一行は忍ケ丘を後にし、鷹巣の山の麓に葦原比女の神が守るという聖所に急ぎ進んでいく。
中野河の濁流がいたく濁っていることに朝香比女は驚くが、初頭比古の神は天の数歌を歌い、言霊歌を歌い始めた。すると、中野河の濁流も次第次第に色あせ始めた。
朝香比女はさらに、初頭比古の言霊によって、中野河を陸にしようと歌い、御樋代の葦原比女の神が、自分たちを迎えに出立したのがわかる、と歌った。
起立比古は、葦原比女の姿が見えないのに、朝香比女の歌を不思議に思うが、朝香比女は、葦原比女が共を伴って確かにやってくる、と歌った。そして、中野河の水が引き始め、川底が陸地となって向こう岸に渡るときに、葦原比女はやってくるだろう、と予言した。
立世比女は中野河の河水が引くように歌を歌い、天晴比女は河水が引いた後の魚の命を心配する歌を歌った。
朝香比女は、魚たちは上流に逃げて広い清沼に行くように歌を歌った。そして天の数歌と言霊歌を歌うと、河底は大音響とともに地底からふくれあがり、少しの高低もない平地と変わってしまった。
一行は新しく生まれた河跡の陸地を、駒を進めて渡ろうとすると、萱草の野に見え隠れしつつ、駒に乗って現れた神々があった。これは、朝香比女の神一行を迎えに鷹巣山の麓の鷹巣宮居からやってきた、御樋代神・葦原比女の神一行であった。
葦原比女の神を先頭に、真以(まさもち)比古の神、成山(なりやま)比古の神、栄春(さかはる)比女の神、八栄(やさか)比女の神、霊生(たまなり)比古の神の三男三女の天津神々であった。