文献名1霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
文献名2第1篇 追僧軽迫よみ(新仮名遣い)ついそうけいはく
文献名3第6章 達引〔1795〕よみ(新仮名遣い)たっぴき
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ玄真坊とコブライは道に迷って立ち往生していたが、そこへ、部下のコオロと合流する。
三人は泥棒となって天下を取ろうなどと法螺を吹いているが、そこへ、神谷村を追い出されたバルギーがやってくる。三人はバルギーからダリヤの居場所を聞き出そうとするが、バルギーはダリヤへの義理から、頑として白状するのを拒んだ。
主な人物
舞台
口述日1925(大正14)年11月07日(旧09月21日)
口述場所祥明館
筆録者加藤明子
校正日
校正場所
初版発行日1929(昭和4)年2月1日
愛善世界社版77頁
八幡書店版第12輯 527頁
修補版
校定版80頁
普及版36頁
初版
ページ備考
OBC rm7106
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本文
恋に狂ふた妖僧の 天真坊はどこ迄も
ダリヤの行方を探らむと コブライ引きつれ夜の道
普門品をば唱へつつ 毒蛇の禁厭しながらに
スタスタ行けば山の根に いつの間にやら突き当り
行手の道を失つて 止むを得ざれば立往生
明くなる迄待ち居たる かかる所へ向ふより
一人の男がすたすたと 息せききつてはせ来り
小石につまづきバツタリと 二人が前に倒れける
玄真坊は怪しみて よくよく見ればこは如何に
岩窟の中に見覚えの 泥棒の顔と見るよりも
得たりと矢庭にひつ掴み こぶしを高くふりあげて
これやこれや貴様はバルギーと 喋し合せてダリヤ姫
逃がした奴に違ひない 早く白状致さねば
貴様の命は朝のつゆ 忽ち消て後もなく
なるが承知かこれや如何ぢや すつぱりこんと白状せよ
云へば男は顔をあげ アイタタタツタ アイタタツタ
お前は名高き天真坊 三千世界の隅々も
一目に見通す神様だ お前さまの為に頼まれて
ダリヤの行方を探すもの 見違へられては堪らない
真偽の程は云はずとも 神さまならば知れませう
どうぞ許して下さんせ 決して神の御前で
毛頭嘘は云ひませぬ 云へば玄真うなづいて
顔色和げ声低う そんならお前はダリヤをば
探しに行つて呉れたのか これやこれやコブライ間違ひは
なからうか調べて呉れよ 云へばコブライ首をば
上と下とに振り乍ら こいつはバルギーの配下だが
シヤカンナさまに頼まれて ダリヤとバルギーを探すべく
先頭一に出た奴だ 決して嘘ではありませぬ
安心なさるが宜しかろ 云へば玄真諾いて
なる程貴様の云ふ通り 此奴の言葉は真だらう
ダリヤの行方は分つたか バルギーの様子は探つたか
早く知らして呉れないか 気が気でならぬ此場合
云へば盗人は首を振り 私はコオロと云ふ男
一番槍の功名を 致さんものと取るものも
取りあへずして飛び出し 神谷村をのり越えて
ハル山峠の頂上に 登つて見れば行く人の
話の中にダリヤ姫 バルギーによう似た二人連れ
神谷村の神の家に 匿れて居ると云ふ事を
敏くも耳に入れました それ故後へすたすたと
引き帰したる次第です 屹度二人は神谷の
村に匿れて居るでせう アイタタタツタ アイタタツタ
向ふ脛をばすりむいて これこの通り血糊めが
ぼとぼと流れて居りまする 早く助けて下しやんせ
お前の為めにこんな目に 遇ふた私を捨てたなら
