朝香比女の神は、顕津男の神を慕う狂おしい心に、御樋代神たちや宮司神たちのいさめを聞かず、白馬に鞭打ち、黄昏の空を東南指して駆け出でてしまった。
後に残された宮居の神々たちは、朝香比女の短慮を怒り嘆いたが、高地秀の宮居の聖殿に心静かに帰って朝香比女の神の旅の無事を祈るしかなかった。
一同は祭典の準備が整うと、鋭敏鳴出の神が宮居の司の務めとして、自ら高御座の大前にひれ伏し、声さわやかに、朝香比女の無事を願う祝詞を奏上した。
高野比女の神は御祭りの庭に立って朝香比女の行動を述懐し、皆のいさめを聞かずに飛び出した比女を「面勝神」と宣すが、無事を祈る歌を歌った。そして最後には、朝香比女の内に秘められた、激しく顕津男の神を思う心に思い至り、その心を汲むことができなかった自分を悔い、宣りなおした。
神々はそれぞれ、西方の国へ向かった朝香比女の無事を祈る歌を歌い継いだ。そして御樋代神の中には、「面勝神」である朝香比女が、実は曲津神をも糺す力を持った雄雄しい神であることを悟るものもあった。
最後に天津女雄の神は、朝香比女の雄雄しさに打たれ、西方の国魂神を生むべく旅立っていったその心をたたえた。