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文献名1霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
文献名2第4篇 謎の黄板よみ(新仮名遣い)なぞのおうばん
文献名3第23章 黄金華〔1233〕よみ(新仮名遣い)おうごんか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-03-24 17:50:46
あらすじ
お寅は怪しの森が本街道と間道の分かれ道になっていることを知っており、バラモン軍が見張りを立てているに違いないと一同に気を付けた。またお寅は自分は年寄りだからちょっとここで休息させてほしいと言って休みを取った。

お寅が腰をかけると、湯津爪櫛が落ちていた。自分が侠客時代にお金をかけて作った鼈甲のもので、長らく紛失していたものであった。

お寅は失くしたと思っていたこの櫛は、蠑螈別がくすねてお民に与えていたものだと気が付いた。そしてお民が逃げる時にここに落としていったのだろうと推測した。しかしすでに神の光に照らされて執着心を捨てていたお寅は、顔色一つ変えなかった。

万公はお寅が櫛を拾ってみている様を見て話しかけ、お民が落としていった櫛だと悟った。お寅は人が欲しいと思って盗んだこの櫛には霊が宿っているから、万公にあげようとするが万公は断った。

再び一行は怪しの森を指して歩いていく。コー、ワク、エムは三五教がやってきたことを知り、恐れて相談し合っている。その間に松彦たちは早くもやってきて、蠑螈別とお民の行方を尋ねた。

バラモン教の捕り手たちは蠑螈別のときのように、三五教の一行からもわいろを取ろうとするが、松彦と話しているうちに、ゆすり取ったお金を懐に持っていると不安にさいなまれることに気が付き、明かした。

コー、ワク、エムはもともとはお寅の金を蠑螈別が盗み取ったと聞いて、金をお寅に返そうとする。しかしお寅はもうお金に執着がなかった。かえって、自分の罪障を取ると思って使ってくれとバラモンの目付たちに頼み込んだ。

