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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第3篇 千波万波よみ(新仮名遣い)せんぱばんぱ
文献名3第13章 兎耳〔1488〕よみ(新仮名遣い)うさぎみみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
ヤッコスはダルの耳を引っ張りながら、弁解を歌に乗せて述べ立てる。ダルは耳を放せとヤッコスに怒鳴りたてた。ヤッコスがダルの耳を放さないので、メートが助けに入った。するとハールがヤッコスの助太刀に入る。

伊太彦は見かねて大喝一声、ヤッコスに耳を放すように促し、やっとヤッコスは話した。今度はメートがヤッコスの耳を掴んで引っ張る。伊太彦がまたしてもメートをなだめてようやく離れ、喧嘩が終わった。

ダルとヤッコスは不機嫌な顔をして黙り込んでいる。船頭のイールは流ちょうな声で、今の喧嘩のありさまを歌いだした。船は波を分けて進んで行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月29日(旧02月13日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版157頁 八幡書店版第10輯 426頁 修補版 校定版168頁 普及版61頁 初版 ページ備考
OBC rm5813
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本文  ヤッコスは自分の弁解を兼ね、且つダルが自分の内心を素破抜いた其恨に報いむと、下女が鍋の耳を掴んだやうな調子で抱へ乍ら、歌の節につれ、ダルの首をしやくりつつ臭い息を顔に遠慮会釈もなく吹きかけ呶鳴り初めた。
ヤッコス『エーエ、憚り乍ら一寸御免を蒙りまして、三五教の神様の、大神徳に帰順した、ヤッコス司が一場の、お経の文句を唱へ上げますならば、チヤカポコ チヤカポコ ポコポコポコ』
ダル『こりやこりや、さう耳をしやくつては痛いぢやないか、放さぬかい』
ヤッコス『エー、なかなかなかなか、此耳放してなりませうか。ズ蟹のやうに泡をふくの、目玉が一寸飛び出したのと、善言美辞の神様の、教を罵り聞き乍ら、悪言暴語のダルの口、一つ懲してやらなけりや、私の男が立ちませぬ、自分の心に引き比べ、正真正銘正直の、ヤッコスを捉まへて、大勢さまの目の前で、讒言するとは何の事、決して許しはせぬほどに、こりやこりや がりぼし瘠つぽし、バツチヨ笠のやうな態をして、骨と皮とになり乍ら、腮を叩くも程がある、貴様の耳は兎耳、握つた上は中々に、放しはせぬぞこりやどうだ、誠に済まぬ事許り、申しましたと皆さまの、お前でお詫をすればよし、性懲もなく何時迄も、頑張り散らす其時は、俺も承知をせぬ程に、サアサアどうだがりつぽし、貴様の目玉は何の事、道案内の表札を、立てて置かねば分らない、目玉が奥に引つ込んで、おまけに白眼が七八分、これでも矢張人間の、面ぢやと思ふて居よるのか、大化物か馬鹿者か、合点のゆかぬ馬鹿者ぢや、貴様の眉は何の事、千切れ千切れのベラサク眉、毛虫のとまつたやうぢやぞや、鼻の柱は胡坐かき、不整頓なる小鼻奴が、眼鏡のやうについて居る、口は鰐口歯は出歯で、加之に前歯が欠げて居る、腮の短いこの面は、譬方ない畜生面、こんな口からベラベラと、何の誠が喋舌りよか、身の程知らぬもあんまりぢや、こりやこりやも一つ揺らうか、痛いと云つても俺の耳、決して痛くはない程に、アハハハハツハ、アハハハハ、呆れて物が云はれない、イヒヒヒヒツヒ、イヒヒヒヒ。歪み面陰気な顔の真中に、歪んだ鼻がドツカリと、胡床をかいて居やがるわ、ウフフフフツフ兎耳、驢馬の土産にやつたなら、定めし満足するだらう、エヘヘヘヘツヘ、エヘヘヘヘ、偉相に吐す減ず口、四角い口を不行儀に、厚い唇つき出して、馬来人種がやつて来て、運上とるやうな妙な口、オホホホホツホ、オホホホホ、おづおづ致して慄うてる、骨と皮とのがり坊子、どこを押したらあんな事、ようまあ吐せたものだなア、貴様は人に禍を、被せて喜ぶ曲津神、滅多な事を喋舌りよると、此儘承知しはせぬぞ、俺でも矢張神の子だ。一時雲に包まれて、悪魔の擒となつたとて、何時迄それで居るものか、馬鹿にするのも程がある、ま一度腮を叩いて見よれ、此儘許しはせぬ程に、チヤカポコ チヤカポコ』
ダル『こりや、よい加減に放さぬかい、耳が千切れるぢやないか。肝腎要の企みを云ひ当られて腹が立つのも最もだが、貴様も茲が好い改心のし時だ。これ痛いわい、何しやがるのだ、放さぬかい』
ヤッコス『放さぬ放さぬ放さぬぞ、このヤッコスはどこ迄も、耳の千切る所迄、因縁説いて聞かさねば、どうしても胸が治まらぬ、これや これや どうだダルの奴、今迄申た悪垂口、誠に済まぬ嘘許り、申ましたと宣り直し、玉国別や其外の、神の司の疑を、晴らして呉れよ何処迄も、俺は此耳放さない、何だい涙を出しやがつて、貴様は卑怯な奴だなア』
 側に見て居た、メートは耐り兼ね、又後から、ヤッコスの両方の耳をグツと握り、
メート『こりやこりや悪漢ヤッコスよ、乱暴な事を致すなよ、吾身を抓つて人の痛さを知れと云ふ事は、昔の聖者の御教だ、俺も貴様の両耳を、握つて思ひ知らしてやる、これやこれや痛いか痛いだらう、貴様がダルの耳朶を、謝り入つて放す迄、此耳はどうしても放さない、痛いか痛いかこれやどうだ、貴様の耳は驢馬の耳、内耳も外耳もむしやむしやと、獣のやうな毛が生へて、気分のよくない手触りだ、胡麻煎頭を持ち乍ら、口の先にて胡麻を摺り、一時逃れに甘い事、吐した所で神様は、心の底迄御承知だぞ』
 ヤッコスはメートに背から耳を力一杯握られ頭をしやくられ、涙を流し乍ら猶も執念深く、ダルの両耳を握つて放さない。見るに見兼て、ハールは又両耳を掴もうとする。伊太彦は大喝一声、
伊太『こりやこりや、ヤッコス、何乱暴な事をするのだ、さう耳を掴まなくても話は出来るぢやないか、サア早く放さないか』
 ヤッコスは不承無精に『ハイ』と云つたきりダルの耳を放した。
ダル『アハハハハハ、態見い、痛からう。オイ、メート確り引張つてやつて呉れ、大分此奴の耳は金挺だから、少々片つ方位ちぎつたつて、神経が通つて居ないから、痛がる気遣ひは無からうよ』
メート『よし、お前の命令だ、どうしても放すものか、もう斯うなれば蟹に手を挟まれたも同様だ。鼈に噛まれたも同様だ、千切れる所まで放すものか』
ヤッコス『アイタタタタ、これメート、俺も放したのだから、貴様も放して呉れ』
メート『痛むやうに引つぱつて居るのだ。未だ宣伝使の命令が下らないから命令の下るまで、がりぼしの手で引つ張つてやる』
と云ひ乍ら引張る。其度毎に鮒が泥に酔うたやうに、パクパクと歯並の悪い口を開閉して居る。
伊太『オイ、メート、もうよい加減に放してやれ、此奴は吾身知らずぢやない、耳知らずだから、人の耳を直に狙ふのだ。耳ばかりかと思へば睾丸狙ひだ。皆よく気をつけたらよからうぞ』
メート『そんなら放してやりませうか。大分に耳が、伊太彦さまだと見えますわい、アハハハハハ』
伊太『傍の見る目もいたいたしい、まア見直し聞き直して許してやるがよからう』

