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文献名1霊界物語 第77巻 天祥地瑞 辰の巻
文献名2第1篇 万里の海原よみ(新仮名遣い)までのうなばら
文献名3第3章 狭野の食国〔1935〕よみ(新仮名遣い)さぬのおすくに
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
七柱の神々は、舟の中で語り明かすうち、東雲近くになって、海鳥のさえずる声が響き渡り、またときどき鷲の声が神々の耳をそばだてさせた。

一行はそれぞれ、霧の海に東雲の空が明けていく様子を見て、これからの旅立ちに心を新たにし、曲津神との対決に心を引き締める述懐の歌を歌った。

天晴比女は、言霊によって霧の晴れたこのとき、海原を進んで、大蟻の住むという魔の島々にこぎ寄せて上陸しよう、と歌った。

すると不思議にも、舟は櫓も櫂もないのに、自然に海原を進んで行った。神々がおのおの歌を歌いあう間に、数十里の波を渡って、船は魔の島近くにたどり着いた。

朝香比女は、魔の島を間近に眺め、舟を止めて島の様子をうかがっていたが、馬よりも大きな蟻が数十万も群がっている様子を見て、魔の島よ海に沈め、蟻よ消え失せよ、と言霊歌を歌った。蟻はこの歌を聞いて驚き、前後左右に島を駆け巡り始めた。

さて、実はこの魔の島は八十曲津神が地中に潜んで、頭だけを水上に浮かせたものであり、蟻はその頭にわいた虱であった。

朝香比女が「島よ沈め」と歌った言霊も、一時は何の効果もなく、曲津神はますます狂い立って島は高く浮き上がった。そして、曲津神の巨体が水上に浮かび上がり、目鼻口が不規則に並んだ顔は雲よりも高く、膝まで海中につかった巨大な姿を現した。

不規律な歯並の口から発する笑い声は、雷が百も同時に鳴ったかのようであった。そして、朝香比女をののしりあざ笑って、巨大な口から唾を四方八方に吹き散らした。一滴でもこの唾に触れると、全身が固着して、手も足も動かせなくなってしまう。曲津神の魔術を尽くした奥の手であった。

朝香比女の神は少しも恐れた様子なく、天の数歌に続いて、曲津神を巌に固め、蟻虱を土とする言霊歌を歌った。すると、八十曲津神の巨体は、そのまま海中に巨大な巌島と固められてしまった。

従者神たちは朝香比女の言霊の神徳に驚きたたえる述懐歌を歌った。この巌島は、周囲百里に余る、相当に大きな島であった。天中比古の神は、狭野彦を助手として草木の種を蒔き、島の経営に当たりたいと、朝香比女に申し出た。朝香比女はこれを了承した。

天中比古は、生言霊によって草木五穀を生み出した。こうして狭野の食国が出来上がり、天中比古は永遠に鎮まることとなった。
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年12月12日(旧10月25日) 口述場所大阪分院蒼雲閣 筆録者谷前清子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年3月30日 愛善世界社版 八幡書店版第13輯 597頁 修補版 校定版42頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  天津神国津神七柱は、磐楠舟に身を寄せ四方八方の珍しき話に時をうつし給ひつつ、東雲近くなりければ、この霧の海原に数多棲める百千鳥の囀る声漸くひびき渡り、時々大いなる鷲の声は、神々の耳を欹たしめたりける。
 ここに朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『霧の海の波にうかびて吾立てる
  東雲の空はほの明りせり

 百千鳥啼く声さえて霧の海の
  波は漸くしののめにけり

 天晴比女神の現れます今日よりは
  天津日の光清く照りまさむ

 ほのぼのと明け方近くなり行きて
  俄に吾魂かがやき初めたり』

 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『東雲の空ほの明りつつ霧の海の
  霧はつぎつぎうすらぎにけり

