ここに五柱の男神は、魔棲ケ谷を囲んだ岡の周りに立ち、おのおの生言霊の矢を絶え間なく放つと、曲津神はいたたまれず、雲霧・岩・火の玉となって男神たちに襲い掛かった。
霊山比古は身辺に危険が迫ってきたのを見て、「アオウエイ」と繰り返し言霊を発した。山麓の小笹ケ原の楠の森で待っていた、三柱の比女神は、自分たちの駒に向かって「タトツテチ ハホフヘヒ」と力いっぱい言霊を宣りあげた。すると、駒にはたちまち翼が生え、大きな鷲に変化した。
三柱の比女神は言霊の力に感謝し、鷲馬に乗ると宙高く翔け、天上から鷲のくちばしでもって竜神を攻撃し、大勝利を得たのであった。
比女神は鷲に乗って御樋代神に勝利を報告し、一方男神たちは、生言霊を宣りながら、魔棲ケ谷の巣窟を奥へ進んでいった。曲津神の狼狽の様ありありと、あたりには数多の宝玉が飛び散ったままになっていた。男神たちはそれを集めて、戦利品として御樋代神に奉ることとした。
曲津神は、自身に光を発することがないので、真の神を真似ようと、こうした宝玉を身にまとうのである。愛善の徳に満ち、信真の光があるならば、身に宝石を着けなくても、宝石の何倍もの光を全身にみなぎらせているのであり、知らず知らずのうちに、尊敬を集めることができるのである。
五柱の男神は、魔棲ケ谷の曲津神を根絶することができ、歓喜に耐えず、勝利の歌を歌った。男神たちが戦利品を背負って小笹ケ原に戻ってくると、五頭の神馬たちは、主の帰りを待って整列していた。その様を見て、五柱の男神はそれぞれ勝利の述懐歌を歌い、御樋代神の待つ泉の森の本陣へと帰って行った。