メート『ヤッコスが耳引張られ顔しかめ
  ああ伊太彦に救はれにける。

 伊太々々し伊太彦さまのお情を
  守りて耳を放す惜さよ』

と歌ひ終つて耳をパツと放した。
 ヤッコスの耳はメートの堅い爪が深く這入り込んだと見えて、血をぼとりぼとりと滴らしながら、残念さうにメートの横顔を睨めつけて居る。

伊太彦『ヤッコスに耳つかまれたダルさまは
  目口鼻迄ゆがめつるかも。

 渋面を作つて涙ぽろぽろと
  腮辺にダルの顔の憐さ。

 後から二つの耳を引つ張られ
  メート鼻とをむけむけとする』

メート『此男メートの旅に送らむと
  思ふ矢先に伊太彦の声。

 伊太彦の鶴の一声拒まれず
  無念ながらも耳放しけり』

ヤッコス『人の耳掴んで見ても痛くなし
  されどヤッコス耳は痛かり。

 神経の通はぬ耳か力限り
  ダルを引けども痛くなかりし。

 吾耳は温い血潮が通つて居る
  引かれた時の耳の痛さよ』

 耳の喧嘩は漸く済んだ。ダル、ヤッコス両人は、不機嫌な顔して黙り込んで仕舞つた。船頭のイールは、広き湖原の風に曝された流暢な声で歌ひ出した。
イール『ダルとヤッコス二人の喧嘩
 耳兎兎のゆがみ合い
 浪はどんどん押し寄せ来る
 耳の鼓膜をひびかせて
 聞くも怖ろしヤッコスの企み
 ばらすダルさまは面白い
 痛い痛いと互に耳を
 引いて苦しむ浪の上
 耳の痛いよな小言を聞いて
 又もや痛い程耳ひかれ
 目鼻口耳眉毛のおきば
 並べ立てたる面黒さ
 顔はお猿で心は鬼よ
 やがて鴉が婿にとる
 長い船路を辷りて行けば
 船の中にもおとし穴
 人を陥て自分の望み
 経と緯との悪企み
 百里二百里遠くはないが
 神の御国は近くない
 西は照国東は木国
 北はテルモン南はイヅミ
 中に漂ふキヨの湖』
と歌ひ乍ら、湧き返るやうな、暑い浪を分けて行く。
(大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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