六と八が怖気づいてぶるぶる震えながら夜を過ごしていると、一本橋の向こうから提灯を下げて杢助がやってくるのが見えた。六と八は、恐ろしい剛胆なことを言って野宿に熟睡している初稚姫は、本物の姫ではなく、化け物が化けているのではないかと杢助に訴えた。
杢助と六と八のやり取りの中、初稚姫はやにわに旅支度を整えて起き上がり、斎苑館の総務として仕える父・杢助が、神務を忘れてわが子を気にかけて出てくるはずがないと言い残し、夜中にもかかわらずすたすたと進んで行ってしまった。
初稚姫は河鹿峠の坂口の岩に腰かけて休みながら、昨夜の杢助、六、八三人のことを不審に考えていた。そこへ三人がやってきて、杢助は言い残したことがあるから追いかけてきたのだ、と話しかけた。
初稚姫は、旅立ちにあたってわが子を気にかけて追いかけてくるような卑怯な父は持っていないときっぱり答えた。そして杢助に化けているのは、自分を邪道に導こうとする妖怪だろうと言い放った。
六と八はこれを聞いて、杢助を疑い始めた。杢助は初稚姫、六、八に対して怒ったが、初稚姫が天の数歌を歌いあげるとたちまち、唐獅子の正体を現した。
初稚姫は平然として天津祝詞を奏上し始めた。唐獅子が初稚姫にかみつこうとしたとき、後ろの方から山犬が現れ、疾風のように唐獅子に飛びついた。唐獅子は一目散に逃げて行き、山犬はその後を追跡して行った。
初稚姫は神様の試にあって及第したようだと喜び、驚いて倒れていた六と八に、館に帰って自分の無事を杢助に報告せよと告げ、足早に河鹿峠を登って行った。
初稚姫が峠を登って行くと、先ほどの猛犬が尾を振りながら駆けてきて後をついてきた。姫が坂の頂上で休息すると、猛犬も前にうずくまって尾を振っている。
初稚姫は犬の働きに感じ、スマートと名を与えて家来となし、ハルナの都までついてくるようにと告げた。初稚姫は犬を抱いていたわり、スマートはワンワンと鳴きながら尾を振り、感謝の意を表している。
初稚姫はスマートを得て心強くなり、宣伝歌を歌いながら河鹿峠の南坂を下って行った。