三五教の宣伝使・初稚姫は、玉国別一行の危難を守ろうと、猛犬スマートを引き連れてキヨの湖を渡り、バラモン軍関守のチルテルの館に立ち寄っていた。そこの離れ家に落ち着き、一弦琴を弾じながら使命を果たそうと潜んでいた。
チルテルは初稚姫の美貌にうつつを抜かし、姫を屋敷の中に留め置いて、妻ある身でありながら恋の野望を遂げようと企んでいた。
チルテルの妻チルナ姫は、部下のカンナとヘールに初稚姫を口説かせて、夫の初稚姫に対する興味を失せさせようとした。初稚姫はやってきたカンナとヘールを自室に招き入れ、手ずから茶菓を供じて話を聞いている。
二人は美人の前でいいところを見せようと、それぞれ初稚姫の美しさを褒めたたえる即興の歌を歌って見せた。三人は互いに歌をもって心を探り合いつつ、夏の長い日を知らぬ間に暮らしてしまった。
チルナ姫は二人の成功を案じ煩いつつ、足音を忍ばせて窓の外に立ち寄り、息を潜めて中の様子を聞き入っている。