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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
文献名2第3篇 鷹魅艶態よみ(新仮名遣い)ようみえんたい
文献名3第11章 乙女の遊〔1326〕よみ(新仮名遣い)おとめのあそび
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-09-05 17:41:13
あらすじ
高姫は二人の侍女と共に楽しく時を過ごし満悦の折から、立派な衣装に身を包んだ高宮彦が愉快気にやってきた。高宮彦は絹座布団の上にどっかと腰を下ろした。

高姫は、高宮彦の神力によって如意宝珠の分霊である高子と宮子をしたがえて素晴らしい御殿に住むことを得、また自分の姿が若返ったことにお礼を述べた。高宮彦は天極紫微宮の御殿を地上に引き写し、竜宮のもっとも美しいところを海底から引き揚げたのだ、と法螺を吹いている。

高宮彦は、自分たちの栄華を保つためには、三五教やウラナイ教のやつらを一人残らず城中に引き込み、霊肉ともに亡ぼさなければならないと高姫に持ちかけた。そしてもっとも恐ろしい敵として、三五教の主管・素盞嗚尊を挙げ、その配下である東野別命、八島主命、日の出別命、言依別命、天之目一箇命、初稚姫命らの名を挙げた。

高姫は、自ら高子と宮子を引き連れて城門の外で往来の人々を待ち伏せ、若返った美貌と弁舌で残らず城中に引き入れて見せようと悪計を練り、実行すべく場外へ出て行った。

高姫は二人の侍女とともに場外の野に出て、すみれやタンポポを余念なく摘んでいるようにみせかけていた。そこへ旅装束の二人の男が、三五教の宣伝歌を歌いながらやってきた。二人は元バラモン教軍の将軍であり、三五教に改心したランチと片彦であった。

