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文献名1霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
文献名2第4篇 新政復興よみ(新仮名遣い)しんせいふっこう
文献名3第18章 老狽〔1763〕よみ(新仮名遣い)ろうばい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例238「泣声」は原文ママ。 データ最終更新日2019-04-13 03:49:53
あらすじ
清香姫は侍女・春子姫の手引きで深夜一緒に館を抜け出すが、秋山別・モリスはいち早く変事に気づく。

秋山別・モリスは、清香姫の逐電が人に知られて責任を問われる前に、姫を連れ戻そうと、二人だけで追いかけてゆく。
主な人物 舞台 口述日1924(大正13)年01月24日(旧12月19日) 口述場所伊予 山口氏邸 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1927(昭和2)年10月26日 愛善世界社版252頁 八幡書店版第12輯 365頁 修補版 校定版265頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm6918
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本文の文字数3487
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本文 清香姫『千早振、神代の昔天教の  山より天降り給ひたる
 日出神の神柱  吾祖先を導きて
 此世を清むる三五の  教を開かせ給ひしゆ
 神の御稜威は四方の国  島の崎々磯の隈々
 落ちなく漏れなく拡ごりて  天の下には曲も無く
 青人草は村肝の  心の中より睦び合ひ
 さながら天津御国の天国の  姿映せしヒルの国
 インカの裔と崇められ  親と親とは底津根の
 堅磐常磐の岩の上に  珍の宮居を築きつつ
 珍の柱のいや太く  立栄えたる神柱
 諸人仰がぬ者もなし  近き御代より常世国
 邪の教蔓りて  天を曇らせ地汚し
 青山をば枯山となし  世人の心荒び果て
 昔の儘の神国は  今や魔国とならむとす
 深夜枕を擡げつつ  世の行先を窺へば
 ヒルの都に醜鬼の  棲家ありとふ神の宣
 八岐大蛇も狼も  虎獅子熊の猛獣も
 爪を隠して待ち居ると  御神の御告げ聞くにつけ
 胸は痛みぬ心さやぎぬ  あゝ妾は如何にして
 国司の御子と生れしぞ  鄙に育ちし身にしあれば
 斯かる悩みもあらまじものを  清家とふ忌まはしき空衣に包まれて
 身動きならぬ苦しさよ  愍み給へ天地の神
 兄に誓ひし言の葉を  守りて出づるヒルの城
 夜に紛れて山路を  伝ひ伝ひて進み行く
 道の行手の隈も無く  安く守らせ給へかし
 高倉山の此城を  守らせ給ふ氏の神
 ヒルの御国を永久に  領有ぎ給ふ国魂の神の
 大御前に八雲の小琴を弾じつつ  心すがすがすが掻きの
 糸は二筋真心は  只一筋に祈るなり
 あゝ惟神々々  御霊の恩頼を賜へかし』
 斯く歌つて居る折しも、烏羽玉の夜は襲ふて来た。清香姫は密かに身の廻りの準備などして子の刻の至るを待つた。
 城内の灯も消えて四辺は閑寂の気漂ひ、只天井に鼠の走る音がシト シト シトと幽かに聞ゆるのみであつた。時分はよしと、清香姫は私かに吾居間を忍び出でむとする所へ、侍女の春子姫は足音を忍ばせ来り、
『姫様、未だお寝みぢや厶いませぬか』
 此声に清香姫はハツと驚き乍ら、素知らぬ顔して、
『あ、其方は春子姫か、お前まだ寝めないの』
春子『ハイ、何だか、今晩に限つて目がさえざえと致しまして、姫様のお身の上が気にかかり、何だか寝られないので厶りますよ』
清香『お前も寝られないかね、妾も何だかチツトも寝めないワ』
春子『姫様、歌でも詠んで夜を明しませうか』
 清香姫は迷惑し乍らも、
『妾もやがて眠れるだらうが、併し一二首歌を詠んで別れませう』
春子『ハイ、有難う厶います』
と春子姫は姫の側近く座を占め、
『高倉の表に立てる鉄門守
  其まなざしの血走りて見えぬ。

