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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第2篇 湖上神通よみ(新仮名遣い)こじょうじんつう
文献名3第8章 孤島〔1483〕よみ(新仮名遣い)ことう
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
テルモン湖には、バラモン教で罪を犯した者を流罪にするツミの島があった。ここは波が逆巻く孤島であり、罪人は食物も与えられずにここに捨てられるのであった。

バラモンの荒くれ男、ハール、ヤッコス、サボールの三人は船が難破して、ツミの島に打ち上げられた。そこには殺人罪で島に捨てられ、露命をつないでいたダルとメートがいた。ハールたち三人は食糧難の飢えに堪えかねて、ダルとメートを殺して食べようと付け狙った。

ダルとメートは激しく抵抗し、その勢いに辟易した三人の隙を狙って逃げ出した。ちょうど玉国別たちの船がツミの島に近づいたとき、五人は食うか食われるかの死闘を磯端に繰り広げていた。

玉国別たちが近づいてみると、五人は死闘の末に息も絶え絶えになってそれぞれ倒れていた。船頭は人食いの罪人たちを助けて罪になることに反対したが、玉国別は自分が責任を負うと請け負って船をつけさせた。

玉国別たちは島に上陸し、五人が倒れている磯端にやってきた。ヤッコスとメートはこれまでの経緯を語り、助けてほしいと玉国別たちに懇願した。一行は五人に食料を与えて船に乗せ、介抱しつつ船を出した。

