スマの浜辺には山のごとく老若男女が集まって、伊太彦が率いる猩々舟の船団を歓呼で迎えていた。風は芳香を送り無声の音楽聞こえて天地は清く、また静かに賑わしく、理想の原語句を現出したごとき真善美愛の極致にたっした。
人々の心には一点の塵もとどめず互いに和気あいあいとして一切の障壁を忘れ、その睦まじきこと鴛鴦の番のごとくであった。
それにもかかわらず、猜疑心にからまれた心の暗鬼は、畏怖驚愕のあまり、バラモン教のヤッコス、サボールを駆って無残にも湖中に身を投じさせたのである。
玉国別の命で小舟を浮かばせ待っていた真純彦、三千彦は、二人が落ちた渦巻の上に舟を寄せ、二人を救い出すことができた。衆人は歓喜し、真純彦、三千彦の仁侠を手を打って感賞した。
チルテルは猩々の乗る車を造り、先頭に立って磯畑に待っている。伊太彦はまっさきに玉国別に前に進みより、歓喜の涙をたたえながら手を握りニ三回ゆすった。玉国別は感涙にむせびながら伊太彦の労をねぎらった。
宣伝使たちは里人が用意した山車に乗り、猩々たちは十数台の車に乗って、歌を歌いながらバーチルの館に帰り行く。
チルテルは猩々車の先頭に立って述懐と祝いの音頭をとった。バーチルの屋敷に着くと、一同は庭園に筵を敷いて祝いの酒に舌鼓をうち歓喜を尽くした。
バーチルとサーベル姫は一同に恭しく礼を述べた。玉国別、チルテルの一行を導いて奥の広い客間に案内した。猩々たちも続いて奥の間に進んだ。一同はそれぞれ述懐の歌を歌った。
玉国別はアヅモス山の谷あいを跋渉し、木を数多の杣人に伐採せしめ、神殿の普請に着手することとなった。里人たち、チルテルの部下たち、猩々たちは勇んで宮普請に奉仕した。