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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
文献名2第5篇 洗判無料よみ(新仮名遣い)せんばんむりょう
文献名3第24章 応対盗〔1360〕よみ(新仮名遣い)おうたいぬすみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-12-21 19:10:40
あらすじ集まってきた十五六人の精霊たちを前に、高姫は道端の石に腰かけて脱線だらけの宣伝を始めかけた。群衆の中から文助の娘・お年が高姫の前に進み出て、生前父が世話になったとお礼を述べた。高姫は文助にそんなに大きな娘があるはずがないといぶかるが、お年はここは冥途の八衢で、自分は冥途で成長したのだ、と説明する。高姫はあたりの様子が現界と違うことに気づき、思案する。八衢の門には、生前に地位と権力を利用して悪事を働いた悪人がやってきた。自分たちは金や武器で地獄でも幅をきかせるのだと言い張るが、三人とも八衢の守衛に武器も金も取り上げられて、門内へ投げ込まれてしまった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版282頁 八幡書店版第9輯 481頁 修補版 校定版290頁 普及版126頁 初版 ページ備考
OBC rm5224
本文のヒット件数全 1 件/国常立尊=1
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本文  十五六人の精霊は忽ち高姫の周囲に集まり来つて、ワイワイと喚いてゐる。高姫は漸くにして立上り、道端の方形の石に腰打ち掛け、十数人の人を前におきながら、脱線だらけの宣伝を始めかけた。
『コレコレ皆さま、高姫が大道演説を致しますから、よつくお聞きなされ。此世の中は素盞嗚尊の悪神の為に、天の岩戸はピツタリとしまつて、悪魔は天下に横行し、魑魅魍魎充満する暗黒世界ではありませぬか。此世を此儘にしておいたならば、結構な此お土の上は、忽ち餓鬼道、畜生道、修羅道、地獄道に陥りますぞや。お前さま等は、営々兀々として、私利私欲のために日夜奔走し、欲にからまれ、疲れ切つて顔色憔悴し、殆ど餓鬼のやうで厶いますぞ。此世からなる地獄道の苦しみを致しながら、こんな結構な世はないと申して喜んで厶る其憐れさ。至仁至愛の大神様は此惨状をみるに忍びず、時節参りて、永らく艮の隅に押し込められて厶つた艮の金神大国常立尊様が稚姫君命の霊の憑りた変性男子の肉宮をかつて、三千世界の立替立直しを遊ばすやうになりましたぞや。それに就いては、世に落ちて厶つた八百万の神様を世にあげて、それぞれお名をつけ、祭つて上げねば神国にはなりませぬ。今度のお役にお立ち遊ばすのは、永らく竜宮の海の底にお住ひなされた乙姫殿が第一番に改心を遊ばして、義理天上の日の出神と引添うて、外国での御用を遊ばすなり、金勝要神は大地の金神様で、余り我が強うて、汚い所へ押し込まれ、雪隠の神とまで成り下り、今度世に上げて貰うても、ヤツパリ我が強いので、御大望の邪魔になるばかりで、どうにもかうにも仕方がないので、系統の霊を世に落して義理天上の生宮となし、大将軍様の憑つた肉体を夫と遊ばして、三千世界の御用にお使ひなされたなれど、此大将軍様の肉宮はチツとも間に合はぬによつて、三五教の三羽烏と聞えたる時置師神様を、此肉宮の夫と致し、立替立直しの御用を遊ばす仕組で厶るぞや。それに就いては大広木正宗殿の霊も御用に使うて、結構な五六七の世をお立て遊ばすのだから、此高姫は三千世界の救主、皆さま耳をさらへて、よつく聞きなされ。八岐大蛇も金毛九尾の悪神も、グツと肚へ締め込んで改心をさせるのが、日の出神の生宮だ。世界の人民は皆盲だから、此結構な肉宮の申すことが耳には入らうまいがな。改心するなら、今の中ぢやぞえ。後の改心は間に合はぬぞや。此中で誠の分りた人民があるなれば、手を挙げてごらんなさい。喜んで此方の眷属と致して結構な御用に使ふぞや』
 群集の中よりヌツと顔を出したのは、お年であつた。お年は高姫の前に進み寄り、其手をグツと握り、
『モシ高姫様、父が生前に御世話になりまして有難う厶ります』
『お前は誰だか知らぬが、これだけ沢山居る中に、此生宮の言ふことが分らぬ盲ばかりだとみえて、手を挙げと言うても、一人も手を挙げる餓鬼やありませぬワイ。それに又お前は奇篤なことだ。一体誰の娘だい』
『ハイ、文助の娘で厶います』
『ナニ、文助の娘に……そんな大きな女があるものか、此奴ア不思議だなア……ハハア、分つた、あの爺、素知らぬ顔をして居つて、秘密で女を拵へ、こんな子を生んどきよつたのだな。何とマア油断のならぬ男だわい、オホホホホ』
『イエイエ、私は三つの年に現界を離れて、此処へ来た者で厶います。お蔭で此様に立派に成人致しました』
『ハハア、妙な事を云ふ女だな。お前キ印ぢやないかい。どこともなしに文助によく似てゐるやうだが、おとし子なれば、こんな子があるだらうが、三つの時に死んだものが、此世に生きてる筈がない……ハテナア』
