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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第2篇 千種蛮態よみ(新仮名遣い)せんしゅばんたい
文献名3第9章 針魔の森〔1776〕よみ(新仮名遣い)はりまのもり
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
ガーデン王は忠義の英霊、左守・右守のためにハリマの森の奥深くに社殿を造営する。そして、照国別を斎主として祭典を執り行った。

同席していたキューバーは、三五教の照国別が斎主を務めたことに怒り、祭りの最中に祭壇に駆け上がり、照国別を罵倒した上、冠を叩き落す。

皆は、キューバーのあまりの行いに驚きあきれ、照国別がどうキューバーに対処するかと注目するが、照国別は冠を落としたまま、何事もなかったかのように悠然と祭りを執り行う。

照国別は退場するが、キューバーはその進路に両手を広げて立ちはだかり、またもや罵倒する。ついにチウイン太子はがまんできず、ジャンクに命じてキューバーを縛り上げ、城の牢獄に入れてしまう。

祭典に出席していた市民・場内の重臣たち一同、このさまに大いに喜び、溜飲を下げた。

以前、キューバーに詰問された向上運動主義者たちは、キューバーの投獄を喜びつつも、このまま生かしておいては後の災いになるだろうと、早くもその後のことを心配している。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版113頁 八幡書店版第12輯 431頁 修補版 校定版115頁 普及版58頁 初版 ページ備考
OBC rm7009
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本文  東西南の三方に  大海原を囲らして
 突出したる月の国  世界最古の文明地
 七千余国の国王は  各鎬を削りつつ
 バラモン教や印度教  三五教やウラル教
 その外数百の宗教が  互に覇をば争ひつ
 解脱や涅槃や無よ空よ  霊主体従、体主霊従
 弥勒成就や神政の  再現等といろいろと
 主義や主張をふりまはし  思想の混乱絶え間なく
 中にも大黒主神は  ハルナの都に割拠して
 右手に剣を携へつ  左手にコーラン説き乍ら
 難行苦行のあり丈けを  信者に強ゆる暴状は
 天地も許さぬ悪邪教  改めしめて国民の
 苦痛を除き助けむと  主の大神の御言もて
 照国別は梅公や  照公司を伴ひて
 河鹿峠を打渡り  葵の沼に立向ひ
 十五の月に心胆を  洗ひ清めてデカタンの
 大暴風に襲はれつ  大高原を進み行く
 デカタン高野の中心地  トルマン国は昔より
 ウラルの教を信奉し  神の教のそのままの
 政治を布きて来りしが  月行き星は移ひて
 思想は日に夜に悪化しつ  ウラルの教は日に月に
 衰へしより虚に乗じ  バラモン教やスコ教や
 盛に跳梁跋扈して  国民性は三分し
 国運危くなりければ  あまり信仰強からぬ
 トルマン王も目を覚まし  漸く神を崇敬し
 国人達に模範をば  示さむものと思ふ折
 スコブツエン宗の教祖と  自ら名乗る妖僧が
 大黒主の派遣せし  大足別と結託し
 トルマン城を粉砕し  スコブツエンの根拠をば
 常磐堅磐に固めむと  あらゆる手段を回らして
 警備少き国情に  つけ入り暴威を揮ふこそ
 実に怖ろしき限りなり  ガーデン王や千草姫
 右守左守の老臣も  心を痛めて国防の
 協議に頭を悩めしが  左守右守の忠臣は
 刃の錆となりはてて  トルマン国の柱石を
