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文献名1霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
文献名2第3篇 惨嫁僧目よみ(新仮名遣い)さんかそうもく
文献名3第18章 金妻〔1807〕よみ(新仮名遣い)こんさい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
一方、玄真坊は千草の高姫を妻にしようと口説くが、高姫は玄真坊の黄金だけが目当てで、返答をはぐらかしている。

二人はまず、スガの里に出て山子を企むことにし、高姫をたたえる宣伝歌を歌いながら歩いていく。

その途中、二人は入江村というハルの海のほとりの村で、宿を取ることとなった。
主な人物 舞台 口述日1926(大正15)年02月01日(旧12月19日) 口述場所月光閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1929(昭和4)年2月1日 愛善世界社版243頁 八幡書店版第12輯 589頁 修補版 校定版254頁 普及版119頁 初版 ページ備考
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本文  大日山の麓の森林に大日如来を祭つた古ぼけた祠がある。其祠の中には蟇の鳴き損ねたやうな面構へをした玄真坊と、天つ乙女のやうな気高い姿の千草の高姫と云ふ美人の二人が、無遠慮に寝そべつて互に頬杖をつき乍ら囁いて居る。
玄『オイ、女房』
千『厭ですよ、女房なんて』
玄『そんなら妻にしておこう。オイ妻』
千『妻なんてつまらぬぢやありませぬか。もつと高尚な名を呼んで下さいな』
玄『そんなら細君にしておこうか、それが嫌なら御内儀にしておこうか』
千『妻君だの内儀だのと女房扱ひは真平御免ですよ』
玄『それや約束が違ふ、お前は俺の嬶アになると云つたぢやないか』
千『そりや云ひましたとも、あの時はあの時の場合で仕方なしに云つたのですよ。一生女房になると約束は為ませぬからなア。仮令半時でも女房になつて上げたら光栄でせう』
玄『そいつは頼りないなア、一生俺の女房になつてくれないか』
千『そりやならない事はありませぬが、貴方の心が心ですもの。そんな水臭いお方に一生を任して堪りますか』
玄『今日会つたばかりで水臭いのからいのとそんな事が分るものか、そりやお前の邪推だらう』
千『それだつて貴方は本当に水臭いワ。沢山の黄金を所持し乍ら、女房の私に任して下さらないのですもの。女房は家の会計万端をやつて行かなければならぬぢやありませぬか、金無しに如何して会計をやつて行く事が出来ますか、よう考へて御覧なさい』
玄『そりやさうだ、だがまだ斯うして旅の空ぢやないか、こんな重い物を女房のお前に持しては気の毒だ。家を持つた上でお前に支出万端任すから、まアまア安心してくれ給へ』
千『貴方はどこ迄も私を疑つてゐらつしやるのですな。私だつて人間ですもの、金位持つたつて途中で屁古垂れるやうな弱い女ぢやありませぬよ。さアすつぱりと此方へお渡しなさい。命迄拾つて上げた私ぢやありませぬか。仮令夫婦でなくても命を拾つてあげた恩人ぢやありませぬか』
玄『そりやさうだ、お前のお世話になつた事はよく覚えて居る。併し乍ら一夜の枕も交さぬ中からさう気ゆるしは出来ないからなア』
千『何とまア下劣な事を仰有いますな。それ程貴方はお金に執着心が強いのですか』
玄『別に金に執着は無いがお金と云ふものは物品の交換券だから、神様に次いで大切にせなければならないものだ。小判の百両も出せばどんな美人でも自分の女房に買ふ事が出来るのだ。これ丈の金があれば、何処かの都で高歩貸しをして居つても、一生安楽に暮す事が出来るからな』
