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文献名1霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
文献名2第1篇 竜の島根よみ(新仮名遣い)たつのしまね
文献名3第3章 離れ島〔1984〕よみ(新仮名遣い)はなれじま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-29 08:53:14
あらすじ
麗子は人面竜身の怪物にさらわれ、黒雲の中をものすごい速度で運ばれてきた。そして、とある紫の壁、蒼い瓦の門前に下ろされた。ふとあたりを見れば、そこは湖水すれすれに浮かんだ、竜神の都の表門であった。

数多の人面竜身の竜神族は、「ウォーウォー」と叫びながら、藻の衣をまとい、顔面のみを出して、幾百千ともなく門の両側に端座して迎えていた。

竜神の王は、国津神の娘、麗子姫を竜神族の王として迎え祭り、竜神族の子孫を人の姿に生みなおしてもらおうと、声もさわやかに歌った。竜神たちは、さまざまな音楽をかなでて歓迎の意を表し、陸に湖に出没して踊り狂う声は、天地も崩れるばかりであった。

麗子はあまりの光景に不審の念が晴れず、父母や兄の事を思いながら黙然とうつむいていた。竜神の王は、ここは竜神の都であり、麗子によって竜神族の竜身のすがたを救ってもらおうとしているのだ、と歌い説明した。

麗子はもはや仕方がないと決心を固め、この憐れな種族にとついで人間の子孫を生もうと、艶男への恋心を断ち切ろうとしたが、心の底に一片の名残が残っていた。

麗子は、今は竜神の王となって竜神族を助けようと決心を固めたことを歌った。竜神の王は感謝の意を表し、今日からは竜宮の弟姫として、竜神族の守りとなってくれるよう頼んだ。

竜神たちは、金、銀、瑪瑙など宝玉で飾った神輿を担ぎ来て、弟姫となった麗子の前に降ろし、平伏した。竜神の王は、この輿は麗子のために作ったものであり、竜神族の真心を表したもので、どうか乗ってくれるように頼んだ。

麗子は今はこの輿に乗って進もうと応じ、神輿の鉄戸を開いて立ち入った。神輿は直立しても頭が天井につかえることはなく、長柄の棒を担ぐ竜神族は幾百人という大きなものであった。

竜神の王を先頭に進んでいくと、七宝で飾られた大楼門が現れた。白衣をつけた竜神たちが左右に鉄戸を開き、神輿は粛々と中に入っていった。そこは妙なる鳥の声が木々のこずえに響き渡り、その荘厳さは言葉に尽くせないほどだった。

この大竜殿の玄関に、神輿はうやうやしく下ろされた。竜神の王は、ここが我が住む館であると歌った。麗子は神輿の戸を開いて庭に降り立つと、竜神王の後について奥殿へ進み入った。

これより麗子は、竜宮の弟姫とたたえられ、竜神の王に大竜身彦の命と名を与えると、この島の司として輝きわたることとなった。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月16日(旧06月5日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者白石恵子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年10月25日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 180頁 修補版 校定版60頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  麗子は人面竜身の湖中の怪物にさらはれ、黒雲の中を暫し何処ともなく、一瀉千里的の速力にて運ばれつつ、とある紫壁蒼瓦の門前におろされ、ふと辺りを見れば湖水すれすれに浮べる竜神の都の表門前なりける。
 数多の人面竜身の竜神族は、「ウオーウオー」と叫びながら、身体に藻の衣を纒ひ、顔面のみを出して幾百千ともなく、門の両側に端坐し迎へ居たり。
 竜神の王は声もさはやかに歌ふ。
『あはれあはれ
 百年千年相待ちし
 国津御祖の愛娘
 麗子姫を今此処に
 迎へまつりぬ今日よりは
 竜の都の王となりて
 われ等が一族悉に
 人面竜身のこの姿を
 人の姿に生み直し
 竜神族を悉く
 国津神等のみすがたに
 よみがへらせて天地の
 恵を湖の中までも
 照らさせ給へ麗子の姫よ
 ウオーウオー
 あなさやけおけ
 竜の都の鉄門は今や
 天と地との一時に
 開けし如くさやさやに
 開け初めけりあな尊
 あなさやけおけ
 あな面白の出でましよ』
と、各自くさぐさの音楽を奏で、歓迎の意を表し、竜神族は一斉に立ち上り、陸に湖に出没して踊り狂ふその声、天地も崩るるばかりに思はれける。
 麗子はあまりの変りたる光景に、稍暫し不審の念晴れやらず、艶男の恋しき兄の事は忘れられず、父母の安否を気遣ひながら黙然と俯いて居る。
 竜神の王は莞爾として、麗子の手をそつと握り、
『いぶかしくおぼしめすらむ此島は
  竜神族の棲める都よ

 君なくば竜神族はいつまでも
  このあさましき姿保たむ

 頭のみ人と生れて身体は
  このあさましき竜の姿よ』

 ここに麗子は最早詮なしと決心の臍をかため、人面竜身のあはれなる此族と嫁ぎ、人間の子孫を生み了せむものと、雄々しくも艶男に対する恋心を断ち切らむとしたが、どうやら心の底に一片の名残が残つて居た。
『思ひきや艶男の君にあらずして
  竜の都の君なりしはや

