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文献名1霊界物語 第60巻 真善美愛 亥の巻
文献名2第2篇 東山霊地よみ(新仮名遣い)あづもすれいち
文献名3第11章 法螺貝〔1536〕よみ(新仮名遣い)ほらがい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-05-12 17:04:03
あらすじ
玉国別一行はバーチル、チルテルそのほか一同に別れを告げて、ハルナの都を指して進むことになった。別れを惜しんでバーチル以下一同は袖にすがりつき、涙をたたえて別離の歌を歌う。

バーチルが述懐を込めた歌を歌い、玉国別一行が和歌で返し、またスマの里人たちが和歌で述懐と別離を歌った。

玉国別一行はスマの里を後にし、晩夏の風を浴びながら進んで行く。日がたそがれ、大原野に人通りも少なく、わずかに道のかたえにある沙羅双樹の森で一夜を過ごそうと入って行く。

この森には小さな祠が建っており、一行五人は祠の前にみのを敷いて笠を顔にかぶり、一夜を明かすことになった。

深夜になると三人組の泥棒が現れ、一行の寝息をうかがっている。泥棒の一人は元バラモン軍のベルであった。泥棒たちは、五人を襲う相談をしている。

玉国別は泥棒たちの話を聞いていたが、祠の後ろから闇夜をつらぬいて法螺の音が響いてきた。泥棒たちは驚き、ベルともう一人は逃げて行ったが、新米の乙はその場に立ちすくんでしまった。

玉国別が法螺貝の吹き主を歌で尋ねると、祠の後ろから答えたのは元バラモン軍将軍鬼春別、今は比丘となた治道居士が名乗り出た。一行は歌で泥棒の一件を述懐し、挨拶をした。

三千彦が枯れ枝に火をつけて明りを取った。治道居士は祠の後ろから現れ、玉国別一行に挨拶をなした。一行はこれまでの経緯をしばし語り合った。

玉国別は、体が休まったから夜中でも先に進もうと提案した。治道居士はしばらく同道することになった。見れば、ひとりの泥棒がしゃがんで震えている。泥棒は、自分は今日初めて、泥棒のベルという男の家来になったところだ、と言うと、こそこそと闇に姿を隠してしまった。

一行六人は法螺貝を吹く治道居士を先頭に立てて東南の方向に進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月07日(旧02月22日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年8月12日 愛善世界社版131頁 八幡書店版第10輯 641頁 修補版 校定版139頁 普及版60頁 初版 ページ備考
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本文  玉国別一行はバーチル、チルテル其外一同に暇を告げ山野湖河を渡りハルナの都を指して進む事となつた。別れを惜みてバーチル以下一同は袖に縋りつき涙を湛へて別離の歌を歌ふ。
バーチル『神の任さしの宣伝使  清き身魂の玉国別は
 天津御神や国津神  百の神々勇み立ち
 その身辺を守ります  尊き珍の神司
 従ひ玉ふ真純彦  三千彦 伊太彦 デビス姫
 神に等しき御身魂  親子の悩みを救ひまし
 此里人をよく治め  珍の宮居を建て玉ひ
 タクシャカ竜王を初めとし  サーガラ竜王言向けて
 世界の災除きまし  小天国を建設し
 恵みの露を四方八方に  垂れさせ玉ひし有難さ
 千代も八千代も永久に  アヅモス山の山麓に
 鎮まりまして吾々を  導き玉へと朝夕に
 祈りし甲斐もあら悲し  教の御子を後にして
 魔神の猛る月の国  ハルナの都に出で玉ふ
 その首途を見送りて  悲しみ胸に咽返り
 涙は滝と流れ落つ  あゝ惟神々々
 神の任さしの宣伝使  如何程真心現はして
 頼むも詮なき御体  別れを惜むも愚なれ
 さはさり乍ら師の君よ  ハルナの都の神業を
 無事に終へさせ玉ひなば  これの聖地を見捨てずに
 再び現はれ来りまし  吾等に尊き御教を
 完全に委曲に伝へませ  宮の司のバーチルが
 里人一同になり代り  慎み願ひ奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』