千『ヘン馬鹿にして貰ひますまいかい、遊女と一つに見られては第一霊国の天人もつまりませぬワ。そんな分らぬお前さまならこれで御免を蒙りませう。誰がこんなヒヨツトコ野郎に秋波を送り女房だの嬶だのと云はれて耐るものか、左様なら、これ迄の御縁だと諦めて下さい』
と、ツと立上がり帰らうとする。玄真坊は慌てて千草姫の腰をぐつと抱へ、
玄『ても柔い肌だなア。これ さう短気を起すものぢやない。魚心あれば水心あり、俺だつて木石ならぬ血の通ふた人間だ。そんなら三分の一だけお前に渡しておくから、暫くそれで辛抱してくれないか。三分の一だつてザツと一万両あるのだからなア、初めから全部ぼつたくらうとは余り虫がよすぎるぢやないか』
 千草姫はペロリと舌を出し乍ら、
『玄真さま人を見損ひして下さいますな。私はお金に惚て貴方に跟いて来たのぢやありませぬよ。エヽ汚らはしい。金等は水臭いワ、金が仇の世の中と云ひますからナ、そこ迄お心が分つた以上は金なんか要りませぬ。貴方が持つて居て下されば、私の要る時には出して下さるのだから、そんな重い物はよう持ちませぬワ』
玄『なる程お前の真心は能う分つた。そんな心なら全部任してもよい、サア重くて済まぬがお前の腰につけてやらう』
千『嫌ですよ、そんな重い物……。男が持つものですよ。女なんか重たくて旅も出来ませぬもの』
 千草姫は或地点迄重たいものを玄真坊に持たせ、此処と云ふ所で睾丸を締めて強奪らうと云ふ企を以て居た。恋に惚けた玄真坊は、千草姫の心の奥の企も知らず茹蛸のやうになつて、低い鼻や尖つた口や、ひんがら目を一所に寄せ声の色迄変へ、
玄『遉は千草姫だ。偉い偉い俺もコツクリと感心した。さアかう定まつた以上はお前はどこ迄も私の女房だなア』
千『さうですとも、今更そんな事云ふだけ野暮ですワ。初から女房と定つとるぢやありませぬか』
玄『それでも最前のやうに暫くの女房だの、一生女房にならうとは云は無かつたのと云はれると困る。一生なら一生とハツキリ云ふてくれ、金のある中だけの女房では困るからのう』
千『これ玄真さま、そんな下劣な事を云ふて下さいますな。二つ目には金々と仰有るが、金なんか人間の持つものですよ。私の美貌と天職は他には御座いますまい。天下に唯一人の救世主と云ひ、美人と云ひどうして金銭づくで手に入りますか、よく考へて御覧なさい。妾は金が欲しけりやトルマン国の王妃ですもの、幾何でも持つて来るのです。お前さまは泥棒の親分をやつて居たのだから、人の金を奪る事許り考へて居たのだから、女房が金を奪るか奪るかとそんな事許り考へて居られるのだからそれが私は残念です。も少し人格を向上して貰はなくては、大ミロクの添柱と云ふ所には行きませぬよ』
玄『いやもう恐れ入つた。今後一切お前さまにお任せ申す。いや女房に一任する。併し乍ら何時迄もこんな所で二人がコソコソ話しをやつても芽のふく時節がない。何所かスガの里へでも飛び出して立派な家屋を買求め、それを根拠として天下統一の大業を計画せうぢやないか』
千『ホヽヽヽ、小さい男にも似ず、随分肝玉の太い男だこと。妾それが第一気に入つてよ。さアこれからお前さまは言触れとなつて、そこら界隈を廻つて下さい。私は救世主となつて、この大日山の奥深く社を建て、其処に控へて居りますから、ドシドシと愚夫愚婦を集めて来るのですよ』
玄『ヤアそれも一策だが俺の顔は大抵の奴がこの界隈では知つて居る。万一オーラ山の山子坊主だと悟られては折角の計画が画餅に帰するから、そんな事云はずにスガの里迄行かうぢやないか。兎に角この風体では仕方がない、相当な法服を誂へ身につけて行かねば人が信用せぬからのう』
千『そんなら兎に角、夫殿の仰せに任せスガの里迄参りませう』
 弥々これより玄真坊、千草の高姫は、大日の森を立ち出で、スガの港をさして大陰謀を企てむと進み行く事となつた。玄真坊は先づ歌ふ。
『出た出た出た出た現はれた  雲井の空から現はれた
 月日は照るとも曇るとも  仮令大地は沈むとも