 朝香比女神の光に霧の海の
  霧は御空にうすらぎ消ゆるも

 東の空ほのぼのと明らみぬ
  やがて昇らむ天津日の神は

 明け方の舟に浮びて吾魂は
  よみがへりつつ澄みきらひたり

 曲津神の永久にひそめる霧の海の
  島ことごとく言向けやはさむ

 いさぎよき朝香の比女の御尾前に
  仕へてわれは功を立てなむ

 アの声の生言霊に現はれし
  初頭比古吾は力なりけり

 限りなき水火の力を現はして
  曲津の砦を砕き破らむ』

 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『東の空明らみぬいざさらば
  起立の神神言宣らむ

 天界は生言霊に生りし国土よ
  朝な夕なを神言宣らむ

 一日だも神言の水火忘れたる
  日は曲津見の襲ひ来るも

 非時に生言霊を宣りつづけ
  醜の砦に向ひて進まむ

 もうもうと霧立ちのぼる海原を
  明し進まむ起立の神吾は

 東の雲霧わけて天津日は
  大地の限り照らして昇れり』

 天中比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『主の神のサ声の言霊幸ひて
  天中比古と吾は生れし

 朝香比女神の神言の言霊に
  服従はぬものはあらじと思ふ

 朝香比女神の神言の言霊を
  補ひ奉ると吾は天降りつ

 天津日は生言霊に照らされて
  天地のあらむ限りを照らせり

 非時に雲霧迷ふ稚国土も
  今日より成らむ天津日の光に』

 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『やうやくに諸神等の言霊の
  水火幸ひて天晴れにけり

 この海を十重に二十重に包みたる
  霧うせにつつ天晴れにけり

 わが水火は幸ひ助けて大空に
  天照り渡らす日の大御神よ

 斯くならば如何なる曲津の潜むとも
  伊吹きに払はむ生言霊に

 四方八方を包みし雲霧晴れにつつ
  見渡す限り光の野辺なり

 果てしなき霧の海原に浮びたる
  島ことごとく目にうつりけり

 いや先きに蟻の棲むとふ魔の島に
  舟漕ぎよせて上らむとぞ思ふ』

 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『朝香比女神を守りて立世比女吾は
  生言霊に水火を放たむ

 吾舟は次第々々に魔の島を
  指して進めり岸とほみかも

 艪も楫もなけれど生ける言霊に
  進み行くこそ不思議なるかも

 西北の風吹き起りわが舟は
  魔の島さして進み行くなり

 駒よりも形大いなる蟻の群
  魔の浮き島に集へりと聞く』

 狭野彦は歌ふ。

『大いなる蟻の棲むてふ魔の島は
  容易に近づき得ざる島と聞く

 さり乍ら力の神々ましませば
  今日は安らに島に上らむか』

 斯く神々は御歌詠ませ給ふ間もあらず、数十里の波を渡りて御舟は魔の島近く着きにける。
 ここに朝香比女の神は魔の島を間近に眺めながら、舟を止めて暫しを休らひ、島の様子を窺ひ給ひつつ御歌詠ませ給ふ。

『黒々と島一面に群がりて
  動ける影は蟻にやあるらむ

 吾乗れる駒より大なる蟻の群
  正しく曲津見の化身なるらむ

 この島に上れば忽ち数十万の
  蟻は襲はむ驚きにつつ』

 朝香比女の神は舟の上より、御水火さわやかに、

『曲津神の蟻と変りて寄り集ふ
  この魔の島よ海に沈まへ

 蟻よ蟻よ姿をひそめて消え失せよ
  吾この島を今に沈めむ』

 斯く歌ひ給へば、曲津見は驚き騒ぎ、前後左右に先を争ひ島山を駈け廻る様、百万の大軍一度に襲ひ来りし如く響きを立て、狼狽のさまありありと目に映りける。
 さてこの魔の島は八十曲津見の地中に潜み、ただ頭のみを水上に浮かせゐたるものにして、数多の蟻はいづれも曲津見の頭にわける虱なりける。
 朝香比女の神は『島よ沈め』と宣らせし言霊も、一時何の功もなく、曲津神はますます狂ひ立ち、島は次第に高く浮き上りて曲津見の巨体は水上に浮び、目鼻口の不規律に附着せる顔は雲を圧して高く、足の膝頭より中は海中にあり、其の大いさ形容すべからず。カラカラと不規律なる歯並の口より笑ふ声は百雷の一時に轟くかと思はれにける。その声、
『ガアーーハハハハ ギアーーハハハハ ギユーーフフフフ ゲエーーヘヘヘヘ ギヨーーホホホホ ものものしや朝香比女の神とは真の神にあらず、天界を偽る贋神ならむ。待て、今に此八十曲津見の神が神力を現はし、一柱も残らず吾泥足に踏み躙りくれむ。てもさても心地よやな。ギアーーハハハハ、ギユーーフフフフ、ギヨーーホホホホ、さてもさてもいぢらしいものだわい』
と言ひつつ巨大なる口より四方八方に吹き散らす唾は滝の如、四方八方に散り乱るるさま、何ものを以ても言ひ現はし得ざる光景なりき。万一この口より出づる唾の一滴だも身に触るる時は、全身固着して、手も足も動く能はざるに至る、曲津神の魔術の奥の手をつくしたるものなりける。朝香比女の神は少しも恐れず、

