文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第4篇 神仙魔境よみ(新仮名遣い)しんせんまきょう
文献名3第21章 仙聖郷〔1677〕よみ(新仮名遣い)せんせいきょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1923(大正12)年07月17日(旧06月4日)
口述場所祥雲閣
筆録者松村真澄
校正日
校正場所
初版発行日1926(大正15)年4月14日
愛善世界社版230頁
八幡書店版第11輯 692頁
修補版
校定版241頁
普及版105頁
初版
ページ備考
OBC rm6521
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本文
スマナー『花は紅葉は緑 錦の山の尾めぐらせる
中国一のパラダイス 仙聖郷は永久に
天国浄土の楽みを 味はひゐたる郷なれど
天足彦や胞場姫の 醜の魔神の血筋らが
いつとはなしに窺ひて 人の心は日に月に
荒び行くこそうたてけれ 虎熊山の山砦に
巣を構へたる盗人の 手下の奴等が襲来し
吾たらちねの父母を いとも無残に斬殺し
あが背の君や兄弟の 命を奪ひ有金を
掠めて帰りし悲しさに 妾は跡に只独り
親と夫と兄弟の 菩提を弔ひゐたりしに
人の悪事を剔抉し 誣告を以て業とする
テーラの曲が現はれて 朝な夕なに口説き立て
耳の汚るる世迷言 聞くに堪へかねスマナーは
此世の中が厭になり 亡き父母や吾夫の
後を慕ひて天国に 上らむものと胸定め
遺書を認め吾家を 二日以前に立出でて
白骨堂に勤経し いよいよ茲に昇天の
覚悟を定むる折もあれ 三五教の宣伝使
神力無双の三千彦が 現はれましてスマナーが
迷ふ心の無分別 うまらに委曲に諭しまし
神の教を宣らせしゆ 俄に胸も晴れ渡り
真如の日月輝きて 今は全き神の子と
生れ変りし嬉しさよ 三千彦司に従ひて
吾家に来り眺むれば いとど騒がし人の声
様子あらむと裏口ゆ 一間に入りて窺へば
悪逆無道のテーラさま 妾が家の財産を
占領せむと狂ひ立ち ターク、インター其外の
青年隊の人々と 争ひゐるこそ歎てけれ
最早妾は健在に 命を保ちて帰りなば
テーラさまの御心配 必ず無用に遊ばせよ
捕手の役人キングレス 其他百の人達に
はるばる来り玉ひたる 好意を感謝し奉る
神が表に現はれて 善と悪とを立分ける
此世を造りし神直日 心も広き大直日
只何事も人の世は 直日に見直し聞直し
世の過ちは宣り直す 神の教を聞きしより
妾はテーラの計画を 決して決して憎まない
早く此場を立帰り 身の潔白を示されよ
青年会長其外の 清き身魂の人達は
少時後に残りませ 妾が為に御心を
配らせ玉ひし慰安の 御酒御饌仕へ奉り
妾が寸志を現はさむ 暫く待たせ玉へかし
三千彦司と諸共に 帰り来れる上からは
いかに捕手の数多く 吾家に迫り来る共
テーラが如何に騒ぐ共 物の数にはあらざらめ
あゝ有難し有難し 天地に誠の神まして
吾家を守り吾身をば 厚く恵ませ玉ひけり
あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ
旭は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共
仮令大地は沈む共 誠一つは世を救ふ
誠の道に外れたる テーラの如き行ひは
いかでか神の許すべき 省み玉へテーラさま
スマナー姫が赤心を こめて忠告仕る
