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文献名1霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
文献名2第3篇 孤軍奮闘よみ(新仮名遣い)こぐんふんとう
文献名3第11章 栄城の山彦〔1928〕よみ(新仮名遣い)さかきのやまびこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
栄城山の五柱の神々は、高地秀の宮居から使わされた雁の文によって、朝香比女の来着を知ったのであった。

朝香比女は、顕津男の神を追って高地秀の御樋城神の地位を捨てて来た自分の身の上を歌い、一夜の宿を乞うた。神々は各々歓迎の歌を歌って朝香比女を迎えた。

栄城山の中腹の休憩所に長旅の疲れを休めた比女は、旅の述懐歌を歌った。神々は新築の離れの宮居を比女の寝床とし、朝香比女は疲れに前後を忘れて寝入った。
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年12月07日(旧10月20日) 口述場所水明閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年3月23日 愛善世界社版 八幡書店版第13輯 553頁 修補版 校定版369頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm7611
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本文  千里の荒野を渉りて、朝香比女の神は栄城山の麓に、新月の輝く黄昏時漸く着き給へば、栄城山の宮居に仕ふる五柱の神々は、高地秀山の宮居より遣はし給ひたる雁の御文によりて前知し給ひ、賑々しく比女神を迎へ給ふ。
 朝香比女の神は諸神に向ひ、御歌詠ませ給ふ。

『顕津男の神の由縁の御跡と聞く
  栄城の山はこれの聖所なりや

 夕月の光はさやかに山の端に
  かかる夕べを吾来つるかも』

 茲に機造男の神は御歌詠ませ給ふ。

『名に高き高地秀の宮居の八柱の
  比女神にますかよくも来ませり

 雁の文の便りを見しわれは
  公の出でまし迎へまつるも

 瑞御霊由縁の深き栄城山の
  月の光はことさらによし』

 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『新月の光を爽けみ吾はいま
  栄城の山にたづね来にけり

 栄城山尾の上の松の色深み
  さす月光はいよよ爽けし

 八柱の御樋代神の位置を捨てて
  岐美に会はまく長の旅すも

 栄城山に今宵一夜の宿からむ
  天渡る日も地に沈めば

 鶏の尾の長き旅路に駿馬も
  疲れ果てたり宿をたまはれ』

 機造男の神は、答の御歌詠ませ給ふ。

『御言葉を聞くも畏し八柱の
  御樋代比女神安くましませ

 禊川流るる水の底清み
  利鎌の月は浮ばせたまへり

 月読の御霊と生れし瑞御霊の
  御樋代比女神よくも来ませるよ

 比女神の来ませる今日は月光も
  一しほ冴えて風澄みきらふ

 栄城山今日の吉日を限りとし
  この国原は安く栄えむ』

 散花男の神は御歌詠ませ給ふ。

『春去りて峰の桜も散花男の
  神はみどりの公を迎へむ

 初夏の景色ただよふ栄城山に
  花なる公は出でましにけり

 雁の便り見しより朝夕を
  公の出でまし待ち佗びにけり

 久方の高天原の大宮居ゆ
  天降り給ひし朝香比女神天晴れ

 輝ける朝香比女神の粧ひは
  月さへ花さへ及ばざるべし

 初夏の夕べの風はすずやかに
  栄城の山の常磐樹ゆすりつ

 常磐樹は勇み悦びさゆれつつ
  花なる公のすがた待ち居り

 潺々と流るるきよき禊川に
  花なる公のすがた浮べる

 只さへも清きが上に真清水に
  うつろふ公の御姿うるはし』

 中割男の神は御歌詠ませ給ふ。

『天地の中を割男の神なれば
  公の行手を守りまつらむ

 禊川山と大野の中割きて
  雄々しく清しくたぎち流しつ

 駿馬のいななき高く草の生ゆ
  聞ゆと見れば公は来ませる

 兎も角も休ませたまへ長旅の
  疲れ給ひし身を横たへて』

 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『ありがたし百神等の真心は
  幾世経るとも吾は忘れじ

 草枕旅を重ねて情ある
  神の言葉に涙しにけり

 ともかくも吾はさて置き駿馬の
  褥と餌を与へたまはれ』

 小夜更の神は御歌詠ませ給ふ。

『掛巻も綾に畏き御樋代の
  神を迎ふる今日のうれしさ

 吹く風も非時かをる栄城山の
  これの聖所は常安の国土よ

 果しなき荒野をわたりはろばろと
  来ませる公の雄々しさ思ふ

 曲津見の伊猛り荒ぶ荒野原を
  わたり来し公の雄々しくもあるか

 輝けるその御姿にもろもろの
  醜の曲津は影かくしけむ』

 親幸男の神は御歌詠ませ給ふ。

『顕津男の神の神言を蒙りて
  われ大宮居に仕へ来にけり

 栄城山尾の上に清しく立つ宮居は
  主の大神の神霊祀れる

 顕津男の神の神勅乞ひましし
  栄城の山は聖所なりけり

 由縁ある朝香の比女の出でましに
  栄城の山は笑みさかえぬる

 常磐樹の松に巣ぐへる真鶴も
  公の出でまし寿ぎてうたへり』

 朝香比女の神は駒の背よりひらりと下り給ひ、禊川に暫し禊を修し給ひ、五柱の神に守られて、栄城山の中腹なる神々の御憩所に入らせ給ひ、長途の旅の疲れを休ませ給ひつつ、述懐歌をうたはせ給ふ。

