保宗比古の神は、進軍歌を歌いながら、谷間伝いに登っていたが、霊山比古が追い払った曲津神の巌が、前後左右に、ものすごい音を立てて落下してきた。その巌つぶての中に、御樋代神・田族比女の神が、巌に圧せられている様が見えた。
とっさに助けに出ようとする保宗比古だったが、空より「待て」と大喝一声が聞こえた。保宗比古は、御樋代神は泉の森の本営にいることを思い起こし、これは曲津神の計略であることを悟ったのである。
保宗比古は、その計略を見破ったと歌に歌うと、曲津神は必死の力を集め、攻撃をはじめた。にわかに黒雲が沸き起こってあたりも見えないほどの闇となり、雨がざっと降り出し風は巌も吹き散らすほどとなり、槍の雨、剣の雨を保宗比古の身辺に降らせた。
保宗比古は猛烈な邪気に囲まれて呼吸もつまり、言霊を使用することもできなくなり、あやうく曲津神のために死に至ろうという状態になってしまった。
そこへ、泉の森の方から、巨大な火光がごうごうと大音響を立て、天地を震動させながら、保宗比古の神の頭上高く光り、前後左右に舞い狂った。すると、谷間の邪気、雨、槍剣の嵐もたちまちに止み、太陽の光がくまなく照りわたった。保宗比古はたちまち心身爽快となって、大勇猛心によみがえった。
保宗比古は、思い上がりの心が曲津神に付け入る隙を与えたことを反省し、また御樋代神の神力をたたえ感謝し、今の戦いを述懐しながら、神言を宣りあげつつ、魔棲ケ谷の森林さして、登って行った。