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文献名1霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
文献名2第1篇 美山梅光よみ(新仮名遣い)びざんばいこう
文献名3第5章 浪の皷〔1707〕よみ(新仮名遣い)なみのつづみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物【セ】ヨリコ姫、シーゴー、梅公、花香姫【場】-【名】甲、乙、天之御中主大神、大国常立大神、天照皇大御神、伊都能売の大神、弥勒大聖御稜威の神、大本大御神、阿弥陀仏、無礙光如来、超日月光仏 舞台 口述日1924(大正13)年12月27日(旧12月2日) 口述場所祥雲閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年8月19日 愛善世界社版56頁 八幡書店版第12輯 50頁 修補版 校定版56頁 普及版68頁 初版 ページ備考
OBC rm6705
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本文  波切丸の甲板の上にて笑の座が開かれ甲乙二人の問答を聞いて、今迄の悪業を改め三五の道に翻然として帰順したるシーゴーは又もや御霊の土台がグラつき出し、再びもとの山賊に立帰り、飽迄大胆不敵に山賊万能主義を発揮せむかと決心の臍を極め、良心忽ち邪鬼となり、悪魔となり大蛇とならむとせし危機一髪の刹那ヨリコ姫が誡の歌に悔悟し、地獄陥落の危険を免れた。ヨリコ姫はタライの村に開墾事業に従事して居ると思つて居たシーゴーが、いつの間にか波切丸に乗り込み吾傍に在りしを見て怪訝の念に打たれ乍ら言葉静に丹花の唇を開いて稍微笑を泛べながら、
ヨリコ『其方はシーゴーさまぢやないか。タライの村に堅気となつて、開墾事業に従事して居らるるだらうと思つて居たのに、いつの間に其方は吾船に乗り込んで居たのだい』
シーゴー『ハイ、宣伝使一行が、ハルの湖を渡つてバルガン城へお出になると聞き、どうかしてスガの港迄お送りしたいと存じ、先へ廻つて波切丸の船底に身を潜め、蔭ながら御保護の任に当つて居たのです。この湖は沢山の海賊が居ますので、もし途中に御難があつてはと存じ、改心と報恩の為に窃に御同船を願つたので厶います』
ヨリコ『これシーゴーさま、御親切は有難いが、何と云つても猪喰つた犬のヨリコが乗り込んで居る以上大丈夫です。其お心遣ひは御無用にして、一日も早く民衆幸福の為めに開墾事業にかかつて下さい。さうして其方は今二人の船客の話を聞いて、折角黎明に向つた霊を暗黒界へ投げ入れやうとして居たではないか。万一妾が傍に居なかつたなら、其方は再び天地容れざる大悪魔となつて身を滅ぼし来世の地獄を作る所だつたよ。男子は一旦決心した事を翻すものではありませぬよ。些と考へて下さい。私は其方の為に大変に気を揉んで居るのだから』
シーゴー『ハイ有難う厶います。動もすれば押へ付けておいた心の鬼が頭を擡げ出し、「此世の中に神も仏もあるものか。善だとか愛だとか、信仰だとか、誠だとか云ふものは偽善者どもが世の中を誑かる道具に過ぎないのだ。女々しい事を思ふな。今の世の中は弱肉強食、優勝劣敗だ。勝てば官軍負れば賊、強者はいつも善人と呼ばれ弱者は悪人視せらるるのが現代の趨勢だ。何を苦しんで男らしくもない改心などをするのだ。なぜ徹底的に悪を遂行しないか。畢竟善と云ひ悪と云ふのも世の中の一種の標語だ。善も悪も有つたものか」と囁きますので開墾事業などはまどろしくなつて、「矢張り遊んで大親分となつて暮す山賊事業が壮快でもあり、男性的でもあり英雄的でもある」と、時々良心の奴がグラついて来るのです。併し乍ら女帝の御訓戒に依つて漸く危険区域を脱出したやうです。何分悪に慣れた私の事ですからスガの港迄どうぞお伴をさして下さい。さうして其間に宣伝使や貴女の御薫陶を受け快濶に善の為めに活動したいもので厶います』
ヨリコ『アヽそれは善い所へ気がついた。妾も一安心をしましたよ。宣伝使の梅公様がこんな事をお聞になつたならばきつと笑はれるでせう。妾もさう心のグラつくお前さまを今迄使つて居たかと思はれては赤面の至りですからなア』
 シーゴーは嬉し涙を腮辺に垂らしながら黙々としてヨリコ姫に向ひ合掌して居る。海の静寂を破つて梅公の口より音吐朗々と独唱する神仏無量寿経が甲板上に響渡つた。