『高姫様、此処は冥土の八衢で厶いますよ。決して現界ぢや厶いませぬ。かうして沢山の人が此処に集まつてゐるのも、皆現界と幽界の精霊ばかりですワ』
『一寸待つておくれ、一つ考へ直さねばなるまい。さう聞くと何だか、そこらの様子が違ふやうだ。お前が三つの年に霊界へ来て、こんなに成人したとは、テモ偖も不思議なことだ、ウーン』
と舌をかみ、首を傾けて思案にくれてゐる。白い色の守衛は、大勢の者を一々手招きした。先づ第一に招かれて近寄つたのは、八十ばかりの杖をついた老爺である。
『其方は何と云ふ名だ』
『ハイ私は敬助と申します』
『どつか具合が悪いか、チツと顔色が悪いぢやないか』
『何だか、停車場のやうな所へ行つて居つたと思へば、私の胸に行当つたものがある。其際に、ハツと思つたと思へば、いつの間にか斯様な所へやつて来ました』
『年齢は幾つだ』
『ハイ六十歳で厶います』
『余り頭が白いので、八十ばかりに見えた。お前は余程ハラの悪い男だなア、ヱルサレムの宮を部下の奴に命じて叩き潰したのは其方だらう』
『イエ滅相な、決して私ぢやありませぬ。片山君が命令を致しましたので、其命令を聞かねば、到底、泥棒会社の社長が勤まりませぬので、止むを得ず部下に命令を致しました。決して主犯では厶いませぬ』
『さうするとお前は従犯だな。ヨシヨシ、此奴ア容易に俺の手には合はぬ。伊吹戸主神様に、厳格なる審判を御願ひするであらう、サ、此門を通れ』
と白の守衛は門内へつき入れて了つた。白髪の爺はヒヨロ ヒヨロしながら、屠所の羊の様に歩み行く。後には細長い六十位な男が白に審判を受けてゐる。
『其方は何者だ、ネームを名乗れ』
『ハイ私は片山狂介と申します』
『成程、随分軍閥でバリついたものだな。お前の為に幾万の精霊を幽界へ送つたか分らぬ、幽界にては大変に名高い男だ。これも此処で審判く訳には行かぬ。サア、奥へ行けツ』
と又もや門内へ押込んだ。次にやつて来た爺は鉄の杖をついてゐる。
『其方は高田悪次郎ではないか』
『ハイ、私は表善裏悪の張本人、世界一の富豪にならうと思うて、随分活動致しました。併しながら不慮の災難によつて、かやうな所へ迷ひ込み、誠に面目次第も厶いませぬ』
『其杖は鉄ぢやないか、左様な物を、なぜこんな所まで持つて来るか』
『これは鬼に鉄棒と申しまして、現界に居る時から、鬼の役を勤めて居りました。此鉄棒を以て、凡ての銀行会社を叩き壊し、皆一つに集めて巨万の富を積んだ唯一の武器で厶いますから、こればかりはどこ迄も放すことは出来ませぬ』
『此鉄棒はこちらに預かる。サア、キリキリ渡して行け』
『滅相もない、命より大切な鉄棒、どうしてこれが渡されませうかい』
『お前が之を持つてゐると、伊吹戸主の審判に会うた時は、キツと地獄の底へ堕ちるぞよ。それで此処で渡して行けと云ふのだ。さうすると八衢の世界へおいて貰ふやうになるかも知れぬから』
『滅相もないこと仰有いませ。そんな甘いことを云つて、泥棒しようと思うても其手には乗りませぬぞ。此鉄棒は斯うみえても二億円の価値があるのです。此鉄の棒から生み出した二億円、言はば此棒は二億円の手形のやうなものだ。何時地獄へやられても、これさへあれば大丈夫だ。地獄の沙汰も金次第、如何なる鬼も閻魔も之にて忽ちやつつけて了ひ、地獄界の王者となる重宝な宝だ。何と云つても之ばかりは渡しませぬから諦めて下さい』
 かかる所へ、赤面の守衛がやつて来た。
『ヤア、お前は高田悪次郎ぢやな。よい所へ出てうせた。サア、奥へ来い、其鉄棒は門内へ一歩も持込むことは罷りならぬぞ』
『ハハハハハ、冥土の八衢か何か知らぬが、体のよい泥棒が徘徊するとこだワイ。之は高田が唯一の武器だ。誰が何と申しても放しは致さぬ、放せるなら放してみい。如何なる権力も神力も金の前には屈服致さねばなるまいぞ』
『馬鹿者だなア。霊界に於て、物質上の宝がいるものか。金が覇を利かすのは、暗黒なる現界に於てのみだ』
『それでも、地獄の沙汰も金次第といふぢやありませぬか』
『金を以て左右致すのは、所謂地獄の行り方だ』
『それ御覧、何れ私のやうな者は天国へ行ける気遣ひはない。生前より地獄行と覚悟はしてゐたのだ。それだから、地獄へ行けば金の必要がある、何と云つても之は放しませぬワイ』
『さうすると、貴様は天国よりも地獄が可いのだな』
『さうですとも、地獄の方が人間も沢山居るだらうし、金さへあれば覇が利くのだから、どうか地獄へやつて貰ひたいものです。何程地獄だつて、二億円の金さへあれば何でも出来ますからな』
『さう云ふ不心得な奴に、金を持たして地獄へやる事は罷り成らぬ。ここにおいて行け』
『何と云つても、此奴ばかりは放しませぬよ』
『然らば、此方の力で放してみせう』
 「ウン」と一声霊縛をかけるや否や、高田の手は痺れて、鉄の棒はガラリと地上に落ちた。忽ち高田の手を後へ廻し、
『此応対盗人奴』
と言ひながら、サル括りにし、ポンと尻をけつて門内へ投げ込んだ。高姫は群衆の中から伸び上つて、ニコニコしながら此光景を眺めてゐた。
(大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 松村真澄録)
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