ニコラスが広場に来てみると、警護させておいた兵士たちはいずれも立ったまま眠っており、繋いでおいた四人の姿はなかった。またいつの間にか、縛って連れてきた小国姫とヘルの姿もなかった。
にわかにハゲワシが兵士たちの頭をこつきまわり、兵士たちは狂乱して無性やたらに斬り込んできた。ニコラスは従者たちに指図して応戦した。たちまち怪我人が十数人出てしまった。
このとき空中に音楽が響き、宣伝歌が聞こえてきた。隆光彦の神がニコラスの無礼な振る舞いに歌で戒めを与えた。そして一同に改心を促す説示を宣伝歌に込めて説き諭した。
兵士たちはたちまち傷は癒え、眠気は去って精神爽快を覚えた。ニコラスは合点行かず、士官を引き連れてふたたび館の奥に進み入れば、小国姫、三千彦をはじめ縛り上げた人々は、嬉しげに手を打って酒宴の最中であった。
ニコラスは翻然として悟り、神徳の広大なるに感じて涙を流して三千彦に無礼の罪を謝した。このとき館の外には、ワイワイと山岳も揺るぐばかりの喊声が聞こえてきた。一同は何事かと耳をそばだてて様子をうかがっている。スマートの声は耳をつんざくようにあたりの木霊を響かせている。