 失ひたるぞ是非なけれ  照国別に守られて
 チウイン太子の率ゐたる  二千と五百の精兵は
 トルマン城を十重二十重  囲みて王城威喝せし
 大足別の全軍の  背後を衝いて一斉に
 総攻撃を初めける  この有様を見るよりも
 ガーデン王は雀躍し  城兵五百を指揮しつつ
 大足別の大軍を  前後左右より打ちまくる
 驕きつたる敵軍は  不意の援兵の襲来に
 慌てふためき馬を捨て  武器をも捨てて四方八方
 命からがら逃げ乍ら  彼方此方の家々に
 放火し乍ら野良犬の  遠吠なして隠れける
 トルマン城を包みたる  醜の村雲漸くに
 晴れて天日晃々と  輝き玉ふ神世となり
 国民上下の歓声は  一度に湧きて天地も
 揺がむ許りの勇しさ  風塵全く治まりて
 ここにガーデン刹帝利  忠義の為に斃れたる
 左守右守の英霊を  先づ第一に慰めて
 感謝の意をば表せむと  ハリマの森の奥深く
 社殿を造りて祀り込み  ハリマの宮と名づけける
 抑此清き森林は  幾千年を経たりてふ
 苔むす老木鬱蒼と  昼尚暗く思ふまで
 立並びつつ吹く風に  ゴウゴウ枝を鳴らしつつ
 世の太平を謳ひゐる。  ここに照国別司
 ガーデン王や太子をば  率ゐて祭の長となり
 祝詞の声も朗かに  唱へ上げむとする時に
 千草の姫の寵愛を  独占したるキユーバーは
 肩で風きり傲然と  照国別の前に出で
 口を極めて祭礼の  儀式に欠点ありとなし
 罵詈嘲弄を極むれば  チウイン太子は腹を立て
 妖僧キユーバーを引捕へ  縛して籐丸籠に乗せ
 城内さして帰りけり  千草の姫はチウインが
 この行動を聞くよりも  髪逆立てて怒り立ち
 一旦平和に治まりし  トルマン城はここに又
 再び黒雲塞がりて  又もやお家の大騒動
 惹起したるぞ是非なけれ  あゝ惟神々々
 神のまにまに瑞月が  口述台の浮船に
 安臥し乍ら由良湊  日本海の怒濤をば
 眺め乍らに述べて行く  昔の神代の物語
 守らせ玉へと主の神の  御前に祈り奉る
 あゝ惟神々々  御霊の恩頼を賜へかし。
 ガーデン王は、不意に起つたバラモン軍の攻撃に周章狼狽の結果、右守司のスマンヂーを誤つて手にかけ、忠義一途の老臣左守司は陣中に倒れ、幸に敵軍を撃退し、ヤヽ安堵したりとは云へ、ハルナの都の大黒主この報を聞かば、又もや何時捲土重来、吾都城を屠らむも図り難し、一旦は照国別宣伝使の神護とチウイン太子の智謀と、勇将ジヤンクの活動によつて、大勝利を得たるも、かかる戦国に国を立つるは到底武力のみにては叶ひ難し、先づ第一に大神を祀り、次いで忠臣義士の霊魂を斎き国民に信仰の模範を示さむ……と照国別に乞ひ、ハリマの森のウラル彦を祀りたるお宮の傍に「国柱神社」と云ふ祠を建て、左守右守の英霊を鎮祭する事となつた。
 ガーデン王、チウイン太子、ジヤンクを初め城内の重臣は各自玉串を献じ、照国別の斎主のもとに無事祭典の式を終らむとするや、キユーバーは三五教の神司照国別が斎主となりし事を非常に憤慨し、千草姫の寵を得たるを力として乱暴至極にも祭壇に駆け上り、照国別の冠を叩き落し、祠の前に立ちはだかり、大音声、
『アツハヽヽヽヽトルマン城の危急を救ひ、神謀鬼策を廻らし王家を救ひたるはバラモン尊天の神力を充したるスコブツエン宗の教祖キユーバーで御座る。抑々このお宮はウラル彦の神、盤古神王を祀りあり、然るに天下を乱す悪神神素盞嗚尊の部下なるデモ宣伝使をして斎主たらしむるとは合点行かず、神明に対し畏れ多からむ。何者の痴漢ぞ、刹帝利の聰明を被ひまつりたる、ウラルの宮はウラル教の宣伝使を以て斎主とすべし。万一異教の宣伝使を以て斎主に当らしむるを得るとすれば、何故今回の殊勲者たる此キユーバーを除外し、神意に反いて不法の祭事を行ひたるか。祭典の主任は何人ぞ。今此場に現はれて其理由を説明せられよ。照国別の冠の脆くも地上に落たるは、神明許させ玉はざる象徴なり。これを霊的に考ふれば、国王殿下の御身の危険を意味し、国家の転覆を意味するもので御座る。一時も早く照国別一派を縛り上げ、彼が生血を大神の前に贄となし、ウラル彦の大神に謝罪致されよ。天来の救世主、キユーバーここに忠告仕る』