玉国別『バーチルの清き言葉を名残にて
  いざ立ち行かむ神のまにまに』

真純彦『皇神の任さしの儘に吾は行く
  健かなれや百の人等』

三千彦『縁あらば再びお目にかかるべし
  神の恵みに世を送りませ』

伊太彦『言葉にも尽され難き待遇を
  受けし恵みを如何に返さむ』

デビス姫『いざさらば吾師の君と諸共に
  別れを告げむ百人の前に』

アンチー『玉の緒の生命の親に果敢なくも
  生き別れする吾ぞ悲しき』

チルテル『摩訶不思議深き縁に包まれて
  嬉しき夢を暫し見しかな』

サーベル姫『いざさらば真幸くハルナに出でませよ
  神に祈りて君を守らむ』

チルナ姫『師の君の諭しによりて吾夫は
  誠の道に帰りましけり。

 山よりも高き恵みを如何にして
  報いむものと心苛ちつ』

テク『いざさらば御身健かに出でませよ
  君の前には敵もなければ』

カンナ『思ひきや思はぬ人に巡り会ひ
  又も思はぬ別れするかな』

ヘール『何事も神の任さしの儘なれば
  人の言問ふ道にあらまし』

アキス『吾主人救ひ玉ひし助け神
  別れむとして涙零るる』

カール『何事も夢の浮世と諦めて
  思はざるらむ情なき別れを』

ワックス『許々多久の罪や穢を洗はれし
  神の司に今別れむとす。

 惜めども悔めど泣けども如何にせむ
  神に任せし教司を』

ヘルマン『夢の世に不思議な夢を見たりけり
  夢な忘れそ神の恵みは』

エキス『ワックスや主人の君を悩めたる
  懺悔の涙とどめ兼ねつつ。

 玉国別神の司よ吾罪を
  神に祈りて払はせ玉へ』

エル『テルモンの山の麓に立ち別れ
  又もや神に別れむとぞする』

玉国別『猩々の翁媼に物申す
  弥永久に安くましませ』

翁『スメールのこれの神山に永久に
  ありて御世をば守らむとぞ思ふ』

媼『背の君のタクシャカ竜王と相並び
  これの聖地を永遠に守らむ』

玉国別『いざさらば諸人等に物申す
  安くましませ神の恵に』

     ○
 玉国別の一行は  無限の神力現はして
 麻の如くに乱れたる  諸人等の心をば
 一つに治め悠々と  スマの里をば後にして
 晩夏の風を浴び乍ら  稲葉のそよぐ細道を
 草鞋脚絆に身を固め  二つの玉を捧げつつ
 意気揚々と進み行く。
 日は漸く黄昏れて来た。広袤千里の大原野、人通も尠なく僅かに道の傍の娑羅双樹の森を認めて一夜の雨宿りをなさむと足を速めたり。
 此森には半破れた小さき祠が建つて居る。一行五人は祠の前に蓑を布き笠を顔に被つて一夜を明す事とした。夜は深々と更渡り水も眠れる丑満の頃となつた。窺ひ寄つて三人の男、五人の寝息を考へ、
甲『オイ、乾児共、どうやら此奴ア物になりさうだぞ。うまく行けば一生遊んで暮す事が出来る様にならうも知れぬから、貴様等も俺の指揮に従つて捨身的大活動をやつて呉れ』
乙『ハヽヽヽハイ、カヽヽヽ畏まりました。中々鼾の高い連中で……』
甲『馬鹿、寝て居る人間の鼾が怖うて此商売が出来ると思ふか』
乙『まだシヽヽヽ新米で厶いますから根つから勝手が分りませぬので……』
丙『モシ、ベルの親方さま、此奴アまだ間が厶いませぬから仕方が厶いませぬ。何、これ位の仕事は私一人で結構です。何程新米だつて三月すれば古米になりますからな』
乙『オイ、三月経つたら古米になるとは、それは何だ、米相場でもしようと云ふのか、こんな処で店屋もないぢやないか』
甲『馬鹿ぢやな。貴様は乞食もようさらさず、たまたま泥棒に連れて来れば、その腰は何だ。痳病患者か梅毒患者の様な態しやがつて……見つともない』
乙『ヘヽヽヽヽ痳病もチツト許り患うて居ます。梅毒も漸く癒りかけた処で厶います。アイタヽヽヽ痳病の話すると俄に痛くなつて来ました、もう動けませぬ。アイタヽヽヽ』
と屁太る。
ベル『オイ、バット、もう仕方が無い、何程大勢居つても寝首を締めるのは容易なものだ。サアこんな腰抜けは放つといて貴様と俺が両方から仕事に取りかからうぢやないか』
バット『ハイ、承知しました。吾々が運の開け時、この機会を逸して、どうして頭が上りませう』
 玉国別は最初から三人の密々話を一言も洩らさず聞いて居た。
 かかる所へ『ブーブー』と闇を貫く法螺の声、社の後より聞え来る。泥棒は驚いて乙を社前に残し乍ら闇に紛れて逃げ去つて了つた。法螺の声は益々高く響いて来る。
 玉国別は法螺の音の静まるを待つて、