あゝ惟神々々 御霊のふゆを賜へかし』
と歌ひ乍ら、三千彦の後に従ひ、しづしづと奥の方から現はれて来た。逃腰になつてゐたテーラは、「コリヤたまらぬ」と上り口より慌てて庭にひつくり返り、向ふ脛を打ち四這となつて裏口の闇に紛れて逃出して了つた。キングレス其他の面々は何れも真の捕手にあらず、テーラが虎熊山の盗人をワザとに変装させ、此狂言を描いたのであつた。そして二週間以前に躍り込み、家内を殆ど全滅の厄に会はせた泥棒も、又キングレスの部下の者であつた。キングレスはスマナー姫の言霊と三千彦の神力に圧倒され、五体俄に戦慄し、其場にドツと尻餅をつき、口許りポカンとあけて、慄うてゐる。捕手に化けてゐた十数人の小泥棒も同じく、其場に腰を抜かし、ふるひ戦いて居る。
三千彦は厳然として座敷の中央に座を構へ、青年隊並に泥棒組に向つて、宣伝歌を挨拶に代へて謡つた。
三千彦『人は神の子神の宮 神に斉しき者ならば
天地を経綸すると云ふ 尊き神の御使ぞ
小さき欲に捉はれて 広き此世を自ら
身の置所もなき迄に 狭め行くこそ歎てけれ
限りも知らぬ天地の 清けく広き世の中に
安養浄土の楽しみを 得させむ為にウブスナの
斎苑の館にあれませる 此世の垢を洗ふてふ
瑞の御霊の神柱 神素盞嗚の大神は
神の司を四方の国 放ち玉ひて曲神の
虜となれる人々を 安きに救ひ助けむと
計らせ玉ふ尊さよ 吾れは三千彦宣伝使
神の力を身に受けて フサの国をば横断し
漸く茲に来て見れば 音に名高き仙聖郷
高天原の楽園も 怪しき雲霧立こめて
常夜の暗と成さがり 悪鬼羅刹は縦横に
跳梁跋扈なしにける 此惨状を一瞥し
神の使の身を以て いかでか看過すべけむや
吾宣る教は皇神の 聖き尊き勅言ぞ
心を清め耳すませ 謹み畏みきこしめせ
弱味につけ込む風の神 寄るべ渚の未亡人
スマナー姫の留守宅へ をどり込みたるテーラこそ
げにも憐れな曲津身の 醜の虜となり果て
重き罪をば知らずして 犯したるこそうたてけれ
キングレスや其外の 捕手と称する人々よ
汝は真の捕吏ならず どこかの山に山砦を
構へて旅人をおびやかす 大泥棒と覚えたり
誠捕手の役ならば 繊弱き姫の言霊に
いかでか打たれて倒るべき 心に弱味のある者は
只一言の言霊も きつく恐るるものぞかし
許しがたなき奴なれど 吾等も同じ神の子の
同胞なれば咎めずて 誠の道にまつろはせ
救ひやらむと思ふこそ 吾赤心の願ぞや
心を直し魂清め 今迄尽せし罪科を
皇大神の大前に 包まずかくさずさらけ出し
今後を戒め善道に いづれも揃うて立帰れ
吾れも汝も神の御子 いかに曇れる魂も
研き上ぐれば元の如 水晶魂となりぬべし
あゝ惟神々々 神に誓ひて宣り伝ふ
旭はてる共曇る共 月は盈つ共虧くる共
仮令大地は沈む共 誠の力は世を救ふ
誠にまさる力なし 此世の主権を握る共
誠の道を欠くならば これ風前の燈火ぞ
省み玉へ諸人よ 神の教の三千彦が
一同に向ひ大神の 神心審さに宣べ伝ふ
あゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』
と繰返し繰返し宣伝歌を以て一同に説き諭した。キングレスは涙をハラハラと流し、犬突這となつて三千彦に向ひ、