 此世を救ふ生神は  今現はれた千草姫
 それに付き添ふ天真坊  この二柱ある限り
 世は常暗と下るとも  案じも要らぬ法の船
 ミロク菩薩が棹さして  浮瀬に沈む人草を
 彼方の岸にやすやすと  救ひ助けて安国と
 治めたまはる時は来ぬ  勇めよ勇めよ諸人よ
 祝へよ祝へよ千草姫  千草の高姫ある限り
 此世は末代潰りやせぬ  三五教の奴原は
 仮令大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 等と業託並べたて  世間の愚民を迷はせる
 口先計りの山子神  こんな奴等が何千人
 出て来た処で何になる  有害無益の厄介ものよ
 倒せよ倒せよ三五の  神の教の宣伝使
 斎苑の館を根底から  デングリ返してやらなけりや
 吾等の望みは達せない  ウラナイ教の大教主
 千草の高姫此所に在り  仰げよ仰げよ諸人よ
 慕ひまつれよ国人よ  命の清水が汲みたくば
 天真坊の前に来よ  天帝の化身と名のりたる
 第一霊国天人の  内流うけたるこの身霊
 またと世界に二人ない  それに加へて此度は
 天より下りし千草姫  凡ての権利を手に握り
 天降りたる月の国  天国浄土に開かむと
 宣せ給ひし尊さよ  アヽ惟神々々
 恩頼がうけたくば  天真坊の前に来よ
 天真坊が取り次いで  千草の姫の御前に
 事も委曲に奏上し  如何なる罪をも穢をも
 早川の瀬に流し捨て  天国浄土の楽みを
 此世ながらに授くべし  下つ岩根の大ミロク
 神の教の太柱  弥々現はれました上は
 四方の民草一人も  ツツボに墜とさぬ御誓
 喜び勇めよ国人よ  アヽ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
玄『もし千草姫、いや女房殿、この宣伝歌はお気に召しましたかなア』
千『ホヽヽヽヽ、遉は玄真坊様だけあつて、甘く即席によい文句が出ますこと、私も大に感じ入りましたよ。どうかこの調子で町へ出たら力一ぱい歌つて下されや』
玄『よしよし、歌つてやらう、其代りお前も俺の女房だから、俺の歌も作つて歌つてくれるだらうなア』
千『そりや、玄真さま、天地顛倒も甚だしいぢやありませぬか、神界の御用と現界の御用と混同してはいけませぬよ。神界となればこの千草姫が大ミロクの太柱、玄真さまは眷族も同様ですよ。肉体上からこそ夫よ妻よと云ふて居りますが、神界の事となつたら此の千草の高姫は一歩も譲りませぬからなア』
玄『大変な権幕だなア。恰で大日山の山の神様見たやうだワイ』
千『そりやさうですとも、大日山の山の神は私ですよ。それだから嬶天下の女房を山の神と云ひませうがな』
玄『なる程、お前の云ふ通り俺の聞く通りだ、フヽヽヽヽ』
千『玄真さま、も一遍今の歌を歌つて頂戴な』
玄『よしよし、歌はぬ事はないが、何だか女房の讃美歌を歌ふのは些つと計りてれ臭いやうな気がして困るがなア』
千『エヽ頭の悪い、女房の讃美歌ぢやありませぬよ。下つ津岩根の大ミロクさまの讃美歌を歌つて下さいと云ふのですがな』
玄『ウンウンそりや分つて居る。よしよしそんなら慎んで歌はして頂きませう。オイ併し乍らスガの里迄はもう十五六里あるから到底足が続かない。この向に入江村と云ふ所がある。其所はハルの海がズツと入り込むで居る処で、大変景色も佳い。其所の宿で今晩は宿つたら如何だらうかなア』
千『里程は其所迄幾何程ありませうかな』
玄『三里半計りある。そこ迄行つておけば明日は船で楽に行けるからなア』
千『成程そりやよい事を思ひ付いて下さつた。さア、之から入江の里迄急ぎませう』
と両人は足に撚をかけ、一生懸命に駆け出したり。
(大正一五・二・一 旧一四・一二・一九 於月光閣 加藤明子録)
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