真純彦、伊太彦は舟歌に述懐を乗せながら歌い、船は進んで行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版99頁 八幡書店版第10輯 407頁 修補版 校定版107頁 普及版39頁 初版 ページ備考
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本文  テルモン湖水の真中に  波に漂ふ一つ島
 全島巌に包まれて  少しばかりの笹草が
 彼方此方に点々と  僅かに生えしツミの島
 周回一里磯辺に  いつも荒波噛みつきて
 さも凄惨の気に充ちぬ  そも此島は罪人を
 自ら命終るまで  食物さへも与へずに
 流し捨つべき地獄なり  此鬼島に現はれし
 憐れな人は磯辺の  逆捲く波に飛び込みて
 貝をば拾ひ蟹を採り  僅かに露命をつなぎつつ
 骨と皮とになり果てて  恰も餓鬼の如くなり
 折から来るバラモンの  四五の勇士は船を漕ぎ
 傍の沖を通る折  忽ち吹き来る荒風に
 無慙や船を暗礁に  突き当て忽ちパリパリと
 木端微塵に船体を  打挫きたる悲しさに
 五人の男はツミの島  目当に漸く泳ぎ着き
 二人は水に呑まれつつ  どこともなしに隠れける
 後に残りし三人は  ハール、ヤッコス、サボールの
 バラモン教で名も高き  荒くれ男のヤンチヤ者
 漸くここに来て見れば  殺人罪の廉により
 此ツミ島に捨てられし  ダルとメートの両人が
 巌の穴に身を潜め  衣も着けず真裸
 髯蓬々と猿の如  髪は鳶の巣の様に
 縺れからみし穴棲居  かかる所へ船を割り
 漂ひ来りし三人は  先づ第一に食糧を
 探らむものと磯辺を  彼方此方と探せども
 寄せては返す荒波の  危ふき状に辟易し
 空しき腹を抱へつつ  島の遠近ウロウロと
 尋ね逍遙ひ漸くに  此岩窟を見付け出し
 二人の男の姿をば  見るより早く三人は
 此罪人を打殺し  当座の餌にせむものと
 顔見合して嫌らしく  笑を漏すぞ恐ろしき。
 三人の男は漸く此島に命からがら辿り着いた。往来の船も少く、いつ迄待つても大陸へ帰る見込がない。山一面岩だらけで草の根を掘つて喰ふ事もならず、磯辺の貝や蟹を漁らむとすれども、ここは殊更湖中の波荒き所、到底一匹の蟹も一芥の貝も手に入れる事が出来ぬ。三人は餓死する外なき破目に陥つた。何か獲物もがなと、彼方此方と小さき島を隈なく探し廻り、漸く此岩窟の中に二人の罪人が痩こけて忍んで居るのに気がついた。三人は空腹に堪へ兼ね此二人の男を当座の餌にせむものと恐ろしき心を起し、二人の前にツカツカと立寄り、矢庭に一人を引掴み、双方より両の腕を以てメリメリと力限りにむしり取らうとした。一人の男は岩窟に隠しあつた鋭利な石刀を揮つて一人の友を救はむと立向ふた。三人は此権幕に恐れてパツと手を放した途端に、さしもに険峻な岩山を兎の如く逃げ登り、頭上より岩石の片を拾つては三人目蒐けて投げつける。三人は止むを得ず、此危険を免れむために二人の潜んで居た岩窟の中へ身を隠した。二人の男は、最早三人の人喰ひ人種が吾が投げ下す数多の岩石に打たれて一人も残らず倒れたるならむ、久振りにて人肉の暖き奴を鱈腹喰つて元気をつけむものと色々廻り道して、稍緩き山腹を下り磯辺を伝ふて吾住ひたる岩窟の側へ寄つて来た。見れば三人は少しの怪我もなく穴の中に鼎坐となつて胡床をかき、何事か話して居る。二人はこれを見るより『やア、まだピチピチして居る。こりや大変だ』と磯端を伝ひ、一生懸命に逃げ出す。その足音にハツと気がつき三人は『さア、今の間に取掴まへて口腹を充たさむもの』と一生懸命に二人の後を追ふた。二人は小石を拾ひ投げつけ乍ら逃げて行く。三人は『己れ逃がしてなるものか、山へ上げては大変』と一生懸命に追ふて行く。メート、ダルの両人は磯端の簫を立てた様な岩の前に追ひ捲られ、進退維谷まり、死物狂となつて三人に向ひ組みついた。ここに三人の空腹者と、痩た乍ら蟹や貝に腹を拵へ、饑餓に慣れて居る二人の男と組んず組まれつ、磯端に餓鬼同士の大活劇を演じて居る。
 玉国別の乗れる船は四五丁許り沖の方を白帆に風を孕ませ乍ら走つて居る。舳に立つて居た伊太彦は不思議な島が湖中に浮かんで居ると、よくよく見れば磯端に四五人の男が明瞭り分らねど、何か格闘をやつてる様に見える。直ちに苫葺の中に潜り込み、
伊太『もし先生、彼処に不思議な島が浮んで居ます。そして人間の影らしい者が磯端で大喧嘩をして居る様ですが一寸御覧なさいませ』
玉国『うん、大方有名なツミの島の側へ近寄つて来たのだらう、彼処には大罪人が押込めてあると云ふ事だ、可憐さうなものだな』
伊太『どうでせう、一つ船を寄せて罪人ならば尚の事、大神様の教を説き諭し、助けてやらうぢやありませぬか。現在人の難儀を見て通り越すと云ふ事は吾々宣伝使の勤めでは厶いますまいがな』
玉国『うん、さうだ。助けてやりたいものだ。おい船頭、どうか彼の島へ船を着けて呉れまいか』
船頭の一人『はい、仰せとあれば近く迄は船を寄せて見ませうが、彼処には大変な悪人ばかりで、うつかり船でも寄せやうものなら喰はれて了ひますよ。先繰り先繰り送られて行く奴が食物がない為、弱い奴から喰はれて了ひ、後に残つて居る奴は手にも足にも合はぬ人鬼ばかりだと云ふ事です。上陸さへなさらねば近く迄船を寄せて見ませう』
 伊太彦は又もや舷頭に立ち現はれ、
伊太『おい、船頭大変な活劇が演ぜられて居る様だ。一つ見物して行かうぢやないか』
船頭『そんなら近くまで寄せて見ませう。随分恐ろしい処ですよ』