忽ち神の罰当り ダリヤの姫は手に入らず
貴方も終にや谷底へ スツテンドウと転げおち
偉い目見るに違ひない 嗚呼叶はぬ叶はぬ かなはない
目玉とび出すやうだわい アイタタタツタ アイタタツタ
玄『エイ、碌でもない役にも立たぬ蠅虫めツ、こればかりの創に泣き面をする奴があるかい。よう今迄泥棒を稼いで居つたものだなア、これやコブライ、貴様がしやうもない小供の云ふた事を真に受けて飛び出さうとするものだから、こんな目にあつたのだ。エヽもうかうなりや仕様がない、どうせ此処を通らにやならぬ一筋道だ。神谷村に居るとすりや、いづれ此処にうせるだらう、ほんとに訳のわからぬ野郎だなあ』
コブ『勝手になさいませ、天来の救世主天帝の化身と大看板を打つたお前さまが、ダリヤ姫の所在位分らぬと云ふのはテツキリ此世を騙る売僧坊主だ。お前さまも、もつとは天眼通が利いて居るかと思つたに交際へばつき合ふ程金箔が剥げておまけに鼻持のならぬ糞坊主だ。もうこんな事は止めますわ、サア今迄の日当をどつさり下さいませ、のうコオロお前も確りして立ち上がれ、此奴の懐中の金をぼつたくらうぢやないか。泥棒はお手のものだからのう』
コオ『それやさうだ、俺ももつと気の利いた坊主だと思つて居たに愛想がつきた。慈悲も情も知らぬ糞坊主だ。俺がこの通り向ふ脛をやぶつて苦んで居るのに、お経の一口も云ふて呉れるぢやなし、悪口を叩くと云ふ不敵の悪僧だ。どうだ二人してバラしてやらうぢやないか』
コブ『エン、こんな悪僧をバラす位は箒で蝶を押さへるよりも容易い事だ。お前は其処へ立つて見てをれ、俺が荒料理してやる。もう斯うなりや破れかぶれぢや、ヤイ売僧坊主、きりきり懐中物をすつかり渡せ、四の五の云ふと六な事は出来ないぞ。七転八倒九るしみもがいて十(渋)面つくつてももはや百年目だ、何程迷惑千万な顔をしても此の儘にしてをく(億)と云ふ訳にや行かぬ。サア懐中物を残らずちよう(兆)戴せうかい』
玄『アハヽヽヽ。おい小盗人野郎俺をどなたと心得て居る。オーラ山に於て三千の部下を擁し、泥棒の大頭目として其名も高き玄真坊だぞ。名を聞いてさへ驚くシーゴー、ヨリコ姫は俺の部下だ、見事お前等の細腕で盗れるなら取つて見よ。或時は泥棒となり、或時は救世主となり、千変万化の活動を致す天真坊だ。素より天眼通なんか分つて堪らうかい』
コブ『ヤアそいつは一寸気が利いて居る、ヤ大に分つて居る、そんなら追撃は一段落をつけて、改めて玄真坊頭目の片腕とならうぢやないか、のうコオロ、お前だつて泥棒より外にする所作がないのだから、よもや不足はあるまい』
コオ『何分兄貴宜敷う頼むわ、玄真坊頭目の前、お取なしを願ひます』
玄『アハヽヽヽ、面白からう、併し乍ら茲暫くは猫を被つて天帝の化身で澄し込んで居なくては仕事が出来ないからのう。ダリヤ姫をどうしても吾手に入れなくては肝腎の仕事が出来ない。彼奴はスガの港の富豪の娘だから甘く彼奴をひつつかまへ、ウンと云はしたが最後、一躍して長者の主人だ。さうなりや貴様等は一の番頭二の番頭に抜擢してやらう。あゝ云ふ富豪のレツテルを被つて泥棒をして居りや滅多に足のつく事はないからのう』
コブ『成程お説御尤も、如何にも左様候へ、名案々々』
玄真坊は両手を振り握り拳で胸板を交る交る打ちたたき雄猛びしだした。
『アハヽヽハツハアハヽヽヽ 幼少の時からこの俺は
どてらい事が大好きで 何か大きな芝居をば
打つてやらうと朝夕に 思ひ込んだがやみつきで
ヨリコの姫をちよろまかし オーラの山に三年ぶり
岩窟を構へていろいろの 手段を廻らし三千の
部下を集めて月の国 七千余国を己が手に