松彦は、お寅が許可した以上は喜んでその金を使用するがよいとコー、ワク、エムたちに言い渡した。(松彦一行の話は第48巻第16章へ続く)
主な人物 舞台間道~怪志の森 口述日1922(大正11)年12月16日(旧10月28日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月25日 愛善世界社版282頁 八幡書店版第8輯 459頁 修補版 校定版297頁 普及版115頁 初版 ページ備考
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本文  お寅は途中に立止まり、一行を顧みて、
『モシ皆さま、あの向方にスンと立つて見える野中の森は、怪しの森といつて、此頃はランチ将軍の部下が見張をしてゐるさうです。あの森の角から左へとれば本街道、今此道は間道となつてゐるのですから、あの人字街頭に往来の人を、どうせ査べてゐるに違ひありませぬ。一つ此処で相談をして無事突破する用意をいたしませうか』
松彦『吾々は天下晴れての三五教の宣伝使候補者だ。たとへ幾十人の敵が張つて居らうとも、別に怖れる必要はないぢやないか』
お寅『イエ滅相もない、バラモンは三五教の神館ウブスナ山を目的として進軍の最中ではありませぬか。三五教の宣伝使、しかもウブスナ山から派遣された貴方等が御出になるのは、飛んで火に入る夏の虫、可惜命を棒にふるやうなものです。こんな所で我を張つちやなりませぬ。皮固ければ脆くして破れ易く、梢軟らかなれば風に折れず、歯は如何に固くとも、柔らかき舌より前に亡ぶといふ事がありますぞ。強いばかりが神の心ぢやありますまい。兎も角此処で一服致しませう。妾も永らく歩まなかつたので交通機関が怪しくなつて来ました。何卒休んで下さいな』
松彦『コレだから婆アさまの道伴は困るのだ。併し仕方がない。オイ一同、お寅さまの提案に賛成して暫くコンパスの休養をしようぢやないか』
五三『ハイ、宜しう厶いませう』
と路傍の草の上に蓑を布いて腰を下した。お寅婆アさまの坐つた前に湯津爪櫛が一本落ちて居る。お寅は手早く拾ひ上げ、よくよく見れば見覚えのある自分の櫛である。これはお寅が侠客時代に金にあかして拵へた鼈甲の櫛であつた。お寅はつくづくと打眺め、
『ハヽアー、此櫛は永らく小北山へ来てから紛失してゐたが、こんな所へ落ちてゐるとは、夢にも知らなかつた。大方蠑螈別がソツと何々してお民に与へたのだろ。さうすれば、お民が此処を通る時落したのだろ。お民が通つたとすれば、矢張り蠑螈別も通つたに違ひない』
といふ結論を立てた。されど只今のお寅は最早昨日のお寅でない。執着心も悋気も綺麗薩張と払拭され、青天白日の魂になつてゐた。昨日までならば、この櫛を見て忽ち形相一変し、頭に無形の角を生やし、獅子の如く、虎の如く吼えたけるのであつたらう。されどお寅は、神の光に照されてより、恋の仇なるお民の持つてゐた自分の櫛を拾ひ上げても少しも嫉妬を起さず、且顔色も変へず、平然として微笑することを得たのは、全く神の教の賜である事はいふまでもない。
 万公はお寅の拾ひ上げた櫛を覗き込み、
『お寅さま、意味ありげな櫛ぢやありませぬか。此櫛に就ては貴女に何か不可思議な因縁がまつはつて居るやうですなア』
お寅『さうです。昨日迄ならば大に因縁の糸がコンがらがつて居つたでせうが、もはや今日となつては何にもありませぬ。何処かの女が落して行つたのでせう。何れ此先で追ひつくか、或は出会ふかもしれませぬからネー。万公さま、貴方何処かに入れて落失主に会ふまで保存して下さるまいかなア』
万公『鼈甲の櫛なんかは男の持つものぢやありませぬ。女の貴女がお持ちになつて居れば、似合うたり叶うたり、こればつかりは軽いものでは厶いますが、平に御断り申したう厶います。さうして櫛を拾うのはよくないぢやありませぬか。悔み事が出来るといふ事です。何でも大変な心配があつてクシクシする時には、其心配を免れるために櫛を道に捨てるさうです。それを拾うたものはクシクシを拾ふのだから災難に会ふに違ひありませぬよ。一層の事、其処へ打捨ててはどうです』
お寅『此櫛は決してそんなものぢやない。あまり嬉しうて落したのだから、喜びを拾ふやうなものだ。これは形見だから万公さま、お前も若い身体で、此先で妻帯をせなくてはならぬ身の上だ。此櫛を持つてあやかつたらどうです。九千両の金子をもつて夫が屹度後追うて来てくれますよ、オホヽヽヽ』
万公『何だ、お民の櫛だなア、アーさうすると蠑螈別さまが後を追うて此処を通つた檜舞台だ。オイ、テク、貴様はあやかる為に此櫛を御預りしたら何うだい』
テク『イヤだい、何程女にかつゑたつて、他の惚れて居る女を横取りして逃げるやうな不人情な事にはあやかりたくないワ』
万公『お寅さま、此通り誰も預り手がありませぬ。元は貴女の所有品でせう。貴女のものが貴女に返るのは当然だ。なかなか二百両や三百両で買へる物ぢやありませぬデー。貴女、お持ちになつたら何うです』
お寅『一旦欲しいと思つて盗んだ此櫛には霊がやどつて居るから、此お寅は手にふれるのも嫌です。頭が痛うなりますからなア』
万公『ハー、やつぱりさうするとリーンとキツウ頭へ来るのだなア。何程改心しても悋気といふものは又特別と見えるワイ、アハヽヽヽ』