と云ひ乍ら八挺櫓を漕いで矢を射る如く島の近辺まで船を寄せた。島の近く四五十間の間は、どうしたものか非常に波高く且つ暗礁点綴して実に危険極まる場所である。船頭は巧に暗礁をくぐり、漸くにして十間ばかり磯端の手前に近づいた。五人の男は何れもヘタヘタになつて息も絶え絶えに倒れて居る。
玉国『やア、船頭、御苦労だがソツと船を着けて呉れ。どうやら五人の男が互に争ふた結果、息も絶え絶えになつてる様だ。何とかして助けてやらねばならぬ』
船頭『もし、お客様、あの様な者を助けやうものなら大変、此方が罪人になり、此島へ数多の兵士に送られて永遠に捨てられねばなりませぬ。それはお止しになつたが宜しう厶いませう』
玉国『何、構ふものか。人の難儀を見て吾々は見逃す訳には行かぬ。さア早く船を着けて呉れ。万一お前が船を着けた為、罪人になる様な事があつたら、私が弁解してやらう。そして屹度助けるから安心して磯端に寄せて呉れ』
船頭の一人『そんなら仰せに従ひ、兎も角船を着けて見ませう』
と稍湾形になつた波の低き岩蔭に船を寄せた。ここに船頭は船を固く磯端の岩に縛りつけ、波に攫はれて漂流する憂ひなき様、幾筋も綱を曳いて繋ぎつけた。
 玉国別一行は磯端を伝ひ乍ら、五人が倒れて居る側に荒石を跳び越え跳び越え進み寄つた。五人は宣伝使の姿を眺めて怪訝な顔して居る。
 伊太彦は先づ五人の側に寄り、
伊太『お前達五人は斯んな離れ島に何をして居るのだ。見れば各自に顔から血を出して居るぢやないか。斯様な島へ罪あつて流された上は、互に仲良く暮したら如何だ』
 バラモン軍のヤッコスはムクムクと起き上り、顔の血糊を手にて拭ひ乍ら、
ヤッコス『私はハルナの都の大黒主様から或使命を帯びて此湖水を渡り、北に向つて進む折しも暴風に遭ひ暗礁に衝突し船体は木端微塵となり、二人の同僚は逆巻く波に呑まれ行衛不明となり、吾々三人此島に漸く漂着致しました。別に怪しいものでは厶いませぬから、何卒お助けを願ひます』
メート『貴方は神様のお使と見えますが、何卒私等二人をお助け下さいませ。此三人が二時ばかり以前に此処へ漂着し、吾々二人の命をとり、餌食にせむと追ひ駆けますので、逃げ場を失ひ死物狂となつて防ぎ戦ふて居ましたが、最早力尽き手も足も云ふ事を聞かなくなりました。何卒憐れに思ひ命をお助け願ひます。そして三人は何処かへ連れてお帰り下さいませ。斯様な人喰人種が此島へ居りましては吾々は堪りませぬから』
と嫌らしい飛び出した目から涙をハラハラと流し水鼻汁を垂らして悲しげに頼み入る。
 玉国別は船中に貯へあるパンを取り出し、言葉優しく五人に取らせ、且つ種々と一同が心を籠めて介抱した。五人はパンを与へられ、又久振りでダル、メートは真水を与へられ、嬉し泣きに泣き乍ら、一生懸命に掌を合せて拝み倒して居る。
 三千彦、デビス姫は言葉優く五人を労り、足の弱つたものは手を曳き、或は肩にかけ等して乗り来りし船の側近く誘ひ来り、各自五人の体を舁く様にして船の中へ救ひ入れ、横に寝させ又もや帆を上て南へ南へと進み行く。
 真純彦は舷頭に立ち歌を歌ふ。三千彦、伊太彦は舷を叩いて潔く拍子を取る。
真純彦『テルモン湖水の真中に  波を浴びつつ衝つ立てる
 名も恐ろしきツミの島  人喰人種か知らねども
 五人の姿を見るよりも  いとど憐れを催して
 見捨て兼ねたる吾一行  危き暗礁潜りぬけ
 漸く船を磯端に  繋ぎてここに上陸し
 五人の男を相救ひ  目無堅間の船に乗せ
 折から吹き来る順風に  帆を孕ませて波の上
 船辷らして進み行く  如何なる罪を犯せしか
 事の次第は知らねども  人は天地の分霊
 ムザムザ殺すものならず  バラモン国の掟とし
 罪人なりと憎しみて  鳥も通はぬ此島に
 情なく捨てて自滅をば  待たすと云ふは何の事
 呆れ果てたる制度なり  神が表に現はれて
 如何なる罪も宣り直し  悪き心や行ひを
 改めしめて天国の  神苑に救ふ三五の
 神の教の宣伝使  心安かれメート、ダル
 二人の男の子は三五の  神の司が預りて
 身を安全に何処迄も  心を籠めて守るべし
 さはさり乍ら両人よ  今日を境に村肝の
 心の底より改めて  悪と虚偽との行ひを
 一時も早く悔悟して  誠の道に適へかし
 神は汝と倶にあり  神に任せし人の身は
 世に恐るべきものはなし  ああ惟神々々
 神の恵みを朝夕に  心に深く刻み込み
 束の間も忘れなよ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  荒波猛り狂ふとも
 仮令神船は覆るとも  仁慈の神の在す限り
 恐るる事はあらざらめ  勇めよ勇め皆勇め
 バラモン軍に仕へたる  ヤッコス、ハール、サボールよ
 汝も今より心をば  よく改めて三五の
 誠の教を聞くがよい  汝等三人月の国
 大黒主の命を受け  これの湖水を渡りしは
 三五教の神軍を  途中に喰ひとめ進路をば
 妨げせむとの企みぞと  吾等は早くも覚りけり
 さはさりながら世の中に  敵もなければ仇もない
 天地の間に人となり  同じ月日の光をば
 浴びて此世にある限り  互に助け睦び合ひ
 誠一つを楯として  互に手を曳き現世を
 楽しく嬉しく面白く  渡るが人の務めぞや
 必ず悪に迷ふなよ  三五教の宣伝使
 神の司の真純彦が  荒波猛る湖の上
 神に代りて説き諭す  ああ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と歌ひ乍ら船底にコトコトと鼓を拍たせ乍ら際限なき湖上を辷り行く。
(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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