掌握せむと企みし 其魂胆も水の泡
三五教の梅公に 肝腎要の牙城をば
荒され今は是非もなく 第二の策戦計劃を
遂行せむとハルの湖 浪押しわけて打ち渡り
スガの港の富豪が 娘のダリヤに目をかけて
一旗挙げむ吾企み 色と恋との二道を
かけたる俺の目算は 肝腎要の処になり
どうやら画餅となりさうだ とは云ふものの人間は
七転八起と云ふぢやないか 一度や二度や三度四度
失敗したとて構はない 飽迄初心を貫徹し
行く処まではやつて見る それが男子の本領だ
コブライ、コオロの両人よ 天下無双の英雄は
玄真坊より他にない 世の諺に云ふ通り
勇将の下に弱卒は 決して無いのはあたりまへ
お前はこれから強卒と なつて一肌脱いでくれ
俺の天下になつたなら 貴様の要求は何なりと
二つ返事で聞いてやろ 吾成功の暁を
指折り数へ楽しんで 涎を手繰つて待つがよい
あゝ勇ましや勇ましや 人は心の持ちやうだ
何程失敗したとても 心の土台が確りと
据つて居れば構はない あゝ惟神々々
梵天帝釈自在天 大国彦の御前に
畏み畏み願ぎまつる エヘヽヽヘツヘエヘヽヽヽ
愉快の事になつて来た 既に天下を取つたよな
何とはなしに心持ち ダリヤとバルギーが出て来ら
此度はぬからず引つ捕へ ウンと云はしてくりよ程に
バルギーの奴は懲戒に 手足も指もバラバラに
バラしてしまはにや後の為め 吾目的の邪魔になる
そこをぬかるな合点か エヘヽヽヘツヘ面白い
いよいよ面白なつて来た』
なぞと、元気よく大法螺を吹いて居る。そこへバルギーは村人に腰骨を叩かれた痛さに竹杖をつき乍ら、ヒヨロリヒヨロリとやつて来た。玄真坊は大喝一声、
『コリヤ泥棒奴、ダリヤ姫をどう致した。早く白状致さぬと貴様の命がないぞよ』
バル『ヤアこれは天帝の御化身様ようまあお迎ひに来て下さいました。ダリヤ姫ですかい、彼奴はさつぱりです。私ももう諦めました、安心して下さい』
玄『こりや、バルギー、何を云つて居るのだ。俺の女房を連れ出しやがつて、何処へ匿したのだ。さあすつぱりと白状せい』
バル『俺は又、天帝の御化身様に女房があるとは知らないものだから、ダリヤ姫に頼まれてスガの港に送るべく途中迄やつて来た処、神谷村の村端迄出て来ると、白い煙となつて天へ上つて仕舞ひ、何程喚いたとて呼だとて、春風の梢を渡る声ばかりだ。本当にあのダリヤと云ふのは人間ぢやなかつたらしいよ』
玄『馬鹿申せ、左様の事を云つて何処かに匿しておいたのだらう、白状せないと貴様の命を取らうか』
バル『何程命を取られても恩人の行方を貴様らに知らしてなるものか、男の口から一旦云はぬと云ふたら舌を抜かれても云はないのだ。そんな安つぽい男と思つて貰つては此バルギーさまも聊か迷惑だ。こりや売僧坊主、それに不足があるのならどうなりと勝手にしたがよい。こりや其処に居るのはコオロにコブライぢやないか、未だこんな売僧について居るのか、もうよい加減に目を醒せ』
コブ『俺も売僧だ売僧だと思つたが、今聞て見れば大変な抱負をもつた偉丈夫だから今親分乾児の約束をしたのだ。もう此上親分に毒づいて見よ、命令一下、貴様の命は貰ふてやるぞ』
バル『ハヽヽヽヽ、猪口才千万な、サアかかるならかかつて見よれ。俺は斯うして腰骨を打つて杖に縋つて居るものの、貴様等の三匹や五匹は物の数でもない。さあどうなりと為たがよいワ。首から斬るか腕から斬るか、さあ何処からなつと斬つて見よ』
と体一面竜の刺青をした肌を脱ぎ叢の上にどつかと坐し三人の面を瞬きもせず睨めつけて居る。
(大正一四・一一・七 旧九・二一 於祥明館 加藤明子録)