『曲津見の神の雄猛びものものし
  わが生霊に滅ぼしくれむ

 汝が吹く醜のみ水火は雲となり
  霧となりつつこの世を濁せり

 一二三四、五六七八九十
 曲津見の神よ
 巌となれなれこのまま巌と
 手足も動くな口も利くな
 曲津神の体は立巌となれ
 その口鼻は洞穴となれ
 二つの目玉は池となれ
 蟻も虱もことごとく
 土となれなれその土ゆ
 草木は萌えよ花は咲け
 香具の木の実は非時結べ』
と言霊宣らせ給へば、八十曲津見の巨体は其儘海中に固まり、巨大なる巌島と固められける。
 初頭比古の神は驚きの余り、御歌詠ませ給ふ。

『比女神の生言霊の功績に
  曲津神は遂に巌となりける

 島の上に蟻と見えしは曲津見の
  頭に生ふる虱なりける

 比女神の生言霊に閉ぢられて
  曲津神は遂に巌となりける

 今日よりはこれの巌島に国津神
  永久に住ませて拓かせむと思ふ

 天界は生言霊の御水火より
  成りし国土とは今悟りけり

 比女神は御樋代神にましませば
  如何なる神業も果し給へり

 比女神の神業助くと吾宣りし
  生言霊の恥づかしきかな

 今日よりは畏れ慎み比女神の
  神業謹み仕へむと思ふ

 主の神のア声の言霊に生れし吾も
  比女の功に驚きしはや』

 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『掛巻も畏し朝香比女神の
  今日の功におどろきにけり

 雲霧を四方に払ひて魔の島の
  曲津神を永久に巌となせり

 沼をかため島をかためて比女神は
  新しき国土を生ませたまひぬ

 魔の島は次第々々にふくれつつ
  見る見る草木は生ひ立ちにけり

 国津神の永久の住処と比女神は
  曲津神の島を固め給ひぬ

 今日よりは国津神等の食物を
  育つる国土と栄えますらむ

 いやらしき曲津神の声に恥づかしも
  われは一時ふるひ居たりし

 起立の吾神ながら震ひ立ちて
  生言霊も出でざりしはや

 主の神ゆ御樋代神と選まれし
  神にしませばかくもありなむ』

 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『かくの如尊き神の側近く
  仕ふる吾の幸を思へり

 比女神よ立世比女神の真心を
  嘉して永久に仕はせ給へ

 吾はいま朝香の比女に仕へむと
  楽しみ待ちし女神なるはや』

 天中比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『比女神の生言霊に固まりし
  この島ケ根に舟寄せむかな

 大いなる蟻と見えしは曲津神の
  頭にわける虱なりしか

 斯くならば一度島に上り行きて
  生言霊の種を蒔かばや

 朝香比女の神よ許させ給へかし
  草木の種を吾蒔かむと思ふ』

 朝香比女の神は御歌もて答へ給ふ。

『天中比古神の神言にこの島の
  総てをまかせて国土拓かせむ』

 この島は周囲百里に余る相当に広き島なりける。ここに天中比古の神は国津神狭野彦を譲り受け、諸々の草木五穀を生言霊に生み出でましつつ、遂に狭野の食国を生み出で給ひ、永久に鎮まり給ひける。
(昭和八・一二・一二 旧一〇・二五 於大阪分院蒼雲閣 谷前清子謹録)
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