   神仏無量寿経
第一神王伊都能売の大神の大威徳と大光明は最尊最貴にして諸神の光明の及ぶ所にあらず。或は神光の百神の世界、或は万神の世界を照明するあり。要するに東方日出の神域を照らし、南西北、四維上下も亦復斯の如し。嗚呼盛なる哉伊都能売と顕現し玉ふ厳瑞二霊の大霊光、是の故に天之御中主大神、大国常立大神、天照皇大御神、伊都能売の大神、弥勒大聖御稜威の神、大本大御神、阿弥陀仏、無礙光如来、超日月光仏と尊称し奉る。
それ蒼生にして斯の神光に遭ふものは、三垢消滅し身意柔軟に歓喜踊躍して、愛善の至心を生ず。三途勤苦の処にありて、斯神の大光明を拝し奉らば、孰も安息を得て、又一つの苦悩無く、生前死後を超越し、坐し乍ら安楽境に身を置き、天国の生涯を送ることを得べし。
斯神の大光明は顕赫にして、宇内諸神諸仏の国土を照明したまひて聞えざることなし。只吾が今其の神光霊明を称へ奉る而己ならず、一切の諸神諸仏、清徒声聞求道者縁覚諸々の宣伝使、諸々の菩薩衆、咸く共に歎称悦服帰順し玉ふこと亦復是の如し。若し蒼生ありて其光明の稜威と洪徳を聞きて日夜称説し信奉して、至心にして断えざれば、心意の願ふ所に随ひて、天国の楽土に復活する事を得べし。諸々の宣伝使、菩薩、清徒声聞の大衆の為に、共に歎誉せられて其の洪徳を称へられ、其然る後に成道内覚を得る時に至り、普く三界十方の諸神諸仏、宣伝使、菩薩の為めに、其の光明を歎称せられむこと亦今の如くなるべし。嗚呼吾伊都能売の大神の神光霊明の巍々として殊妙なることを説かむに昼夜一劫すとも尚未だ尽すこと能はず。爾今の諸天人及び後世の人々、神明仏陀の神教経語を得て当さに熟ら之を思惟し、能く其中に於て心魂を端し、行為を正しうせよ。瑞主聖王、愛善の徳を修して、其下万民を率ひ、転た相神令して、各自ら正しく守り、聖者を尊び、善徳者を敬ひ、仁慈博愛にして、聖語神教を遵奉し、敢て虧負すること無く、当さに度世を求めて、生死衆悪の根源を抜断すべし。当さに天の八衢、三途無限の憂畏苦痛の逆道を離脱すべし。
爾等、是に於て広く愛善の徳本を植え、慈恩を布き、仁恵を施こして、神禁道制を犯すこと無く、忍辱精進にして心魂を帰一し、智慧証覚を以て衆生を教化し、徳を治め、善を行ひ、心魂を浄め、意志を正しうして、斎戒清浄なること一日一夜なれば、則ち無量寿の天国に在りて、愛善の徳を治むること百年なるに勝れり。如何となれば彼の神仏の国土には、無為自然に、皆衆善大徳を積みて毫末の不善不徳だも無ければなり。此に於て善徳を修め信真に住すること十日十夜なれば、天国浄土に於て愛善の徳に住し、信真の光明に浴すること、千年の日月に勝れり。其故如何となれば、天国浄土には善者多く、不善者少なく、智慧証覚に充たされ、造悪の余地存せざればなり。唯自然界、即ち現界のみ悪業多くして、惟神の大道に背反し、勤苦して求欲し、転た相欺き心魂疲れ、形体困み、苦水を呑み、毒泉を汲み、害食を喰ひ、是の如く怱務して、未だ嘗て寧息すること無し。
吾爾等蒼生の悲境苦涯を哀れみ、苦心惨澹誨諭して教へて善道を修めしめ、器に応じて開導し、神教経語を授与するに承用せざることなく、意志の願ふ所に在りて悉皆得道せしむ。聖神仏陀の遊履する所、国邑丘聚化を蒙らざることなし。天下和順し、日月清明、五風十雨、時に順ひ、十愁八歎無く、国土豊にして、民衆安穏なり。兵戈用無く、善徳を崇び、仁恵を興し、努めて礼譲を修む。
吾爾等諸天、及び地上蒼生を哀愍すること父母の如く、愛念旺盛にして無限なり。今吾此の世間に於て、伊都能売の神となり、仏陀と現じ基督と化り、メシヤと成りて、五悪を降下し、五痛を消除し、五焼を絶滅し、善徳を以て、悪逆を改めしめ、生死の苦患を抜除し、五徳を獲せしめ、無為の安息に昇らしめむとす。瑞霊世を去りて後、聖道漸く滅せば、蒼生諂偽にして、復衆悪を為し、五痛五焼還りて前の法の如く久しきを経て、後転た劇烈なる可し。悉く説く可からず。吾は唯衆生一切の為に略して之を言ふのみ。
爾等各善く之を思ひ、転た相教誨し聖神教語を遵奉して敢て犯すこと勿れ。あゝ惟神霊幸倍坐世。
   伊都能売の大神   謹請再拝

    ○
 ヨリコ姫もシーゴーも花香も船客一同も襟を正し甲板上に坐り直して、合掌しながら感涙にむせびつつ、梅公宣伝使の読経を恭しく聴聞した。梅公は一同に目礼しながら階段を下り、吾居間に入つて休息した。ヨリコ姫、花香、シーゴーも各自分の船室に入り、ドアーを固く鎖して瞑想に耽つて居る。ヨリコ姫は吾居間にあつて神恩の高きを思ひ、暗黒の淵より黎明の天地に救はれたる歓喜の思ひに満ち乍ら、声も静かに神徳を讃美して居る。其歌、