松彦『くしみたま神のまにまに幸はひて
  曲の行方をさとし給へり』

お寅『わがくしにめぐり会ひたる今日の空
  くしき御神の守りなるらむ。

 縺れたる毛をときわけるくしみたま
  神のまにまに通り行く哉。

 世のもつれときわくるてふくしみたま
  思ひもよらず此処で見るかな』

松彦『サア参りませう』
と又もや宣伝歌を歌ひながら怪しの森指して歩みを急ぐ。コー、ワク、エムの三人は細い道に胡床をかき、シブシブしながら番卒をつとめてゐる。
コー『オイ、又誰かやつて来たぞ。どうやら今度は痛手らしいやうだ。あの宣伝歌は屹度三五教だ。ウラル教が通りよるとボロイんだけどなア』
ワク『オイ、そんな陽気な事をいつて居る処ぢやない。森の木蔭へでも隠れたらどうだ』
コー『何のための番卒だ。仮令殺されたつて此処を離れる事が出来るものか。八尺の男子がサウ無暗に敵に怖れて逃げるといふ事が出来ようかい』
エム『ソレでも片彦将軍、久米彦将軍は数百名の騎馬隊を引率れて、言霊を打出されて脆くも敗走したぢやないか。吾々の如き一兵卒は逃げたつて恥にもならねば、職務不忠実の罪に問はれる筈がないぢやないか』
コー『大将が逃げても失敗しても決して咎めはないが、吾々は一つ失敗しようものならソレこそ首だよ。それだから、なるのなら牛の尻尾になるよりも、雀の頭になれといふのだ』
エム『そんな不公平な事が何うしてあるのだらうな。大将だつて俺だつて、生命の惜しいのは同様ぢやないか』
コー『なアに俺達は戦に臨めば矢受けに代用されるのだ。一将功成らむとすれば万卒骨を枯らさなくてはならぬのだ。つまり言へば築港の埋草見たやうなものだなア』
エム『そんな事聞くと阿呆らしくて、こんな職務は出来ないぢやないか』
コー『だつて外に芸があるぢやなし、学問があるぢやなし、商売しようにも資本はなし、又世間の奴からはゲジゲジの様に嫌はれ、行き詰つたから仕方なしに、こんな処へ堕落したのぢやないか。今のポリスだつてさうだろ。誰も相手にしてくれないから、安い月給で人民に威張るのを役徳として仕へてゐるのだ』
ワク『それだけ信用のないものが、ポリスになつても人間が云ふ事を聞くだらうかなア』
コー『予言者と同様に郷里では駄目だ。それだから百里も二百里も遠い処へやつて使ふのだ。さうすればドンナ極道だつて、戸倒しものだつて、博奕打だつて、立派な御役人様になれるのだからなア。俺だつてさうだらう。チヨイ博奕も打ち、バサンしやていに、カヽしやてい、さくい女のシリを追ひ廻して村中から忌み嫌はれ、叩き出され、乞食になつてハルナの都へ彷徨ひ、到頭生命の的の商売にありつかして貰つたのだ。貴様だつて皆さうだらう。宅に女房が待つて居るなんて、何程偉さうにいつても女房のあるやうなものが、こんな事をするものかい』
エム『ソレはさうだ。自分の親類や近所の事をいつてゐるのだよ。併し俺だつて、ワクだつて、貴様だつて、人交はりもせず、家庭もつくらずに、此儘朽ち果つるやうな事は滅多にあるまい。併し世の中は几帳面に渡ると損だ。今彼処にやつて来る宣伝使に対しても甘く下から出るのだね』
 斯く話す処へ、松彦一隊は早くも近付き来り三人に向つて、
松彦『一寸物を伺ひます。貴方はバラモンの軍人と見えますが、此処を二十才ばかりの女と、四十格好の男が通りは致しませぬか』
コー『其方は三五教の宣伝使であらう。若い男女の道行きを尋ねて何といたすか。それよりも此関門を通過さす事は罷りならぬぞ。浮木の村にはランチ将軍様の軍隊が宿営して仮本営が出来て居る。それ故汝如きものは一歩たりとも、これより踏み入らす事は罷りならぬのだ。サア早く帰つたがよからうぞ。召捕へられて本陣にひき行くべきところなれど、其方の心次第に依つては許してやらぬ事もない』
『別に貴方の許しを受けなくとも、吾々は自由に此処を通過いたす権利を保有してゐるのだ。併し何か要求すべき事があらば聞いてやらう。それと交換に此関門をゴテゴテ言はずに通したがよからう』