キング『三五教の宣伝使三千彦司の前に、私は一切の罪悪を打あけて白状を致します。モウ此上はあなたの御教に従ひ、善道に立帰りまするから、今迄の罪をお赦し下さいませ。私の如き悪人は又と世界に厶いますまい。実の所は虎熊山の山砦に立籠もり、十里四方の村々を劫やかし、旅人を苦め居りましたる所、バラモン教の軍人たりし、セール、ハールの両人、沢山の部下を引つれ、虎熊山に登り来り、私等の部下二十人と共に高手小手に縛られ、止むをえず降服致し、彼等の乾児となり、此方の方面へ働きに出て居る者で厶います。そして此郷のテーラといふ男は、吾々仲間と常に気脈を通じ、家尻切、庫破りの手引きをしてをつた者で厶いますが、二週間以前に当家を鏖殺し、此財産を横領せむと、彼れテーラの献策に仍り、抜刀を以て押入り、家族を全滅させむと計りました所、天罰忽ち酬い来て、只一人のスマナー姫さまを打漏らし、それが為に忽ち陰謀露顕致し、身動きもならぬ神罰にあてられ、懺悔の情に堪へませぬ。何卒々々赦しがたき吾々なれ共、今の宣伝歌のお詞の通り、心も広き大直日に見直し聞直し宣直し下さいまして、命丈はお助けを願ひます。たつて許さぬと仰有れば、是非も厶いませねば、私の命をお取り下され、部下十数人の命をお助け下さいまして、彼等に誠の教をお伝へ下さつた上、神様のお道に御救ひ下さいますやう』
と面に誠を現はして、心の底より謝罪する。
三千『人間界から云へば赦しがたない大罪人、お前達は今日の法律に依れば、強盗殺人罪として首のない代物だが、神様は大慈大悲にまします故、改心さへすればキツとお許し下さるだらう。併し此三千彦は人を審判く権利もなければ、許す権利もない。従つてお前達を苦しめる権能もない。どうか誠の道に立帰り、朝な夕なに神さまにお仕へして、神の御子たる誠の人間に立帰つて貰ひたい。それが神の御子たる三千彦の希望である。其処にゐるキングレスの部下の人達、拙者の云ふ事が心にはまつたならば、今茲で神様にお詫をなさるがよからう。又青年会の人達も此郷はウラル教の教を奉ずると聞いてゐるが、どうか神様の御心を誤解せぬ様、誠の道を歩んで下さい。真にウラル教の教が拡まつてゐるならば、此仙聖郷は昔の儘に、天下の安楽郷として、太平無事でなければならぬのだ。然るにかかる惨事の突発するといふのは、神の御心に反いた点があるのではあるまいかと、此三千彦は愚考致します。そしてスマナー姫様は親兄弟夫に別れ、心淋しく暮してゐられるのだから、青年の方々は陰に陽に、親切に守つて上げて下さい。そしてどこ迄も父母祖先の霊に対し孝養を尽し、亡き夫に、貞操を固く守られるやう、保護して下さる様、願つておきますよ』
タークは感涙に咽び乍ら、
ターク『有難し誠の神のあれまして
亡ぼし玉ひぬ醜の曲津を。
御詞を朝な夕なに能く守り
神の大道に仕へ進まむ』
インター『われも亦教司の言の葉を
肝に銘じて忘れざるらむ』
三千彦『みちのくの山の奥にも皇神の
守りありせば安くましませ。
古の仙聖郷に立直し
笑み栄えつつ永久にあれよ』
スマナー姫『三千彦の神の司に助けられ
今日は嬉しくゑみ栄えける。
おそひ来る醜の曲津の影もなく
亡びし今日ぞいとど嬉しき』
斯かる所へ村の中老、各自に得物を携へ、裏口表口より慌しく走り来る。又スマナー姫を捜しに行つた青年は、比較的遠路の為、一人も未だ帰つて来ない。裏口の水門壺の中にアブアブして苦しんでゐる男を見れば、逃げしなに過つて落込んだテーラであつた。俄に大地はビリビリと震動し、四辺の山岳は轟々と唸り出したとみるまに、轟前たる爆音、天地もわるる許りに響き来り、水門壺におちて居た、テーラは其震動にはね飛ばされて、二三間飛上り、どんと大地に投げ付けられ、苦しげに泡をふいてゐる。此音響は虎熊山の火山が一時に爆発した響であつた。
(大正一二・七・一七 旧六・四 於祥雲閣 松村真澄録)