 十五夜の月光覗く裏門は
  いとも静けし風さへもなし』

 清香姫は初めて春子姫が、自分が今夜脱け出すことを悟り、裏門から逃げ出せと教へて呉れたのだらうと感謝し乍ら、
『行春の月の光に照されて
  清く香れる梅の初花。

 匂ふとは誰も白梅の奥深き
  谷間にもゆる姿かしこし』

と互に歌をかはし、清香姫は、
『月の庭園をチツトばかり逍遥して来ますから、春子、其方は此琴を弾じて待つてゐて下さい』
と云ひ乍ら裏口へと忍び行く。裏口には蓑笠、手甲脚絆、杖其他一切旅に必要なものがチヤンと整へてあつた。春子姫は涙を泛べ乍ら、
『姫様決して、貴女お一人の旅はさせませぬ、どうぞ御安心なさいませ』
と小声で云へば、清香姫は後振返り、
『何処へ行くのも神様と二人連れ、気を揉んで下さるな』
と云ひ残し、見つけられては一大事と裏口へ出で、手早く身づくろひをなし、裏門からソツト脱け出し、馬場の木立の下を潜つて南へ南へと急ぐのであつた。後に春子姫は二絃琴を執り、隔ての襖に錠をかけて、琴を弾じつつ歌つて居る。
『此処は夜なきヒルの国  ヒルの都の中心地
 神の御稜威も高倉山の  岩根に建ちし珍の城
 日出神の昔より  三五教の大神を
 斎きまつりし珍の城  さはさり乍ら星移り
 月日は流れ行くに連れ  人の心は漸くに
 あらぬ方へと移ろひて  世は刈菰と乱れゆく
 実に浅ましき此天地  清めむ為に皇神の
 御心深く悟りまし  若君始め姫様の
 思ひ切つての鹿島立  思へば思へば吾涙
 淵瀬と流れて止め度なし  此世に神のます限り
 若君様や姫君は  太き功を立てまして
 軈てはヒルの神柱  救ひの君と仰がれて
 これの御国は云ふも更  高砂島の端々を
 皆其徳に服へて  昔に変るインカの栄え
 松も目出度き高砂の  慰と姥との末永く
 治まる御代ぞ待たれける  あゝ惟神々々
 皇大神の御恵に  姫君様の行衛をば
 何卒安く珍の国  兄の命のましませる
 霊地に無事に送りませ  御側に近く仕へたる
 春子の姫が赤心を  捧げて祈り奉る』
 秋山別、モリスは吾家に帰つて居たが、何だか胸騒ぎがしてならぬので、姫の身の上に変事はなきかと、両人期せずして、子の刻過に表門を潜つて入来り、各自の事務室に入つて監視の役を努めて居る。姫の居間よりは流暢な琴の音が聞えて来た。秋山別、モリス両人は琴の音を聞いて一先づ安心し、両人は愉快気に声高らかに談話を始めて居る。
秋山『モリス殿、此深夜に御老体の貴殿、御苦労千万で厶る。何か急用でも出来たので厶るかな』
モリス『別に之といふ急用も無けれども、何だか胸騒ぎが致し、或は城中に姫様の身の上に就て変事の突発せしに非ずやと、取る物も取敢ず、夜中乍らも、供をも連れずソツト出て参つた次第で厶る。そして貴殿も亦夜陰に御登城になつたのは、何か感ずる所があつての事で厶るかな』
秋山『吾々も貴殿の御考への如く、何だか胸騒ぎが致すので、姫の身の上に変つた事はなきやと心配でならず罷り越したので厶る。然し乍ら姫の御居間近く伺ひ寄つて、様子を探れば、いと流暢なる琴の音色、ヤレ安心とここ迄引返して休息致して居る所で厶る。どうやら姫様もお気が召したと見えて、明日の日が待たれてならぬか、一目も寝ずに琴を弾じて居られるとは、之迄にない事で厶る。テも扨も喜ばしい瑞祥では厶らぬか』
モリス『如何にも御説の通り吾々も若返つた様な気が致すで厶る。モ一度元の昔の若い身の上になつて見たい様で厶るワイ。アツハヽヽヽ』
秋山『時にモリス殿、姫様は何号がお望みであらうかな』
モリス『あの歌によれば、一号二号三号四号は駄目でせう、先づ五号を御採用になるでせう。秋山別殿、御芽出度う厶る。貴殿の御子息では厶らぬか』
秋山『成程、拙者の悴菊彦も果報者で厶るワイ。拙者と貴殿とは当城の御娘子紅井姫様に対し、大変に苦労を致して、遂にはあの結果、実に若気の至りとは申し乍ら、エライ恥をかいたもので厶るが、吾悴は父に勝つて、姫様の御意に叶ふとは、テもさても世の中も変つたもので厶るワ、オツホヽヽヽ』
と笑壺に入つて居る。
 一方春子姫は……最早姫様も落のびられたであらう、ヨモヤ追手もかかるまい。サア之から妾もお後を慕ひ、姫の御身を保護せねばなるまい。照国街道の一筋道、夜明けに間のない寅の刻、グヅグヅしては居られない……と足装束を固め、裏門より一散走りに逃げ出した。
 城内の洋犬の吠える声がワウ ワウ ワウと頻りに響き来る。秋山別、モリスは此声に耳を澄ませ、
秋山『何時にない犬の泣声、コリヤ一通では厶るまい。第一、姫様のお身の上が気づかはしい』
と云ひ乍ら、姫の居間の前に駆つけて見ると、琴の音はピタリと止んで居る。
秋山『姫様、御免』
と云ひ乍ら、隔の襖をガラリと引開け、覗き見れば豈計らむや、琴の主は藻脱けの殻、若しや便所ではあるまいかと、捜し廻れども、姫の気配もせぬ。春子姫を起して尋ねむかと、春子の居間へ行つて見れば、之も亦藻脱けの殻……
秋山『コリヤ大変だ、然し乍らこんな失態を演じ乍ら、国司御夫婦に申上げることは出来まい。前には若君を取逃し、今度又姫君を取逃したと云はれては、吾々両人は皺つ腹を切つて申訳をするより道は無からう。幸まだ誰も知らぬ内だ。モリス殿、貴殿と両人がソツと捜さうでは厶らぬか』
モリス『秋山別殿、如何にも左様、吾々の大責任で厶れば、城内の人々に分らぬ内、余り遠くは参りますまい、捜索致しませう。表門は人の目に立つ、先づは裏門より』
と裏門指して急ぎ行く。裏門の戸は無造作に開け放たれ、女の半巾が一つ落ちて居る。モリスは早くも半巾を拾ひ上げ、夜明前の月光に照して見れば、春の印がついて居る。……テツキリ之は春子が姫様と諜し合せ、逐電したに違ひない……と云ひ乍ら、両人は裏門外の階段をトントントンと下り乍ら、杖を力に転けつ輾びつ、馬場の木の茂みを指して追つかけ行く。
(大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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