二人はかつて自分たちの軍隊が駐屯していた浮木の森に、いつの間にか立派な都会ができていることを見て驚き、いぶかしんだ。二人は高姫たち三人の乙女を認め、城内の様子を聞き取るべく近づいて行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版163頁 八幡書店版第9輯 324頁 修補版 校定版167頁 普及版74頁 初版 ページ備考
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本文  高姫は二人の侍女と共に満面笑を湛へ、蓬莱山に行つて無上の歓楽に酔ひし如く、恍惚として脇息に凭れ、わが運の開け口、宇宙一切を手に握るも斯く楽しくはあるまいと満悦の折柄、ドアをパツと開いて足音高く入り来るは、六角の金色燦爛たる冠を戴いた高宮彦命が、さも愉快気にやつて来た。忽ち床を背にして、ムクムクとした厚い絹座布団の上に膝を埋める様にして坐り込んだ。高姫はさも嬉しげに媚びを呈しながら、
『これはこれは吾夫、高宮彦様、よく吾居間を訪はせられました。一時千秋の思ひで、君のお出でを待ち焦れて居りました。嬉しう厶ります』
と涙含む。妖幻坊は、
『いや高宮姫殿、長らく顔も見せず失礼を致した。さぞ淋しかつたであらうな』
『はい、幸に二人の娘が近侍してくれて居りますので、あまり淋しいとは存じませぬが、君のお姿が見えませぬと、何処とはなしに、ヤツパリ淋しう厶ります』
『アツハハハハハハ、さうするとヤツパリ此高宮彦が恋しいと見えるのう。や、さうなくては叶はぬ事だ。斯うして夫となり妻となるも、昔の神代から絶るにきられぬ因縁であらう』
『尊き神様の御恵によりまして、かかる尊き御殿の内に於て親子夫婦の邂逅ひ、実にこんな嬉しい事は厶りませぬ。貴方の御雄姿と云ひ、高宮姫の若返りと云ひ、此金殿玉楼と云ひ、更に錦上花を添へたる如き金剛不壊の如意宝珠の分霊、高子姫、宮子姫二人の美女、天極紫微宮の壮観も竜宮城の光景も、よもやこれ程までには厶りますまい』
『それは、その筈だ。金剛不壊の如意宝珠の不思議の神力にて、天極紫微宮の御殿を地上に引移し、又竜宮の最も美しき処を、海底より此処に引上げ建て並べたる大城廓、其中心の金殿玉楼、曲輪城の高宮殿、綺麗なのは尤もだ、アハハハハハ』
『あの杢……いやいや高宮彦様、此城廓の広袤は何程厶りますか』
『うん、さうだ、東西が百町、南北が百町、中々以て広いものだぞや。其中心なる此御殿に於て、汝と両人、天下を握る愉快さは又格別だ。併しながら高宮姫、よつく聞け、昨日まではバラモン軍の先鋒隊ランチ、片彦両将軍が屯せる陣営の跡、彼方此方に散在し、見る影もなき荒野なりしが、神変不思議の魔法によつて、田園山林陋屋は忽ち化して花の都となり、かく城廓を天より海底より引寄せ、天地の粋を尽したる建物は漸く建つたれど、之より汝は吾と力を協せ、第一吾々が行動を妨ぐる三五教及びウラナイ教の奴輩を、一人も残らず此城中へ手段を以て引込み、霊肉共に亡ぼさねば、万劫末代此栄華を保つ事は難かしい。最も恐るべきは三五教を主管致す素盞嗚尊だ。それに従ふ東野別命、八島主命、日の出別命、言依別命、天之目一箇命、初稚姫命、其他沢山あれども、先づ吾々が敵とするは以上の人物だ。それに従ふ奴輩も一人も残らず打亡ぼさねば、吾々夫婦の大望は成就致さぬぞや。高宮姫、そなたが今後採るべき手段は如何で厶るか。それを承はりたいものだ、アツハハハハハ』
『もし吾夫様、否吾君様、今となつて左様の事、お尋ねまでも厶りませぬ。妾は之より日々此城門を潜り出で、二人の娘を引連れ、火の見櫓の近辺にて往来の人を待ち伏せ、此美貌と弁舌にまかせ、残らず此城内に引き入れ帰順させてやりませう。必ずやお気遣ひなさいますな』
『ヤ、出来した出来した。流石は高宮姫殿、然らば吾は奥殿にて休息致し、日々の神務を見るべければ、汝は高子、宮子を伴ひ、火の見櫓の前にて往来のものは云ふに及ばず、三五教の宣伝使及び三五教に帰順して斎苑の館へ参拝する奴輩を残らず引捕へ、吾城内へつれ帰られよ』
『仰せにや及びませう。高姫もかく若やいだ上は、いろいろと力を尽し手段を以て引き寄せませう、必ずともに御安心下さいませ』
『いやそれを聞いて安心致した。兎角浮世は色と酒、も一つ大切なものは権勢だ。何程智者学者と雖も、聖人君子と雖も、権勢なければ世に時めき渡る事は出来ない。まづ三五教を崩壊し、大黒主の神様に安心を与へ奉らずば、七千余国の月の国は云ふに及ばず、三千世界は乱麻の如く乱れ、且吾々の悪霊世界へ……否悪霊世界が吾々を滅亡せむと致すは火を睹るよりも明かだ。吾より先に進んで館を亡ぼさなくては、吾等は彼に亡ぼさるるに至らむ。如何に如意宝珠の妙力ありとも、敵にも亦一つの神宝あり。必ず油断なく……いざ之より初陣の功名を現はすべく出門召されよ』
と常に変り言葉も荘重に儼然として宣り伝へた。高姫は、
『はい、承知致しました。必ず手柄をしてお目にかけませう。さア高子、宮子、母についておぢや』
と錦の袖を間風にひるがへし、シヨナ シヨナと身振りしながら裾を持ち、高宮彦に別れて長廊下を伝ひ、玄関口より黄金の足駄を穿ち、浮木の森の火の見櫓の麓をさして、シヨナリ シヨナリと太夫の行列よろしくにじり行く。
 高姫は二人の侍女と共に襠衣を脱ぎ、火の見櫓の下の間に蔵ひ置き、長柄の籠を各携へて、菫や蒲公英を余念なき態を粧ひつつ摘んでゐた。さうして其処に咲き誇つてる寒椿の花の自然に落つるのを眺めて、昔のアーメニヤ時代を思ひ浮かべ、

『おだやかな
 初春の
 小庭にしよんぼりと
 乙女の唇の様な
 小さき寒椿
 滴るばかりの緑葉は
 昨晩から雨にぬれた
 病人の如く
 椿の花は幽かに慄ふ
 妾は今
 彼の恋男の
 痛々しい姿に
 悩まされつつ
 昔を今に写して
 喘いで居るのだ
 涙ぐましい気分が
 四辺に漂ひ
 わが小さき胸に襲ひ来る
 これの椿の花よ
 吾の姿に
 わが恋の思ひに似て』