 かくならば何を嘆かむ今日よりは
  竜の都の君に仕へむ

 垂乳根の父と母とはさぞやさぞ
  わがなきあとを嘆かせ給はむ

 わが思ふ心の中の生命なる
  君もさぞかし嘆かせ給はむ

 さりながら竜神族のもろもろを
  助くる神業と思ひて慰む

 水の中にかかる都のある事を
  悟らざりしよ今の今まで

 夢なれば早く醒めかしわれは今
  見しらぬ国土に誘はれ来つ

 千万の竜神族に迎へられ
  夢路を辿る心地するかも

 竜神の王よもろもろ族たち
  われは今日より国土の君ぞや

 親を捨て恋を捨てたるわれにして
  如何でひるまむ此島国に

 わが言葉諾ふ力なかりせば
  われは黄泉に旅だちなさむ

 賤しけれど国の御祖の御子なるぞ
  汝竜神を如何で恐れむ』

 竜神の王は、麗子の直立せる前に跪きて、
『有難しうららの君の御言明
  幾代経るとも違はざるべし

 あさましき姿を持てる竜神の
  救ひの神は天降りましけり

 百年の願叶ひてわれは今
  救ひの神にあひにけるかも

 今までは湖の悪魔と国津神に
  貶すまれつつ禍なしけり

 今日よりは本津心に改めて
  天地の神業に仕へまつらむ

 伊吹山に続く竜宮島ケ根は
  われらが永久の住処なるぞや

 汝が君は今日より竜宮の弟姫と
  あらはれましてわれらを守らせ

 竜宮の弟姫これにある限り
  此の島ケ根は安けかるべし』

 麗子は歌ふ。
『大空は高く涯なし湖底は
  深く広しも神の御稜威に

 もろもろの魚族残らずわが徳に
  まつろひ来れ安く守らむ

 国津神の御子と生れて此島の
  君となりしは神の心か

 此島に見る月光も水上山に
  見るも等しき光ならずや

 月も日も隈なく照らせ竜宮の
  島根の君はここにありけり

 夜されば御空に月は輝きて
  此の島ケ根を安く照らさむ

 朝されば天津日光は煌々と
  湖の底ひも明し給はれ

 月も冴えよ星も瞬け湖底の
  真砂も照れよ魚族も生きよ

 みぐるしき竜神族の身体を
  百年の後に人となさばや

 われは今竜神の君と嫁ぎつつ
  全き御子を生まむと思ふ

 此島にわれ天降りてゆ木も草も
  俄に光増しにけらしな』

 かかる所へ、遥か向ふの方より竜神たちは、金、銀、瑪瑙、瑠璃、硨磲、珊瑚、水晶等にて飾りたてたる神輿を担ぎ来り、弟姫の立たせる前にどつかとおろし平伏する。
 竜神の王は此輿を指し弟姫に向ひ、
『いざ御駕籠召しませ百年千年経て
  つくりし輿よ君のみために

 一度も用ひし事のなき神輿
  君に捧げむわれの真心

 百年も千年も心用ひつつ
  所有宝につくりし輿はや

 此輿は君ならずして地の上に
  召すべき神はあらじと思ふ』

 麗子は意外の意外に、驚異の眼をみはりながら、
『思ひきやかかる島根にかくの如
  うるはしき宝の輿のありとは

 竜神の心をこめし輿なれば
  われもいなまじ乗りてや進まむ』

 竜神の王は大いに喜び歌ふ。
『有難し弟姫神の御言明
  聞くは吾身の生命なりけり

 生命にもかへて作りし此神輿
  早く召しませ弟姫の神

 百神もさぞ喜ばむ百千年の
  心づくしも今報はれて』

 ここに麗子姫は、夢に夢見る心地して、神輿の鉄門を開き、さつと立ち入り、直立不動の姿勢をとれども、さりとて頭の天井につかふる憂ひもなく、最も高く広き神輿なりければ、長柄の棒を担ぐ竜神族は、幾百人とも数へ切れぬ多人数なりける。
 竜神の王は神輿の前に立ち、幣帛を振りながら先頭をなし、遥か彼方の御殿をさして進み行く。
 竜神等は、「ウオーウオー」と一斉に声を揃へ、天地を揺がさむばかりの勢にて、粛々と行列正しく前進する。
 行くこと約二十町ばかり、ここに七宝を以て飾られたる大楼門が巍然として建つて居る。白衣をつけし竜神たちは、左右に鉄門をぱつと開いた。神輿は粛々として門内に潜り入る。迦陵頻伽の声、彼方此方の木々の梢ゆ伝はり来り、その荘厳さ言語のつくすべきにあらず、神輿は大竜殿の玄関に恭しくおろされた。
 竜神の王は歌ふ。
『これこそはわが住む館よとこたちよ
  いざ進みませ奥の殿まで

 百年の匠になりし大殿は
  汝が出でまし待ちて居たるも

 漸くに建ち上りたる大殿よ
  先づ汝が命住みて治めよ』

 麗子は神輿の戸を開き、清楚たる姿にて、悠々清庭に立ち出で、竜神の王のしりへについて奥殿深く進み入る。
 これより麗子は、竜宮の弟姫と称へられ、竜神の王に大竜身彦の命と名を与へ、此島の司として輝き渡る事となりける。
 麗子は思はず知らず竜神に
  招かれ島の司となりける

 此島に跡をたれつつ竜宮の
  弟姫神と仰がれにける

 此神のいさをしなくば海中の
  魚族永久に栄えざるべし。

(昭和九・七・一六 旧六・五 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)
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