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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第3篇 千波万波よみ(新仮名遣い)せんぱばんぱ
文献名3第10章 報恩〔1485〕よみ(新仮名遣い)ほうおん
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
玉国別一行を乗せた船は、仮に初稚丸と命名された。海賊船がやってくるのを見るとヤッコスは宣伝使たちに向かい、自分はバラモン軍に仕える目付役を表向きしているが、実は海賊の親分であることを明かした。

ヤッコスは自分に船の航路とこの場の始末を任せてほしいと申し出、玉国別は許した。ヤッコスは湖の水路に船を向けた。そして海賊船が初稚丸を取り囲むと、大声を上げて名乗りで、三五教の宣伝使を捕えてキヨの港に護送することろだ、と呼びかけた。

海賊船を統率していたデブは、ヤッコスの部下であった。ヤッコスはデブにうまく説明し、海賊たちは初稚丸を後に去って行った。

ヤッコスは、玉国別の仁慈無限の心に触れて、これまでやってきたことが恐ろしくなり、にわかに人間らしい気分を起こして、この場の危急を救うために部下の海賊たちを欺いたことを玉国別に懺悔した。

玉国別は、今までの怨みをそっくり湖に流して、同じ船の一蓮托生として和気あいあいとこの湖を渡ろうと一同を安堵させた。ヤッコスは櫓をあやつりながらこれまでの述懐と改心を舟歌に歌った。初稚丸は船首を再び西南に転じ、月の海面を進んで行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月29日(旧02月13日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版127頁 八幡書店版第10輯 416頁 修補版 校定版137頁 普及版49頁 初版 ページ備考
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本文  玉国別一行の搭乗した船は仮に初稚丸と命名された。その理由は初稚姫に危急の場合この堅牢なる船を与へられたからである。月照る湖面を白帆をかかげ南へ南へと急速力にて翔つて行く。前方に当り七八艘の船が単梯陣を張つて初稚丸目蒐けて押し寄せ来る形勢が見えて居た。ヤッコスは之を見るより早く、
ヤッコス『もし、御一同様、あの前方に並んでゐます七八艘の船は此湖に陰顕出没して南北往来の船を掠める賊船で厶います。捉まつては一大事ですから何とか工夫をせなくてはなりますまい。私はこれから舳を少しく西南に向けやうと思ひますから其覚悟で居て下さい。西南へ向ひますれば暗礁点綴して容易に賊船は追つ駆ける事は出来ませぬ。然し私も表面バラモン軍に仕へ目付頭を致して居りますが海賊の大親分です。船路の様子を知つてるのは私許りです。もしも強敵に出会つた時は、何時も此航路をとり逃げます。追駆けて来た船は必ずその辺で難船し、或は沈没するものです。左様さして頂いても宜しいか』
玉国『船路の勝手を知つてるお前に何事も一任する。さア早くその用意をして呉れ』
ヤッコス『はい、御恩の報じ時で厶います。然らばこれから私が船を操ります』
と櫓を握り八人の水夫に一生懸命に櫂を漕がせ矢を射る如く走り出した。賊船は一生懸命に舳を転じ初稚丸の後を追ふて追駆け来る。
 ヤッコスは一生懸命に水夫を励まし、櫓を漕ぐ。漸く危険区域に船が差蒐つた時、賊船の二三艘は早くも舷々相摩する処迄、近づいて来た。さうして錨を初稚丸に投げつけた。初稚丸は到頭おつつかれて了つた。グヅグヅして居る間に八艘の船は初稚丸の周囲に船垣を作り、各自に弓を満月に絞つて威喝を試みて居る。ヤッコスは大声をあげ、
ヤッコス『オイ、貴様等は賊船ではないか。俺を誰と心得てる。賊船頭のヤッコスだぞ。俺は今大黒主の命令によつて三五教の宣伝使を捕縛し、キヨの港の関所に送る途中だ邪魔をひろぐと容赦は致さぬぞ』
 八艘の船を統率して居た海賊のデブは舷頭に立ち、
デブ『あ、親方で厶いましたか。えらい失礼を致しました。貴方のお乗込の御用船とは知らず、よい獲物が現はれたと、全隊を引率れて、ここ迄おつ駆けて来ました。誠に済まない事を致しました。何卒お許しを願ひます』