と呼はつた。ガーデン王初め居並ぶ重臣等は、あまり大胆なるキユーバーの宣言に呆れはて、照国別の返答如何と固唾を呑んで待つてゐる。
 照国別は少しも騒がず、冠を打落されたるまま悠々として玉串を献じ、祭官一同を引具し、トルマン城内さして帰らむとするや、キユーバーは両手を拡げてその進路を遮り乍ら、
『こりやヤイ、デモ宣伝使、首がとんだ以上は最早や城内へ立入る事は罷りならぬぞ。ヤアヤア城内の兵卒共、彼を引捕へて牢獄に投げ込まれよ。彼はトルマン国の仇敵で御座るぞ。神の言に間違ひは御座らぬ』
と呼はれども、ガーデン王やチウイン太子の一言の命令もなければ、誰一人として手を下すものもなく、照国別一行はソロリソロリと進み行く。キユーバーは両手を拡げ乍ら後向けに歩かねばならなくなつた。此時チウイン太子は見るに見かね、
『ヤアヤア、ジヤンク殿、狼藉者のキユーバーをフン縛り城外の牢獄に投げ込めよ』
と下知すれば、ジヤンクの部下は寄り集つてキユーバーを高手小手に縛め、牢獄さして引立てて行く。群集の痛快を叫ぶ声、ハリマの森も裂くる許りに高く聞えて来た。
 城内の重臣を初めトルマン市の老若男女も此祭典に参拝してゐたが、妖僧キユーバーが、チウイン太子の命によつて群集の前にて縛めの縄を受けたるを見て大に喜び、口々に罵り合つてゐる。
甲『オイ、何と痛快ぢやないか、何時やらお前と俺と○○○の話をして居つた時、あの妖僧奴、どこからともなく現はれ来り、「いや、その方は今穏かならぬ事を云うて居つたぢやないか。姓名は何と云ふ、住所を聞かして貰ひたい」と云つた糞坊主だよ。ホントに、いいザマぢやのう』
乙『ウン、さうさうあの時、何だつたね、「俺の名は俺だ、友人の名は友人だ、坊主はヤツパリ坊主だ」と吐して一目散に畔道さして逃げた所、執念深くも何処迄も追跡しやがつたぢやないか。大黒主を傘に着て、威張り散らして居つたが、今日のザマつたら、ないぢやないか。こんな事でも見せて貰はなくちや、俺等は胸中に鬱積して居る憤怒の焔が、消える事がないぢやないか、ハツハヽヽヽ』
甲『そいつも痛快だが、あの妖僧奴、一寸噂に聞けば○○○に殊の外寵愛され、刹帝利を眼下に見下し、大変な威勢だと云ふ事だよ。戦争が治まつてから十日もならないのに、最早自分の天下のやうに振舞ふんだから、あんな奴を助けておいたらどんな事をさらすか分つたものぢやない。彼奴は屹度○○○の保護によつて日ならず出獄し、再び城内に暴威を振ひ、吾々国民を層一層苦しめ、生血を搾るやうな事をさらすだらう。吾々は主義のため、同胞の生活安定のため、このままに見逃す事は出来ぬぢやないか』
乙『ウン、そらさうぢや。然し乍ら慌てるには及ばぬよ。又機会が到来するから。其時はその時の手段を廻らしさへすればいいぢやないか、イツヒヽヽヽ』
 ハリマの森の社は一直線に王城に続いてゐる。その間の距離二十五丁、道の両方には家屋櫛比し、トルマン市中最も繁華の土地と称せられてゐる。
 甲乙二人はいつも、これより此市街に出没し、何事か計画しつつあつた。
(大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)
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