   子
 伊都の御霊の大御神  出現ませし其日より
 早三十年を経たまへり  法身光明きはもなく
 暗黒世界を照らし給ふ。
   丑
 愛と信との光明は  無明の暗を照らしつつ
 一念歓喜し信頼し  まつらふ人を天国の
 真楽園に生ぜしめ給ふ。
   寅
 皇大神の霊暉より  無碍光威徳洪大の
 信と愛とを摂受して  瑞の御霊と向上し
 菩提の清水を汲ませ給ふ。
   卯
 愛と善との神徳と  虚偽と悪との逆業は
 水と氷の如くにて  氷多きに水多し
 障多きに徳多し。
   辰
 五濁悪世の万衆の  選択神に在しますと
 信じまつれば不可称辞  不可説不可思議もろもろの
 御徳は爾の身に充たむ。
   巳
 愛と善との大徳と  信と真との大慈光
 蒙ぶる神の道の子は  法悦道に進み入り
 安養世界に帰命せむ。
   午
 生死の苦海は極み無し  久永に沈める蒼生は
 伊都能売主神の御船のみ  吾等を乗せて永遠の
 天津御苑へ渡すなり。
   未
 五六七如来の大作願  苦悩の有情を捨ずして
 万有愛護の御誓ひ  信真光をば主となして
 愛善心をば成就せり。
   申
 五六七如来の神号と  それの光徳智証とは
 無明長夜の暗を破し  所在一切万衆の
 志願を充たせ給ふなり。
   酉
 吾罪業を信知して  瑞霊の教に乗ずれば
 すなはち汚穢の身は清く  全天界に昇往し
 法性常楽証せしめ給ふ。
   戌
 厳瑞慈悲の大海は  智愚正邪の波も無し
 神の誓ひの御船に  乗りて苦界を渉り行く
 その身は愛風に任せたり。
   亥
 多生曠劫斯の世まで  愛護を受けし此の身なり
 厳瑞二霊に真心を  捧げ奉りて神徳の
 高きを称へ奉るべし。
 花香姫は梅公宣伝使の広大無辺なる神格や艶麗にして犯すべからざる神格の備はれる其の容貌の尊さを胸に浮かべながら、神の化身ならずやと憧憬のあまり大神の神徳を讃美した。其歌、

   子
 暗黒無明の現界を  憐れみ玉ひて伊都能売の
 神の慈光の極みなく  無碍光如来と現はれて
 安養世界を建て玉ふ。
   丑
 伊都能売霊魂の光には  歓喜清浄愛と信
 充満なして其智証  顕神幽に貫徹し
 天人地人を息ましむ。
   寅
 顕神幽の三界の  天人及び蒼生は
 厳瑞二霊伊都能売の  御名に依りて信真の
 大光明に喜悦せむ。
   卯
 金剛不壊的信仰の  定まる時を待ち得てぞ
 伊都能売御魂の聖霊光  普く照護し永遠に
 生死を超越させたまふ。
   辰
 悪と虚偽との逆徳に  遮断せられて摂取の
 大光明は見えねども  愛の全徳幸はひて
 常に吾身を照らすなり。
   巳
 東西両洋の聖師等  哀愍摂受を怠らず
 愛と信とを世に拡め  天下の蒼生隔てなく
 信楽境に入らしめよ。
   午
 救世の聖主に遇ひ難く  瑞霊の教聞きがたし
 神使の勝法聞くことも  稀なりと云ふ暗の世に
 聴くは嬉しき伊都能法。
   未
 三千世界一同に  輝く光明畏みて
 神の御名とおん教  聴き得る人は常永に
 不退転位に進むなり。
   申
 聖名不思議の海水は  悪逆無道法謗の
 屍体も止めず衆悪の  万河一つに帰しぬれば
 功徳の潮水に道味あり。
   酉
 伊都能売御魂の御神徳  尽十方無礙なれば
 愛と信との海水に  煩悩不脱の衆流も
 遂に無限の道味あり。
   戌
 悪と虚偽とに充されし  吾等は神にまつろひて
 愛と善との徳に居り  信と真との光明に
 浴して御国に昇り得む。
   亥
 聖教権仮の方便に  万衆久しく止まりて
 三界流転の身とぞなる  神に信従する身魂は
 一乗帰命す天津国。
    ○
 俄に湖面は北風徐に起つて白帆を膨らませ、波上をほどほどに辷りだした。舷を打つ浪の音は、御世太平を謡ふ皷の如く、穏かに聞えて来る。恰も救世の御船に乗つて天国浄土の楽園に進むの思ひがあつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一三・一二・二 新一二・二七 於祥雲閣 加藤明子録)
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