顕津男の神はこの光景を見ても少しも動じず、にっこりとして歌を詠んだ。
曲津神が力の限り脅そうとしておたけっているが、かえってその壮大な光景を見て楽しんでいるくらいだ。言霊の幸はう国であれば、曲津見のおたけびが強くても何も恐れることはないのだ、と。
迎えに上がった神々は、顕津男の神の不退転の様子に驚き心を動かされ、それぞれ顕津男の神をたたえる歌を歌い、このような英雄を迎えた歓びを表した。
そこへ、美波志比古の神がしづしづとこの場に現れて、顕津男の神に目礼した。美波志比古の神は、顕津男の神が真鶴国を立ち出でて西方の国に旅発つに先立ち、途中の道々に橋を架けるために(顕津男の神に無断で)先に立っていたのであった。
しかし、美波志比古が歌で語るところによると、橋を架けるという職掌を超えて、自身西方の国に先に進み入り、その結果、今まで曲津見の神の手下に捕らえられてしまっていたのであった。
美波志比古の神は頓知でなんとか危害を逃れていたが、曲津見の神は顕津男の神がついに西方の国にやってきたことを恐れ、美波志比古を解放した。
いま美波志比古は、自分の軽率を顕津男の神に懺悔すると同時に、曲津見の神たちが罠を張って顕津男の神を待ち構えていることを、注進に来たのであった。