と斯んな事を云つてスツカリ十八気分になり、ありし昔を追懐して其ローマンスを夢の如く浮べて椿の花に思ひを寄せてゐた。世の風波にもまれ、あらゆる権謀を弄し、鬼の如き荒男を凹ませ、神人をなやませたる高姫の言葉とは、何う考へても思はれない程の、あどけなき姿になりきつて居た。されど潜竜淵に沈むと雖も、一度風雲に際会すれば、天地を震撼し、黒雲を巻き起し、億兆無数の星晨を黒雲の下に舐め尽す如き執着心と焔の如き弁舌は、遺憾なく高姫の老躯より迸るのが不思議である。高姫があどけなき姿になり、白い手を出して怖さうに蒲公英を摘んでゐると、そこへ蓑笠を着け草鞋脚絆の旅装束、金剛杖を左手に握り、宣伝歌を歌ひながら進み来る二人の男があつた。
『神が表に現はれて  善神邪神を立別ける
 此世を造り給ひたる  国治立の大神は
 天地百の神人の  醜の罪科一身に
 引受け給ひ天界の  天極紫微宮後にして
 根底の国に落ちましぬ  ああさりながら大神は
 仁慈無限の御心に  此世を救ひ助けむと
 千々に心を悩ませつ  御身を変じ遠近と
 彷徨ひ世人を守りつつ  百の難みを苦にもせず
 守らせ給ふ有難さ  バラモン教に仕へたる
 吾はランチの将軍ぞ  吾は片彦将軍ぞ
 大黒主の命を受け  斎苑の館に現れませる
 神素盞嗚の大神を  打亡ぼして世の中の
 曲をば払ひ清めむと  数多の軍勢引率れて
 隊伍を整へ堂々と  浮木の森や河鹿山
 進み来りし折もあれ  三五教の宣伝使
 神力無双の神人に  説きつけられて三五の
 誠の道を相悟り  武装を棄てて治国の
 別の命の弟子となり  クルスの森やテームスの
 峠に長らく足を止め  天国浄土の御教を
 聴聞なして人生の  其本分を悟りしゆ
 吾信仰はいや固く  仮令巨万の黄金も
 天女を欺く美人にも  汚き心を起さざる
 勇猛心となりにけり  これぞ全く皇神の
 吾等を救ひ給はむと  降し給へる仁愛の
 恵みの雨の賜物ぞ  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ  向ふの森を眺むれば
 印象深き浮木原  数多の軍勢引率れて
 滞陣したる馴染の地  暫く月日を経るままに
 うつて変りしあの様子  如何なる偉人の現はれて
 かくも立派な都会をば  造りしものか、あら不思議
 雲表高くきらめくは  大廈高楼金銀の
 甍に輝く日の光  合点の行かぬ此始末
 汝片彦宣伝使  彼の光景を何と見る
 訝かしさよ』と尋ぬれば  片彦首をかたげつつ
 口許重く答へらく  『君の宣らする其如く
 実にも不思議の光景ぞ  いざ之よりは逸早く
 足を早めて実否をば  調べて見むか、如何にぞや』
 反問すればまたランチ  『如何にも尤も探険』と
 道を行きつつ語り合ひ  火の見櫓の麓まで
 二本の杖に地を叩き  しづしづ此処に着きにけり。
 ランチ、片彦両人は自分が四ケ月以前に駐屯してゐた時の俤は烟の如く消え、得も云はれぬ立派な城廓や市街が立並び、火の見櫓は金色燦然として四辺を輝かして居る。二人は不思議さうに立止まり、目を丸くしながら無言の儘、四辺キヨロキヨロみつめて居る。ランチは漸く口を開き、
『いや片彦殿、何と不思議では厶らぬか。拙者が将軍として貴殿と共に陣屋を構へし俤はなく、殆ど千年の都の如き此壮大なる構へ、繁華なる市街の櫛比する有様、夢の様には厶らぬか』
『成程、貴殿の申さるる通り実に不思議千万で厶る。もしか悪神等の悪企みでは厶るまいかな。如何なる神人と雖も、かくの如き事業を短日月に完成すべしとは思ひも寄らぬ。さてもさても不思議の事よ。いや、向ふの椿の木の根元に妙齢の女が三人、花を摘んでゐる様です。彼の女を捕へ、此城内の様子を伺つて見ようではありませぬか』
『成程、それも宜しからう』
と云ひながら三人の乙女の方へと歩を進めた。
 四辺は春めきて、去年のかたみの枯草の間から、青草の芽霧が細く柔かく伸びて居る。小鳥の声は音楽の様に四辺に響いて来た。
(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 北村隆光録)
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