玉国別『山川の枉拭き払ふ法螺の貝
  何処の人の弄びなるらむ。

 御社の傍近く聞え来る
  この言霊の主は何人』

 祠の後より、

『吾こそは鬼春別のなれの果
  比丘と仕ふる治道居士ぞや』

玉国別『治国別神の司に服ひし
  バラモン軍のゼネラルなりしか。

 吾こそは玉国別の宣伝使
  思はぬ所に会ひにけるかな』

治道『懐しや音に名高き玉国別の
  神の司か嬉し恥し』

三千彦『泥棒が吾懐を探らむと
  慄ひ戦き来る可笑しさ』

伊太彦『盗人を追ひ払ひたる法螺の貝
  吹き立てたるは神にぞ在さむ』

三千彦『聞き及ぶ治道居士とは汝が事か
  思はぬ所に会ひにけるかな』

治道『吾は今ビクトル山の比丘となり
  四方を逍遥ふ修験者ぞや。

 武士の矢猛心を抑へつつ
  誠の道に進み行く身よ』

デビス姫『神の道唯只管に進み行く
  比丘の司の心雄々しき。

 吾れも亦テルモン山の神館
  バラモン神に仕へし身ぞや』

治道『テルモンの大海原を乗り越えて
  漸くここに吾は着きぬる。

 草枕旅の疲れを休めむと
  祠の蔭に憩ひ居たりし。

 皇神の縁の糸につながれて
  神の司に会ふぞ嬉しき』

 三千彦は燧を取出し闇を探つて木の葉枯枝の端を掻き集め、パツと火を点じた。治道居士は祠の後より現はれ来り、一同の顔を見て、さも嬉しげに、
治道『貴方は噂に高き玉国別様の御一行で厶いましたか、これは不思議な処でお目にかかりました。私はバラモン教のゼネラルで厶いましたが、河鹿峠に於て吾部下の片彦、久米彦将軍が治国別様の言霊に打悩まされ、実に見苦しき敗をとりました。それに就いて私は到底武力を以て神力に勝つ事の不可能なるを悟りました。併し乍ら数千人の部下を引率れ大黒主の命を受けて征途に上るゼネラルの分際として、直ちに軍籍を捨て、尊き神の道に入らむとするも事情が許しませぬので止むを得ず、ランチ将軍と相談の上、浮木の森にて半永久的陣営を造り、戦ふ心もなく徒に光陰を濫費して居りましたが、遂に軍隊を二つに分ち三千余騎を率ゐてライオン川を横断し、ビクトル山の麓に陣営を構へ、ここにても亦思はぬ失敗をとり、再び猪倉山の山寨に立籠もり治国別様の言霊を浴びせられ、ここに全く菩提心を起し、至善至愛の大神に信従する証拠として頭を剃り落ち円頂緇衣の比丘姿となり、ビクトル山の傍に草庵を結び、吾々同志四人が交る交る神の教の宣伝に廻つて居ります。玉国別様御一行の事も治国別様より詳しく承はり、一度尊き謦咳に接し度きものと祈つて居りましたが、思はぬ処で面会を得まして何とも云へぬ嬉しさが漂ひました。何卒御見捨なく御懇意に願ひます』
玉国別『貴方がバラモン軍の鬼春別将軍様で厶いましたか、不思議の縁で不思議な処でお目にかかりました。これも全く大神様の御引合せで厶いませう。此四人は真純彦、三千彦、伊太彦、デビス姫で厶います。何卒今後は御入魂に願ひます』
治道『網笠一つ、蓑一つ、杖一本の修験者、何卒共に手を引き合うて神業に参加させて頂き度う厶います』
真純彦『初めてお目にかかります。いやもう何にも申上げませぬ。神様の御為世の為に互に力になり合つて進む事に致しませう』
伊太彦『私は狼狽者の名を売つた伊太彦で厶います』
三千彦『私は三千彦夫婦で厶います。いつも伊太彦殿に女を連れて居ると云つて揶揄はれ通しで閉口致して居ります』
治道『ハヽヽヽヽ何分若いお方は元気が宜しいから面白いでせう』
デビス姫『ゼネラル様、妾はテルモン山の神館の司小国別の娘デビス姫で厶います。不思議な縁で此三千彦様に命を助けられ、ハルナの都へお伴を致す所で厶います。して之から貴方は何方へおいでになりますか』
治道『これは又不思議な御縁で厶る。貴女が小国別様の御息女とは思ひも寄りませなンだ。かうなる上は何れも三五教のピュウリタンとして互に打解け御神業に奉仕させて頂きませう』
玉国別『最早体も余程、疲れも休まつた様ですから夜中なれども大明りがして居りますから、ボツボツ進みませう』
治道『どうか私も途中迄なりとお伴をさして頂きませう』
と立上る。側を見れば一人の泥棒が踞んで慄うて居る。
治道『オ、お前は何者だ。泥棒の片割ではないか』
乙『はい、私は乞食で厶いますが今日初めて泥棒のベルと云ふ男の家来となり、三人連れにて此人々の跡をつけ狙ひ、ここ迄参りましたが法螺貝の声で腰を抜かしました。二人は何処かへ風を喰つて逃げたで厶いませう』
治道『はてな、ベルが又泥棒をして居るのかな』
と頻りに首を傾けて居る。泥棒の乙はコソコソと闇に紛れて姿を隠した。一行六人は治道居士を先頭に法螺を吹き立て東南に道を転じて露おく野路を足許忙しく進み行く。
(大正一二・四・七 旧二・二二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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