朝香比女の神が乗った磐楠船は、薄霞たなびく初夏の海原を、悠々としてたどって行った。
田族比女の神一行は、名残惜しみつつ、船が見えなくなるまで見送り、歌を歌った。
田族比女は、朝香比女の諭しに万里ケ島の経営に思いを新たにし、また朝香比女の御魂を祭る宮居を立てることを誓った。
従者神たち一同も、それぞれ別れの歌を歌った。
船が見えなくなると、一行は万里の聖所に戻ってきた。そして、さっそく火の若宮の工事に取り掛かったが、十日ほどで荘厳な若宮が完成した。
湯結比女の神はこの火の若宮に仕えて、主の神と朝香比女の神の生魂に、沸かした白湯を笹葉にひたして左右左に打ち振り御魂を清め、湯を奉って、まめやかに仕えた。
これより今の世に至るまで、神社には御巫(みかんのこ、神事に奉仕する未婚の女性)というものがあり、御湯を沸かして神明に奉ることとなった。
一方、朝香比女の神一行は、田族比女の神一行に別れを惜しみ、振り返り振り返り手を上げて歌を歌いつつ、進んでいった。