ヤッコス『今後は必ず心得たが宜からう。其方が安閑として此湖上に悪性商売が出来るのも皆此ヤッコスがバラモン軍の目付頭になつてる余徳ぢやないか。俺が一つ首を振らうものなら、忽ち数千人の軍隊を以て貴様達を捕縛し、且貴様等の住宅を皆知つてるから、妻子眷族も召捕つて重い成敗に会はされるのだ。それよりもこれから北へ北へと進んで、三五教の宣伝使が七八十人やつて来るから、それを捕縛すべく進んだが宜からう。それを巧くやつたならば、其方に望み次第の褒美を、関所の役人に執持つて貰つてやらう。さア行け。後に居る奴は皆弱虫許りだ。一番強い奴はここに五六人ふん縛つて連れて来たのだ。グヅグヅしてゐると影を見失ふかも知れぬぞ。早く船を引返し、真北に向つて進んだが宜からう』
デブ『はい、承知致しました。何分宜しう願ひます。さア皆の者、舳を北に向け、急速力で漕ぎ出せ』
と命令した。忽ち八艘の船は船首を北に向け一生懸命にグイグイと櫂の音賑しく鳥の飛つ如き勢で遠ざかり行く。
ヤッコス『アハハハハハ、もし、玉国別の宣伝使様、悪人も斯んな時には間に合ふもので厶いませうがな。私も昨日迄のヤッコスであればここで怎んな謀反を起すか分らないのですが、貴方等の仁慈無限のお心に感じ、今迄やつて来た事が恐ろしくなりまして、今日は漸く人間らしい気分になりました。神様の教を聞いたものが嘘偽りを申すのは誠に済まぬ事とは存じ乍ら、此場合臨機応変の処置を採らなくてはならぬと存じ、心にもなき偽りを申しました。何卒神様にお詫を貴方様からして下さいます様お願致します』
と真心を面に現はして頼み入る。
玉国『ハハハハハやア感心だ。人喰人種が俄に如来様になつたのだな。それではダル、メート様も、もはや喰はれる心配もないから今迄の怨みをスツクリ湖に流して同じ船の一蓮托生、和気靄々と打解て此湖を渡らうぢやないか』
 バラモン組、並にメート、ダルの両人は『ハイ』と嬉しげに差俯向き涙さへ滲ませて居る。
 ヤッコスは櫓を操り乍ら歌ひ初めた。一同は舷を叩いて賑々しく之に和した。その声は水面に響き渡り海底の竜神を驚かす許りに思はれた。
ヤッコス『テルモン湖水に昔から  鬼よ悪魔と呼ばれつつ
 往来の船を引捕らへ  宝を奪ひ衣を剥ぎ
 尊き人の命まで  とりて其日を送りたる
 悪逆無道のヤッコスも  バラモン軍の勢に
 辟易してゆ黄白を  数多散じて賄賂とし
 キヨの港の関守に  うまく取入りバラモンの
 目付頭と選まれて  密かに海賊使役しつ
 悪と虚偽とに日を送る  此ヤッコスも天命尽き
 勝手覚えし海原も  俄の暴風に進路をば
 謬り暗礁に乗り上げ  木端微塵に船砕き
 ここに五人は真裸体  波を潜りて漸くに
 水泳に長けた三人は  人の恐れて寄りつかぬ
 荒波狂ふツミ島へ  命からがら泳ぎつき
 飢に迫りて罪人を  屠り殺して喰はむと
 力限りに格闘し  互に体は疲れ果て
 息も絶えむとする時に  仁慈無限の三五の
 教の道の宣伝使  現はれまして吾々が
 危き命を救ひまし  清き教を諄々と
 説き玉ひたる有難さ  流石無道の吾々も
 神の御声に目を覚まし  有難涙にくれ乍ら
 初稚丸に乗せられて  キヨの港に帰らむと
 波に漂ふ折もあれ  前方に浮ぶ八艘の
 船は正しく吾部下の  デブの率ゆる賊船と
 見るより早く進路をば  転じて湖中の危険地と
 聞えし灘に駆け向ふ  湖に慣れたる賊船は
 矢を射る如くおツついて  思ひも寄らぬ獲物ぞと
 四方八方取囲む  海より深き恩人の
 命を救ひ高恩に  報ひまつるは此時と
 幸ひ部下のデブ以下に  嚇し文句や偽を
 並べて漸く追ひ散らし  初めて胸もサヤサヤと
 晴れ渡りたる月の空  実にも芽出度き次第なり
 ああ惟神々々  御霊幸倍ましまして
 暗礁点綴する湖を  無事に彼岸に達せしめ
 吾等一行をやすやすと  キヨの港へ着かしめよ
 思へば思へば昔より  神の心は露知らず
 善と真とに背を向け  悪と虚偽とに一心に
 心を曇らせ居たるこそ  実にも愚の至りぞと
 省みすれば後の世が  いと恐ろしくなりにけり
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直し聞き直す
 三五教の大御神  今まで犯せし身の罪を
 赦させ玉へと願ぎ奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  これの湖水は乾くとも
 仮令命は失するとも  一旦神に真心を
 捧げ奉りしヤッコスは  如何でか曲に溺れむや
 憐れみ玉へ惟神  皇大神の御前に
 畏み畏み願ぎ奉る』
 斯く歌ひ乍ら漸くに船首を再び西南に転じ潮流にのつて月の海面を辷り行く。
(大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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