『八柱の御樋代神と選まれて
  われは空しく年を経にける

 はろばろと万里の荒野を打ちわたり
  天津高日の宮居に詣でし

 久方の筑紫の宮居に詣でてゆ
  わが行く道を悟らひにけり

 はろばろと高地秀の宮居に帰り来て
  ますます心は落付かざりしよ

 永久にわが仕ふべき宮居ならずと
  駒に鞭うち離り来にけり

 七柱御樋代神はわがために
  神の御前に祈りたまはむ

 村肝の心かためし吾にして
  始めの心かへすべきやは

 常闇の狭葦の河瀬を渡らむと
  八十の曲津に出で会ひにける

 言霊の力の限り宣りにつつ
  真火打ち出づれば曲津は消えたる

 天津日の光を浴びて大野原
  駒に跨り此処に来つるも

 背の岐美に由縁の深き栄城山の
  夕べは心清しくなれり

 此処に来て旅の疲れを忘れけり
  百神等のあつき心に

 駿馬の嘶き聞えずなりにけり
  やすやす旅の夢結ぶらむ

 背の岐美の行方は何処か知らねども
  わが真心に逢はまくおもふ

 栄城山これの聖所に来て見れど
  岐美のおとづれくちなしの花

 くちなしの花の香れる夕暮の
  これの聖所にもの思ふかな

 御子生みの神業に仕ふる御樋代の
  比女神われは心さわぐも

 猛り狂ふ心の駒を鎮めむと
  思へど詮なし燃ゆる恋路に

 栄城山樹々の葉末に置く露も
  月の御霊を宿してかがよふ

 御樋代の比女神われに月読の
  露の宿らぬためしあるべき

 日を追ひて広ごりて行く月かげを
  見つつ楽しき旅に立つかも

 八柱の御樋代神の高き位置を
  恋ゆゑ吾は捨てて来にけり

 八十比女の御樋代神と下るとも
  心足らへり岐美にし逢へば』

 機造男の神は御歌詠ませ給ふ。

『はろばろと来ませる公を犒はむ
  術なき今宵を許したまはれ

 まきて来し背の岐美此処に坐さずして
  淋しかるらむ御樋代比女神は

 村肝の心のかぎり身のかぎり
  尽して比女を犒はむとぞ思ふ

 地稚き栄城の山よ比女神を
  慰むるものなきが嘆てき』

 朝香比女の神は答の御歌詠ませ給ふ。

『恐れおほき神々等の言霊よ
  吾は感謝の言葉も知らずに

 此処に来て始めて心落付きぬ
  栄城の山の松のみどりに

 禊川清き流れに浮びます
  夕月の光によみがへりける

 大空も水底も月の光冴えて
  わが旅立ちを慰むるかな

 大空の月の御霊ゆ出でましし
  わが背の岐美を思ふ宵はも

 幾万里の遠きに岐美はおはすとも
  魂の限りはまぎて行かなむ』

 散花男の神は歌詠ませ給ふ。

『栄城山峰の白梅桜花
  漸く散りて牡丹は匂へり

 紅の牡丹の花に置く露は
  紅き心の現はれなるかも

 山姫は牡丹の花を紅に
  染めて夏衣纒ひたまへり

 早夏の陽気ただよふこの山に
  あつき心の公をむかへつ

 月ははや栄城の山の後手に
  隠ろひまして闇はせまれり

 大空にまたたく星の光清み
  森に聞ゆる梟の声

 濁りたる声にはあれど梟の
  啼けるを聞けばゆかしくぞ思ふ』

 中割男の神は御歌詠ませ給ふ。

『大宮居に仕へて幾年経ぬれども
  今日の輝き未だ見ざりき

 きらきらと光らせ給ふ比女神の
  姿まぶしくおはしますかも

 明けぬれば栄城の山の頂上の
  宮居の聖所に導きまつらむ

 仰ぎ見れば北より南に横はる
  天の河原にさざなみもなし

 金砂銀砂輝き渡る天の河の
  今日の姿のうるはしきかな

 野辺を吹く風は薫れり百草に
  咲きつる花のかをり運びて

 栄城山花は散れども常磐樹の
  松のしたびにつつじ咲くなり

 昼されば紫つつじ紅つつじ
  石南花の花木蔭に匂へり

 明けぬれば松の木下の百花を
  手折りて公に参らせむと思ふ』

 小夜更の神は御歌詠ませ給ふ。

『栄城山小夜更けにけり梟の
  啼く音も頓に静まりしはや

 真鶴は声をひそめて休らひぬ
  比女神さらば寝床に入りませ』

 親幸男の神は御歌詠ませ給ふ。

『この館は吾等が休む小家なれば
  導きまつらむ離れの宮居に

 新しく造り備へて比女神の
  出でまし待ちし御殿なりせば』

 斯く歌ひて、親幸男の神は朝香比女の神の御手を取らせつつ、新殿に導き給ひける。茲に朝香比女の神は長旅の疲れに前後も忘れて夜の明くるまで、御水火も静に安らかに御寝ましにける。
(昭和八・一二・七 旧一〇・二〇 於水明閣 森良仁謹録)
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