話す内にお菊と魔我彦がやつて来て、
お菊『ご免なさい、お母さまは来て居られますかな』
 戸の中からお寅は、
お寅『その声はお菊ぢやないか、女の子が夜分に独り歩くものぢやないと云うておくのに、云ふ事を聞かぬ子ぢやな』
お菊『お母アさま、魔我ヤンと一緒に来たのだよ、あの腰の屈つた魔我ヤンと』
お寅『魔我ヤン、お前は蠑螈別さまの番犬に頼んでおいたぢやないか、何しにこんな所へ来たのだ、このお寅はお前の縁談を取結んでやらうと思つてこの遅いのにお民の部屋へいつたり、松姫さまのお室に来たりして心配して居るのだ。サア早く家へ帰つて蠑螈別さまの番犬をしてお呉れ、お前さへ居ればお民が来たつて大丈夫だから』
魔我『そんならお寅さま、これから番犬を勤めますわ、併しお菊さまだけは、貴女のお傍に置いて往きますからな』
お寅『仕方がない、そんならお菊、這入らして貰ひなさい』
お菊『おばさま御免』
と云ひながら、自分から戸を開け、又締め、松姫、お寅の横にチヨコナンと坐つて居る。魔我彦は、松姫、お寅の話が気にかかつて堪らず、壁の外に耳を当て二人の談話を盗み聞きして居る。凩がもつて来るマバラの雪、チラチラと魔我彦の頬をなめて通る。
(大正一一・一二・一三 旧一〇・二五 加藤明子録)
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