『オツと御出でたよ。流石は三五教の宣伝使、実の処はランチ将軍も片彦将軍も三五教ときけばビリビリものです。併しながら今度は充分の軍備を整へ、手具脛ひいて待つてゐるのだから、うつかり御出でになれば命がない。それだから貴方の出様一つによつては安全な間道を教へてやらぬ事もないのだ。今通つた男は蠑螈別といふ気の利いた奴で、俺達に千円の気づけを呉れ居つた。三人で千円ぢやないぞ、一人に千円だぞ。勘定違ひをせぬやうに其方も何とか考へねばいけない』
『ヤア有難い、重たいけれど其千円を頂いて行かう。今の世の中は強いものの強い、弱いものの弱い世の中だ。弱い奴に金をやつてたまらうかい。其方は三人で三千円持つて居ると言つたな。其処に二人の男が居るやうだ。其方は二人で千円持つてるのだろ。さうすれば四千円だ。俺は三五教の宣伝使兼大泥棒だ。サア、サツパリと四千円耳を揃へて此処へツン出せばよし、グヅグヅ吐すと承知いたさぬぞ』
『オイ、ワク、エム、サツパリだ。エーー、モ千円儲けようと思つたに、サツパリ出せと吐しやがる。あんな事をいつて俺達を威かすのだらう』
『アハヽヽヽ、威してゐるのだ。其方も威して取つたのだらう。今の処世の上手な奴は上から下まで皆威してゐるのだ。弱点のある人間を威さなくて誰を威すのだ。サ其方は蠑螈別から四千円の金子を取つた泥棒だらう。此方に渡せばとて決して其方の会計に欠損の行く道理はなからう。其の金は今此処にゐるお寅さまの臍繰金を盗んで逃げた性念の入つた金だ。サア、キリキリチヤツと渡さぬか』
『モシ、渡さぬ事はありませぬが、折角喜んで目の正月、心の餓辛では堪りませぬからね。何卒百円だけ私に貰ふ訳には行きますまいかなア』
『アハヽヽヽ、嘘だ。取る奴も取られる奴も因縁があるのだろ。因縁がなくては取られようと思つたつて取られず、取らうと思つても取れるものぢやない。やつぱり貴様が御蔭を頂いたのだろ』
『ハイ、実は先方の方から請求せないのに下さつたのです。それで味をしめて又お前さまに一つ威して見たら呉れるだらうかと思つたのに、反対に威かされて肝を冷しました』
松彦『その金が懐にあると愉快だらうなア』
エム『ヘー不思議なものです。寝ても覚めても千両の金があつたらあつたらと思うてゐましたが、今千両の金が手に入れば、何れ程嬉しいかと思つてゐたのに、どうしたものか些も嬉しうはありませぬ。貰うた金でさへ此通りですから、盗つた金なら尚更の事でせう。只今では却つて心配が重なつて来ました。今も貴方に威かされ、此金を取られちやならないと思つて大変に気をもみましたよ』
松彦『アハヽヽヽ、金が仇の世の中だなア。コレお寅さま、お前さまの一万両の金を九千円まで蠑螈別が盗み出して此処迄やつて来たのだが、どうも気分が悪いと見えて四千円をバラまいて行つたのでせう。蠑螈別も嘸辛かつたでせう』
お寅『妾だつて神様の御社の下へ一万両を隠し置き、寒い晩にもよう寝もせずに、何遍となくお金の面をあらために行き、昼は昼とて随分気がもめましたが、蠑螈別がもつて行つてくれてからは、気楽に暖い炬燵に前後も知らず休まして頂きました。かうなる上は金の必要はありませぬ』
松彦『空飛ぶ鳥も、野辺に咲く山百合の花も、神は之を完全に養ひ給ふのですから、人間は物質上の欲を去らねばなりませぬ。禽獣虫魚さへも何の貯蓄もせず、其日を送つてゐます。況して吾々人間に神の恵の降らない事がありませうか』
コー『モシモシ此千円の金、何卒お寅さまとやら元へ収めて下さい、モウ要りませぬワ。そんな話を聞くと怖ろしくなつて来ました。なあワク、エム、貴様も同感だらう』
ワク『何だか胸がワクワクして来たやうだ』
エム『エムに襲はれたやうな気がするよ』
松彦『金は婦女子小人の持つべきものだ。聖人君子に金はいらない。お寅さまも今日から聖人になつたのだから金の必要はない。お前達もこれから聖人君子の域に進むには其金の必要はあるだろ。肝腎のお寅さまが許してくれた以上は、喜んで使用したがよからう。ナアお寅さま、貴女未練はありますまいね』
お寅『決して決して未練なんか鵜の毛の露程も持つて居りませぬ。皆さま、私の罪をとると思うて御助けだ。私ばかりか蠑螈別さまもそれで安心が出来るだらう』
(大正一一・一二・一六 旧一〇・二八 外山豊二録)
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